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顧客基点のDX 実現するのはCMOとCIOの連携にあり!

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企業よりも先にデジタルシフトをしてしまった生活者に向き合うために、あらゆる業態の企業においてデジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれています。

生活者の変化に対応したDXなのであれば、顧客接点の最前線にいるマーケティング部門がその実現をリードすればよいのでしょうか? 確かにマーケティング部門の顧客インサイトに迫る洞察力、さらに市場を創造する仮説設計力は、その実現に欠かせないものです。

しかし、今日の顧客理解は、常時接続とも言える環境のなかで取得が可能になった顧客に関するデータの活用なくしては、競争力を担保できなくなっているのも事実です。

今こそ、マーケティング部門はデータやシステムのプロフェッショナルと手を組んで、会社全体の顧客基点のDXを実現させるべき。いま、マーケターにとって存在感を高めているパートナーはCIOをはじめとする情報システム部門であると言えます。

しかしCMOとCIOはどこまで意思疎通が図れ、連携が取れているものなのでしょうか。

マーケターの立場を代表して音部大輔氏が、マーケティング実務を経験しながら情報システム部門との接点も多くCIOの気持ちに寄り添える堀内健后氏が議論。現時点、接点の薄いCMOとCIOが共通言語をいかにつくるべきか?企業のDXの実現を担うといっても過言ではない両者の連携の方向性を探ります。

CMOとCIOの間にプロトコルは存在しない!

――音部さんが12月に刊行した『The Art of Marketing-マーケティングの技法』は、マーケティングの実務家の方はもちろんのこと、最近は情報システム系の企業で研修に導入されるなど、本書で紹介している「パーセプションフロー・モデル」に対する関心の広がりを感じています。

堀内さんは、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)を提供するトレジャーデータに所属しているのでCDOやCIOといった方たちともお付き合いがあると思います。情報システム系の方が音部さんの本を手に取るようになった背景には、情報システムが扱うデータにおいて、「顧客」にかかわるものが増えているのではないかという仮説を持っています。無機質なデータから顧客インサイトを導き出すうえでは、顧客理解のマーケティング的思考が必要とされているのではないかな、と。

そう考えると、CMOとCIOやCDOはもっと連携できるはず!もっと連携すべきではないか!と思ったりするのですが、いろいろ話を聞いていると、あまり両者がかかわる場面は少ないようなのです…。そこで、「今こそCMOとCIOは手を組むべきでは?」という仮説に基づき、お二人に話を聞いていきたいと思っています。

堀内:僕はCMOともCIOとも話す機会があるのですが、確かにあまり両者の間にコミュニケーションはないのかもしれない、と思いました。

ちなみに音部さんに聞きたいのですが、音部さんのキャリアの中で、「情報システム部門と話しをしないと仕事が進まない」と思うようなことはありましたか?

音部:どうでしょう。私が1992年に新卒で入社した時点では、PCも一人一台ではありませんでした。CMOをしていたときにも、CIO職はまだ確立されていなかったようにも思います。そもそもマーケティングにインターネットが関わり始めたのはいつ頃からかしら。

堀内:そうですよね。仕事でPCやインターネットが本格的に使われるようになったのは2000年くらいから。そう考えると、CIOとCMOが連携できていないという課題は当たり前のことだと思うんです。

CIO的な人が登場して、まだ20年程度。現時点でCIOが50代くらいと考えると、これまでのキャリアの中でマーケティング部門と一緒に仕事をする機会は少なかったはずです。つまり、両者の間にはそもそもプロトコルが存在もしくは確立していないのではないでしょうか。

音部:「プロトコルがない」とは、非常に的を得た表現ですね。確かに現在のCMOクラス、CIOクラスの人たちは、互いに話を交わす機会がなかったと思います。

メーカーに所属するマーケターの場合、それが良いか悪いかは別として、日常業務において新商品にかける労力がとても大きい。新商品開発に際して、最初に話すのは製品開発部門。次に実店舗であれECであれ、小売業に売り込みに行くために、営業と話をします。次に、商品が滞りなくデリバーされないといけませんから工場や物流部門を巻き込んでいきます。これがメーカーにおける実体経済ドリブンのワーキングプロトコルだと思うんです。確かに、ここに情報システム部門って入ってこないですよね。

