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百々 新〜クリエイティブの視点 VOL.10

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6月22日から表参道のスパイラルガーデンで開催される「脳よだれ展」は、博報堂プロダクツのフォトグラファーと博報堂のアートディレクターがペアを組み、同じテーマのもと作品を発表する。このプロジェクトリーダーを務めるのは、フォトグラファー百々新さんだ。

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「脳よだれ」展出品作品「BIRTH」

日々“写真”という打席に立ち続ける

博報堂プロダクツのフォトグラファーと博報堂のADがタッグを組む写真展は、今年で2回目。今回のテーマは、タイトルの「脳よだれ」。つまり「シズル」である。

「頭で考えるのではなく、見た瞬間に身体のどこかが反応する」写真を目指した。「梅干しを見ると、日本人はよだれが出る。そういう現象が起こる写真とはどんなものなのか。それぞれのチームがロジックも含めて考えていきました。そしてもう一つ、これは人が見た瞬間に理解できる写真が本当に面白いのか、ということへの挑戦でもあるのです。改めて写真というものをどう考え、どうつくりあげるのかというプロセスも含めた実験ですね」。

同じテーマでも、その表現はチームによってさまざま。百々×AD 矢後直規チームは生命が生まれる瞬間をテーマに、伊豆大島・三原山の裏砂漠で創作ダンスを撮影。白と黒の男女の舞いの目撃で、まるで細胞が生まれ、分裂していく誕生の様子をカメラでとらえている。

大阪写真界の重鎮でもある百々俊二さんを父に持つ百々さんにとって、写真の道に進むことに迷いはなかった。「でも、大阪芸術大学に入学後は軟式野球部に入り、野球三昧の毎日でした(笑)」。

2年生になる春に友人と船で上海に行ったことがきっかけとなり、百々さんの写真人生が動き始める。「当時の上海は古いものを壊して新しい街づくりが始まったとき。大きく変わろうとする街のなかで、期待と不安にうごめく人間にはなんとも言えぬパワーがありました。そこで受けたショックは大きく、なぜ自分は写真を撮るのかと考えさせられました」。

以降、本格的に写真に取り組み、上海、大阪などの街で、そこに住む人間のありようを撮り続けている。

学生時代に「コニカ新しい写真家登場」でグランプリを受賞し、個展を開いたことがきっかけとなり、博報堂フォトクリエイティブ(現博報堂プロダクツ)に入社した。

これまでに3冊の写真集を刊行し、第38回木村伊兵衛賞を受賞。現在は広告写真をベースに自身の作品も発表し続けている。

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(左)京阪電鉄・ひらかたパーク ポスター
(中)アサヒ飲料・カルピスウォーターポスター
(右)写真集『対岸』

「広告、自分の作品ということに関わらず、常に打席に立ち続けなくては、と思っています。僕の場合、写真を撮れないことが何よりもしんどい。例え1枚でも2枚でも写真を撮ることができれば、自分がひとつずつ進んでいるような気がするんです」。

昨年、河瀬直美監督映画「あん」で初めて映画のスチールを撮ったことを機に、これまでに自分がやったことのない仕事への意欲が高まっている。「映画の世界を垣間見て、物語をビジュアルにつくりこんでいく面白さを知りました。機会があれば、自分で小説を書いて、本屋大賞を獲って映画にできたら…。そんな夢を常に持ちながら、日々写真を撮っていけたらと思っています」。

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どど・あらた

1974年大阪府生まれ。奈良県広陵町育ち。95年写真展「上海新世紀計画」開催。同展でコニカ新しい写真家登場グランプリ受賞。97年大阪芸術大学写真学科卒業。98年博報堂フォトクリエイティブ(現博報堂プロダク
ツ)入社。写真集「上海の流儀」(Mole出版)で、2000年日本写真協会新人賞受賞。04年NY ADC審査員特別賞、09年APA広告特選賞他。12年写真集「対岸」(赤々舎)で第38回木村伊兵衛写真賞受賞。