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ビジネスパーソンは、新聞と同じくらい雑誌を読んだほうがいい

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雑誌コンテンツの価値が改めて評価されている、そんな実態をまとめた『雑誌広告2.0』の発売を記念し、雑誌をリサーチにフル活用しているという『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』著者の菅原大介氏をインタビュー。ビジネスパーソンが、雑誌を読んだほうがいい理由とは?

—菅原さんは、ユーザーのイメージづくりやデータを分析する時に、雑誌を参考にされているそうですね。

菅原:僕は調査会社を経て、事業会社に移り、今はリサーチデータをどうビジネスに活かすかという立場にいます。そこで気づいたのが、事業会社は、もっとリサーチを使いこなせるはずだ、ということ。リサーチの使い方や組み合わせ方によって、サービスや商品にもっと活かせるのに、まだ十分でないのが残念で。それでリサーチ活用のノウハウをまとめた本を書いたのですが、その中に、「雑誌の活用法」という項目を加えました。

もともと雑誌は好きでよく読んでいましたが、ビジネスを意識して読むようになったきっかけは、今所属している会社で、新規事業であるセレクトショップの開業責任者になったことでした。

ショッピングサイト発のリアル店舗なのですが、物件もコンセプトも決まっていない状態から半年後には店を立ち上げて成功させるというスピード感のプロジェクトでした。お客様を想定して、商品を選び、どれだけ在庫を確保するか。店はどういう内装にするのか。悩んだすえに雑誌を参考にすることを思いつき、より深く読んで分析するようになったんです。

雑誌をマーケター視点で見ると、ターゲット層(読者)が明確に設定されていて、その人たちにどういうものがウケるのか教えてくれる「流行カタログ」のように見えます。しかもありがたいことに、商品・サービスについての情報を詳しく説明までしてくれています。

—どのように雑誌を使われているのですか?

例えば『日経ウーマン』は、主に文具や日用品について調べたいときの情報源にしています。20代から30代の働く女性が、職場のデスクの引き出しや自宅に、どういう小物を置くと便利なのか、どういうものを置きたいと思っているのか、を写真や、使い方とともに紹介している記事は、セレクトショップのマーチャンダイジングをする上でも、参考になりました。

リサーチに雑誌を活用すればいいことを初めて気づかせてくれたのは『オレンジページ』です。この雑誌はレシピ特集がメインですが、その次に多いのが家事系の特集です。「家事の手間はもっと減らせる」をテーマにした記事では、掃除のお助け家電を、読者の声をもとに、主婦目線で紹介しています。これもセレクトショップをつくるときに参考になりましたね。家電は、かなりコモディティ化しているので、どの商品をどれだけ仕入れて、どれくらいの価格で店頭に出すかという判断が難しいんです。

でも、記事の中では、家電のスペックとは異なる、主婦に響く価値は何なのか、というヒントを与えてくれたんです。「ルンバを買ったら、家族が床に物を置かなくなり、掃除がしやすくなりました」「掃除時間が短縮できて、子どもと過ごす時間も増えました」というように。その時ですね。雑誌の見方が変わったのは。

—『マーケットリサーチ大全』では、雑誌のタイトルで読者の嗜好性や行動パターンを分析されていますね。

菅原:本にも書きましたが、例えば『JJ』の2018年6月号の巻頭特集「事実、JJ読者は週5で履いている! 今日も明日もぺたんこ靴」。これは読者アンケートに基づいての内容です。

特集を読み進めていくと、「ぺたんこ靴で、彼と一緒にどこまでも!」という記事が出てきます。「ヒールの高い靴を履いて自分が疲れるのは嫌だし、デートの時にパートナーに気を遣わせるのも嫌」というJJ読者の生き方、ポリシーが、「ぺたんこ靴」というアイテムに集約されているのがわかります。JJは25歳前後の女性がターゲットで、同じ世代だったら、可愛らしいパンプスを提案する雑誌もあるわけです。

でもJJは、シンプルでクールなスタイルを提案していて。そこには、自分自身が気楽な気持ちでデートを楽しみたいし、彼にも気を遣わせたくないという背景がある。雑誌の特集タイトルは、そういう精神的な部分と紐づいているところがすごく面白いですね。ECサイトで独自性をもってお客様に喜んでもらうためには、こういう提案の仕方に近づいていかなければいけないなと、強く感じました。

運動や健康分野で、今どういうものに人気が集まっているのか分析する時は『ターザン』を読みます。『ターザン』は筋トレを極めたいと思っているような上級者向けの雑誌に見られがちですが、特集タイトルをみると、実はそうではないことがわかります。

