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最近よく聞く「パーパス」って何ですか? Vol.3 エシカル就活から紐解く選ばれる企業の「条件」

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【前回】「最近よく聞く「パーパス」って何ですか?  Vol.2 日本柔道躍進の陰にパーパスあり」はこちら

エスエムオー株式会社代表取締役/ブランディングコンサルタント
齊藤三希子

『パーパス・ブランディング』
齊藤三希子 (著) 
ISBN: 978-4883355204

近年、広告界を中心に注目され、ムーブメントになりつつある「パーパス」。「何のために存在するのか」という、企業経営における本質であるにもかかわらず、その本来の意味を理解しきれず、どのように活用していけばよいのか、答えを出しかねている企業が少なくありません。

日本において早くからパーパスについて取り組んできたエスエムオー代表取締役
齊藤三希子氏は、パーパス・ブランディングについて次のように説明します。「個別の事象で課題を解決していくのではなく、企業や組織の根幹となる拠り所=「パーパス(存在理由)」を見つけ、究極的にはそれひとつで判断・行動をし、課題を解決していくこと」。本コラムでは、7月9日に発売となる齊藤氏の著書『パーパスブランディング〜「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える』(宣伝会議)をベースに、身近な事例から「パーパス」について紐解いていきます。

新卒の就職先人気ランキングは、その時代を移す鏡として注目されています。一方で、そのランキングには載ってこないものの、一部の学生に強烈なファンを持つ企業があります。横浜に拠点を置く大川印刷です。100年以上の歴史を持つ老舗ながら、一般への知名度は高いわけではありませんが、就職先として大変人気の高い企業です。その秘密は、大川印刷が早くから「ソーシャルプリンティングカンパニー」として、地域貢献、そして社会的課題解決の実践に取り組んでいるからに他なりません。

このように、就職活動において、環境などの社会的課題に対して真摯に(ここがポイントです)取り組んでいる企業を選ぶ学生がある一定数いることがこの数年で浮き彫りになってきました。現役大学生であり学生起業家の勝見仁泰氏はそうした就職活動を「エシカル就活」と名付け、「人・地球・社会に配慮し、“環境配慮”や“社会課題”」に積極的に取り組む企業への就職ムーブメントを起こしています。

エシカル就活を掲げた勝美氏が起業した会社Allesgoodのサイト。

エシカル就活を行う学生は、環境問題や人権問題を身近な問題として捉えていて、それをビジネスで解決したいという想いが起点となっているようです。以前であれば、JICAなどの非営利団体で働きたいと思っていた人たちが、企業にシフトしていると捉えています。また、ボランティアの経験者も多く、海外で生活をしていたことがある、海外に興味がある、といった特徴があります。彼ら彼女らは希望する企業の知名度や大きさにこだわらず、スタートアップや中小企業でも社会課題の解決に取り組んでいるところをターゲットにしています。私の極個人的な意見ですが、自分なりの強い判断基準をもった、成績も良い優秀な学生群です。

彼ら彼女らは、「企業に選ばれるのではなく、企業を選ぶ」感覚が強く、選ぶ基準も年収、福利厚生という「見える条件」よりも社会の役に立つのか、働きがいはあるのか、といったことを「見えない条件」を重視しています。この基準は、リーマンショックのあった2008年ごろから顕著になった、ミレニアル世代の就職感と似たものがあります。条件も大切だけれど、それよりもっと「何のために働くのか」というパーパスを重視したり、より社会に貢献できる仕事なのか、ということを考えている傾向が見え始めました。彼ら彼女らの就職活動は、企業に入るための’就社’ではなく、何の職につくのか、という本当の意味での”就職”活動を行なってきているのです。2019年ごろから表面化してきたエシカル就活の動きは、2020年の気候変動でより加速しています。これは、パーパスの広がりととてもよく似ています。

前述「社会課題の解決に真摯に取り組む」ことの重要性を指摘しましたが、この「真摯に」という言葉がとても重要です。あらゆることが丸裸にされるこの時代、社会課題への取り組みに限らず、企業の示す姿勢の全てにおいて、嘘はついてもすぐにバレてしまい、結果、企業の信用、信頼を失うことになります。例えば、声高に「人権に配慮した企業です」と言っていても、実際のところはグリーンウォッシュしているだけだった、ということになれば、あっという間に事実が広がり、批判の対象になってしまいます。つまり、エシカル就活をしている優秀(と思われる)な学生に選んでもらうためには、社会的意義や存在理由、つまりパーパスがはっきりしていて、それを信じて実行し、活動していることが重要です。企業が株主から「透明性」を求められているように、学生からも「透明性」が求められている時代が今、訪れています。

実際、エシカル就活で名前が上がってくる企業のほとんどには、パーパスとうたっていなくても、明確な志や存在意義があり、それを体現しているのが特徴です。冒頭の大川印刷では公式サイトで「企業は人が幸せになるために存在するものであり、幸せを創り出す使命があります。YOKOHAMA からすべて(顧客・地域・社会・自然・私たち)が笑顔になる「まごころ」を創り続け、感謝を伝えていきます。」と明言しています。

さて、あなたの会社は今、優秀な学生たちから「選ばれる」企業になっているでしょうか?

齊藤三希子(さいとう・みきこ)

エスエムオー株式会社代表取締役。ブランディングコンサルタント。株式会社電通に入社後、電通総研への出向を経て、2005年に株式会社齊藤三希子事務所(後にエスエムオー株式会社に社名変更)を設立。企業の存在理由である「パーパス」を軸に全てのアクションを行い、社内外にそのパーパスを浸透させることで一貫したブランディングを行い、ブレない強い組織を作る「パーパス・ブランディング」に10年以上取り組んでいる。株式会社バルカー社外取締役。慶應義塾大学経済学部卒業。