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The One Show 2023部門賞を紹介【前編】2部門受賞は「Morning After Island」と「Muskrat Magazine」

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5月19日、アメリカ・ニューヨークで、今年第50回を迎えた「The One Show 2023」の受賞作品が発表された。本年度は69の国と地域から、2万166作品がエントリー。そこから210のゴールドペンシル、200のシルバーペンシル、238のブロンズペンシル、1172のメリットが選出された。今回の対象となるのは、2021月1日から2023年3月3日までにメディアで公開された作品だ。

【参考】The One Show 2023発表、最高賞はApple「The Greatest」に

ここでは、最高賞に次ぐ部門賞にあたる「Best of Discipline」の受賞作20作品のうち、前篇として10作品を紹介する。

●Best of Discipline(部門賞)

・Branded Entertainment部門

Women in Games「Gender Swap」
Agency:BETC+Women in Games

ビデオゲーム産業やeスポーツ業界における女性の立場の公平性・平等性を求める団体「Women in Games」によると、ゲームの制作現場において女性の割合は約2割に留まっているという。同団体は、その影響で、市場に出ているほとんどのゲームにおいて、女性キャラクターの動きは身体を性的に誇張しすぎたものになっていると指摘。そこで14の世界的なゲームをハックし、男性キャラクターと女性キャラクターの動きを入れ替えられる無料のゲームファイルを公開した。性別を入れ替えることで、女性の動きがいかに誇張された異様なものかが浮き彫りにされた。


・Creative Effectiveness部門

ツバル政府「The First Digital Nation」
Agency:The Monkeys(Accenture Song)+Collider

南太平洋に位置する島国・ツバルは、最も高い地点でも約4メートルの高さしかなく、数十年後には国全体が沈んでしまうと言われている。2022年に開催された「COP27」にて、同国のサイモン・コフェ外務大臣は、海面上昇から同国の遺産を守る手段として、世界初のデジタル国家への転換を目指すプロジェクトを発表。メタバース上にツバルを再現し、国土が消失したあともその文化や歴史、行政サービスを維持できるようにする計画だ。現在の国際法では国が存在するには「明確な物理的領土」が必要とされているが、既に9カ国がツバルのデジタル国家化を承認するとしている。


・Creative Use of Data部門

Gahr WeCapital「Data Tienda」
Agency:DDB MEXICO SA DE CV+Gahr WeCapital+Estudios Machina+LaDoble

メキシコでは何百万人もの低所得層の女性が、銀行の融資を受けられないために、起業家になれない現状がある。融資を受けられないのは、クレジットカードやローンなどの利用履歴(クレジットヒストリー)自体がそもそも無いためだ。女性起業家を支援する団体「We Capital」は、その女性が住む地域の商店などから支払い情報を収集し、クレジットヒストリーを作成することに。1万300人以上の女性からクレジットヒストリーの作成の希望があり、そのうち23%以上がビジネスや学習のためのマイクロローンを受けられるようになった。


・Cultural Driver部門、Public Relations部門(2部門で受賞)

Grupo Estratégico PAE「Morning After Island」
Agency:Ogilvy Honduras+14 al Centro Latam

保守国家である中央アメリカの国 ホンジュラスの政府は、2009年からMorning after pill(=緊急避妊薬)の使用を禁止していた。その結果として、同国の女性のうち4人に1人は18歳になる前に妊娠をし、さらにその約半数は近しい男性によって強姦されたことによる、という悲劇的な状態に陥っているという。そこで10年以上にわたり緊急避妊薬の使用を認めるよう活動してきたGE PAEは新たな解決策を提示。ホンジュラス政府の規制が及ばない公海上に、起訴される危険のない緊急避妊薬を服用できる4メートル四方の“島”「Morning After Island」を浮かべ、定期的に島へのツアーを実施したのだ。取り組みは国際的に話題となり、結果として同国の保健大臣は、強姦被害者に限ってモーニングアフターピルの使用を認可すると発表した。


・Design部門

Coors Light「Chillboards」
Agency:DDB+adam&eveDDB+NORD DDB CPH+Molson Coors

世界各地で熱波の被害が広がる昨今。特に低所得者層が住む地域では、植物が少ない上に建物と建物の間の間隔が狭く、より影響を受けやすい。「made to chill」とブランドプロミスを掲げるビールブランド「Molson Coors」は、フロリダ州マイアミの低所得者層の人々が多く住む地域で、プロミスに繋がる広告を展開した。彼らの住宅の黒い屋根に、太陽光を85%反射する特殊な白色塗料を用いて、その塗料の効用を伝える広告メッセージをペイント。広告枠として機能しつつも熱波の影響を抑える「チルボード」としてアップデートした。ニューヨークのストリートアーティスト「アンダルーズ・ザ・アーティスト」とのコラボで、デザイン性を保ちながら屋根の表面積の96%をカバーすることに成功。表面積の熱さは、元の65℃から37℃へと、大幅に改善したという。この施策はプエルトリコやカナダ、メキシコなど横展開されている。


