環境破壊や資源の枯渇が問題視されている昨今、企業側は社会的責任(CSR)として環境に配慮した経済活動が求められている。しかし、一企業だけで環境問題に取り組むのは容易ではなく、業種や地域、国の垣根を越えて連携していく必要がある。では、周囲の賛同や協力を得るために、何をどのように取り組めばよいのだろうか。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。トヨタ自動車・大學 孝一氏が取り組む「捨てるところのないクルマづくり」と、それをサポートする電通・伊藤 健一郎氏の言語化についてお聞きした。技術開発者とコピーライター、専門性の異なるつくり手たちは、どう影響し合うのか。
業界の垣根を越えて仲間と共創 「捨てるところのないクルマづくり」に挑む
年間約1000万台の車を生産するトヨタ自動車が「捨てるところのないクルマづくり」への第一歩を踏み出した。環境負荷が少なく、かつ資源の完全循環に向けた新しい車の研究開発と、業界の垣根を越えた仲間づくりという2つの活動を、「Geological Design」と名付け、取り組んでいる。
その難題に挑むのは、トヨタの技術開発に従事してきた大學氏を中心とする、構造デザイナー集団「TOYOTA構造デザインスタジオ」だ。メンバーは社内の各セクションから選出。異なる専門性を持つメンバーがフラットに意見を出し合い、クリエイティブな発想を生み出している。
「クルマの性能の維持・向上」と「地球環境に優しいクルマ」という2つの目標を両立するために、構造デザインスタジオでは3つの視点で考え、従来のモノづくりの革新を図る。
1つ目の視点は、「モノのはじまりから考えること」だ。リサイクルやアップサイクルを前提とした、環境負荷が少ない素材探しや、再利用しやすいように、予め分解しやすい構造や工法を考案する。
2つ目は「そもそも少なく(軽く)すること」だ。部品の軽量化だけではなく部品点数や作業工程を減らすなど、あらゆる角度からクルマづくりを見直し、省資源・省エネに取り組む。
これらの視点をもとに開発を進めた結果、剛性を強化しつつ、従来のクルマより約100キロ軽量化した試作品を作ることに成功。すでに市販車への採用を検討している段階だという。
3つ目は「モノの終わりを考えること」。リサイクル率を上げるとともに、リサイクルできないものには付加価値をつけてアップサイクルする。現在は、地方自治体と協業し、リサイクルが難しい強化ガラスやほとんどアップサイクルされていない鉄の廃材を、地域の工芸家やアーティストに提供し、従来にない伝統工芸品やアート作品へと昇華させる取り組みだ。宮城なら「中新田打刃物」、岩手なら「南部鉄器」と、地域の特色を生かした共創作品は多岐にわたる。
また、Geological Designの活動や自動車廃材の現実を多くの人に知ってもらおうと、デザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO(デザイナート トーキョー)」に自動車の廃材でできたインスタレーションを出展。車と環境問題について現代アートで問いかける試みは、若い世代を中心に多くの反響を呼んだ。
共感する仲間が増える、ビジョンが明確になる「言葉の持つ力」とは
時に既存の生産活動にメスを入れる構造デザインスタジオ。トヨタ自動車の中でも異端と見られることも少なくないという。電通のコピーライター・伊藤 健一郎氏は活動を伝えるだけでなく、根底にある思想まで言語化することで、構造デザインスタジオに共感する仲間を社内外に増やそうと試みた。
まずは、スタジオのメンバーが自分たちを紹介するための言葉。「構造デザインスタジオとは何者なのか?」を、第三者目線で定義したという。代表の大學氏がスタジオの理想の姿を「Jazz」に喩えていたこと、「トヨタを外から変えたい」という思いを汲み取って「(前略)Jazzのように、互いの技能をぶつけ合い、チームでアイデアを磨き、アウトプットする。(中略)ノウハウは惜しみなく開示し、仲間はトヨタに限らない」と定義したそうだ。
ビジュアルや映像の着想も、大學氏の「絶対に捨てないクルマ」という言葉から得た。伊藤氏は、その言葉の裏に、製造者としての自戒の念を感じたという。そこから「捨てない」の逆、人間が「捨てた」景色、クルマ主語であれば「捨てられた」情景へとイメージを膨らませた。
そして、思い浮かべた景色から言葉を構築したそうだ。スタジオの哲学や信念を圧縮し、メンバーが代がわりしても原点に立ち戻れるように語り込んだ。「(クルマのボディ)鉄を積極的に錆びさせられたら土に還せる」とつぶやいた大學氏の言葉を受け、「クルマたちも、土に還れたらいいのに。」というキャッチコピーは生まれた。また、たとえ多くの人から「捨てるところのないクルマづくりなんて無理!」と言われても「やってやる!上等だ!」と自分たちを鼓舞する掛け声になったらと「できっこない上等」というタグラインを開発したという。
構造デザインスタジオの活動は、ステートメントに込められた思想とともに評価され、暮らしや社会を豊かにするデザインに贈られる「2024年度グッドデザイン賞BEST100」を受賞した。
また伊藤氏の存在は、仲間づくりに向けた外部への発信のみならず、スタジオ内部のメンバーにも好影響を与えたという。大學氏は「伊藤氏が言葉や図、動画で表現してくれることで、メンバー内でビジョンや構想が明確になった」と手応えを感じたそうだ。
技術開発スキルと、言語化スキル。他にも様々な専門性を持つ仲間たちとセッションし、モノづくりの次の道を開拓する構造デザインスタジオ。最後に大學氏は、今後の展望として「環境視点を取り入れた新しいモノづくりが、暗黙知のように、当たり前に広がっていくのが理想。来年も継続して、あらゆる垣根を越えて活動していきたい」と締めくくった。

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