堀内:2000年代に入ってからはCRM、2010年代くらいからはマーケティング・オートメーションをマーケティング部門が導入するようになりますが、こうしたシステムは「シャドウIT」、つまりはマーケティング部門が情報システムに断りなく、勝手に入れてしまうシステムの筆頭と言われてきました。本来は情報システムと連携した方がよいと思うので、マーケティングがアドテクなどのデジタル活用を進めてきたこの10年くらいで、連携の必要性が高まってきていた。でも、たった10年くらいで会社のプロトコルはそう変わらないですよね。

音部:おっしゃる通りですね。2010年以降、急激に変わりました。その背景にあるのは、スマホの浸透ではないでしょうか。スマホが浸透してからの10年は劇的な変化でした。よく「マーケティングのデジタル化」という表現を使いますが、マーケティングが主体となってデジタル化しているわけではなく、企業に先んじて、消費者がデジタル化してしまったから、それに対応してマーケティング活動が変わらなければならなかったのだと思います。

そして消費者のデジタル化のなかでも、スマホが浸透してからのこの10年、常時接続が可能になり、常にガジェットを持ち歩けるようになった。この影響は大きいですよね。

堀内:会社全体の歴史の中では、10年という時間は決して長いとは言えない。ですから、先のようにプロトコルがまだできていなくて当然と言えるのかもしれませんね。

音部:私はマーケティング部門が社内のあらゆる組織をオーケストレーション(連携できるよう統合すること)していくうえで、それぞれの部門が「何を代表しているのか?」を理解することが必要だと考えています。製品開発は製品やその基盤となる製品技術を、営業は取引先を、人事は採用や人事配置を、財務はお金の流れを、マーケティングはブランドと消費者を代表するといったような考え方です。

それでは情報システム部門は何を代表、体現しているのかと言えば、データ。特に消費者のデータを代表しているといえるのが理想です。ただ、そのデータを企業活動により活かすためには、マーケティング的な視点での分析が必要でしよう。マーケターも顧客データに対する理解が必要な一方で、CIOを始めとする情報システム部門が次なる役割を考えていくうえでは、データの価値を高めマーケティングに適用するためにマーケターの視点も求められるのではないでしょうか。

堀内:情報システム部門は決して潤沢な人員を抱えているわけではなく、なおかつ保守業務に多くの時間を取られてしまっています。本来はマーケティングをはじめ、あらゆる現業の部門の業務に紐づいて、その部門の仕事内容を理解した担当者を置いた方が、組織の中で情報システム部門がより機能するとは思うのですが、なかなか難しいですね。


会計年度ベースで動くマーケティングと複数年で動く情報システムのギャップ

――2012年当時で、すでにガートナーの発表によれば「2017年までにCIOのIT投資額をCMOの投資額が上回るようになる」との予測を示していました。さらに先ほど、堀内さんからCRMやマーケティング・オートメーションという言葉が出てきましたが、マーケティング・ソリューションも爆発的に数が増えています。

堀内:マーケティング系のソリューションを提供する企業はスタートアップが多く、マーケティング系ソリューションのカオスマップを見ると1万社以上のソリューションが登録されています。大手の企業で50~100のツールを使いこなしている、とも言われているのですが厳密にいえば、導入はしていると思いますが、真に使いこなしているかと問われれば難しいかもしれません。そう考えると、ますますCIOとCMOは連携した方がよいのですが。

音部:双方の部門に、あまり共通言語がないですよね。
例えば、マーケティグは会計年度ベースで動いていますが、情報システムはどうなのでしょう?マーケティングは今年の売上目標を達成し、利益を捻出し、さらに今年の予算を使いながら、来年度以降戦いやすくなるよう、ブランドを強くすることも考えて投資をしていく。来年、今年よりもブランドが強くなっていれば、今年よりも楽に目標達成につなげられるからです。そうした中長期の思考があるとはいえ、マーケティングは基本的に会計年度ごとに動いていますよね。

