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違いをレバレッジにOOHは話題の起点へ――Metro Ad Creative Award 2021 リレーコラム

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メトロアドエージェンシーと宣伝会議が企画・運営する「第5回Metro Ad Creative Award」が10月6日から募集中です。5回目を迎えた2021年のコラムテーマは「多様性」。OOHは、さまざまな思い、さまざまな価値観を持つ人々が共にする空間をメディアとして、メッセージを発信します。再び賑わいを取り戻そうとしている街や交通機関を行き交う人々は決して同質ではなく、それぞれのバックグラウンドがあります。このリレーコラムでは、そんな場をメディアとしている、OOHならではのコミュニケーションについて、つづっていきます。第3回の担当は、電通の加我俊介氏です。

「ダイバーシティ&インクルージョンの世界で輝く、交通・OOHの真の価値」という非常に難しいコラムテーマをいただいたのですが、僕には到底考えが及びませんでした。とはいえ、「Metro Ad Creative Award」のリレーコラムなので。コロナ禍を経て、僕が今、OOHについて感じている/考えていることについて書かせていただこうと思います。

コロナによりあらゆるものの価値観が変わったと思いますが、OOHもまさにその一つではないかと、僕は感じています。コロナによる外出自粛で街から人の姿が消え、街の中の広告媒体であるOOHもその価値を大きく毀損しました。事実、その場に人がいない(直接接触が見込めない)OOHはその機能を失い、当時の電車車内は中吊りや窓上広告が歯抜けだったり、街中の大型看板にも空き枠が目立ったりと広告出稿が激減していた気がします。

しかし、私たちの生活・行動様式同様、OOHも”今”が制限されることで”新たな一面”に光が当たり、その中で新しい価値が見出されました(以前からもその価値はありましたが一層重視されるようになりました)。それが、従来のリーチ補完発想ではない、「カンバセーション・ソース=話題拡散の起点」としての価値/活用方法です。

その代表格が渋谷駅ハチ公広場に設置されている「渋谷憲章シート広告」です。僕自身も何度か活用させていただいておりますが、駅前のグランドレベルに設置された大型看板で非常にシェアされやすく(目につきやすく・写真に撮りやすい)、かつニュース番組の天気カメラに映り込むなどして、その場にいない人の目にも触れることの多いOOHです。そのため、コロナ禍においても、さまざまなプロモーションで重用されていました。

Netflixのブランドキャンペーン『再生のはじまり』の広告

明治プロビオヨーグルトR-1の受験生応援キャンペーン『受験生に聞きました』

上記は、僕がコロナ禍に活用した事例です。①は2020年12月に実施したNetflixのブランドキャンペーン『再生のはじまり』の広告、②は2021年2月に実施した明治プロビオヨーグルトR-1の受験生応援キャンペーン『受験生に聞きました』の広告です。

どちらも接触した瞬間に、生活者の頭に「?」「!」が生まれることを意識的に狙った表現ですが、②は特にその色が濃いかもしれません。これは、コロナ禍により友人や教師とこれまでのように気軽に会って情報交換ができず、例年以上に心配事や悩みを抱えこんでしまう事態に直面した当時の受験生たちに対して、明治R-1の広告に触れるちょっとした時間だけでも、ほっこりしてもらう体験を提供したいと考えた企画でした。受験生専用の「悩み共有ラジオ番組(TBSラジオで放送)」を作り、番組内や番組のTwitterアカウントで募集した受験生自身の言葉や悩みを、OOHで大々的に掲出。OOHの掲出=世の中への共有を通じて、「自分はひとりじゃない」「みんな同じ」だと実感してもらいながら、ほっこりした時間を過ごしてもらうことを狙った仕掛けです。

渋谷駅前に突然掲げられた「墾田永年私財法」というワード。緊急事態宣言下ということもあり、このOOHに直接接触した人数は限られるかもしれませんが。その接触者や、ニュース番組の映り込みで思わず目に留まった人々を通じて、「これはどういう意味?」「何の広告?」と次々とシェアされ大きな話題になりました。そして、このOOHの話題から遡る形で、ラジオ番組をはじめとするキャンペーンの存在を知ってもらい、興味を持ってもらうことにつながりました。

公共空間に置かれるOOHは、多様なバックグランドを持った不特定多数が同時に接触するという特徴を持っています。それぞれの思想や価値観を持った人々が、思い思いの行動をしている時に突然出くわす広告。だからこそ、そんな不特定多数の“間”に、「気になる」ものを置いてあげることができれば、知識や情報量の格差、思想や価値観の違いをレバレッジにして、「あれ見た?」「どういう意味?」「僕は好きだな」などとカンバセーションの起点になることができるのです。

これまでOOHは、テレビCMのリーチを補完するメディアとして考えられることが多かったと思います。それが、コミュニケーションの起点として活用されるようになった。これは大きな価値観の転換ではないでしょうか。

街に賑わいが戻ってくることで、渋谷や新宿などの一極集中ではなく、あらゆるOOHがその力を取り戻します。補完ではなく起点。その視点でとらえると、これまで以上の使い方/それに適したクリエーティブ表現が考えられるはずです。

次はどんな使い方をしようか? 今、たくさんのクリエイターやプランナーがそんな視点でOOHを見つめている気がします。

 

電通
クリエーティブディレクター/コミュニケーションプランナー
加我俊介

2002年、外資系コンサルティングファームの朝日アーサーアンダーセン入社。その後、ADKを経て、2012年電通入社。従来型のマス広告に、デジタル·イベント·PR、そして、話題拡散装置としてのOOH等を組み合わせた統合的な広告コミュニケーションを数多く手がける。また、広告領域に限らず、音声ARをはじめとするサービス開発、展覧会や店舗の企画プロデュース、テレビドラマ制作など幅広い領域に挑戦。「Metro Ad Creative Award」のテーマである交通広告·OOHを活用した主な仕事としては、Netflix「再生の始まり」「人間まるだし(全裸監督)」「上を見ろ、星がある。 下を見ろ、俺がいる。(全裸監督2)」、明治R-1「墾田永年私財法」、三井不動産×日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会「日本橋シティドレッシング for TEAM PARALYMPIC JAPAN」など。