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「要請」の多い時代に広告のつくり手が考えるべきこと
ー 渡辺潤平・橋田和明

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世の中の時流をとらえ、企業の想いや勢いを後押しするようなさまざまな広告を手がけてきた、コピーライター 渡辺潤平さんとクリエイティブディレクター 橋田和明さん。元々同じ会社の先輩・後輩関 係でも あるお二人に、社会文脈と企業の意志をマッチさせた広告のつくり方について聞きます。
(本記事は月刊『ブレーン』2021年10月号「好調企業・ブランドの勢いを加速させるクリエイティブ」に掲載したものです)。

(写真左)はしだ・かずあき
博報堂、博報堂ケトルを経て、2018年にHASHI inc.を設立。 現在は、PR視点で統合キャンペーンをつくるクリエイティブディレクターとして幅広い業務に従事。
サントリー、資生堂、Yahoo!JAPAN、LIFULLなどをお手伝いしています。

(写真右)わたなべ・じゅんぺい
コピーライター。1977 年千葉県船橋市出身。博報堂を経て渡辺潤平社設立。最近の主な仕事に、東京オリンピック選手村プロジェクト「HARUMI FLAG」、日本経済新聞「WE THINK.」、第97 回箱根駅伝「風よ、変われ。」、スポナビ「待ってたぞ。プロ野球。」、ユニクロ「THEPOWER OF CLOTHING」ほか。

チャーミングに「要請」した山田水産の新聞広告

⸺ そもそもお二人は、普段世の中の動きを何から読み取っていますか。

渡辺 僕は新聞が自分の基準になっていて、日本経済新聞と朝日新聞と日刊スポーツと日経MJを購読して日常的に読み比べています。今世の中で何が起きているかというのを十分に取り込んでおかないと、やっぱり言葉は書けないと思うので、なるべく記事はたくさん読むようにしていて。でも社会文脈をとらえるという意識よりは、自分がどう思ったか、を大事にしています。

橋田 そんなに読んでいたんですね! 日刊スポーツが入っているのが、潤平さんらしいです( 笑)。でもやっぱり新聞は、社会の論調をとらえる勉強になりますよね。

渡辺 そうですね。ひとつの物事でも語り方が全然違うので、こういう物の見方もあるのか、と学べる点が面白いですね。

橋田 僕はYahoo! ニュースが多いですね。気になったものについては、Twitter などでも反応を調べます。ネガなの?ポジなの?どんな意見があるの?と。あと気を付けなければいけないこと、論点はどこかというのを見ています。

渡辺 つい見ちゃうよね。いろんな視座があるんだっていうことがよくわかるし。

橋田 そうですね。「ほとんどの人が同じ感想を持つ」という状態はありえない時代なんだなと思いますね。価値観が人によってそれぞれ異なるし、それが発信できる時代だというのを実感します。

渡辺 だからこそ、自分が何を信じるか、というのも大切だなと思います。

橋田 現在は、SDGsやサステナビリティ、最近で言えばコロナにおける自粛など、「社会的要請」が非常に大きい時代だと感じています。要請されることって、抑圧感を感じますよね。でもそれを「享受」した方が面白いと思うんです。「享受」って、自分のメリットになることを進んで受け取り、自分の楽しみや利益にする、という意味なんですけど。「こうしなければいけない」というメッセージを「こうした方がよりよい未来が待っているよ」と受け取ることもできるというか。僕はよくエコバッグを使うんですけど、それはポリ袋が有料化されたからというよりは、エコバッグを持っているほうが気持ちいいなと思うからなんです。要請される時代だからこそ、その力を利用して、みんなで一歩いいところに持っていける時代でもあるのかなと思っていて。

渡辺 たしかに。広告をつくる立場としては「見る人にとってはどうか」というところまで責任を持たないといけないと思いますね。「要請」をそのまま伝えようとしがちな広告やコミュニケーションもよく見ます。

⸺ 最近お2人は7月26日に出稿された山田水産の新聞広告を手がけられていましたね。

大分県に本社を置く水産加工食品メーカーの山田水産が、7月26日に日本経済新聞に出稿した新聞広告。橋田和明さんがクリエイティブディレクション、渡辺潤平さんがコピーを担当している。