堀内:それで言うと、情報システム部門は複数年度の視座で動いていますよね。保守とか複数年契約ですし、会計も減価償却までに5~6年かかる。ただ、サーバーなんて本当は2年くらいで陳腐化するので、私もこれまでの会社の中で、減損処理するための書類をいっぱい書きましたから…。

いま、クラウドサービスが支持されているのは、資産化する必要がなく、その時に必要なものをすぐに手に入れられるから。AWSは1分単位でサーバーを買えるようにしていますが、これは機動力というメリットだけでなく、1年単位で費用化できる点が大手企業にとっては支持されるのだと思います。

情報システム部門が会計年度で動けるようになったとしても、情報システム部門は新規投資よりも保守メンテにお金を使うという側面があるので、これがCMOと連携する上で壁になるかもしれません。CMOとCIOが期の初めに持っているバジェットが同じだったとして、CIOの場合にはほとんど、使い道が決まってしまっている感じですね。

音部:情報システム部門が複数年単位でオペレーションしているのならば、それは工場に近いかもしれないですね。マーケティングは工場とは密接にかかわります。ただ、“モノ性”が強いので工場とマーケティングは共通の言語があるのかもしれないですね。生産する製品が変われば工場のラインも変わります。一方でシステムとなると、製品群がかわってもブランドが変わっても、情報システム自体はたいして変わらないですから。

堀内:SKUの記述が少し変わるくらいですよね。なので、コロナ禍になって「D2Cやらなきゃと」いっても急にできるものではないというのは、情報システム部門はマーケティングにとっては物流網とかと近いのかもしれないですね。

音部:そうですね、物流に近いかもしれないですね。

堀内:これまで、まとめて卸に納品すればよかったのに、いきなり個人宅配にしてくれといっても、そんな販売チャネル、流通網は急にはつくれません。

音部:それはわかりやすい例えですね。なので、コロナ禍でデジタルシフトしようとしたら、逆にすごい人足がかかるっていう矛盾する現象が生まれるのでしょう。

【プロフィール】

トレジャーデータ 
取締役 マーケティング担当シニアディレクター
堀内健后氏

東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現日本アイ・ビー・エム)、マネックスビーンズホールディングス(現マネックスグループ)を経て、2013年2月トレジャーデータ入社。日本事業の立ち上げ、マーケティング担当として日本国内での事業展開を進める。2019年からアジア地域展開も開始している。2021年6月より現職。

 

クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
音部大輔氏

17年間の日米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などで、マーケティング組織強化やビジネスの回復・伸長を、マーケティング担当副社長やCMOとして主導。2018年より独立し、現職。消費財や化粧品をはじめ、輸送機器、家電、放送局、電力、D2C、医薬品、IP、BtoBなど、国内外の多様なクライアントのマーケティング組織強化やブランド戦略を支援。博士(経営学・神戸大学)。 著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)。

 

【書籍紹介】

【好評4刷!】『The Art of Marketing マーケティングの技法-パーセプションフロー・モデル全解説』

定価:2,640円(本体2,400円+税) A5判 304ページ

2021年12月に発売された『The Art of Marketing マーケティングの技法-パーセプションフロー・モデル全解説』(音部大輔著)は、マーケティング活動の全体設計図「パーセプションフロー・モデル」の活用法を紹介した初めての書籍。
 
発売前から多くの反響をいただき、早くも4刷と販売好調です。企業のマーケティング部門だけでなく、広告会社、マーケティングサービス提供企業などで、研修教材としてもお使いいただいています。
 
ブランドマネージャーやマーケティング・宣伝担当者、またブランドのパートナーである広告会社のマーケターにとっても活動の指針となる一冊です。
「パーセプションフロー・モデル」や「ブランドホロタイプ・モデル」「クリエイティブ・ブリーフ」のダウンロード特典も好評です。
 
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