通販・直営店舗での売上が7割
ファンケルは、化粧品やサプリメントをメイン商材とし、「美と健康」という領域でアパレルや食品などの事業も展開している。「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」という創業理念が社員全員に根付いている点が特徴的だと安藤氏は語る。
2024年3月期決算資料より、ファンケルの事業構造を見ると、販売チャネルは通販5割、直営店舗が2割とD2Cチャネルで売り上げの7割を占めている。地域別で見ると国内売上が9割となっており、中国をはじめとした諸外国の経済の影響を受けない点が強みとなっている。
世の中の化粧品EC化率は、4%程度から直近10年で9%に倍増。通販を強みとしているファンケルにとって、EC化率の上昇は喜ばしいことではあるものの、競合企業の増加、商品差別化の難しさ、広告単価の高騰など、競争環境は激化しているといえる。
また、人口減によるターゲットとなる母数の減少、情報量の拡大により、過去に比べ情報が届きにくくなっており、過去の“勝ちパターン”が通用しないことを課題として捉えているそうだ。
直営ならではの顧客とのつながりを活用
では、ファンケルの通販の特長は何か。まず1つ目に、直営モデルならではの顧客とのつながりを強みと捉えている。メルマガ、アプリ、LINE、自社メディア(ファンケル CLIP)、情報誌と複数の情報接点があるファンケルは、既存顧客の9割強が何らかの情報媒体に接触している状態にあり、顧客と強固な接点を持てている。
またLTVへの影響の一つとして、1日当たり約4万アクティブユーザーを持つアプリを挙げた。アプリがあることによって、アプリ登録のない顧客と比べ、高いLTVが実現できているという。また、先述の自社記事メディア(ファンケル CLIP)では常時800記事を公開しており、顧客の興味に合わせた記事を社内で作成。LTVの向上と共に、記事閲覧率も公開当初に比べ倍以上の閲覧数を実現している。
2つ目の特長は、多様な商品ラインナップと“長く深いお付き合い”を実現できている点だ。顧客との付き合いが長くなるにつれ、LTVが上昇し、併売が広がることで売り上げにも貢献。はじめは化粧品のみを購入していた顧客が、追加でサプリメントなどその他の商品を購入することで年々購入額が上昇している。
顧客単位でPLを算出し、価値を可視化
3つ目は、長期顧客による強固な顧客基盤を持っていることだ。特に付き合いの長い顧客は定着化し、売上貢献度も高い。そこでファンケルでは顧客単位でPLを算出し、顧客の価値を可視化することに取り組み始めた。顧客データとコストデータ、売上データを紐づけ、顧客理解を強化している。
また、顧客軸という点で進めているのが顧客指標の変革である。これまでは新規顧客と既存顧客、それぞれの購買単価、受注単価という視点から売上を分析していたが、顧客像がつかめないために具体的な次のアクションにつなげにくいという課題を抱えていた。そこで、「お客様エンゲージメント向上」につながる15の指標を主要なKPIに定め、オンライン・オフラインの行動を総合的に把握。「顧客を多面的にとらえ、顧客の解像度を上げる。そうやって顧客価値を上げていくことが、企業の成長に必要不可欠」と安藤氏は力説した。
顧客理解強化のために取り組むアプローチ
まず顧客を購買商品や購買傾向に沿って区切り、そのセグメントごとに施策を実施。一例として、単品購入の顧客へは併売を促す商品を案内、購入金額が減少している顧客に対してはご愛顧への感謝といったアプローチを行っている。
また、2025年4月からはメンバーズサービスを刷新。これまで年間購入金額に合わせてポイント付与率を変える手法をとってきたが、リニューアル後は購入がなくとも、「アプリ登録した」「カウンセリングを受けた」といった購入以外の行動でスコアが溜まるといった、購入に限らないアクションを重視したメンバーズサービスへとリニューアルする。
さらにオムニチャネルの強化については、有する実店舗を活用した顧客への価値提供も重要と考える。そこで通販と店舗を連動させ、チャネル併用を推進することでLTVを上げる取り組みに注力していく見込みだ。
「買う」という購買行動だけではなく、「つながる」「楽しんでもらう」「まず来てもらう」といった行動・参加・来訪も含めた設計に注力し、この2年間でLTVは約120%という成果を生み出すことができた。一方で、新規顧客の獲得は今後も一定の競争激化を見込む。比較的新しいチャネルであるECモールや、展開するサービスでの顧客獲得を目指し、「新規と既存のバランスを取りながら、両輪をまわしていく」と安藤氏。人口減少、競争激化、情報が届きづらいという環境変化は、各社の共通事項だ。だがファンケルでは顧客データを分析し、効果的にLTVを上げるところに光明を見出している。安藤氏は「多様なチャネル、持てるリソースを最大限に活用し、顧客価値を高めることが一層求められる時代となる。環境変化に対応し、新たな通販モデルを書き換えていきたい」と講演を締めくくった。
社内での浸透も難しかったKPIの変更
質疑応答では、まず「KPIを変えていく時の社内の反応や変化」という質問が提示された。それに対し安藤氏は、「過去の指標を活用しながらも、一定振り返ることが必要。固定された指標を見続けると、世の中の動きや自社の強みを活かす方法が見えづらくなる」と指摘。地道にKPI変更の必要性を説いていったという。また、KPI指標を変えていくことによりデータ分析も一定複雑化するため、データ構造の見直しや分析の深化を進めているという。
次の質問は「自社通販とECモールをどう統一的に見ていくのか」。これに対しファンケルではECモールも直営モデルとして運用している点を特長として挙げた。その上で「自社通販と外部通販のお客さまは育成スピードやLTVの差が大きい。自社とECそれぞれの施策結果やノウハウを共有し、意見交換することで顧客価値を最大化させている」と安藤氏は振り返った。