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【中国で勝つマーケティング】まずは先入観を捨ててください

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中国への進出や本格的なビジネス展開を考える読者を対象に、『宣伝会議』(毎月1日発売号)では中国市場に向き合うコツを紹介する連載「中国で勝つマーケティング」を掲載しています。日中間でビジネス・コンサルティングを手がける大西正也氏(チャイナ・コンシェルジュ代表取締役社長)が分かりやすく解説します。
※本記事は、雑誌『宣伝会議』2011年11月1日号(連載1回目)に掲載されたものです。

大西正也(チャイナ・コンシェルジュ代表取締役社長)

上海・久光周辺

上海・久光周辺の古い住宅街。すぐ近くにオフィスやホテル群が立ち並ぶ

まず、連載を始めるにあたってお断りしなければなりません。

これから私が書くことは、私が住んでいた地域やその周辺で起きている事実であり、その狭い狭い経験と知識から書くものです。中国の変化はめまぐるしく、そのエリアの発展によって、状況はドンドン変わっています。また、少し離れた都市、私の知っている以外の人達では、まったく違った意識・背景の方もおられるかと思います。それもまた事実であり「100%当てはまる中国人像」や、「どこにでも通用する中国マーケット像」を書ける自信がないことをご了承ください(その理由は、最後まで読んでいただければわかっていただけることでしょう)。

「平均値」を知っても何もつかめない

「中国人の月給って平均2~3万円なんでしょ? どうして日本に来れるの?」
「中国人の初任給って、いくらくらい?」

日本人に多い「一億総中流思想」の延長線上にある「中国人ってこうなんでしょ?」という考え方からこういう質問が来るのだと思います。

ご存じの通り中国は広く、人口が多く、地域、職業、地域、年代によって収入や暮らしぶりには大きな差がある。その差は、日本国内とは比較になりません。

そんなことはわかっているつもりでも、やはり先述のような質問をいつも受けます。

日本であれば、例えば『ちゃんと朝から晩まで働いている25歳の男性の月給』は、恐らく東大卒のキャリア国家公務員も、コンビニで深夜に働いているフリーターも20~60万円くらいの間に入るのではないでしょうか。その差、約2~3倍。それが中国では、1万円程度から50万円程度まで、50倍もの差が開くことが珍しくありません。

「初任給の平均」という言葉ひとつとっても、どの省の、どんな業種の、どんな会社のどんな職種の人の初任給かによって、日本とは比べものにならないくらい差が開くのです。

平均の数字を見てビジネスの可能性を判断するのは危険。統計上で小さなシェアでも巨大なマーケットであり、ビジネス(特にスモールビジネスの立ち上げ)では、平均値ではなく個別ターゲットでの分析が大切だ、ということに十分に注意することを忘れてはいけません。

職業、学歴、地域……格差の要因はさまざま

中国の一般的な考え方では、職業に貴賎上下の差が「ある」ようです。

特にサービス業は見下されていることが多く、接客業などでは上位大学の成績優秀者を採用することは非常に難しいのが現状。結果的に、地方出身の学歴の低い人を採用せざるを得ません。事実、北京の地元の人達が行くあるレストランでは、地方出身者をレストランの店内に泊まりこみで雇用。月給は1000元前後(約1万2000円)です。シャワーは、店内トイレの便器をまたいで浴びることも珍しくありません。

逆に、競争の激しいIT系の職種、しかも英語や日本語などの外国語に堪能な人たちは、沿岸部に進出してきた外資系企業などは獲得に躍起になっていますから、初任給もうなぎのぼりに上がっています。

ある企業では、月給3万元(約36万円)でオファーしても採用できない、とこぼしています。まして、就職して2、3年経った経験者は、5万元(約60万円)以上で引っ張り合いになることもよくあります。

経済格差に不満がくすぶる、というニュースも日本では聞かれますし、無くもないのでしょうが、彼らは慣れたものです。同級生の集まりでも「あいつは○○社でガッポリ給料をもらっているんだよ」と平気で全額払わせます。払う方も当たり前のように、みんなの分を支払います。何十倍も差があることを、お互い知っているのです。

1年で街が様変わり!? 流行を追うのもひと苦労

経済成長も早いですが、ハード(インフラ)の変化も激しいことを忘れてはいけません。

私が上海に住んでいた頃には、地下鉄は2号線までしかありませんでした。それが現在はなんとたった7年で14号線までできています。日本でバブル前にできた二子玉川のような、住宅と大きなショッピングモールが併設された「街」が1年単位でドンドンできています。

日本では、私が学生の頃から「表参道はおしゃれな大人の街」「竹下通りは地方の中高生が集まるところ」であり、20年経った今もおおかたそのような位置付けだと思いますが、上海や北京では、あるとき急に松戸が表参道のような「オシャレな街」になったり、鶴見が「欧米人が集うイタリアン・カフェの並ぶ通り」になっている、なんてイメージです。

「若者の流行ファッションを見るなら○○」とか「お金持ちが住むのは××」などという考え方を、3カ月単位くらいで(それでも長過ぎるかもしれません)アップデートしなければ、流行はつかめない。2年前に駐在していた人に「上海では、どのお店がおいしいの?」なんて聞くことすら無駄だと思います。

変化の少ない日本にいながら、そんな変化の激しい急成長する中国を「理解できない」ということを知ることが、中国マーケティングの第一歩だと声を大にしてお伝えしておきたいと思います。


おおにし・まさや
リクルートを経て中国在住12年、広告会社を北京・上海・大連・香港に創業し17年。現在東京を本拠地に、中国・香港の富裕層向けインバウンド事業に携わる。「宣伝会議」の中国ビジネス関連講座の講師も務める。北海道情報システムWGメンバー、沖縄国際観光戦略モデル事業、成田空港成長戦略会議などに従事。