ECでリピート率5割超え!レトロゲーム愛が生んだ「ヒミツノバ」の成功

BASEを利用し、ネットショップでゲームボーイの改造やレトロゲーム関連のアイテムを提供している「ヒミツノバ」。ショップオーナーの趣味が高じてオープンし、現在では同店のリピート率は5割を超える。同店がファンを惹きつけ続ける秘訣は何か。2024年12月13日に発売した新刊『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』の著者で電通 戦略プランナーの関智一氏、宮前政志氏が、ショップオーナーの角田大輔氏に話を聞いた。
スクリーンショット レトロゲーム関連のアイテムをBASEで作成したネットショップで提供している「ヒミツノバ」

レトロゲーム関連のアイテムをBASEで作成したネットショップで提供している「ヒミツノバ」

自身の趣味と特技を活かしてショップビジネスを開始

:「ヒミツノバ」ではレトロゲーム関連のアイテムを専門的に提供されていますが、ショップを設立されるまでの経緯や設立背景を教えてください。

角田:最初は趣味の範疇で、ファミコンやゲームボーイなど「レトロゲーム」と呼ばれるものをコレクションし、その本体の機能性を向上させる改造もしていました。その様子をSNSに投稿したら、「お金を払うから作ってほしい」という反応があったんです。その後は、仲間と無償でゲーム機の改造作業をしていたんですが、その依頼が多くなってきたとき「これはマネタイズできるんじゃないか」と思いました。試しに2019〜2020年にかけてメルカリで個人の出品物として販売したところ、すぐに売れることが続いたため「ヒミツノバ」を立ち上げました。

:角田さんの趣味が発展した結果「ヒミツノバ」が設立されたとのことですが、それまでどのような経歴をお持ちだったのですか?

角田:私は不動産系の会社に勤めたあと独立をしています。実は、独立当初に販売を考えていた商材は「レディース用のラッシュガード」だったんです。商品開発をするためにブランドを立ち上げ、中国の工場を探してサンプルの取り寄せもしました。ただ、本発注しようと思った矢先にコロナウイルスの感染が流行してしまって。その状況でお金を稼がないといけない中、併売していたゲーム機を改造した商品がちょうど売れ始めた時期だったことから「これでご飯代は稼げるかもしれない」と思ったんです。そのため、最初からレトロゲームの販売を考えていたのではなく、偶然そこへ辿り着いた経緯があります。

写真 表紙 『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』

『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』
2024年12月13日発売/宮前政志、松岡康、関智一 編著

BASEを活用して「レトロゲーム市場」を開拓

:「ヒミツノバ」をオープンされるにあたって、競合他社やレトロゲームの市場規模の調査などはされたのでしょうか?

角田:レトロゲームは、日本よりも海外で圧倒的な需要があります。秋葉原では外国人観光客が高値で購入しており、店舗の在庫がなくなることも多いそうです。ゲーム機の改造パーツは海外でも買えますが、日本国内で専門的に販売している会社は「ヒミツノバ」しかありません。その背景を鑑みると、日本国内の市場規模はまだ小さいと思います。

:現在はショップ運営にあたりBASEを利用されていますが、メルカリから移行されるきっかけはあったのでしょうか。また、BASEを使っていて魅力に感じる点があれば教えてください。

角田:BASEを利用しようと考えたきっかけは、支払いに関する一連のシステムが用意されていたことです。個人でネットショップを立ち上げるときに一番のハードルとなるのは「決済方法をいくつも準備する」点だと思っています。一人でクレジットカードやPayPayなどの決済方法に対応するシステムを構築するのは大変なので、最初から支払いシステムが用意されているのは、今も魅力的に感じるポイントですね。

もうひとつは、BASEが定期的に実施しているクーポンセール。セール期間に便乗して、うちも「全商品5%オフ」にするといった形で重ねてブーストをかけています。だいぶ効果的に使わせてもらっています。

