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「完全食栄養食」は食文化を変えるのか? ベースフードCMOに聞く食の未来

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情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である東京大学大学院情報学環教育部。月刊「宣伝会議」編集長の谷口が同部で講義を担当していることから、受講する学生の皆さんと編集コンテンツの企画から制作までを実地でチャレンジ。今回は、「完全栄養食」で注目を集めるベースフード社のCMO、齋藤竜太さんに取材しました。

結局、何を食べればいいの? 商品が多すぎて選べない状況を変えたい

谷口先生の講義でのディスカッションで、「最近、広告やマーケティング活動が気になっている商品」として履修者から名前が挙がったベースフード社の「完全栄養食」。今までにないコンセプトの商品は人々の生活の中でどのように受け入れられようとしているのか、情報学環教育部で学ぶ、川口翔太郎、溝𦚰由女、黒田恭一、小竹朝子、園田寛志郎、平松優太が取材します(本取材は2022年3月に実施しました/文章執筆・川口翔太郎)。

ベースフードCMOの齋藤竜太氏。

――日本発のフードテック企業として2016年に創業、2017年2月には日本人の1食に必要な栄養素を含む生パスタ「BASE PASTA」を発売。その後、「BASE BREAD」、「BASE Cookies」などラインナップを増やし、日本の食生活に「完全栄養食」という新たなスタイルを提案していると思います。これまでも健康に良いことをアピールする商品は多くありましたが、ベースフードの「完全栄養食」はそうした「健康食」とはどこに違いがあるのでしょうか。

齋藤:確かに、脂肪を燃焼させる効果や血圧の上昇を抑える効果などを謳う「健康食」はすでに世の中に多く存在しています。私たち、ベースフードが提唱する「完全栄養食」という概念には、そうした商品らに対するアンチテーゼのような側面があります。

いろいろな効用を謳った健康食品が多すぎて逆に結局、何を選べば良いのか。皆さんがわからなくなってしまっている状態だと思うのです。消費者の方の「栄養のことがよくわからない」とか「どう組み合わせれば、適切なバランスを保てるかがわからない」という悩みを解決するために、「何をどれだけ取ればいいのかこちら側で考えました」というのが今までの健康食品とは違う「完全栄養食」のコンセプトです。

「これだけ食べれば一通り必要な栄養素は摂取できる」ということを端的に伝える言葉として「完全栄養食」という表現を使っています。

一部地域で、CM放映も開始 マジョリティ層に届けるために

――最近はベースフードの商品をコンビニでも見かけるようになりました。また福岡と佐賀に進出する際には初めてテレビCMを放送されたそうですね。講義の履修者の中にベースフードの利用者もいたのですが、まだまだアーリーアダプター層が購買の中心ではないかという意見もありました。より、利用者のすそ野が広がっているのでしょうか。

現在のベースフードの商品展開やマーケティング戦略の狙いについてお聞きしたいです。

齋藤:ベースフードが発売を開始した2017年の2月当時は、まずAmazonで販売し、そこからD2Cのサブスクモデルへ展開しました。もともと食や健康に関する関心が高く、自分でネットで調べて「完全栄養食というものがあるんだ」とベースフードにたどり着いた人たちが中心でしたが、そこから定期購入者が10万人を超えるところまで広げることができました。ここからさらに普及させていくには、よりマジョリティ層に私たちの商品の魅力を伝え、届ける必要があります。

それを実現するための方法として現在、2つの戦略を考えています。ひとつは商品を簡単に手に入れられるようにすること。インターネットでパンを買うという行為はハードルが高いので、コンビニで買えるようにしたり、健康意識の高い方たちが集まるスポーツジムに置いてもらったり、健康診断のタイミングで病院にてサンプリングをしてもらったり。普段の生活導線上でベースフードが自然に目に入るような状況を作ろうとしています。 

もうひとつは「最近周りの人がみんなベースフードを食べているな」と思ってもらうことです。そのためにSNSやリアルの場で「ベースフードを食べてみたらおいしかった!」という良質なクチコミを増やせるように商品の改良に取り組んでいます。特に食品は「周りの人が食べているから安心そうだな」と思ってもらうことが大事なので、クチコミを増やすことを重視しています。

