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考え抜いて、本質にたどり着けるか。真剣勝負の時代がやってきた【ブレーン創刊60周年企画】

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クリエイティビティが求められる領域が拡大していると言われ始めて久しい。企業の経営・事業戦略からブランド構築まで、広告の枠を超えて多様な課題解決を提案してきた白土謙二さんと国見昭仁さんに話を聞いた。2人が考えるクリエイティビティの未来とは。
本企画は、月刊『ブレーン』創刊60周年記念号(6月1日発売7月号)からダイジェストでお届けします。

左)白土謙二氏(思考家/元・電通執行役員 戦略担当)
右)国見昭仁氏(2100 CEO/Creative Director)

フォーマットを埋めているだけでは、120点は生まれない

白土:僕は1977年に電通に入って、最初の20年くらいは広告キャンペーンを通してブランドをつくる仕事が中心でした。当時は宣伝部の地位が非常に高くて、最終プレゼンの相手は基本的に社長。そんなこともあり90年代に入ってからは、事業戦略や経営戦略、商品開発などへ注文が変わってきました。そこから次第に領域が広がって、フリーになった今は、CSRやサステナビリティの相談や講演の依頼が増えてきた。時代の変化がそのまま自分のキャリアに反映されていると、最近つくづく思います。

白土謙二(しらつち・けんじ)
思考家/元・電通執行役員(戦略担当)

1977年電通入社。企業の事業戦略からブランド構築、新製品開発、社員教育からCSRの領域まで、多様な領域の課題を戦略と表現の両面から統合的に解決するエグゼクティブ・プランニング・ディレクターとして活躍。現在、ファーストリテイリング サステナビリティ委員会 社外委員。

国見:僕は銀行員を経て、電通に入ったのが2004年。いわゆる広告の全盛期は既に終わっていました。他業界から入ってきた僕にとって、すごいなと思うものがたくさんある一方で、たくさんの違和感もありました。広告は手段のはずなのに、戦略をつくるときは広告に落とし込むことを前提にしているんです。そこで、クリエイティブの力であらゆる企業活動を変革する「未来創造グループ」を立ち上げ、自分から立ち位置を強引に変えていきました。2020年10月に独立して立ち上げた会社“2100”でも同じような仕事をしています。

国見昭仁(くにみ・あきひと)
2100 CEO/Creative Director

電通中途入社。経営者と向き合いながら企業活動を活性化させる未来創造グループを創設。2017年にグループを拡張し電通ビジネスデザインスクエアを立ち上げる。2018年、役員待遇となるエグゼクティブ・プロフェッショナルに最年少で就任。2020年、電通を退社しプロフェッショナルブティック“2100”を創業。

白土:広告に関わる仕事ではクリエイティブという言葉をよく使いますが、僕のクリエイティブの定義は、企画制作部門、あるいはそこに所属している人のこと。コミュニケーションに関する仕事をしているんだけれど、そこにはテレビ、新聞、Webなど表現の枠がある。それに対しクリエイティビティは、僕たちの持つ課題解決力のことで、枠がないんです。仕事のやり方もコストもゼロから自分たちでつくっていくような仕事を積み重ねていくうちに、自然と枠がなくなってきました。

国見:広告の仕事だと必ずクライアントからオリエンテーションがありますよね。でも今僕がやっているビジネスをクリエイティブする世界には、オリエンってないんです。クライアントと一緒に根っこにある課題の本質を議論することから始まる。広告のオリエンにはターゲットは誰で、メディアは何を使い、予算はいくらといったフォーマットがあって、それをベースに企画も考える。でもオリエンがないと課題の設定そのものが、その後のアイデアを大きく左右します。その本質を考えることがクリエイティビティの醍醐味なのかもしれません。

白土:僕は「発見のクリエイティビティ」と呼んでいたんだけれど、その課題を発見するには、センスと想像力、あと思考力が必要なんですよ。フォーマットがあるとそれを埋めることに一生懸命になって、みんなが80点を取れるかもしれないけれど、120点は生まれない。

国見:本当にフォーマットを取っ払うことは大切だと思います。電通社内で新しいビジネスを考える宿題を出すと、面白いアイデアは出てくるのですが、結局いかに話題にするのかだけを考えているケースが結構あるんです。それだと、広告から事業に領域が変わっただけにすぎない。話題づくりは手段のはずなのに、目的になってしまっている。短期的には効果はあるかもしれないけれど、その会社の経営や事業の未来を根っこからどのようにいい方向に変えていくのかが大切です。

白土:広告会社と宣伝部の間で考えている間は、フォーマットが活きるんだけれど、違う部署の人と仕事をするときは全く通用しない。「電通のプランナーです」と言っても、何者で何ができるか伝わらないんですから。だからクライアントも、どこを見て、どういう提案をしてくるか、ものすごく集中して聞いていると思うんです。クライアントが気付かないアイデアや視点を提供できないと、もう二度と話を聞いてくれないかもしれないし、ましてやお金を払おうとは思わない。まさに、真剣勝負ですね。

考える力はどこでも役に立つ

白土:一方で、広告の枠の外でも、広告界がこれまで培ってきた、発想力とか企画力とか、そのプレゼン力は使えると思っているんですね。でも、一番使えるのが想像力なんです。この問題の本質はどの辺にあるんだろう。どうすれば課題が解ける可能性があるんだろうと、いろいろ考える。「発見のクリエイティビティ」とも重なるけれど、この考える力が表現をつくる場合でも、事業戦略をつくる場合でも重要だと思います。その考える力を身に付ける場所は、コピーライティング、マーケティング、SNS運用でもどこでもいい。自分の考え方の軸になるような思考力や地頭を持っていないとこれからは厳しいかもしれません。自分がフラフラしていると、人とうまく会話ができないし、協力もし合えない。

