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「地味だと言われるけれど、色に依存したくない」東京五輪エンブレムのデザイン思想

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異例の決定プロセスを経て東京2020大会のエンブレムに選ばれた「市松」エンブレム。作者は、幾何学的なアプローチから紋様の制作を行うアーティストの野老朝雄さんだ。発表時から様々な人がこのエンブレムをメイキングを分析し、展開案を予想しているが、作者自身の頭の中にはどんなビジョンが存在しているのか。野老さんに語ってもらった。
(本記事は、ブレーン7月号からの転載です)

野老朝雄(ところ・あさお)
アーティスト

1969年東京生まれ。1992年東京造形大学卒業。建築を学び、江頭慎氏に師事。2001年9月11日より独学にて紋様の制作を始める。作家活動のほか、ファッションブランドや建築物のファザードパターンなどを手がける。最近の主な仕事に、BAOBAO ISSEY MIYAKE INCとのコラボレーション、三菱地所設計「大名古屋ビルヂング」下層部ファサードガラスパターンなど。

なぜ五輪エンブレムを「単色」にしたのか

「エンブレムの歴史の中で『句読点』みたいなものになるかな、と思っているんです。なんでこの人は五輪なのに単色にしたんだろう、などと思われるんじゃないかって」と野老朝雄さんは話す。そのくらい、過去のエンブレムの中でも“異色のデザイン”だという自覚がある。「地味だとも言われるけれど、色に依存したくないんです。他の可能性を捨てたくない。色を捨てることで形が浮かびあがる、といったことがあればいいと思っています」。

野老さんは、定規やコンパスといったシンプルな道具を使って紋と紋様を制作してきた「アーティスト」である。2001年の9.11テロをきっかけに、「つなげる」をテーマに独学で紋様の制作を開始した。以来、美術、建築、デザインの境界領域で活動を続けてきた。

色に依存しないという考えが生まれたのは、こうしたバックグランウンドも関係しているのだろう。野老さんの頭の中には、既にこの紋様を使ったさまざまな立体的なアイデアが駆け巡っているようだ。「例えば、この紋様がビーチサンダルの裏に彫ってあったらいいと思っているんですよ。そのサンダルで、みんなで海岸を歩き回ったら楽しいですよね。金属で作っても、キラキラと光を反射してきれいです。エンブレムを小さくすればジュエリーになります。金属やガラスはそれ自体は単色でも、光を受けるとキラキラと光りますよね。そういう、光を表現しているような意識があります。それに、市松模様というのは別の呼び方で言えば石畳ですから、そういう展開も当然できる。小さなものからランドスケープまで、地続きにアイデアが出せるんじゃないかと思っています」。

既にさまざまな人が指摘しているが、この2つのエンブレムは、オリンピックとパラリンピックのエンブレムが全く同一のパーツから構成されている。パーツを組み替えることで、もう一つのエンブレムが姿を現す。野老さんの頭の中には、この2つのエンブレムが動的な姿で存在しているようだ。「単純なひし形の応用ですから、いくらでも可能性があります。このエンブレムを敷き詰めれば、波みたいな形が広ります。僕が作ったのは、この紋様の“DNA”のようなもの。2つのエンブレムは、その姿を一瞬止めて取り出したもの、と言えるかもしれません」。

エンブレムの英語名は「Harmonized(調和する)chequered emblem」だが、当初は「Formative(形成する)」で考えていたという。組体操のようにばらばらだったものが一つにつながるイメージだ。この話からも、コンセプト自体に動きが内包されているとわかる。「例えば、このエンブレムを最前線で活躍する天才プログラマに動かしてもらえたら?そう思うと、わくわくします」。

人に可能性を広げてもらうことが喜び。そう語る野老さんの姿勢はどこまでもオープンだ。

東京2020エンブレム。形の異なる3つの四角形を45点用い、組み替えることで、各エンブレムの形状をなす。どちらも一見シンメトリー(対称)に見えるが、オリンピックエンブレムの方は点対称(120度回転すると重なる図形)になっている。

次ページ 「このエンブレムは「サイバーパンク」だと思っている」へ続く