例えば、「あなたがランナーになるまでの3週間」という記事。「初心者はウォーキングから始めましょう」という導入部分からスタートして、レースに出る体の作り方までを解説していました。ターザンは、分冊百科のように、あるテーマに対してどうかかわればいいか、一から伝えてくれるので、そのステップだったり、アイテムだったりが参考になります。

—マーケターが、特定のターゲットやテーマに対して、視野を広げたり、付加価値を提案するヒントを得たりするうえで、雑誌は情報の宝庫ということですね。

菅原:『雑誌2.0』の中では、『レタスクラブ』元編集長の松田紀子さんが、“雑誌という媒体はコミュニティを生み出しやすい”という趣旨のことを述べていましたが、僕らのようなサイト運営事業者やITツールベンダー企業も、顧客をコミュニティ化して、「ファンミーティング」をしていこうとする流れにあります。

メーカーやECサイトといった、ユーザーと実際に会わないビジネスモデルの企業が、ファンミーティングを開催することで、コアなユーザーを集め、意見を聞いています。「どんなものが欲しいですか」とか「どこを改善してほしいですか」というような基本的な質問だけでなく、クレームが顕在化してしまいそうなギリギリの質問にあえて踏み込むようなことが、ファンの方々だとできるという点もあります。

読者の意見を聞いてコンテンツに反映させるのは、雑誌編集部が得意とする方法ですし、商品の成分や機能よりも、「この柔軟剤ボトルをランドリースペースに置くとその場が映える」といった、読者の利用シーンから、商品の価値を定義していくアプローチも、雑誌ならではだと思います。

—それはメーカーにはない視点でしょうね。

菅原:そう思います。僕自身は、ファンミーティングやリサーチで調べて、マーケットインでつくっていくタイプですけど、あえてそうではない作り方をする雑誌もあって、面白いなと思います。

最近面白いと思ったのは、2019年12月号の『mina』の特集で「次の週末は、きちんと服で映画に行こう。」ですね。映画のシーンに映えそうな服とか、自宅でNetflixの映画を観る時のルームウェアとか。マーケットインでは出てこない発想。「こういうのが面白いよ」と、編集部が発信して、信念をもって雑誌をつくっているから、その熱が読者に伝わるのだと思います。

よく社会人になったら新聞を読め、と言われますが、モノを売りたいなら、読者層の好みや憧れる生き方が示されている雑誌を読むべきだと僕は思いますね。

菅原大介

リサーチャー。マクロミルで、外資系コンサル・大手広告代理店の調査を運用するリサーチディレクション業務を担当したのち、ウェブサービスの事業会社にて12年間リサーチ業務に携わる。アンケート・インタビューから消費者インサイトを分析して、ペルソナ・カスタマージャーニーをデザインする動きを得意とする。ライフテーマは「マーケットをつくるリサーチ」。ビジネスの局面を打開できるリサーチの技法を研究している。自身でもサービス企画・サービス広報を担い、サイトのリブランディング・サービスエリア拡大・セレクトショップ開業などのプロジェクトを成功に導いている。著書に『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』がある。

 

 
雑誌広告2.0』宣伝会議 書籍編集部 編
 
「どんな雑誌がどんな施策をしているのか」まとめて読みたい方におすすめ。雑誌・雑誌広告の基礎データ付きです。

目次

CHAPTER1:読者に深く寄り添う雑誌のメディア価値
・雑誌と組んでファンを呼び込む デジタル時代の雑誌メディアの使い方
・人を動かすことに秀でたメディア 「ミドルファネル」における雑誌の役割
・熱量の高い「コミュニティ」 どのように生まれているか
・掲載すると商品が動く、その理由は? 情報受容度の高い読者と雑誌の関係
 

CHAPTER2:雑誌×デジタル・イベント・商品開発 広告主の雑誌活用事例30
・インサイトをつかんだ、深く刺さるコンテンツで行動促進したい時に参考になる事例
・雑誌のネットワークを活用した注目度の高い取り組みで、ユーザーの関心を高めたい時に参考になる事例
・雑誌コラボでユニークな商品を開発したい、オウンドメディアをつくりたい時に参考になる事例
 

CHAPTER3:関心を集め、人を動かす編集力
・『VERY』『BRUTUS』『ViVi』『ハルメク』『リンネル』『Safari』『dancyu』『サライ』『レタスクラブ』『Number』編集長インタビュー
 

CHAPTER4:デジタル時代の出版コンテンツのこれから
・雑誌の価値を可視化する
・雑誌公認インフルエンサーのマーケティング活用
・編集者視点のメディアプランニング
・雑誌が担う役割と出版社のこれから
 

付録
・雑誌の基礎
・雑誌広告の基礎
・電子雑誌、デジタル広告の状況
・出稿計画の立て方
・用語集