世界見据え競争力発掘を――中村伊知哉・慶大教授に聞く

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2011年のメディア・広告界を取り巻く環境変化は、デジタル化やグローバル化の流れの中でさらに加速していくことは間違いない。変革期の渦中にある今年、コンテンツ産業やメディア、広告はどう変わり、どう先手を打つべきか。メディア政策に詳しい中村伊知哉・慶大教授に聞いた。(以下インタビュー)

デバイス環境は新しいステージへ

テレビ、パソコン、携帯に次ぐ、新しいデバイスの波が来たことが、2010年の象徴的な出来事だったといえる。スマートフォンや電子書籍リーダー、タッチパネルPC、デジタルサイネージなど多様な端末が出てきた。2011年はこれらが本格的に新しいステージに入るだろう。

ソーシャルメディアが根付いた年でもあった。フェースブックやツイッター、ミクシィ、モバゲー、グリー、ニコニコ動画などの様々なサービスが注目され、そこに大きなビジネスのステージがあることが明らかになった。

これらデジタルを取り巻く領域は欧米勢に主導権を握られているとも言われるが、悲観的な見方はしていない。端末は、日本やアジアのメーカーが本気で取り組めばもっと良いものができるだろうし、サービスやコンテンツもより面白いものができる。かつての自動車や家電もそうだが、今後さらに様々なものが発売され、良いものが残っていくはずだ。

日本か他国か、という軸さえあいまいなものになっていくだろう。市場を国内でとらえると、規模が小さくもはや世界市場で競争力を持たない。当初から世界を踏まえ、世界中の優れた企業と組みながらサービスをどう開発していくかが鍵となる。

コンテンツ海外展開、韓国の施策に学べ

世界市場を踏まえた展開では、昨年ヒットした韓国のK―POPがヒントになりそうだ。当初から海外市場を踏まえ、音楽グループのメンバーに外国の言葉が話せる人を入れておくなどのプロデュースが当たった。韓国はコンテンツの海外展開にあたって、強みのある分野に投資を集中化している。一方日本はそこの戦略が明確でない。見習うべき点は多い。

コンテンツの海外展開には戦略が必要だ。政府も補助金を付けて産業界を支援するような従来型の施策では難しい。海賊版対策の働きかけなど外交面や、人材育成など国ならではの施策を積極的に進めるべきだ。海外展開のターゲットとなる国を定め、そこでコンテンツの共同制作ができるのかを打診する。そこに政府や政治家がバックアップするような動きが求められる。

海外でメディアを持ち、そこに日本発のコンテンツを流すような取り組みも有効だ。インターネットでも衛星チャンネルでも良いが、海外でインフラを押さえることで集中的にアピールすることができる。ファンドをつくったり、出資企業を支援するなど方法はいくつもある。海外政策を明確に示すときがきている。

宣伝戦略の定石がゼロベースに

企業に目を移すと、マーケティングや広告戦略の多様化が進んでいると感じている。テレビCM一辺倒だった自動車メーカーが、自社サイトや直販店の店頭に投資を集中させたり、ある日用品メーカーは流通対策強化を明確にし、小売店にいかに情報を届けるかに専念している。これらの背景には、やはりメディア環境の変化があるだろう。テレビや新聞など4マス中心の時代から、ブロードバンドやスマートフォン、サイネージといった多様なメディアの登場の過程で、これまでの定石がゼロベースに戻ってしまった感覚すらある。

広告会社にとっても、デジタル化やソーシャル化、またグローバル化などの流れは不可逆的なもので、既存の資産をいかに守るかといった議論はもはや意味がない。新しい収益モデルを開発したり、次なる競争力を見つけていく方向にシフトすべきだ。

例えばラジオのIPサイマル放送が始まり、東京・大阪ではインターネットを通じて番組を聴くことができるようになったが、反応が良く新たな聴取者層の開拓に成功した。通信と放送の融合はもう20年も前から議論されてきたが、ここにきてドライブがかかり始めた。こうしたビジネスチャンスはほかにもあるはずだ。

複合的にとらえた収益モデル探せ

ネットの普及でコンテンツにお金を払わなくなったと言われるが、通信費などコミュニケーションにお金を払っていたり、ライブのために電車賃を払って遠くまで出掛けたりする。CDが売れなくなった音楽業界では、グッズやライブで稼ぐなど、コンテンツを軸にそれ以外による収益モデルを確立させようとしている。お金が実際にどこで動いているかを見極め、複合的な動きでビジネスを成り立たせる考え方も必要だろう。

広告媒体としても注目されるデジタルサイネージは、店頭など販促の現場だけでなく、学校や医療の現場でも普及が進んでいる。これらの原資は学費だったり、医療費だったりする。それらの市場は6兆円の広告市場よりもはるかに大きい。こうした領域でビジネスを拡大させることもできるはずだ。

米国で最近、日本の菓子が一部でブームだという。菓子がおいしいことに加え、パッケージにキャラクターが描かれていたりするのが新鮮で受けているそうだ。ものづくり力とコンテンツ力の組み合わせこそ、日本企業の次の競争力があるように考えている。(談)

中村伊知哉(なかむら・いちや)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授

1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当。退官後渡米し、98年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て、06年から慶應義塾大教授。政府の知的財産戦略本部などで委員を務めるほか、融合研究所代表理事、デジタルサイネージコンソーシアム理事長なども兼務。京大経済卒。49歳。

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