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【対談】「社会実装型デザインに評価」2020年度グッドデザイン賞を振り返る

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国内外から4769件の応募があった2020年度のグッドデザイン賞。今回から新たに審査委員長に安次富隆さんが就任した。前年に続き審査副委員長を務める齋藤精一さんとともに、本年度の審査を総括する。

※本記事は『ブレーン』2021年2月号掲載の記事を再掲したものです。

審査委員長

プロダクトデザイナー
ザートデザイン 取締役社長
安次富 隆(あしとみ・たかし)

ソニーデザインセンターを経て、1991年にザートデザインを設立。2008年から多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻教授。情報機器や家電製品などのエレクトロニクス商品のデザイン開発、地場産業開発、デザイン教育など総合的なデザインアプローチを行っている。

 

審査副委員長

クリエイティブディレクター
パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰
齋藤精一(さいとう・せいいち)

1975年生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、NYで活動開始。2006年にライゾマティクスを設立、2016年よりRhizomatiks Architectureを主宰。2020年組織変更によりPanoramatiksと改め、俯瞰的な視点でこれまでつながらなかった領域を横断し組織や人をつなぎ、仕組みづくりから考えつくるチームを立ち上げる。現在では行政や企業などの企画や実装アドバイザーも数多く行う。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博PLLクリエイター。

 

「交感」が社会にうねりを生み出す

──今回の審査テーマは「交感」でした。2020年度の潮流として感じたことは。

安次富:「交感」とは一方向ではない感情や感覚の行き来を表します。つくり手から使い手への一方的なメッセージではなく、人種や思想、あるいは業界やビジネスの領域などが全く相反する人の気持ちにも耳を傾けて感じ取ることで、何かを得られたり(感得)、思いを至らせる(感思)ことができるような状態です。「美しさ」のように主観的に完結するだけでなく、複数の立場の間で双方向的に成り立つ点が、今の社会において重要なキーワードとなると考えました。口で言うのは簡単ですが、非常に難しいことでもありますね。

齋藤:社会全体の変化のスピードが圧倒的に速くなった2020年の今、コロナ禍の状況にも合っていて非常に意味のあるテーマだったと思います。前年までのテーマであった「美しさ」は状態を表し、「共振」は動詞です。それらを経て「交感」は、どのように社会に「うねり」を生み出しているのか。実際にデザインが社会の中で力を発揮している状態に目を向ける意味でも、さらに次の段階を示す意味でも適切でした。

安次富:新型コロナの影響で応募総数が激減するのではという危惧もありましたが、結果は前年(4772件)とほぼ同じ4769件。コロナ禍の前から準備していないと現れてこないような対象も多数ありました。

齋藤:「社会実装できるデザイン」が増えている、という点も印象的でした。ただ美しいだけでなく、明日から社会の仕組みとして取り入れられる対象が目立ちました。

安次富:その大きな流れのひとつが、SDGs視点の対象が増えたこと。コンパクトなシステムでデザインを磨き上げ、グローバルに展開できる“サーキュラーエコノミー”の取り組みが目立ったのも2020年ならでは。大賞の「WOTA BOX」(WOTA)、金賞の「BRING」(日本環境設計)、「LOOP」(TerraCycle)、「まれびとの家」(VUILD)などは、そのような共通項があります。

齋藤:いずれも「交感」が当てはまる受賞作ですね。デザインの分野だけでなく、物理、化学、テクノロジーの視点まで掘り下げられている。たとえば大賞の「WOTA BOX」は水を浄化し循環させるシステムであり、いわば生活インフラのための製品ですから従来は「土木」の領域でした。ところがオフグリッド(エネルギーの自給自足)で何ができるかという「建築」の観点でビジネスとして成立させ、製品自体のデザインに反映させている。まさに領域を超越した「交感」のデザインだと思います。

安次富:かつては企業ごとに、確固とした「専門性」がありましたが、学際的なリベラルアーツのような考え方が必要です。建築の観点から水のインフラに踏み込んだ「WOTA BOX」はその象徴的な例。業種を固定化せず、どんな価値を供給する組織かという発想を大事にしてほしいですね。

大賞を受賞した自律分散型水循環システム「WOTA BOX」(WOTA)。

金賞を受賞した宿泊施設「まれびとの家」(VUILD)。大賞選出の審査では「WOTA BOX」と決選投票となった。

プロセス自体が透明化されていく時代に

──上位入賞作への評価は。

安次富:水を循環させるシステムをコンパクトに整理している「WOTA BOX」は、相当なデザインのスキルがないと実現できません。ちなみに僕は沖縄出身で、渇水の問題は幼少期から身近なものでした。水がなくなる恐怖と隣り合わせという経験をしている立場から見ると、非常に画期的で非の打ちどころがない取り組みだと感じました。

