なぜ日本のジェンダーギャップは解消されないのか―しまむら炎上問題とともに考える

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毎年発表される世界ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム)で日本のランキングの低さが、毎年のように話題になりますが、2024年も156カ国中118位と、先進国の中では群を抜く低さとなっています。

そのランキングを裏付けるような数字として、女性管理職を有する企業の割合(部長以上)は12.1%、その少ない中で、管理職に占める女性の割合は部長相当職で7.9%と、2023年度の雇用均等基本調査(厚生労働省)により発表されいます。

一方で、家庭への育児参加のひとつの指標として、産休の取得率は、女性は80%を超えていますが、男性も30%まで伸びてきているとか(同じく雇用均等基本調査より)。

家庭のジェンダーギャップの話題と言えば、日本では今年の夏、衣料品チェーン「しまむら」の子ども服のデザインを端としてSNSで騒ぎが起こり、商品回収となるという事案も発生しましたね。

日本のジェンダーギャップは社会のひとつの課題とされるようになって久しい気もしますが、今回は、ポートランドのこと、そしてしまむらの件にも触れながら「なぜ日本のジェンダーギャップはなかなか解消されないのか」、そんなことを考えてみたいと思います。

ポートランドの日常の中でのサプライズ

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まず、ポートランド生活の話を少々。アメリカに移住した2019年夏は、コロナの感染拡大が起こる半年ほど前でした。

当時は、フルリモートで働きながら住む場所を変える、という人は日本国内においてもそこまで多くはなく、初対面のミーティングで「オンラインでいいですか?」と聞くのは、いささか憚られる、まだそんな状況だったことを懐かしく思い出します。家でリモートで仕事をするのではなく、出勤するのがあたりまえ。そんな日常でした。

その頃、私はリモートで日本と仕事をしながらも(仕事は時差があるので基本的には夜です)、次男はまだ2歳だったので、朝、夕方と散歩がてら公園に出かけていました。

そんな2019年のポートランド。朝9時、夕方の15時、16時ごろに公園に行くと、日本ではなかなか見られない光景がそこにはありました。子どもを連れている親の半分ぐらい、いや朝は8割ほどが男性なのです。土日ではなく、平日の朝9時と夕方です。土日ともなれば圧倒的にパパ率が高く、ママが来ている場合には、だいたい隣にパパもいるという状況でした。

一方で長男の小学校。オレゴン州は10歳までひとりで外を歩かせてはいけないと法律で決まっているため、大人が必ず迎えに行きます。そのお迎えのパパ率がこれまた高い。時は、平日の14時半。リモートワークが全盛になる前の話です。いったいみんな何の仕事をしているのだろうか?!と思ったものです。

何かが、日本とは違う。そうは言っても私が日本で住んでいた鎌倉は、保育園のお迎え(17時ごろ)は半数が当時もパパではありましたが、平日の公園はさすがにママばかりでしたから。

そして最近。

息子たちも大きくなり、週末にはしばしばスリープオーバーと呼ばれるお泊まり会に行っています。息子の話によると、夜ごはんも、日曜日の朝ごはんもパパ担当であるケースは少なくはないようです。その間にママはランニングやヨガなどでリフレッシュをしていたり、時にお友だちと外出しているとか。

こっちでポットラック(ごはん持ち寄りパーティー)に行くと、得意料理を持っている男性も多いからか、料理を振る舞うのは男性であったり、ポットラックに夫婦それぞれ一品持ってくる家庭も少なくはありません。

仕事は男性、家や子どものことは女性が主導権を持つ。という固定観念が私の中にあることを、こういう出来事を新鮮に感じたり、驚いたりする自分から気づきました。

ジェンダーの固定観念にまつわる、もうひとつのエピソード

ある日の夕飯の時のこと。「〇〇くんの、お母さんと小学校の迎えの時に会話したよ!」と夫に報告をしました。夫も「△△さんでしょ?知ってるよ。僕もよく話す」「いや、名前違うよ。☆☆さんだよ。かっこいい感じのひと」「そんなひとじゃないな」じゃあ、「△△・☆☆っていうファーストネーム&ラストネームってことかな?」……「いや違うな」。