商品アイデアの源泉は、多様化するファンの中にある

:「ヒミツノバ」ではどのようなターゲット設定をされているのでしょうか。ターゲットに見られる特徴があれば、併せてお伺いしたいです。

角田:ターゲットは大きく2種類あると考えており、ひとつはゲームボーイなどが流行していた当時に遊んでいた、30〜40代の方です。その方々が自分で遊んだり、「子どもに遊ばせたい」という需要で購入する場合もあります。レトロゲームには課金システムがないため、親にとってはその点が安心感となるようです。もうひとつは、10〜20代の方です。ゲームボーイなどを教科書で知った世代たちが「エモい」という感覚を抱いて興味を持ったり、現在「マリオ」や「星のカービィ」を遊んでいる人が「その原点を知りたい」と思ってレトロゲームに惹かれる場合もあります。

:こうした方々が「ヒミツノバ」のファンになっていると思いますが、ファン層を広げていく際に意識されていることはありますか。

角田:最近では商品に対する「映え」や「エモさ」をファーストインプレッションで感じてもらえるような画像や商品開発を意識しています。画像の背景については、AIを活用して全て作り直しているんです。また、ゲームボーイのソフトは通常ゲーム機に入れて遊びますが、ソフトを飾るためのアクリルスタンドの販売も行っています。後者は、ゲーマーとの付き合いの中でひらめいたアイデアですね。

写真 「ヒミツノバ」で独自に開発した、ゲームボーイのソフトを飾るためのアクリルスタンド

「ヒミツノバ」で独自に開発した、ゲームボーイのソフトを飾るためのアクリルスタンド

:この発想は…なかったです(笑)。「飾りたい欲」が刺激されますね。

宮前:ファンの界隈へ参画して感性に刺激を受けることは、マーケターとしても重要な観点になりそうです。お話を伺っていると、角田さんはコミュニティに属する人の潜在的な欲求を膨らませながら商品を開発し、「自分たちが欲しいもの」を作っている印象を受けました。

角田:私もその点は意識して、商品アイデアを練っています。例えば、SNS上ではゲームボーイのソフトを何百本も持っている方がいらっしゃるんですね。一方、ソフトを収納できる専用ケースは少ない現状もあるので、そこから「ソフト専用の収納ケースを作ろう」と発想を得ることがあります。ほかにも、自分が持っているファミコンのソフトがわからなくなるケースが多いので、それを管理できるアプリも開発したいと思っています。

高いリピート率を生みだすのは、ファンの「仲間」になる姿勢

:「ヒミツノバ」にはコアなファンがいらっしゃると思います。その中でもリピーターとして複数回購入される事例は多いのでしょうか。

角田:当ショップにおけるお客様のリピート率は、毎月5割強となっています。違う商品を購入される場合もあれば、「ゲームボーイアドバンスを1台持っていて、もう1台別の色がほしい」という需要もあります。当ショップでは雑貨やゲーム機を入れるポーチなども取り扱っているので、品揃えの多さも高いリピート率につながっていると思います。

:ECのリピート率は通常3割ほどと言われている中で、5割はかなり高い比率ですね!お客様の中には付き合いの長い方もいらっしゃると思いますが、お客様とのコミュニケーションで意識されていることがあれば教えてください。

角田:お客様が注視しているポイントは、「自分たちの同志であるかどうか」という点だと思っています。「商売」という側面が前面に出てしまうと、反感を買ってしまう恐れもある。そのため、「自分もレトロゲームのファンです」とか「実際に自分も遊んでいる」という事実を商材やSNSを通じて発信していくと、お客様から「仲間」という認識を持っていただけて、その結果として良好な関係も築けるのではないでしょうか。

宮前:「ヒミツノバ」では「一緒にコミュニティを育てるための商品を開発する」ということが前提となっていると感じます。ファンの方々へそのスタンスを可視化するために、SNSはどのように活用されているのでしょうか。

角田:ショップを開設した当初から、InstagramとX(旧 Twitter)を使い分けています。Instagramは海外のゲーマーやレトロゲームファンが見ているため、海外の方にリーチしたいときはInstagramに映えるような画像を載せたりします。日本の方へリーチしたいときはXを活用します。以前は積極的にリプライや引用リツートをしていましたが、最近は企画の実施も行っています。例えば「♯ゲームボーイと出かけよう」というハッシュタグとともに、外で撮影したゲームボーイの写真を投稿していただいたあと、素敵な写真にはその賞品として商品を送ったこともあります。

