なぜ地域にクリエイティブディレクションが必要なのか

自治体による観光キャンペーンや地元企業による産品のプロモーションなど、「地域」の案件に特化して企画立案から制作、実施までの進め方を紹介する新刊書籍『地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術』が1月に発売されました。

筆者の田中淳一さんは、全国を飛び回りこうした「地域」案件を数多く手がけるクリエイティブディレクター。仕事でかかわった都道府県は約40に上ります。本書では、アイデアから実行に至るまでのクリエイティブディレクションの方法論と、地域ならではの実情に合わせた仕事の進め方について事例を交えながら解説しています。

本書の執筆に至った経緯について、「地域にはクリエイティブディレクションが足りない」という問題意識があったといいます。なぜそう感じたのか。田中さんと同じく宮崎県出身で、東京での仕事を経て宮崎市内でコンテンツプロダクションを立ち上げた田代くるみさん(Qurumu代表)が聞きました。

 

課題解決こそがクリエイティブディレクターの仕事

田中:田代さんとは初対面ですが、同じ宮崎県出身なんですよね。今回書籍の装丁やアートディレクションをお願いした日高英輝さんも同郷ということで、この新著を通して宮崎の縁を感じているところです。

定価:1,980円(本体1,800円+税)
四六判 273ページ

 
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田代:地元だとなかなか会う機会がありませんが、宮崎出身でもこうしたクリエイティブ周りを仕事にしている人はたくさんいるんですよね。私は東京で10年ほどライターの下積みを経て、「宮崎の『いいもの』をもっと発信していきたい」と、2017年に地元でコンテンツプロダクションを興しました。

この5年弱、地元でクリエイティブにまつわる仕事に携わってきた中でまさに感じていた地域におけるクリエイティブの課題、つまり「地域におけるクリエイティブディレクターの不在とその重要性」をクリティカルに指摘されていたのが、今回の田中さんの著書だと思います。

田中:この本は田代さんのように地元でクリエイティブを生業にしている人もターゲットとしているので、共感してもらえるのはとても嬉しいです。

改めて、クリエイティブディレクションの定義をしておきたいと思います。本書では、企業や自治体などが抱えている与件や課題などを映像、言葉、デザインなど、クリエイティブアイデアをつかって解決していく手法のことをクリエイティブディレクションとしています。

そしてクリエイティブディレクターとは、具体的に言うと、与えられた課題のボトルネックになっている事象や観念の発見、その課題を解決するためのアイデア開発、導き出したアイデアを具体的にしていく過程でのクオリティ管理を担う役割。クリエイティブを駆使して生活者の、主に感情面での態度変容を促すことで課題を解決する仕事です。
 

伝えることなしに地域経済は成長しない

田代:東京ではそれなりに浸透している職能ですが、地域ではまだまだ知られていない存在ですよね。アウトプットが明確なデザイナーやコピーライターに比べて、分かりにくいとの話も聞きます。田中さんはなぜ、地域にこそクリエイティブディレクターが必要だとお考えになったのですか?

田中:僕はもともとADKでクリエイティブディレクターとして、大手企業相手の仕事を中心に手掛けてきました。それから地域の仕事がしたいと会社を飛び出て、今は40ほどの都道府県のクリエイティブにまつわる仕事をしています。そして全国各地を回れば回るほど、いいものはあるのに「伝える」ということに力を注げていない地域が多すぎると感じたんです。

田中淳一(クリエイティブディレクター)
宮崎県延岡市出身、早稲田大学卒業後、旭通信社(現ADK)入社、営業本部を経て制作本部(コピーライター)に転属。38歳でクリエイティブディレクターに就任。2014年にCreativity for Local, Social, Globalを掲げPOPS設立。松山市、鳥取市、今帰仁村、登米市、高知県など38都道府県以上でシティプロモーション、観光PR、移住定住施策などの自治体案件や地域企業、NPO団体のクリエイティブ・コンサルティング、企業ブランディング、プロモーション、商品開発などを手がける。
 
田代:確かに、お土産コーナーや道の駅に行っても、意味や理由なくつくられたどこか見覚えのあるパッケージばかりで「伝える」をおろそかにしているのは、まさしく今の地域のリアルだと思います。どうして「伝える」ことに貪欲になれない地域が多いのでしょうか。

田中:これまで日本は、1億2000万人という人口をこの狭い国土に抱え「いいものをつくれば、売れる」という経済で成り立ってきました。それはメーカーでも、観光でも同じことが言えます。しかし、今やその人口を維持し続けることは難しく、かつマーケットに国境という垣根がなくなり、海外のアップルやアマゾン、テスラといった企業と同じ土俵で戦わねばならなくなりました。

そんな中で情報発信、つまり「伝える」ということへの投資や向上なしには経済成長は見込めない事実を日本は突きつけられています。そして、それは日本各地の地域にも言えることなのです。にもかかわらず、未だほとんどの地域が「いいものをつくれば、売れる」という感覚でいるように感じます。これは地域の衰退にもつながる憂慮すべきことだと思います。

田代:だからこそ田中さんは、著書の中で「地域のものづくりも、“ものがたりづくり”から発想し、いいものだけでなく、いい伝え方も一緒につくっていくことが大事」だと訴えていらっしゃいますよね。

田中:今の日本、そして日本各地の地域において欠けているのが、まさにその“ものがたりづくり”になります。そのバックグラウンドにあるストーリーをどうリサーチするか、そしてどうコンセプトに落とし込み、それを生活者に「伝わる」ようにどう表現していくか。それがまさに、この本の主題であるクリエイティブディレクターの役割なんです。
 


 

クリエイティブディレクターになるために必要な素養とは

田代:先ほど、今回の著書は私のような地域でクリエイティブを生業にしている人を大きなターゲットとしているというお話が出ました。それはなぜでしょうか?