国見:全く同じですね。クリエイターの技術って、一言で言うと考える力だと思います。考える力が必要のない領域ってほとんどないと思うんです。企業であれば必ず悩みはあるし、常に考えなければいけないことがある。技術力のある会社でも今持っている技術をさらに開花させるためにはどうすべきか、考えなければいけない。

あともうひとつあるとすると、広告界では「この商品はどうやったら売れるか」「こういう考え方を世の中に広めたい」とか、未来を創るようなことばかりを考えています。銀行員時代はバブル崩壊後ということもあり、いわゆる不良債権の回収などが仕事でした。そういった人間がこの業界に来て最初に感動したのは、基本的にポジティブに思考するということ。もちろん現実は見なければいけないけれど、未来をポジティブに考える思考回路も今の時代に活きると思っています。

白土:言葉や形に見える化する力も活かせると思います。デザイナーと組んだり、スタッフと一緒になって、考えたことを映像にしたり、言葉にしたり、マークにしたりスローガンにしたりできる。

国見:そうですね。たとえば、コピーライターって、一言でいかに表現するべきかを考えるのが仕事じゃないですか。複雑なものをシンプルにする力があると思うんです。全体の構造をわかりやすく見せられると、クライアントのぐちゃぐちゃになってしまった頭の中をすっきりさせることができる。それは活きているなと思います。

解決策は業界の外にある

白土:でも、いざ解決策を探すとなると、僕はその業界の中には解決策があまりないと思っているんですよ。業界内でしのぎを削って、ライバル同士が毎日新しい解決策を探しているから、だいたいのめぼしい手法は既に使われてしまっている。だから、異業種から持ってきたほうが早いんですよ。異業種は無限にあるわけだから、そこからヒントを持ってくる。過去にいただいた仕事で使った手法は同じ業界では使えないけれど、異業種には持っていけるなんてこともある。たとえば、「この車、お菓子みたいに考えてみましょう」とか、女性をターゲットにするのであれば「この車を香水と思って考えてみましょう」とか、ずらしたり置き換えたりするだけで全く違う発想が出てくる。

国見:これまで経験したことのない業種って面白いですよね。僕がクライアントさんに提案する中で、自分自身に課しているのは、「真にわかりきっていないことから逃げない」ということです。何かアイデアを思いついたとしても、自分が心底納得できるクリアな説明ができる状態でないと、まだわかりきっていない証拠。自分の中で消化し尽くすっていうのが、自分の中での絶対条件です。そこまでいって初めて相手を口説けるし、どんな質問が来ても対応できる。あと、真剣勝負を楽しんでいるかどうかっていうのも、ポイント。説得するだけでなく、まだまだ先に何かが待っていそうな空気が漂うと、「こいつに賭けてみよう」と感じてもらえる。一生懸命すぎて、ここがこやつの限界だと思われたら頼んでくれない。

白土:こういう仕事をしていると、「提案した戦略がうまくいかなかったとき、どうするんですか」と言われることがあるけれど、僕はそのときは総括文書というものを提出します。自分の考えが浅かったのか、社員の動きが鈍かったのか、そして経済環境の変化がどのような影響を及ぼしたのか。考え得るあらゆる視点から、原因をはっきりさせます。

国見:でも真剣に考えているとあまり失敗はしませんよね。

白土:読み切っていれば、大体うまくいく。よっぽどとんでもないことが起きない限りはね。

国見:それに真剣に考えていると、いつの間にかクライアントといいチームができています。だからお互いに、相手の責任だという感覚は全くないと思います。外部刺激を与えるだけでなく、クライアント発の動きをどうやって生み出すか、内部刺激のきっかけをつくることも僕たちの役割だと思います。広告だと、クライアント側に広告をつくるプロがいないので、その分、どうしても受発注に近い関係になってしまいます。でも、事業開発や経営は、クライアントにもプロがいて僕たちもプロとして接するので、プロとプロで共創するチーム編成になっているんですよね。

白土:外部の視点が入ってくることで、これまであったアイデアは膨らみ、違う面が見えてくるという掛け算が起きているんだと思います。それがお互いに面白く感じられる。社長や部長といった肩書を超えて、ワクワクしながら真剣に取り組んでいるチームってすごくうまくいくと思います。

仕事も「人と人」の付き合い

国見:法人って「人」という漢字を使うじゃないですか。法人と法人の付き合いって多くは「法と法」の付き合いになってしまっていると思う。でも僕が目指しているのは、「人と人」の付き合いなんです。だから言語はある程度統一されていないといけないし、上下関係が無くシンプルに楽しい関係性であるというのは、大事だと思います。

続きは、月刊『ブレーン』7月号(創刊60周年記念号)をご覧ください。

 

月刊『ブレーン』7月号 主な内容・目次

 

【特集】
領域を超え、未来を創造する
青山デザイン会議2021

〇デザインと経営の未来
永井一史、山井梨沙、中台澄之、石川俊祐

〇アートディレクションの未来
佐藤可士和、清水彩香、高橋鴻介

〇世界のクリエイティブの未来
レイ・イナモト、清水幹太、武重浩介

〇社会課題と多様性に向き合う未来
宮本亞門、吉藤オリィ

〇広告の領域を超えるクリエイターの未来
白土謙二、国見昭仁

〇クリエイティブディレクションの未来
国分太一、箭内道彦

〇テレビCMの未来 ※新連載の初回特別編として掲載
松田翔太、吉兼啓介

〇青山デザイン会議クロニクル 1999-2021

【特集】
未来をつくるクリエイティブチーム

【レポート】
第8回「BOVA」グランプリほか各賞発表