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「プロダクトの背景にある想いや熱意を見たい」、ACC賞クリエイティブイノベーション部門審査委員が語る審査の裏側

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左より2021年審査委員 小野直紀氏(博報堂/『広告』編集長、monom代表)、審査委員長・中村洋基氏(PARTY Creative Director / Founder、ヤフー メディアカンパニーMS統括本部 ECD、電通デジタル客員ECD、combo 代表取締役)、2022年審査委員・坊垣佳奈氏(マクアケ 共同創業者/取締役)、2022年審査委員・松島倫明氏(『WIRED』日本版 編集長)

評価基準は「ビッグ・アイデア×テクノロジー」

坊垣:今日は「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(以下 ACC賞)のクリエイティブイノベーション部門(以下 CI部門)の審査委員の皆さんにお集まりいただきました。

ACC賞では6月1日から作品募集が始まったのですが、CI部門では今年からパートナーズ賞を設け、私たちマクアケと、アドバタイムズ、NewsPicks、WIRED、ONE JAPANがパートナーとなりました。そこで今日は、「【ACC×Makuake】ものづくりとクリエイティブが生み出すイノベーション」と題して、CI部門や過去の受賞作品などについて解説する会を設けさせていただきました。

中村:まずACC賞について、簡単にご説明をさせてください。
ACC賞は「ACC CMFESTIVAL」を前身とし、今年で62回目を迎える歴史あるアワードです。テレビCM、ラジオCMをはじめ、マーケティングエ・フェクティブネス、ブランデッド・コミュニケーションといった広告をベースにしたカテゴリーがあり、日本の広告界においては誰もが「獲るべき賞」になっています。2017年にあらゆる領域におけるクリエイティブを対象としたアワードへとリニューアルし、そのときに新設されたのがCI部門です。

CI部門が評価の対象とするのは、未来を創り出す、世の中を動かす可能性のあるアイデアとテクノロジーとの掛け算で産み出されたもの。スタートアップ、企業発の新規事業・プロジェクトやサービス、クラウドファンディング、R&Dから出てきたプロトタイプなどです。評価基準は「ビッグ・アイデア×テクノロジー」。テクノロジーが入ったことでそのアイデアが実現できたもの、あるいは一見、斬新には見えないけれど、事業として認知され、世の中を変えたもの。例えばメルカリのように、いまやあたりまえのものとして社会に実装されたサービスは、まさにイノベーティブと言えます。

坊垣:ACC賞というと「ザ・広告賞」というイメージが強く、まさに広告というものでなければ応募できないという印象があります。でも、このCI部門は広告よりも、むしろプロダクトやプロトタイプが中心で、審査委員も事業会社や投資家の方など、広告界ではない顔ぶれが揃っていますね。

実は、私たちマクアケがかかわった作品も、これまでにCI部門で2つ入賞しています。一つは、2020年度グランプリを受賞した「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」。もう一つは、2019年にファイナリストに選ばれた日本酒のAI味覚判定「Liquality Store by YUMMY SAKE」です。

分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ADKクリエイティブ・ワン/ADKマーケティング・ソリューションズ/オリィ研究所/サニーサイドアップ/ZYX INTERNATIONAL)

日本酒のAI味覚判定「Liquality Store by YUMMY SAKE」(博報堂アイ・スタジオ/マテリアル/カーツメディアコミュニケーション(KMC)/マウントポジション/太陽企画/トボガン/Whatever)

中村:「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」はとても印象に残っています。「分身ロボット」そのものがよくできたプロダクトであることはもちろんですが、審査ではそこだけを見ているわけではありません。一番重視しているのが制作者の熱意や思い、どうやって世の中を変えていこうとしているのかというプロセスなど。「分身ロボットカフェ」はプロジェクト自体の奥行や世界観はもちろん、そこにかける制作者の熱意も高くて、これが実現することによって救われる人の姿がまざまざと見えてきました。