・Direct Marketing部門

Coinbase「Less Talk, More Bitcoin」
Agency:Accenture Song+Coinbase+Walker+The Mill

アメリカ・カリフォルニア州に本社を置く暗号資産の取引所「Coinbase」は、スーパーボウルの60秒の広告枠を購入し、二次元コードがゆっくりと動くだけのCMを放映。視聴者はコードを読み込み、Coinbaseのアプリをダウンロードすると、ビットコインで報酬を得ることができる。非常にシンプルな演出で、新規のユーザーを一気に増やすことに成功した。

・Experiential&Immersive部門、Radio&Audio部門(2部門で受賞)

Muskrat Magazine「Missing Matoaka」
Agency:BBDO Canada+TA2 Sound+Music

先住民の芸術と文化の雑誌「Muskrat Magazine」は、先住民の女性に対してのステレオタイプを壊すとともに彼女たちへの暴力行為を終わらせるべく、ディズニーアニメ『ポカホンタス』の代替音声トラック「Missing Matoaka」を公開した。「Matoaka」とは、ディズニーアニメ『ポカホンタス』のモデルになった人物の名前だ。『ポカホンタス』はアメリカの先住民族の娘(ポカホンタス)が、大陸征服の野望を抱くイギリス人探検家と思いを寄せ合う物語だが、そこには「インディアン・プリンセス」のステレオタイプと、先住民女性や少女の過剰な性描写が描かれている。音声トラック「Missing Matoaka」では、先住民の作家と先住民の声によって元のアニメのセリフが一言一句書き直され、再録音され、先住民のアーティストによって音楽の作曲・演奏がされている。アニメを無音で流しながらこの音声トラックを流すことで、ステレオタイプに塗り重ねられた先住民の本来の姿を取り戻そうとする試み。


・Film&Video部門

Monde Nissin/Voiz「The Innocent Eyes」
Agency:Ogilvy Group Thailand+Factory01

ワッフルやクッキー生地にチョコやバターのクリームが挟まれたタイの菓子「Voiz」のWebムービー。女性が食べている「Voiz」をどうにかして分けてもらおうと、男性は女性の気を逸らさせるために愛の告白をする。その魂胆を見破った女性は、「“目は嘘を付かない”から、目を開けて見せて」と伝える。男性が渋々目を開けると、眼球たちが飛び出てきてしまい……。競争の激しいタイのスナック菓子市場で、消費者を驚かせ認知を得るためのシュールでユニークなストーリー。


・Gaming部門

Supercell/Clash of Clans「Clash from the Past」
Agency:Wieden+Kennedy+Spark&Riot

2012年にリリースされた「Clash of Clans」は、世界中で人気のあるモバイルゲームだ。22年に10周年を迎えるにあたり、「スーパーマリオシリーズ」「パックマン」のような人々の文化や生活に浸透した象徴的なゲームとして確固たる存在感を示したいと考えた。そこで10周年を祝うのではなく、フェイクの40周年を祝うことに。1982年から「Clash of Clans」が存在する世界線をコミュニケーションで打ち出したのだ。ドキュメンタリームービーをつくり、まるで当時放送されたかのような偽のCMやインタビュー番組を制作。また80年代はアーケードゲーム、90年代はレースゲームなど、実際に当時のフォーマットに合わせて再編されたゲームも公開された。さらにスポーツアパレルブランドの「チャンピオン」やトレーディングカード販売サイト「Topps」などともコラボ。徹底してフェイクの歴史をつくり込むことで、ファンを中心に大きな反響を得た。


・Health & Wellness部門

スウェーデン食品連盟「Eat a Swede」
Agency:McCann Stockholm+McCann Workgroup

スウェーデン食品連盟は、世界的な人口増加に伴う気候変動に対処すべく、食の面からアプリーチ。サステナブルな食材として、スウェーデンの大物俳優 アレクサンダー・スカルスガルドのヒト幹細胞からつくった実験用の肉を提案。制作までのドキュメンタリー映像(約19分)を制作し、世界各地の映画祭に出品。文化的かつ哲学的な角度から、議論を巻き起こした。