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認知度の高さ、むしろ危機感 横浜シティプロモーションの10年

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横浜市は、シティプロモーション事業を精力的に続けている。「あうたびに、あたらしい Find Your YOKOHAMA」をスローガンに、2021年は横浜の街全体を舞台にしたダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA2021」や、横浜の新たな夜景を創出するイルミネーション「ヨルノヨ」など、街の魅力を発信する施策は枚挙にいとまがない。主導する「文化観光局横浜魅力づくり室横浜プロモーション担当」は新年度から政策局へ移管となり、広報課、報道課と連携しながら市のブランディングを推進する。

「横浜」という都市名を聞いたことのない人はいないだろう。認知度の高さは国境を超え、東アジアに広げても「横浜の名称を知っている」人は85%を上回った(註)。――では、そのうえでプロモーションをする理由は何なのか? 横浜魅力づくり室企画課の會田巨享・横浜プロモーション担当係長は「むしろ課題感、危機感のほうが強いのです」と話す。

横浜魅力づくり室企画課の會田巨享・横浜プロモーション担当係長

「横浜市なら黙っていても人は来るでしょう、といったことを聞くことは少なくありません。調査でも認知度が高いことはわかっています。しかし、上記の海外調査でも『どんな特徴を持っているかを知っている』という人はそのうちの3割程度。国内でも、中華街や赤レンガ倉庫などの画一的なイメージにとどまってしまっています。観光だけでなく、より広い意味で『横浜市を選ぶ理由』、実はそうした理由が不明瞭であったり、一面的であることに、私たちは危機感を抱いているのです」(會田氏)

「横浜魅力づくり室」を擁する市の文化観光局の立ち上げは2011年。その際に「横浜魅力づくり室」も新設となった。會田氏は創設メンバーの一人だが、2003年の入庁以来、ずっと広報、シティプロモーションの道を歩み続けてきた。配置換えの少なくない行政では珍しい。途中、人事交流で3年間、足立区での勤務となった際にも、最初の2年は広報課、最後の1年は23区初となるシティプロモーション課の創設メンバーとして携わっている。

横浜市にとって、プロモーションとは何か、ブランディングとは何か。文化観光局の設置によって、その問いかけが始まった。もちろん観光誘致も重要だが、それがすべてではない。暮らしている市民はもちろん、仕事をしに来る人もいる。拠点を置く企業も横浜を支える一部だ。暮らしてみたい、住んでみたい。横浜で何かを発信してみたい。

さまざまな横浜との関わり方がある中で、横浜市が選ばれるには、どんな魅力を伝えればいいのか。ひいては、どんな存在であればよいのか。それを集約した言葉が、「あうたびに、あたらしい -Find Your YOKOHAMA」(英語表記:Inspire Your Soul -Find Your YOKOHAMA)というブランドスローガンだ。創設から足かけ3年。2014年2月に策定した。いまでは文化観光局だけでなく、他の部局でも資料や施策のなかで採用するまでに至った。

横浜市が掲げるブランドスローガン

「市民の皆さま、横浜で活動する方々、そして横浜を訪れる方々に、このブランドスローガンを体験していただくために、重視しているのが、『新しい発見』『感性が磨かれる感覚』『ワクワクする高揚感』の3つのブランドエッセンスです。単に言葉として伝えるのではなく、どんな施策を行う際も、エッセンスとして、この3つのいずれかに必ず関連させ、実際に体感してもらえるように意識してきました」(會田氏)

ターゲットは市内外、そして企業。市外は国内だけでなく、海外インバウンドも含まれる。企業もタイアップイベントだけでなく、いわゆるMICE(会議、報奨旅行、大会・学会・国際会議、展示会)といったビジネストラベルや、誘致も含む。市内は、市民はもちろんのこと、同じ横浜市役所の職員も、だ。

そして、継続的な発信で、着実にファンを増やしているのが、「Facebook」と「Instagram」それぞれの市公式アカウント。特にInstagramは国内自治体では東京「都」の13万2000人に次いで2位の9万人となっている。

横浜市のFacebook、Instagramの公式アカウントフォロワー推移(2021年時点まで)