この2つを合わせることで、アーリー層以外の人も、いつのまにかベースフードを日常に取り入れている、という状況を作りたいと思っています。

生活環境が変われば、「おいしさ」の基準も変わっていく

――商品のおいしさについて、現在はどれぐらいベースフードの理想とする味に近づけているとお考えですか。

齋藤:理想は「お店に並んでいたときに一番おいしいから選ばれる」という状況です。栄養価が高い商品がおいしくて、しかもほかの商品と価格も同じだったら絶対にそちらを選びますよね。販売当初からお客さまの意見をフィードバックして味を改善してきましたが、この理想が実現できているかと言えば、まだまだ道半ばだと考えています。

ただ、ひとつ言いたいのは、味に対する好みも変わっていくということです。例えば今まで食べたことがない人が玄米を初めて食べると、ちょっと苦く感じると思います。ですが、食べ慣れてくると玄米のおいしさがわかってくる。そういうことって、皆さんも経験がありますよね。現代の日本で「おいしい」とされている商品の味は糖類の甘さと塩分の味が多くを占めています。

一方でベースフードの商品は素材自体にミネラルや全粒粉の穀物が入っているので、豊かなコクがある。現在の食におけるおいしさを目指すというよりは、ベースフードならではの味を「おいしい」と思ってもらえるような取り組みもしていきたいと思います。


競合他社の参入は大歓迎 今はカテゴリー自体の成長の段階にある

――ベースフード以外にも、完全栄養食の分野で、いろいろな商品が出てきて僕たちの目に触れるようになっています。その中でのベースフードならではの強みを聞かせてください。

齋藤:大前提として、完全栄養食という市場はまだ差別化が必要な段階には至っていないと考えています。そこで競合他社にもどんどん入ってきてもらい、市場が大きくなって、カテゴリーとして社会的な認知を獲得していけるようになるといいな、と思っています。

その前提がある上で、ベースフードと他社が違うところは、一点目は栄養素だけでなく食材にもこだわっているところです。完全栄養というと工業的に必要な栄養素を添加するような作り方をする商品も多いのですが、ベースフードは全粒粉、米ぬか、チアシード、大豆など、栄養価の高い原材料を商品に練りこんでいます。栄養素だけではなく、こういう食材を取ることで健康になれるというエビデンスが研究されているので、成分だけではなく、食材にもこだわっています。

もう一点は、他社では粉末やドリンクのような飲む完全栄養食も多い中で、パンやパスタ、クッキーなど既存の主食を完全栄養食にしていることです。その理由として、普段のライフスタイルを変えることなく完全栄養食を取り入れてほしいという思いがあります。「豊かな食文化」を犠牲にすることなく、しっかりと食事としておいしい完全栄養食を作ることにベースフード社はこだわっています。

――ベースフードが考える「豊かな食文化」についてお聞きしたいです。

齋藤:ベースフードのような完全栄養食“だけ”を食べる、というライフスタイルは定着しないだろうと考えています。それは、食事は栄養を摂取するための手段としてだけ存在しているわけではなく、食を通じた多様な喜びがあるからです。

旬の食材を使った料理を食べる、国ごとの伝統料理を楽しむ、友達や家族で食卓を囲んで食べる、たまには外食でジャンクフードを食べる……というような豊かな食生活を維持するために、例えば平日の朝食をいままでのパンからベースブレッドに替えることで極端な栄養の偏りを防ぐ栄養の「ベース」を作る。そうすることで健康な状態を維持できて、食生活を楽しんでいただけるんだ、というのがベースフードの提案する「豊かな食文化」の理想像です。

世界の「主食」市場は100兆円 そのうち1%のシェア獲得を目指す

――ベースフードの今後の目標を聞かせてもらえますか。

齋藤:まずは2025年までに1億袋を売り上げることを目指しています。
より長期的には現在、定期購入者が10万人なので、それを100万人、1000万人と増やしていきたいです。世界の「主食」市場は100兆円ぐらいありますが、そのうちの1%、1兆円をベースフードが占める、という目標を持っています。

ベースフードを取り入れることで、豊かな食生活や豊かな人生を楽しむための「ベース」を作ってもらう。「誰もが健康という基盤の上で人生を楽しみ尽くせる世界を作る」というのが我々の実現したいことです。