「モビリティ広告」が都心の風景を変えた
印象を「強く残す」ことに力を発揮する媒体
渋谷スクランブル交差点の周辺では、1回の信号で1000人以上の人が信号待ちをしています。その人びとの目の前を通り過ぎる大型トラックを使った広告は「アドトラック」と呼ばれる広告媒体です。都市部では、以前から見かけるもので、車体の側面全体を用いた巨大ポスターと何度も繰り返されるフレーズによって、信号待ちのわずかな時間でも強く印象に残ります。その認知効果は老若男女を問わず絶大で、子どもがすぐに覚えて口ずさむほどです。これまでは「ナイトワーク系求人」などのイメージがつきまとい、注目のITベンチャー、誰もが知る大手企業、世界的に有名なIPなどに広告出稿先として選ばれることはほとんどありませんでした。
この「アドトラック」に、2024年を境にした大きな変化が起きています。「アドトラック」には、広告媒体として運用面にグレーな部分がありました。東京都屋外広告物条例による広告表示への規制は、以前から「アドトラック」も対象にされていましたが、都外ナンバーの車両は対象外だったのです。都心で見かける「アドトラック」の多くは規制を受けない都外ナンバーのものが運用されてきました。東京都は、規制を免れていたために「派手な色遣いや過度な発光を伴う車両が多数走行し、都市景観の悪化や交通環境への影響を及ぼしている」(東京都都市整備局)とし、2024年6月から都外ナンバーのトラックにも同条例の規制を適用しました。これにより、今までの広告内容では運用が難しくなる車両が増えたのです。
私は以前から「アドトラック」に注目していました。それは、広告主として、また広告代理店として、その絶大な認知効果を認めていたからです。広告主に選ばれないネガティブな印象を払拭し、公的な規制をクリアした「正しく運用されている広告媒体」であれば、事業として伸びる可能性を感じていたのです。
この規制強化はむしろチャンスだと思い、自身の新規事業として参入を決めました。今までの「アドトラック」ではなく、誰もが安心して広告が出稿できる「モビリティ広告」として再定義し、世の中にお披露目いたしました。
大手企業にも認められ始めた「モビリティ広告」の価値
「アドトラック」と「モビリティ広告」の違いは、次のような点です。
● 強力な認知効果はそのままに、事前に警察署へ広告宣伝車としての申請を行い、道路交通法や東京都屋外広告物条例を遵守する。
● ドライバーが走行せずにサボってしまう問題があったところを、GPSを搭載して実動確認することで確実な走行を保証する。
● 走行ルートの人流データを基に、おおよそのリーチ数を確認可能にする。
● 音響やデザインなどクリエイティブ面での品質を向上する。
そして何より重視したのは、ネガティブなイメージを払拭することでした。「アドトラック」の名称を使わず、右記を満たしているものを全く新しいオフラインメディアとして再定義し、「モビリティ広告」の名称で展開しました。
私がこの業界に参入したことで、媒体が正しく運用され、同時に多くの大手広告主を連れてきたことにより、もともとのネガティブな印象が少しずつ変化してきていると感じています。象徴的なのは、街で「モビリティ広告」を見た一般の人びとが、XやInstagramにトラックの画像や動画を、キャッチーなフレーズや音楽も印象的だったと、どんどん投稿してくれるようになったことです。その中には、ふとしたXへの投稿で1000万回表示を超えたものもありました。オフライン広告である「モビリティ広告」の存在が、Web上で「バズる」ほどの一大現象が起きているのです。
広告主の皆さまからは、顧客のターゲット層からの「見た」との評判、問い合わせの数字、そして売上としての手応えに「認知効果がここまであるのか」とご満足の評価をいただいています。結果として「モビリティ広告」の事業は、開始から1年を待たずに垂直で立ち上がり、需要は拡大し続けています。
私がチャンスと捉えた規制強化により、旧来の「アドトラック」はネガティブな印象のまま台数を減らしました。同時期に、私たちが生み出した「モビリティ広告」は急速に需要が拡大し、トラックの台数も増えていきました。その結果、2024年から2025年のわずか1年間で、両者の入れ替わりが起きたのです。
私は、この事業に取り組む際に、認知効果の高さという媒体価値だけでなく、「街の風景の一部」としてネガティブな印象を残すマイナスの側面にも注目しました。日本観光の人気スポットである渋谷スクランブル交差点では、自撮りを楽しむ外国人観光客や、「アドトラック」のCMのフレーズを口ずさむ子どもたちがいます。彼らに影響を与える広告が、決して誇らしいポジティブなものではないことを、広告に携わってきた者として、残念に思っていたのです。
そして、「モビリティ広告」が、日本を代表する企業や、ゲームやアニメなど世界に知られる日本の有名IPの広告を乗せて走ることで、街の風景をより良いものにしたい。そうした未来を事業の展望の1つとして描いたのです。