そこまで会話して、ふたりとも、あぁと気づきました。女性の親がふたりだということに。

男性と女性が親である、と、女性であればお母さんである、という固定観念にしっかりとふたり揃って縛られていたということにも、同時に気づきました。LGBTQなどの性の多様性に対して、関心や理解を示しているような顔をしながらも、実際に自分ごととなると、自分の常識や固定化されている思考のもとで見てしまうわけです。

それほどに、日々の家庭生活や社会生活の中で、人生と環境の中で形づくられている常識と固定観念は、私たちの思考の根幹となっています。そして行動や発言に如実に反映されている、という事実をまず受け止めるところから始める必要がありそうです。

「なぜ日本のジェンダーギャップはなかなか解消されないのか」。

この課題も、私自身も強く囚われているジェンダーによる役割への常識と固定観念が影響していると、今考えています。

ジェンダーの役割の揺るがぬ固定観念があるからこそ、生まれた表現

先日話題になった衣料品チェーン「しまむら」の子ども服のデザイン。米国に暮らす、私の耳にも届いたぐらいなので、さまざまなところでかなり話題になったのであろうと想像します。

簡単にことの経緯を添えると「パパはいつも寝てる」「パパは全然面倒見てくれない」というコピーの入った子ども服が発売されたことが発端となり、SNS上で、男性を中心に「男性差別だ」「ひどい」という声があがりました。その結果、しまむらは販売を停止、店舗から商品を引きあげた、というものです。

このデザインを最初見た時、風刺的なジョークとして私個人は受け止めました。着てたら、「おいっ!」と突っ込みたくなるでしょうが、必ずしも、その子どものパパが子どもと遊んでないとは思わないだろうなと(着せるぐらいのパパでしょうし)。なので、非難の声が多数出たことにちょっと驚いたというのが、本音です。

「あなたが女性だから、気にならないのでは?」というツッコミが飛んできそうではありますが、このデザインは、別に誰か個人や特定のグループを否定したり、その行為を咎めたりするものではないと正直、思っています。そんなものを、企業がわざわざ出すはずがありませんし、誰もそんな意地悪なクリエイティブなんてつくりませんよね。

嫌な気持ちになった、配慮が足りない、というのは個人の感情で、その個人の感情に配慮しての回収という顛末に至ったと想像します。でも、個人的には、企業を非難するのではなく、企業が伝えたかったメッセージ、社会に提示したかった課題に着目し議論できたら良かったのにと思うのです。

このデザインが話題になった時に、アメリカの家庭にこれを見せたらどういう反応かな?とポートランドの友人に聞いてみました。すると、そもそも、子育てせずに寝てるとかないから、意味がわからないんじゃない?と言われました。

冒頭に紹介したとおり、ポートランドの家庭においては、家のことは男女関係なくやるものと変化しつつあり、いくら仕事が忙しいからと(それは女性も一緒なので)、男性が家庭を疎かにする、という慣習はなくなりつつあるということです。

一方、日本は男性は土日に朝寝坊をしなければならないほどに、外でバリバリ働くのがかっこいい、そして家のことは女性が中心にやる、という今も根強く残っている日本のジェンダーにおける役割の分断があり、それが変化することなく今もなお社会全体に共通認識として存在しているように思います。だからこそ、このデザインは成り立ったわけで、それが成り立ってしまう社会に対してのアンチテーゼだったと考えられます。

回収して忘れられてしまうのではなく、こんなデザインが生まれてしまうほどに、ジェンダーの役割への偏見だったり、固定観念だったりが強く存在すること。そして、社会全体でそれを変えていく努力が必要である、というところまで議論を発展させたい、そんなメッセージだったように思えるのです。

ジェンダーギャップの問題は、私たち誰しもが、当事者であり、だからこそ、個人の感情や、置かれている状況などを前提に、意見したり発信したり判断したりしがちです。

このジェンダーが絡む表現や、発信の判断においては、その「自分自身が当事者で固定観念に縛られながら考えている」ということを意識する必要があります。そして生活者個人ではなく、広告クリエイティブを担う側に視点を移すと、そちらも固定観念の呪縛を意識することで、昨今の、ジェンダーギャップやジェンダーに関する広告表現の炎上を回避する、一助ともなるのではないでしょうか。

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松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)
松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

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