「フリーランスの生態系」を読み解く理由 ──成果を出す発注者は、“タイプ”で人を見ている

副業・兼業の解禁やオンラインでの仕事の一般化により、企業とフリーランス(個人事業主)が協業する機会は急速に増えています。クラウドサービスやSNSを通じて、専門性の高い人材とスピーディに繋がれるようになった一方で、「お願いしたけれど、なんだか思っていたのと違った」「スキルはあっても、プロジェクトにフィットしなかった」という声も少なくありません。

実際、ランサーズの「フリーランス実態調査2024」によると、2024年時点で日本のフリーランス人口は1,303万人に達し、10年前と比較して約39%増加しています。副業解禁の動きやコロナ禍を経てなお、働き方の多様化や生成AIの台頭なども影響し、フリーランスの市場は着実に拡大し続けています。

イメージ ランサーズ調査

海外と日本のフリーランス事情とその文化的背景

日本におけるフリーランスの数は年々増加していますが、その社会的立ち位置はまだ過渡期にあります。

欧米諸国では「ギグワーカー」(単発の仕事を請け負う働き手)や「インディペンデント・コントラクター」(独立した契約者として企業と対等に取引する専門家)として制度が整備されてきました。特にアメリカでは、フリーランスは「プロフェッショナル」としての評価を受けやすく、複数の案件を掛け持つことがキャリアアップの一環とされています。これは、もともと成果主義的な雇用文化や、個人のスキルや専門性を重視する社会的背景が根付いていたことも一因でしょう。アメリカをはじめとする欧米諸国は、移民の多さや職業流動性の高さもあり、個人がプロとして複数の仕事を担う文化が前提としてあります。

一方日本では、戦後の高度経済成長期(1950年代後半〜1970年代)に整備された終身雇用制度や年功序列の慣習がいまだ根強く、フリーランス=“社内のリソースでまかなえない不足を補う存在”とみなされがちです。そのため企業側も、主体性をもったプロフェッショナルとどう関われば良いか戸惑いを感じるケースが少なくありません。

日本における“雇用観”は、戦後の高度経済成長期に形成された終身雇用や年功序列制度を背景に、「正社員で長く勤めることが安定と信頼の証」とされてきました。この歴史的背景が、いまもなお“フリーランス=例外的な働き方であり、職業的に不安定”という先入観に影響していると言えるでしょう。

しかし、コロナ禍を経て働き方の多様化が進み、ようやく社会全体の認識も変わり始めています。2021年には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(内閣官房等)が策定され、2023年には「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が成立。取引の透明化や下請法に準じた保護など、法的な後ろ盾も少しずつ整いつつあります。

「選び方」のスキルが問われる時代の到来

こうした背景の中で、フリーランスとの協業をうまく機能させるには、個々のスキルや職種だけでなく、その人が「どんなスタイルで価値提供するのか」「どう関わるのが得意なのか」を見極める発注側の視点がますます重要になっていると感じます。

それはフリーランス側にとってはチャンスでもあり、同時に発注側にとっては「選び方」のスキルが問われる時代の到来を意味します。多くの場合、“人選”の基準が職種やスキルだけに偏っていることが、成果に対するズレや不満の原因になっています。

たとえば「デザイナー」と一口に言っても、世界観をビジュアルで表現するのが得意な人もいれば、ヒアリングから情報を引き出して端的に構成としてまとめるのが得意な人もいます。つまり、同じ職種であっても価値提供やそこに至るまでのキャッチアップの仕方がまったく異なるのです。

現場で見えてきた「6つのタイプ」

私はこれまで、個人事業主・フリーランスとして活動する方々をのべ500人以上直接支援してきました。単発のお悩み相談のみならず、半年〜1年にわたる伴走支援を通じて、サービス内容や集客営業等の課題解決だけでなく、その人自身の働き方やクライアントとの関係性のつくり方まで深く関わってきました。その中で見えてきたのが、「スキルや経験実績ではなく、関係性の築き方や価値の届け方によって、タイプが分かれる」ということです。

たとえば、熱量が高く、自身の世界観や価値観に共感してくれる人たちから応援されながらビジネスをつくっていく「応援共感型」の人がいます。彼らは、論理的な資料や提案よりも「誰が言うか」「どんな思いでやっているか」によってクライアントと信頼を築いていき、双方が共感することでビジネスが動くタイプです。一方で、相手のビジネスの裏側を支え、ディレクターやプロジェクトマネージャーのような動きで「チームで成果を出す」ことに長けた「ギルド型」の人もいます。このタイプの場合、実力や実績が定量的に表には出ないケースもありますが、仕組み化や調整力でその人の真価を発揮します。

「フリーランスの生態系・6タイプ」とは

この連載では、私が現場での観察と実践を通じて見出した「フリーランスの生態系・6タイプ」に基づき、フリーランスとの協業における”人選”のヒントをお伝えしていきます。分類は以下の通りです。

•応援共感型
•感性表現型
•コンテンツ教育型
•ギルド型
•インフルエンサー型
•ハイブリッド型
(複数の要素を持つ混成タイプ)

イメージ フリーランスの生態系図鑑6タイプ

それぞれのタイプに向いている仕事、発注時のポイント、誤解されやすい点などを具体的に紹介していく予定です。

ミスマッチを避けるために

実際、過去に「マーケティングが得意」と紹介されたデザイナーの方をプロジェクトにアサインした際、分析資料の作成や戦略設計を依頼したところ、実際は「感性表現型」で、ユーザーの感情に訴えるビジュアルコンテンツの制作に長けていて、そちらに集中してもらった方が圧倒的に成果が出たといったミスマッチがありました。どちらも過去実績やスキル面では求めるものを持っていて優秀であることに変わりはありませんが、「相手が何者か」を解像度高く見ていなかったことで、期待していた役割に対しては中途半端に終わってしまったのです。

この分類は、発注者のためだけのものではありません。フリーランス自身が「自分はどんな価値提供スタイルを持っているのか」を見つめ直すヒントにもなるはずです。そして、これからフリーランスになろうとしている人たちにとっては、働き方のリアルや多様性を知るガイドにもなるでしょう。

「誰と、どんなふうに働くか」が成果を大きく左右する時代。この連載が、より良い人選と、より良い協業のきっかけになりますよう、願っています。

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青野 まさみ(フリーランス研究家/マーケティングコンサルタント/風ひらく代表取締役)
青野 まさみ(フリーランス研究家/マーケティングコンサルタント/風ひらく代表取締役)

1983年福島県生まれ。サイバーエージェント、博報堂グループでデジタルプランナー、ITスタートアップでマーケ部門立ち上げ等を経て、現在は中小企業・個人企業家向けに、ブランド構築・集客&発信戦略を支援。これまで500人を超えるフリーランスと企業のマッチング支援も行う。株式会社風ひらく 代表取締役。著書に『あなたのお客様に刺さるネーミングのヒント』(ぱる出版)。

青野 まさみ(フリーランス研究家/マーケティングコンサルタント/風ひらく代表取締役)

1983年福島県生まれ。サイバーエージェント、博報堂グループでデジタルプランナー、ITスタートアップでマーケ部門立ち上げ等を経て、現在は中小企業・個人企業家向けに、ブランド構築・集客&発信戦略を支援。これまで500人を超えるフリーランスと企業のマッチング支援も行う。株式会社風ひらく 代表取締役。著書に『あなたのお客様に刺さるネーミングのヒント』(ぱる出版)。

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