田中:僕も今地域でたくさんのお仕事をさせていただく中で、自分が関われるクリエイティブディレクションの仕事量には限界があると感じたんです。地域の未来を考えた時に、地域に一人でも多くその職能を持った人を育てたいという思いがあります。

その中で、おそらくもっともこのクリエイティブディレクターになる近道にいるのが、地域でクリエイティブな仕事をしている人たちだと思うんです。特にコピーライターやアートディレクターといった人々は日頃から思考を自分の中で分解しながら、ロジカルにアイデアを生み出すという過程を繰り返しています。そういった作業に慣れている人には、クリエイティブディレクターの仕事にとても向いていると思うんです。

田代:今回の著書にはクリエイティブディレクションの方法論がかなり分かりやすく言語化されていますよね。

田中:僕も今回執筆するにあたり、自分のこれまで培ってきた経験や頭の中にある方法論をパカッと開けたんだな、と実感しています。特に、今回はクリエイティブディレクションを着想・企画・定着というフェーズに分け、そのフェーズをさらに細分化し、「この手順を追えばクリエイティブの力で地域の課題を解決できる」とまとめてみました。

これをフローの一つとして参考にしてもらいたいと思いますし、なかなか言語化されていなかった「クリエイティブディレクションとは」という部分を僕なりに言語化した本でもあります。
 

クリエイティブディレクターの存在によって、地域経済は必ず動かせる

田代:私もライターやコピーライターとして地域の仕事をする中で、クリエイティブディレクションはもちろん、ディレクションという概念やその重要性すら理解してもらえないシーンを数多く経験してきました。特に発注側であるクライアントや自治体といった決裁権のある人にこそ、理解してもらいたいと強く感じています。

田代くるみ(Qurumu代表・ひなた宮崎経済新聞編集長)
1989年生まれ、宮崎県都城市出身。早稲田大学政治経済学部卒。在学中に博報堂ケトルへインターンし、卒業後は編集プロダクションへ入社。フリーライターを経て17年9月に宮崎市内にPR・コンテンツ制作を手掛けるQurumu合同会社を設立。広域宮崎圏のニュースをデイリーで配信するネットメディア「ひなた宮崎経済新聞」を立ち上げ、編集長を務める。2020年11月、宮崎の繁華街・ニシタチに「スナック入り口」をオープン。
 
田中:今回の著書は、そんな発注側に立つ人が読むことも想定して書いています。とにかく、地域の課題に対してクリエイティブが有効であること、「伝える」ことに力を入れることの大切さ、そしてアイデアはタダではなく、アイデアこそ大事な収益の源泉であることを、この本を通して知ってもらいたいんです。

自治体や企業含め、アイデアやクリエイティブへの投資を惜しむ地域は、これからかなり厳しくなるのではと個人的には思っています。あと、全国各地の学生さんにもぜひ手に取ってもらいたいですね。そして、地域でも「クリエイティブを生業にしていけるんだ」という新たな希望を見つけてほしいです。

田代:この本が未来の地域のクリエイティブディレクターを生むきっかけになるかもしれませんね。最後にお聞きしたいのですが、クリエイティブディレクターが地域に生まれ続けることで、これからの日本はどのように変わっていくと思いますか?

田中:クリエイティブディレクターは単なる職能です。でも、“ものがたりづくり”ができるクリエイティブディレクターが増えたり、情報発信の土壌ができたりすることで、地域産品を売ることだけでなく観光や移住定住など含め、地域経済の可能性を広げて、新しいステージへと動かすことは可能だと確信しています。それに、僕は「東京から人を減らしたい」という思いがあるんです。

田代:「東京から人を減らしたい」。それはどういうことでしょうか?

田中:僕は宮崎で生まれ育ち、大学入学を機に上京して、社会人になり、これまで数十年を東京で過ごしましたが、人がスカスカ(笑)の宮崎と比べると、やっぱりどこか東京ってギスギスしたというか、必要以上に他人を意識したりする空気感があると思うんです。それはきっと、東京に人が多すぎるから。

でも、地域がクリエイティブを活用した情報発信を通してより活気づくことで、魅力的な地域に移り住む人が増えたり、地域にいながらもクリエイティブ職を目指したりする若者も増えてくるでしょう。本来、自分の居たい場所で自分の好きな仕事ができる。しかも、それが地域を元気にしていく原動力になる。地域の多様性が輝くようになれば、東京も含めて日本はもっと快適で創造性あふれる国になるのではと。

「自分の生きている時代は自分で楽しくしたい」というのが僕の小さな頃からの信念です。地域が元気になれば日本はもっと楽しくなると、僕は信じています。

田代:なるほど。「自分の生きている時代は自分で楽しくしたい」。地域で生きるクリエイターの一人として、私もそんな信念で地域のクリエイティブに携わりたいと思います。

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