「モビリティ広告」は、ナイトワークの求人広告などは扱いません。多種多様な企業から「これまでにない認知効果のある広告媒体」として認められたことで、注目のITベンチャーから、誰もが知る大手企業、世界的に有名なIP、さらには有名芸能人を起用した広告主のトラックが、渋谷をはじめ都心の街を走るようになりました。
今、実際に街の風景は変わり始めています。この風景の変化も、私にとっては、広告主や広告を見た方たちと共有したい事業の成果、手応えの1つなのです。
『オフライン広告革命 GAFAのいない世界から広告を変えていく』 (土井健著)
定価:2,310円
これからの事業の成功にはオフライン広告の活用が不可欠
「モビリティ広告」は半年先まで「満稿状態」に
私は、2024年に「モビリティ広告」をはじめとするさまざまなオフライン広告を取り扱う代理店としてohpner(オープナー)株式会社を起業しました。ohpnerでは、独自のオフラインメディアの開発にも力を入れています。私には、インターネット広告に携わってき12年間に及ぶ経験、その後の5年間にわたるオフライン広告全般との関わりがあり、そこから多くの実績と知見を得てきました。それらを活かすことで誕生したのが、この「モビリティ広告」です。
広告主である経営者の方々から高い評価をいただき、継続出稿や新規出稿のご希望が次々と寄せられ、運用開始から1年を待たずして、すでに半年先まで満稿状態が続いています。私は、こうした手応えから「モビリティ広告」はオフライン広告における1つの発明になったと自負しています。
前著『テレビCMの逆襲』(2023年)では、オフライン広告の代表格であるテレビCMが事業成長に資するものであると提言しました。当時、私自身が携わっていた事業「運用型テレビCM」を例に、その実際と効果について取り上げています。インターネット広告の出稿費がテレビCMを超えたことから、「テレビCMはオワコン」といった評価があった中、認知効果においては真逆の価値がテレビCMにあることを明らかにしました。
また、テレビCM以外のオフライン広告にも同様の可能性があることを、私自身の事業での実践例を通じて紹介しました。その1つとして「アドトラック」も取り上げています。
本書は「アドトラック」の認知効果に着目していた私が「モビリティ広告」として再定義し、新規事業として垂直立ち上げに成功した事実を大きく取り上げますが、前著の続編ではありません。前著からわずか2年で新著の出版を決めたのは、オフライン広告の領域で大きな変化が起き、そのスピードがますます加速していることから、「現実は前著で展望した未来をすでに追い越している」との実感を持ったからです。過去の話ではなく、今と未来の話をすることが必要だと考えました。
日本でいちばんオフライン広告を知る者
本書は、事業成長を目指す経営者の方々を主な読者に想定しています。また、新規事業を担う責任者の方も含まれます。読者の皆さまにお伝えしたいのは、大きく分けて次の2つです。
●企業の事業成長に効果的なオフライン広告の活用法
●連続して新規事業の垂直立ち上げを成功させる考え方とコツ
この2軸が1冊の中で成立する理由は、著者である私が、新規事業に取り組んでいく上で、オフライン広告を活用し、事実として新規事業を成功に導いてきたからです。オフライン広告を出稿し、認知効果を体感値で知る広告主の立場として。数多くの広告主にマーケティング支援を行う、オフライン広告の広告代理店として新たなオフライン広告の媒体を発明し、提供していく媒体社として。あらゆる立場でオフライン広告を活用し、新規事業立ち上げに携わってきたからこそ、この2つのテーマを同時に語ることができるのです。
オフライン広告への興味関心が広がっていることは、このテーマでのセミナー講師、インタビューの依頼が増えていることでも強く実感しています。また、その際に、これまでの私の経歴を知って、「なぜ、何度も事業を成功させられるのですか?」と聞かれることも増えました。事実として、私は、株式会社fluctの2代目代表として売上を20数億円程度から114億円へ拡大し、株式会社テレシーの初代代表として3期目で売上78億円に成長させました。さらに、新たに立ち上げたohpnerの創業者として、1年足らずで「モビリティ広告」を世に根付かせることができました。アドテクノロジーでの事業開発、運用型テレビCM、新たなオフラインメディア開発など、多くの事業で垂直立ち上げを実現し、連続して成功を収めてきました。しかし、その「連続した垂直立ち上げ」に、特別な何かがあるわけではないのです。
「なぜ、何度も事業を成功させられるのですか?」の問いに、カリスマ経営者のような金言の数々で答えることができれば良いのですが、私はどちらかと言えば凡人を自認しています。時価総額を「兆」の桁で語るようなビジョンを持ったこともありません。これまでも、そして今現在も、新たに複数の新規事業開発に取り組んでいますが、本当の意味でこれまでにない「新しい」を生み出すスタートアップのような起業家、経営者ではないというのが、私の自分自身の等身大の姿です。けれども、そんな凡人でも、ある程度の事業はつくってこれました。運に恵まれたこと、周りの人に恵まれたこと、奇跡が起きたこと、たくさんの偶然の結果、今の連続成功につながっていると思っております。一方で、常に自分なりに考え、実践してきたこともいくばくかはあります。成功も失敗も玉石混交ではありますが、その中から、汎用的にどなたでも使えるものを選び、本書でお伝えしたいと思います。少しでも参考にしていただき、いろいろな方々の事業成長につながれば幸いです。
