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「モノ」を“提供”するのではなく、「モノガタリ」を“提案”する
──坂下さんにとって、マーケターはどういう職種だと思いますか。
マーケターとは、ビジネスとブランドの継続的な成長を実現するプロフェッショナルのこと。
私の職業は、プロのマーケターです。そのため、1つの会社にしがみつくことはしません。自分を雇ってくれた会社へのリターンの最大化を、常に考えているんです。だから何より大切なのは、たとえ自分がいなくなった後でも、ビジネスやブランドが成長し続けるために持続可能な「仕組み」をつくること。これが、私のプロフェッショナルとしてのこだわりです。
──坂下さんが提唱する「モノガタリマーケティング」もその仕組みのひとつですか?
そうです。マーケターは、単に「モノ」を“提供”するのではなく、「モノガタリ」をお客さまに“提案”しなければならないというのが私の持論です。モノガタリに共感したお客さまは、自分から「モノ」に価値を見出してくれる。それでこそ、商品はブランドになっていくわけです。
ドミノ・ピザ ジャパン
エグゼクティブバイスプレジデント チーフマーケティングオフィサー
坂下真実(さかした・まさみ)氏
1999年、青山学院大学法学部を卒業後、ユニ・チャームに入社。マーケターとしてのキャリアをスタート。日本コカ・コーラでは「ジョージア」や「爽健美茶」などのブランドマネージャーを務め、日本マクドナルドではマーケティング部長として「サムライマック」「ダブチ」などのヒット商品を生んだ。資生堂、ゴンチャ ジャパンを経て、2024年9月より現職。
──例えば、日本マクドナルド時代に企画開発された「サムライマック」では、どんな「モノガタリ」を提案されたのでしょう?
日本マクドナルドでは2010年頃からクォーターパウンダーやグランシリーズなど、プレミアムバーガーをさまざま試してきました。ただ、なかなか定番メニューになるようなヒット商品は生まれず苦戦していたなか、私の部門で企画開発から担当して2020年に発売したのが「サムライマック」でした。
「モノガタリマーケティング」は、まずお客さまにモノガタリとして提案できる、ブランドの独自価値を絞り込むことから始めます。「サムライマック」の場合は、それをネーミングまで絞り込んでから生まれた商品でした。私はサッカーが大好きなんですが、サッカー日本代表なら「サムライブルー」、野球日本代表なら「侍ジャパン」など、国際的に活躍する日本代表選手を「サムライ」とリスペクトを込めて呼びますよね。
でも、「毎日を頑張っている人だって、みんなサムライなんだ。マクドナルドはすべての大人にリスペクトを持っていると伝えたい」と思ったんです。そんなモノガタリを乗せた「サムライマック」は見事、大人客の心をつかむことに成功しました。
ただ、もし仮に「おとなマック」などメッセージ性のない名前を付けていたら、お客さまの心はつかめなかったと思います。「サムライマック」はまさに、お客さまの価値から発想するモノガタリマーケティングが導いた成功だったと思います。
──マーケターには、その「モノガタリ」を描く力が求められるんですね。
そうですね、私がここまで「モノガタリ」を重視するのは、マーケターが大切にすべき姿勢ともつながっているからです。