「エモさ」「映え」「細部の品質」を持つ商品が人気になっていく

:最後になりますが、今後「ヒミツノバ」として新たに販売していきたい商品や、今後の展望があれば教えてください。

角田:作ってみたい商品はたくさんあります。例えばゲームボーイのカセットに任意の画像を入れると本体の液晶画面に画像を表示できます。それを利用して、ゲームボーイをお店でサインツールとして使うとか。あとは、ゲームボーイやカセットを使ったファッションアイテムを作りたいと思っています。

宮前:レトロゲームで遊ぶだけではなく、ゲーム機そのものと触れ合う時間を豊かにしてくれる商品を開発していくと、ゲーマー界隈以外からでも偶発購買を呼べる可能性がありそうですね。

角田:つい最近、任天堂さんがスーパーファミコンやゲームキューブのボタンだけを取り付けたキーホルダーを販売したのを知っていますか?(編集部注:全国4箇所の任天堂ショップで2024年7月に発売された『コントローラーボタンコレクション』)こういう商品を見ると、「なんかかわいい」と思って偶発的に購入することもあると思います。商品の実用性は低い反面、当時のゲーム機と同じパーツが用いられていて高品質という特徴があります。今後は若い方を中心に「エモさや映え」と「細部の品質」にこだわった商品が人気になっていくと思っており、そのような観点もマーケティングの参考にしたいと考えています。

:どの商品も「意味のある無駄」という感じがしていいですね(笑)。

角田:そうです!まさにそれです。「意味のある無駄」。

宮前:この取材から名言が生まれましたね。

:今日お話を伺っていて、「ヒミツノバ」がファンから高い支持を得ている理由は、角田さんご自身がレトロゲームが好きという点に尽きると感じました。自身がレトロゲーム好きだからこそ多方面に情報のアンテナを張ることができ、結果として「自分たちが欲しい」と思える商品を開発してファンの期待にも応えているのだとよくわかりました。本日はありがとうございました。

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角田大輔(つのだ・だいすけ)

Dzele 代表取締役

約20年間にわたり不動産業界での経験を持ち、その後独立。レディースアパレル業界での独立を進める中で、コロナ禍における市場変動を受けビジネスの転換を決意。レトロゲーム機専門のカスタマイズ・修理事業「ヒミツノバ」を創業。2022年、Dzeleを設立。ゲームボーイを中心とした携帯ゲーム機のカスタマイズ・修理を手掛けるほか、オリジナル商品の企画開発から販売まで、レトロゲーム機に特化した事業を展開している。

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関智一(せき・ともかず)

電通 データマーケティング局

早稲田大学社会科学部卒。マーケティング管理研究を専攻。2017年電通入社。プランナー/ストラテジストとして、様々な企業のマーケティングに従事。企業価値規定から新規事業開発、ビッグデータを活用したコミュニケーション・デザイン、DXまで、幅広くプロジェクトをディレクションする。Eコマースグロースサービス「ULVA®」の開発やD2Cブランドの運営など、実業視点を持ったビジネスデザイン実績多数。

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宮前政志(みやまえ・まさし)

電通 データマーケティング局

東京外国語大学フランス語専攻卒、2001年電通入社。事業開発・サービス拡張、ビジネスモデル研鑽に強みを持ち、金融・家電からFMCGまでデータマーケティング領域を幅広く従事。特許を有したソリューション開発実績多数で、流通と顧客接点で新しい体験をつくる「PROMOTAG®」ソリューション開発などを推進。

偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる

宮前政志、松岡康、関 智一 編著/定価:2,200円(税込)

電通内でデータマーケティングを専門とする戦略プランナーチームの研究成果をまとめた一冊。Search(検索)ではなくSurf(情報回遊)から始まる、情報回遊時代の購買行動モデルを「SEAMS®」として提唱。その背景やプランニングのポイント、顧客育成の方法論、偶発購買設計のためのフレームワークなどを紹介する。読者限定ダウンロード特典つき。

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