Facebookは主に神奈川県や横浜市近郊の首都圏在住の20代後半~50代前半の男女がターゲットで、週に1回のペースで投稿している。横浜への愛着を深めてもらうことを目的に発信し、ファンとのコミュニケーションを大事にしている。

横浜の橋を巡る旅シリーズ。「いいね」「超いいね」併せて3470

Instagramはビジュアルで発信できる強みを生かし、国外も含めたブランドイメージの訴求に活用している。

「Facebookでは、たとえば長年横浜に住んでいても知らないようなトリビアを発信したり、『横浜ブルー』などのテーマを定めて日常生活で見落としがちな魅力を新たに発見してもらったり、歴史を深く掘り下げてみたり。どういったテーマで発信すれば、驚きがあるか、そしてシビックプライドが高まるか、といった観点で、担当者が足で稼いで投稿しています」(會田氏)

横浜市のInstagram公式アカウント「@findyouryokohama_japan」

2014年に開設したInstagramでは毎日投稿。1投稿あたり、平均で3800いいねという反響がある。国外のフォロワーも少なくなく、37%に上る。

「シンボリックな投稿のほうがエンゲージメントは高い傾向があり、ランドマークタワーや客船などの臨海部の夜景や夕景、郊外部でも生麦ジャンクションや磯子のヨットハーバーなど、横浜とわかりやすいもののほうが反響はあります。逆に、横浜であることがわかりづらい画像はエンゲージメントが低くなります」(會田氏)

体験と街並み、暮らす人々

ロケーションは横浜の魅力のひとつだ。街そのものを舞台にした3年に一度のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA2021」では、港を背景にした野外ステージで、バレエの公演を行った。同じく3年に一度開催する音楽フェスティバル「横浜音祭り」でも、音楽ホールだけでなく、元町商店街でパフォーマンスを実施するなど、横浜で暮らす人たちと一体になって、非日常感を味わえる体験をつくりあげている。

「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA2021」(写真:瀬戸秀美)

「『体験』というキーワードはまさに意識しています。それは街並みと人と共に発信されるものだと思います。パンフレットに載せる写真ひとつとってもそうですが、単にきれいな景色を載せるのではなく、必ず横浜での体験を楽しむ人の姿が写るように気を配っています」(會田氏)

それは企業との施策でも同様だ。立ち上げから10年間、プロモーションを続ける中で、市内外の企業とも関係値は高まってきた。

横浜市庁舎では、横浜中華街の春節をアピールする展示も実施

「ありがたいことに、『今度こんな企画を考えている』などと、お声をかけていただいたり、ご相談をいただいたりしています。先日も横浜中華街様から、コロナ禍で苦境を強いられているなかで、春節をどうにか盛り上げたい、ということで、お話をいただきました。これまでは春節というのは、中華街のなかだけで、ある意味完結していたイベントでしたが、ではそれを横浜市の春節にするためにはどうするか、と」(會田氏)

「横浜音祭り2019」。2カ月間で約73万人が参加した大規模イベントとなった

テレビや映画の撮影でも人脈が生きている。人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ、撮影の引き合いの多い横浜市だが、會田氏によると「実は、規制という意味では日本で一番と言っていいほど、厳しい自治体」だという。

それは公共性を守るために、必要があって敷いているルールであることは間違いない。「ですが、それでも撮りたいと言っていただけるのには、美しい都市景観や都心からのアクセスの良さももちろんですが、担当の専門職員が長らく、それこそフィルムコミッションという言葉が生まれたころから、メディア関係者とずっとやり取りを続け、実績を重ねてきているから、だと思います」と會田氏は言葉をつなぐ。

「どの施策にも言えることかもしれませんが、いっときの打ち上げ花火ではなく、次につながる、続ける。積み上げる、ということは、シティプロモーションでも非常に重要なことなのではないでしょうか」(會田氏)

打ち上げ花火で終わらせない

「横浜魅力づくり室」の代表事例のひとつとも言える、ポケモンとの6年間にわたるイベント開催も「継続、積み上げ」の文脈の中にある。みなとみらい地区の街を舞台に開催したイベント「ピカチュウ大量発生チュウ!」では、集客人数は6年間で延べ1213万人、広告価値換算では同76億円と、大きな成果を残したが、それは最初の一歩があってこそだった。

イベント「ピカチュウ大量発生チュウ!」(©Pokémon. ©Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.)

