夫が突如、レイオフされました――アメリカと日本の雇用について再考する

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昨年の秋に、家族のレイオフを経験しまして、2024年から2025年にかけての、ゆく年くる年を感じる時期に、雇用というものについて再考することとなりました。

「米国雇用統計」。毎週のように経済報道で耳にするこのキーワード。この統計も米国と日本の雇用形態の違いを示しているように思います。

当然のように、毎日、仕事があり、特別なことがない限り(また、自分でやめない限り)来月も同じ職場で働いている日本と、明日突然「こなくていいよ」となり得るアメリカ。その雇用にまつわる社会課題やメリット・デメリット、そして個人の生活やキャリアに及ぼす影響を今回は考えてみたいと思います。

日本とアメリカの雇用形態は何が違うか?

冒頭に書いた「レイオフ」そして、アメリカの「明日来なくていいよ」と言われて急に席がなくなる、みたいな話は、みなさんどこかで聞いたことがあると思います。

日本の終身雇用を前提に、突然解雇になったり、給料を減額したりはできず、雇用が守られるいわゆるものは、「メンバーシップ型」雇用と呼ばれるようです。人を採用してから、会社の中で、やってもらうこと(ジョブ、職)を決めるというもの。

一方で、アメリカの雇用は、at-will employment と呼ばれる、雇用主がいつでも解雇できる、または従業員側も退職できる契約で、職務やスキルが限定されて雇われることから「ジョブ型」雇用と呼ばれています。

前者は、企業に就職する、後者は職につく、と言えばよいでしょうか。

それぞれのメリットとデメリット

お互いに選ばれ、選ばれる関係を維持する米国型の雇用においては、企業はそれなりにやりがいのある仕事と条件(報酬)を提供し続ける必要があり、一方で、雇用される側も、スキルを発揮するために自分のスキルを磨き続ける必要があります。

緊張感のある関係となると、現状維持ではなく、改善、アップデート、向上が求められることになりますよね。この雇用形態は、アメリカ社会の、スピードの速さや、イノベーションの起こりやすさ、人々のレジリエンスなどにつながっていると考えます。

一方のデメリットとしては、安定のなさがあげられます。アメリカでも雇用と保険(医療)は結びついています。もちろん個人で入ることもできますが、かなりの高額であり、雇用主が いくらかを負担し、その企業経由で入っていることが多いのが実情です。

とは言え、日本のように社会保険としての皆保険ではありません。レイオフの場合には、いわゆる退職金制度のようなSeverance Packageと呼ばれるものが提示されることがあり、給料の何カ月分といった保証金が出たり、自己負担で今の保険内容を継続できたり、会社側がしばらく保険料の負担を続けてくれることもあります。

しかしながら、保険に関しては負担が増えることは事実です(いずれはなくなるという意味でも)。仕事がなくなると保険がなくなり、健康不安、食の不安と、一気に押し寄せることになります。保険はアメリカの社会課題とされており、先日、アメリカの保険会社のCEOが射殺されるという事件が起きてしまいました。この話はまた別の機会に。

日本はこの点は、社会が医療を保障しているので、安心です。日本型の雇用のメリットとしては、この安心という点と、会社勤めを保証されているので、会社にいながらにして、違うジョブに挑戦できるなど(たとえば、営業から人事のような)働きながらスキルをつけていけることでしょう。

デメリットは、というと、これは雇用主側の方が大きいかもしれません。大きな事業転換をした時に、スキルが合わないメンバーがいたとしても、減給したり、解雇したりするわけにはいきませんから。これは日本企業のフットワークの重さ、転換のしづらさにつながっていると考えます。また、現状維持でも給料が年功序列で上がっていくことから、自身の向上にはアメリカほど意欲的になれない環境かもしれません。

米国雇用統計が注目される理由

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毎月第1週の金曜日のニューヨーク時間、朝8時半に、米国の雇用統計、つまり失業率や、業種別の就業人数、労働時間が発表されます。日本では「労働力調査」なるものが毎月公表されています。

期間は異なるのですが、双方を比べてみたいと思います。見たいのは、推移です。

■日本の労働力調査

グラフ その他 労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)11月分結果

出典:総務省統計局サイト
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html

■アメリカの失業率の推移

グラフ その他 Unemployment rate

出典:https://www.bls.gov/charts/employment-situation/civilian-unemployment-rate.htm

ご覧の通りアメリカはダイナミックに数字が上下しています。失業率が跳ね上がった2020年はコロナのパンデミック。2009年はリーマン・ショックのあとのことです。

日本がいかに安定しているかをうかがい知ることができると共に、株式市場において、この米国雇用統計が重視される理由は、この細やかな変動が実に社会の状況を反映していると考えられるからです。

どちらが良いかは一概には言えません。米国の雇用から学ぶところがあるとするなら、日本型雇用であったとしても甘えることなく、自身のスキルを広げ、高めることは世界と対峙していく上では大事だろう、ということでしょうか。

日本の安定は裏返せば、安心して従事できる、何かに打ち込める環境だとも思うので(社会保険、保証、福利厚生含めて)集中したらイノベーションやチャレンジがしやすいとも言えるのではないかと思います。

もっと極めて個人的な気持ちをいうと、アメリカに来ていろいろな体験はしましたが、私自身も、家族もレイオフはあまり経験したくないものだなぁというのが正直なところ、ということを吐露して締めたいと思います。

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松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)
松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

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