橋田 そうですね。山田水産の「日本経済よ、魚を食べろ。」という潤平さんが書いたコピーも、要請しているけど要請の仕方のチャーミングさがポイントです。魚を食べただけで日本経済が元気になるはずがないと、みんな思うはず。けれど、言い切ったキャッチと隙を感じさせるボディの関係性が、楽観的な希望を感じさせるために大切なんだろうなと。

渡辺 「もっと魚を食べてほしい」というだけだと、それは水産会社の広告だからそう言いたいに決まっているよね……というところをどう捻るか。そこから生まれた発見ではあったんですけどね。

橋田 そもそも、この広告は山田水産から企業ムービーをつくってほしいと言われたところから始まっているんです。いろいろとヒアリングすると、凄い技術と情熱を持っていて。みんなの胃袋から元気にして、ひいては日本経済を元気にしたいという熱い思いをお持ちだったので、まず意思表明として新聞広告のほうが良いのではないかと提案しました。そのタイミングで潤平さんに声をかけたんですよね。

渡辺 そうでしたね。この頃、報道ではオリンピックの開催の是非をめぐる議論が白熱していて、中止となった場合の経済損失などが話題になっていました。経済に置き換えてみると、いろいろなことが可視化されるのが面白くて。じゃあ魚を食べる、食べない、という視点を経済に置き換えたらどうなるかなと思ったんです。そこで国内の1 人あたりの魚の消費量の数字と、GDPなどの経済規模のチャートと見比べてみたら、図らずも一致していたので、これは面白いなと。そこから生まれたコピーです。

橋田 このアイデアに決まってから、アートディレクターの小栗卓巳くんも含めて一番議論したのは、「データが一致している」というのをどう言うか、という点。「一致している」と言い切ってしまうと、バイアスをかけたデータの見方である、などの反論が上がる可能性があるので、最終的に、「偶然の一致かもしれません」という言葉で、「そうとも言えるよね(笑)」という雰囲気を潤平さんに整えてもらって。新聞広告の出稿後、SNS の反応では、データに厳しい投資家から「クリエイティブと絡めるとこういう見せ方ができるのか」という声もありました。

渡辺 あとは橋田くんがIMFや農林水産省などのデータで細かく裏どりしてくれて。かなり具体的なディレクションをしてくれて助かりました。僕は細やかな部分まで気が回らず(笑)。面白いこと見つけた! という気持ちのまま、強く言い切るコピーばかりを探っていました。

橋田 僕はPR を触ることが多いので、社会的なテーマの広告が世の中でどう触られているか、頻繁に見ているからかもしれません。対処として一番大切なのは、自分たちが伝えたいことに対して、何か質問があった時の想定問答を用意しておくこと。今回でいうと、"一致しているとは言い切っていない"というのもそうです。真摯に答えを考えて、あらかじめ整えておくのが大切だと思います。あとは疑問形で止めて質問を投げかける、という手段もあると思います。

(……この続きは月刊『ブレーン』10月号に掲載しています)。

本記事のこの後のTOPIC
・企業の「温度」や「湿度」をとらえて調整するのが僕らの役割
・「社会文脈でさえあればいい」わけじゃない

月刊『ブレーン』2021年10月号

【特集 好調企業・ブランドの勢いを加速させるクリエイティブ】
・森永乳業/マウントレーニア
・金冠堂/キンカン
・「要請」の多い時代に 広告のつくり手が考えるべきこと 橋田和明×渡辺潤平
・セールスフォース・ドットコム
・にしたんクリニック
・キリンビール/キリン ホームタップ
・アウトソーシングテクノロジー

 

【TCC賞2021】
・TCC賞2021 最高新人賞インタビュー
・新人賞・審査委員長賞 受賞作品発表
・最終審査委員講評

 

【青山デザイン会議】
・「哲学が、クリエイターに教えてくれること」 田中正人×戸谷洋志×三宅陽一郎

 

【SPECIAL】
・TOP INTERVIEW メルセデス・ベンツ日本 代表取締役社長兼CEO 上野金太郎
・クリエイティブリレー 工学院大学×ビームスクリエイティブ

 

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・「漫画『もしも東京』展」
・海士「Entô」

 

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・広告少年 松田翔太×吉兼啓介(博報堂)×浜崎慎治×佐藤渉(TYO)
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・名作コピーの時間 生駒達也(オーエンカンパニー)
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