2014年の初開催を皮切りに好評を博し、2019年まで毎年開催して、夏の風物詩に。毎年さまざまな工夫を凝らしたほか、新しい挑戦も行った。小さな子どもから大人まで幅広い世代に楽しんでもらえるイベントになるよう、ポケモン社と検討を重ね、実績を積み上げていった企画だ。

そうした土壌を踏まえてのちに実現したのが、バンダイナムコグループとの「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」プロジェクトだ。

「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」プロジェクト。2020年12月19日~2023年3月31日までの期間限定公開(©創通・サンライズ)

「何かを打ち出せば、ニュースを見た人、企業につながっていきます。なので、我々は一つひとつの企画を単体では見ていません。市民にメリットがある、それはもちろんのこと、連携する事業者の方、関係者全員がメリットを享受できるよう、つなぎ役としての役割を果たすことが、次につなげるためには不可欠だと思います。場所を貸すだけ、補助金を出すだけ、ではそうはいきません」(會田氏)

行政の立場では、特定の事業者に肩入れすることは無論すべきではない。「しかし、たとえば横浜はみなとみらいホールやぴあアリーナMM、2023年に完成予定のKアリーナなど、音楽関連施設が多いのですが、そうした施設が集積しているということは、街全体ではどんな体験ができるか、と一つレベルを上げて考えるようにしています。企業と企業をつなげる、というのも大切なポイントです」(會田氏)

公共の課題解決の一端を担う

2020年は、日本だけでなく、世界が新型コロナウイルス感染症の拡大に見舞われた。會田氏も、それまでのシティプロモーションからいったん離れ、横浜市民やメディアなどに向けたワクチン接種広報を担務とした。

そこで會田氏が改めて痛感したのは、日々刻々と変化する状況下、全ての対象者に対して、必ず正確に情報を届けなくてはいけないなかでの「伝える」ということの難しさ、また、イメージだけがどれだけ良くてもだめだ、ということだ。イメージは相対的なものでしかない。自治体ごとにさまざまな条件が異なる中、決して遅くはなかったコロナ禍対応も、先んじて手を打てた自治体を目にすれば、「遅い」というふうに映る。

しかし振り返れば、横浜市のシティプロモーションの10年間は、実体のある魅力をいかに多くの人に伝えるか、実体のある魅力をいかに作り出すか、それをどう次につなげるか、の連続だった。市からのあらゆる情報発信・掲示物等が、適切かつ効果的に伝わるよう、継続的に実施してきた市の職員に向けたデザイン技術のスキルアップ研修や、他の局のプロモーションの相談に乗っていたのも、市全体としてのプロモーション力向上の一端だ。

横浜のシンボルのひとつ、横浜ランドマークタワーをバックに

自治体にとってブランディングとは何か、プロモーションとは何か――その答えはまだない。しかし、新年度から「横浜魅力づくり室横浜プロモーション担当」が政策局へ移管することから伺えるのは、市が抱えるより広い公共的な課題解決の観点から、シティプロモーションが欠かせない要素だった、ということではないか。

「新年度、広報・報道・プロモーションに関する部署が一緒になることで、市内・市外関係なく、ターゲットごとに適したメディアを生かし、より効果的なプロモーションができるようになります。文化観光局がこの10年間で積み上げてきたシティプロモ―ションの活動や多くの方とのつながりを、新しい体制の元、より分野を広げ、より強力に、築いていきたいと考えています」(會田氏)

註:「平成27年度 横浜市に関する意識・生活行動実態調査」
調査方法:インターネット調査
調査地域:シンガポール、マレーシア、インドネシア
調査対象:20~49歳の一般男女、海外旅行経験があり、日本への旅行希望者
調査期間:平成27年7月10日(金)~7月23日(木)
サンプル数:956人(各地域最低300人)

 



お問い合わせ
横浜市文化観光局横浜魅力づくり室
メール:bk-kikaku @ city.yokohama.jp
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