番組は月間220万回以上再生され(※2025年1月)、国内の人気Podcastランキングでは通常、5位以内にランクインしており、全国にファンを広げています。この番組をきっかけに発売された“ビキニ写真集”は話題を呼び、重版を重ね、発行部数が7,500部を突破する事態になるほど。さらに番組イベントを開催すれば、そのチケットは先行抽選の段階で落選者が続出し、Xでは落選の声が相次ぐほどの入手困難の事態となりました。
著者自身も、昨年から知り合いからの口コミをきっかけに、番組を聞き始め、今では毎週末の配信を心待ちにするほどのリスナーになりました。
なぜ、「マユリカのうなげろりん!!」が人気コンテンツになったのか、その裏側に迫るべく、番組プロデューサーの神吉将也さんに取材しました。
(※本記事には前編があります)
※本記事は情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部の有志と『宣伝会議』編集部が連携して実施する「宣伝会議学生記者」企画によって制作されたものです。企画・取材・執筆をすべて教育部の学生が自ら行っています。
※本記事の企画・取材・執筆は教育部修了生の櫻井恵が、取材は佐藤良祐が担当しました。
くだらない会話にこそ需要がある、番組が人気の理由
――番組イベントを開催するやいなや、先行抽選の段階でも落選者が続出するほどで番組の人気ぶりが伺えます。番組が人気になった要因をプロデューサー視点でどう分析されていますか?
僕が5年前に地上波番組の出演にあたってマユリカさんに声をかけたとき、2人にはYouTubeチャンネルもなく、劇場以外に発信する場所がありませんでした。その結果、才能ある2人がパフォーマンスを発揮する所が、Podcastに集約されたことが要因として大きかったと思います。
番組の中身についていうと、2人の「モテたモテなかった論争」だとか、本当にくだらない小競り合いをしていることが多くて…。ただ、このくだらない会話にこそ需要があると思っています。熱い話や知識を深めるような話は、聞く側も「よし聞くぞ」と構える分、カロリーを使ってしまうので、疲れたり、思い悩んだりしたときには向いてないこともあります。でも、うなげろりんは本当に頭空っぽで聴けるので(笑)。そこにコンテンツとしての需要があるのかなとリスナーさんの反応を見て感じます。
――紅しょうがさん、ダブルヒガシさん、マユリカさんも含め、神吉さんが手掛けているラジオ番組の出演芸人さんはテレビ番組に多数出演したり、賞レースでも好成績を残したり、活躍の場を広げています。ただ、彼らが今ほど活躍する数年前から神吉さんは彼らの面白さを見抜いていたと感じております。面白さを見抜いたポイントはどこにあったのでしょうか?
紅しょうがさんは当時から「THE W」の決勝に進出するほどの実力者で、舞台上でも華があったので、確実にテレビなどで人気者になると思っていました。ダブルヒガシさんはトークライブでのかけ合いが面白かったので、この2組に関しては他局より早くオファーしたほうがいいと判断しました。
一方で、マユリカさんは当時、周りの芸人さんに愛されているコンビという印象でしたが、ビジュアル的にものすごく地味で、売れる想像はできませんでした(笑)。ただ個人的にトークの雰囲気もネタも好きだったので、「地元神戸出身のコンビ」という一点推しで上司に推薦しました。
――神吉さんの才能を見抜く力がすごいなと思います。日頃から意識していることはありますか?
見抜いていたなんてことは全くありません(笑)。それぞれの芸人さんが相当な努力をして、ネタで結果を出されたその恩恵を受けている立場です。ただ、オファーするときに”コンビの関係性”に注目していて、選ぶ基準は自分の中で明確にありますね。
――“関係性”はどのようにして判断されているのでしょうか?
ライブの平場など、ネタ以外の場でのやりとりに注目しています。相方の話ですごく笑っているな、2人でその場のノリを一緒に楽しんでいるなとか、自然なやりとりの中で見えてくる2人の関係性が、番組の面白さにも直結すると思っています。僕自身がラジオを好きになったきっかけが「おぎやはぎのメガネびいき」でしたが、好きになった理由も2人の間柄でした。コンビ仲の良さがラジオ越しに伝わってきて、そこが素敵で癒されていました。
マユリカさん、ダブルヒガシさん、紅しょうがさんの3組の共通点も、まさに2人の関係性が素敵なところです。今後、新たに番組を立ち上げるときにも大事にしたい軸です。
口コミを広げるための設計
――テレビ番組や地上波のラジオ番組はたまたま流れてきたコンテンツに出会える機会がありますが、Podcastは自分からチャンネルを選ばないと聞かれないという特性があると思います。ユーザーが番組を自発的に聴きたくなるように心がけていることはありますか。
特にPodcastはリスナーさんの自発性にゆだねる部分が多いので、立ち上げ当初は再生数を増やすのに苦労しました。でも、好きでわざわざ聴きに来てくれる人ばかりなので、逆に自信を持ってニッチな話ができると考えました。
地上波では毎回初めて聴いた人や途中から聴いた人にも分かるように、前提や背景を説明する必要がありますが、Podcastでは意識しすぎないようにしています。新しい人を取り込むために広くわかりやすいトークを繰り広げるというより、好きな人だけ番組を聴いてくれればよいと完全に振り切り、その人たちをとにかく大喜びさせることだけ意識しています。
ただ、同時に番組をもっと知ってもらわないと継続できません。Podcastの場合、リスナーからの口コミでじわじわ広がるのが結局一番強いと感じていて、切り抜き動画を作成してYouTubeチャンネルに置くなど、シェア用の素材を用意するようにしています。ショート動画で面白い箇所をまとめていれば、URLを送るだけで番組の魅力を伝えられます。切り抜ききっかけで本編を聴き始めたと言っていただけることが本当に多いですね。
――各回のタイトルも「くんくんくん」「異論は認めん」など毎週目を引くネーミングが印象的です。タイトルにもこだわりがあるのでしょうか?
タイトルはリスナーさんに推し回をおすすめしてもらう上で重要な要素になっていると思います。ですから、担当しているお笑いPodcastの場合は、ネットニュースの見出しのように、目で概要が分かるようなタイトルではなく、何を指しているのか分からないけれど、記憶しやすく、「『その手で』(という回)聴いてみて!」のように、好きな回について友人同士の会話の中に入りやすいタイトルにしようとしています。