グローバルに拡大を続けるエージェンシーである電通。その電通のデザインのすべてを学べる「Dentsu Hands and Heads」が開講。本講座で講師を務める八木義博氏、南木隆助氏、小柳祐介氏にインタビューを実施しました。
第1回となる本記事では、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターである八木氏の考えるこれからのデザインや、今求められているスキル、グローバルエージェンシーのデザインチームならではの強みについて伺いました。
単なるグラフィックデザインではなく、目に見えないブランドの思いを形にする
━━電通のデザインチームが大事にしている哲学とは?
八木:電通内でデザインに関わっている人は多いので、ひと口に「これが電通の哲学です」というのは言えないんですけど、ただそう言っているだけだと指針も何もないので、今日は嫌われる覚悟で話したいと思います(笑)。
今回の講座テーマである「Dentsu Hands and Heads」にも関連するのですが、僕たち広告代理店がやっていることってコンサルだけではないし、デザインのみをやっているのでもない。まさに、手と頭がつながり、一緒に動いているというイメージなんです。僕らやブランドが頭で考えている“目には見えないもの”に、体験やパッケージデザインといった姿を与えていくことで、それが結果的にブランドとユーザーの接触点になると思うんです。そのことを大事にしている、というのは電通社内でも共通なんじゃないかなと考えています。
漠然と「未来をより良くしていく」という目標は掲げることはできると思いますが、僕らがやっていることは、もう少しフォーカスを絞って、ブランドのオリジンや性質をアセットとして引き出して、今の時代につなぎ直すこと。決して顔をすげ替えるようなことではなく、ブランドの運命をデザインしていくような気持ちでいます。歴史はそのままに、違う一歩を踏み出すためのクリエイティブだと思います。
電通グループでは、「CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)調査レポート」というものを毎年出しているのですが、日本を含む世界の企業のCMOがエージェンシーに求めていることは、単にオリエンに応えることだけじゃなくて、クリエイティブを使ってビジネスを変革することだと回答されています。僕らはグローバルエージェンシーでもあるから、そこは目指していきたいし、このチームではデザインの力でそこに向かっていくというのは大きな目標だと思っています。
━━具体的にどのようにしてブランドに姿を与えているのでしょうか?
八木:僕はグローバルのアワード審査にも携わっていますが、例えばあるアワードのアートディレクションカテゴリの出品作品は、10年前だとほとんどがプリント広告でした。だけど、去年参加してみたら、プリント広告は全然なくて、体験から映像など新しいメディアでのアートディレクションに様変わりしてましたね。
そういった意味でアートディレクションというのは、昔はある種フレームの中を埋めるスキームでした。今はブランドも競争力のある商品を作るだけじゃダメで、そのブランドが何を発信すべきかの提案が求められています。消費者も心が動かされるブランドを選ぶというか、選ぶ理由を探しているんじゃないかな。
アートというのは何なのかというのは悩んだ時期もあったんですけど、僕らはブランドのアートを代筆しているんだと考えると、アートディレクターってすごく面白い仕事だなと思います。
例えば、JRグループと一緒に作った「MY JAPAN RAILWAY」も、ある意味JRのアートだと思っていて。機能とか速さとか、人や物を届けるといったことはこれ以上発展しないじゃないですか。リニアモーターカーができたとしても、駅がものすごく増えるわけでもないし……。じゃあこれからの鉄道がどうあるべきかと考えると、個人個人が移動そのものを楽しめるということなんじゃないかなと考えたんです。そういうことが一つのJRの意思とかあるべき姿みたいなことかもしれない。
また、最近はニッカウヰスキーの仕事をしているんですけど、ウイスキーって暖炉の前に座ってグラスで飲んでいるイメージないですか?あとはハイボールのイメージ。だからみんな、意外とそれ以外のウイスキーの飲み方を知らなかったりする。本当はもっとウイスキーってその人ごとで楽しめるものだし、人種とか肩書きとか性別とか取っ払って、値段も関係なく自分の好きな味を味わうということは、豊かなことだと思うんです。そこから、「生きるを愉しむウイスキー」をテーマに設定し、イノベーティブなカクテルなどを愉しめる新しいウイスキー体験ができるBARプロジェクトを去年やりました。このプロジェクトも、アルコールのカルチャーを押し広げて、ウイスキーで人と関係性を作れる、という一つの姿を作れた例なんじゃないかなと思います。
これからは意外と「主観」が重要になっていく!?
━━これからの時代、クリエイティブに求められるスキルはどのようなものだと思いますか?
八木:もちろん圧倒的なデザインスキルはもちろんですが、意外と「主観」が求められているんじゃないかなと思っています。かつては「それはお前の主観だろ」とか言われて育ちましたし(笑)、主観は排除される風潮がありました。
もちろんデータも使いますが、重要なのはデータを見てどうしてその傾向になっているかを分析することですし、データを超えるジャンプって結局は個人の主観や、ブランド経営者の主観に姿を与えることで生まれるんだと思います。そうやって自分とブランドの主観を重ね合わせていくような、そういうスキルやマインドセットが必要になってくると思います。
日本の経営学者である野中郁次郎さんが、「相互主観」という言葉を使っているんですが、難しい言葉なんですけど、主観と主観を真剣にぶつけ合うことで、初めてものごとが言語化されて知識として使えるようになるんだと思います。みんなでブレストして、中途半端に解を出すのではなく、真剣勝負しないとできない。それを聞いて、僕たちがやっていることってそういうことやねん!と気づきがありましたね。
━━「Dentsu Hands and Heads」を通して、どんな学びを提供したいですか?
八木:今回、様々なカリキュラムを通して、クリエイティブを作る原理である「観察力」「洞察力」「定着力」を養うとともに、発想力をどのように生み出すのか、そしてそれをどのように応用していくのかを伝えていきたいと考えています。基礎があるからこそ、みんながついてくるし、ブランドの経営者の方とも話ができるようになります。また、他のメディアや部署とのコラボレーションスキルについても学んでいただけると思います。
名刺やロゴから、デジタル、ポスト、クラフト、空間デザイン……。細かいデザインから概念の大きなものまで、様々なデザインをしている講師がそろっているので、幅広い考え方を見ることができて面白いと思います。
講座が終わった後は、今の自分より視座の高い自分に気付けるんじゃないかなと思っています。その状態で今の仕事に向き合っていただくと、より良い方向性が見つかるんじゃないかと。そういう講座にしたいですね。
<Dentsu Hands and Heads 講座概要>
◯開講日:2025年3月25日(火)19:00~21:00
◯講義回数:全8回
◯開催形式:教室とオンラインを各回自由選択できるハイブリッド開催
◯詳細・お申込はこちらから