(続きは、ぜひ本書 にて)
目次
序章 今、都心を席巻する「モビリティ広告」にナショナルクライアントが注目する理由
「モビリティ広告」が都心の風景を変えた
印象を「強く残す」ことに力を発揮する媒体/大手企業にも認められ始めた「モビリティ広告」の価値
これからの事業の成功にはオフライン広告の活用が不可欠
「モビリティ広告」は半年先まで「満稿状態」に/日本でいちばんオフライン広告を知る者/凡人が革命を起こす手堅い手法/オフライン広告の活用で事業の垂直立ち上げに成功した経営者の方々との対談/新たな挑戦のススメーラジオから新たなビジネスを生み出す
第1章 GAFAがいない世界で勝つ「オフライン広告革命」
オフライン広告が爆発的な認知の獲得を可能にする
成長を目指すならオフライン広告は避けては通れない/インターネット広告だけを続けているとやがて限界が来る/オフライン広告を使って︑潜在層から新たな見込み客を発見する/サービス開始1年で急激成長した「テレシー」も、認知はオフライン広告を活用/オフライン広告で見込み客をつくり、オンラインで確実に顧客化する
AI時代に思いがけない「偶然の出会い」をもたらすオフライン広告
ネット広告の世界でGAFAの壁にぶつかった/GAFAが参入しないテレビCMの世界、そこに勝機があった/効果測定ではなく、事業成長につながる効果実感で証明する/AIが進化するほど高まる「偶然の出会い」(セレンディピティ)の価値
たくさんのオフライン広告を見てきて分かったこと
テレビCMの長期的な認知獲得効果を実感/タクシー広告の経営層への影響力を確認/ 「アドトラック」にテスト出稿し、そのポテンシャルに開眼/村を出て、村々を渡り、ビジネスを生み出す/
【対談】ウィルゲート 吉岡 諒氏× 土井 健
第2章 「モビリティ広告」の発明―ナショナルクライアントが認めた価値の創造
マーケティングの世界の常識と自分の商いの感覚を「アドトラック」の世界に持ち込んだら
明らかに強い媒体なのに︑誰も注目していなかった/異なるビジネス領域から渡ってきた人間だから分かる価値がある/ 「カオス」だった「アドトラック」事業をすべて整備した
成功体験を「水平展開」し、別の領域で新たな事業を起こしていく
運用型テレビCMでも、「モビリティ広告」でもやったことは同じ/リーダー自らが先陣を切って、他の領域に渡ろう/ 「モビリティ広告」の言葉に込めた未来へのビジョン/
【対談】プログリット 岡田 祥吾氏× 土井 健
第3章 進化し続ける「タクシー広告」の現在と未来
広告主、代理店、媒体社、視聴者、広告出演者の5つの視点で見たタクシー広告の価値
常に進化を続ける注目のオフライン広告「タクシー広告」/「タクシー広告を出稿している会社なら安心」と思われるようになった/オフライン広告の活用で、コモディティ化、横並び化から抜け出す
【対談】GO 中島 宏氏× 土井 健
第4章 新たな体験価値を生むオフライン広告の広がり
さまざまな領域で生まれ拡大するオフライン広告
玉石混交の時代を迎えたオフライン広告市場/トップ富裕層が隙間時間に見る「ヘリコプター広告」/ohpnerが発見し続ける新たなオフライン広告の可能性「バス停広告」「ポスティング広告」
【対談】GRAND 羅 悠鴻氏× 土井 健
第5章 ラジオへの挑戦 ―新たな事業立ち上げへ
なぜいまラジオに注目するのか?
ラジオの可能性/著名人も「ラジオになら」と出演してくれる
ラジオを新たなオフライン広告媒体として生まれ変わらせるには
ラジオのビジネスモデルを変える/新規事業に「新」はなくてもいい
終章 新規事業のつくり方、垂直立ち上げの成功法則
うまくいく新規事業には、共通した考え方がある
成功体験と失敗体験を積み重ねて学んだこと/自分が「勝てる」「獲れる」市場かを見極める/もっともらしいニーズに踊らされず、本質を見極める/事業の本質とドアノックは別でいい/新規事業に必要なのは「フィーリング」の合う優秀な違う村の仲間/同じ村にとどまらずに︑村をまたぐ人になる
新規事業の成功確率を高めるためにやっていること
オセロの角を取り、空気をつくる/「守破離」:成功事例の真似からスタートし、独自の勝ち筋を生み出す/「おもしろそうだ」と思ったら迷わずに突っ込む/
新規事業は「まず、やる」からスタートする
PDCAを「D」から始めるDCAPに変える/新規事業をプロダクト開発から始めない/新たな領域「美容M&A」への挑戦


『オフライン広告革命 GAFAのいない世界から広告を変えていく』
土井健著/定価:2,310円
オフライン広告の世界で事業の連続垂直立ち上げに成功した著者の軌跡と戦略を公開。広告ビジネスに関わる方はもちろん、経営者、新規事業担当者など幅広いビジネスパーソンにむけた一冊。
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