齋藤:金賞などの上位はいずれも、プロセス自体が透明化されていく時代だと感じさせるものばかりでした。水の浄化システムを機械学習によってシステム化した「WOTA BOX」もそうですし、デジタルファブリケーション技術を用いた宿泊施設「まれびとの家」も社会性を兼ね備えている点が素晴らしかったですね。従来の産業に一石を投じて、「分散」「自律」「協調」という3つの考え方を形成して、実践されています。

安次富:最初から建築物を生み出すことが目的であったというよりは、林業をどのように活性化させて、過疎地域の経済を立て直すか。そうした課題意識からスタートした事業が、結果として宿泊施設という形で具体化した、と理解できます。建築物としては伝統的な合掌造りをモデルとするなど、ローカリティの反映も巧みです。

齋藤:宿泊施設としては不便な立地であるにもかかわらず多くの利用者を数えていることも、実際に地域経済のゲームチェンジャーとなれることを示しています。

安次富:「服から服をつくる」という「BRING」は、リサイクルの意識転換にも寄与しています。BRINGの事業はこれまで一定期間続いてきて、その実績の上に新たに服をつくるということが可能になりました。何度でも繊維製品としてのリサイクルが可能なので、日本発の高度な技術として世界へ今後波及されることが期待できます。

齋藤:しかもリサイクル後にD2Cで服を製造・販売しているというのがバランスとして素晴らしい。大量廃棄が前提のアパレル産業に一石を投じましたし、こういう企業への投資が増えてほしいと思います。

安次富:それから東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」も、2020年度ならでは。サーキュラーエコノミーの思想にも通じていますが、皆で知恵を出し合って共有していくという試みを評価しました。

齋藤:開発プロセスの共有化とオープン化を積極的に進めて短期間での立ち上げを達成したという点で、2020年は「シビック・テック元年」でもありました。東京都から理想的な事例が生まれたと思います。

金賞を受賞したサーキュラーエコノミー「BRING」(日本環境設計)。

社会貢献がビジネスになるという流れ

──今回、特に中小規模の会社の優れた取り組みが目立ちました。

齋藤:社会の変化の速さについていける会社、そうでない会社がはっきりと分かれてきているというのは事実だと思います。新たなテクノロジーや社会課題の解決を目指す会社が持つ、勢いやダイナミズムが今こそ必要です。そういった会社がゲームチェンジを起こしていて、何年か後に2020年度を振り返ったときに「節目の年だった」と感じるような新たな流れを感じます。

安次富:実際に小さなスタートアップ企業に、いいアイデア、デザインが生まれています。そういうところに出資するベンチャーキャピタルも増えてきました。私が教鞭をとる多摩美術大学でも、他大学や企業、自治体と起業家育成のコンソーシアムを設立するといった動きがあるほどです。

齋藤:世界的にもESG(環境・社会・ガバナンス)投資の流れがあり、社会貢献がビジネスになる、という認識が広がっています。旧来の企業は「株主の利益を最優先すべき」とされてきましたが、「株主よりも社会課題の解決を優先すべき。そういう会社は結果的に経済へのインパクトが大きく、株主の利益にもつながる」という考えが定説となりつつあります。そもそも「デザインはこうあるべき」という考え方も大きく覆っている状況下では、評価基準を今後見直していくべきタイミングかもしれません。

安次富:デザインという概念自体が企業に広く理解されるようになったという変化も感じます。デザインとは、ある目的に対し最適解を求め、時にはテクノロジーや社会に広げていく仕組みも込みで実行するもの。そのような認識が正しく理解されるようになったのは大きな一歩だと思います。

『ブレーン』2021年2月号

【特集】
企業の姿勢を表現する 動画・映像のクリエイティブ

・野村不動産/プラウド「僕は、父が苦手だった。」
・freee/スモールビジネス映画祭2020「ムカチノカチカ」
・クレハ/NEWクレラップ「僕は手伝わない」
・オーシャンソリューションテクノロジー/トリトンの矛「継がれていく」篇
・座談会 哀しきCMプランナーの会(その2)

【グッドデザイン賞2020 レポート】
・対談 安次富 隆(審査委員長)×齋藤精一(審査副委員長)
・大賞受賞インタビュー/WOTA「WOTA BOX」
・グッドデザイン金賞受賞作品
・クラフトワーク/ポーラ

【青山デザイン会議】
クリエイティブに生きるための「脱・東京」の手引き

・佐別当隆志(ADDress)
・亀山達矢・中川敦子(tupera tupera)
・中川淳一郎

【第8回BOVA 1次審査委員からのアドバイス】