小野:僕はmonomというチームでつくったボタン型おしゃべりスピーカー「Pechat」のプロジェクトでMakuakeにお世話になり、2017年のCI部門のファイナリストに選んでいただきました。CI部門とMakuake、どちらも世の中をどう変えていきたいかという作り手の熱量や想いを応募や登録時に書くので、実は共通する部分があると感じています。だから、Makuakeに参加している方はCI部門と相性がよく、応募しやすいと思います。

坊垣:Makuakeでは最終アウトプットはもちろんですが、作り手の想いや顔が見えて、その背景を知ってもらうことを大事にしています。それによってプロダクトの使い方をより理解してもらえるし、食べ物で言えば材料のこだわりを知ることで、食べたときの味も深くなる。作り手を知り、背景を知ると、プロジェクトについての解像度が上がるんです。私たちはMakuakeを通して、購入者にそういう体験をしていただきたいと考えています。ですので、Makuakeで表現したり、メッセージしていることをそのままCI部門に応募していただけるといいのでは、と思っています。
 

社会を変えたプロダクトもささやかなプロダクトも同じように評価する

坊垣:ここでマクアケ社について、少しご紹介させてください。当社のビジョンは、「生まれるべきものが生まれ広がるべきものが広がり残るべきものが残る世界の実現」。

潤沢な予算でプロモーションをするマスの時代から、SNSなどを通して購入側も情報を把握できるようになったいまだからこそ、きちんとこだわりをもって、本当にいいものをつくるイノベーティブなチャレンジをしている人に光を当てたいと思っています。

ビジョンで語っている「べき」という部分については、消費者に決めてもらうという考えです。そのため、サイトに掲載する際にジャンルで絞るなど、こちらで決めることはなく、私たちが議論するのはユーザーに不利益がおきないかということの確認と実現性のみです。

Makuakeはクラウドファンディングの仕組みがベースにはあるのですが、私たちは「アタラシイものや体験の応援購入サービス」であると話しています。というのも、先行販売で新しいプロダクトやサービスを買ってもらうことが多く、活動支援というよりもむしろ新しいかたちのEコマースに近いと考えているからです。

中村:Makuakeのサイトを拝見すると、それぞれの活動をムービーで紹介していますね。CI部門でも、エントリー作品とのファーストコンタクトはムービーです。作り手の想いやプロダクトの背景をきちんと知った上で議論するため、審査にあたっては各作品のムービーはきちんと見ます。とはいえ、お金をかけてかっこよくつくる必要はなくて、自分たちが伝えたいことがきちんと伝わる内容であれば大丈夫です。

坊垣:では、ここでいくつかMakuakeに掲載されているプロダクトを例に、もしこの作品がCI部門に応募されたら、審査委員はどういう点を見ていくのかを、皆さんでお話できればと思います。

まずはヘラルボニー。障害のあるアーティストが描きだす作品を活用したライフスタイルブランドの立ち上げやギャラリーの開設などをMakuakeで展開いただきました。アーティストの方たちの色彩感覚やかたちにインパクトがあり、他にないプロダクトとして人気がありますし、ビジネスの面でも評価されています。

ヘラルボニー、異彩の作家、日本の職人が手がける新たなライフスタイルブランド

小野:プロダクトはもちろんなのですが、こうした才能や個性が世の中に出ていくための仕組みができていることが素晴らしいですね。CI部門では、プロダクトそのものだけではなくて、背景にある仕組みを評価することもありますよね。

松島:確かに「仕組みジャンル」というのがありますね。

中村:以前にCI部門で入賞した小野さんの「Pechat」もMakuakeを活用なさったんですよね。

小野:はい。「Pechat」は、子どもが大事にしているぬいぐるみにつけるボタン型スピーカーです。これを作ろうと思ったきっかけは、3歳の姪に久しぶりに会ったときに、人見知りされて、思うように話ができなかったことでした。そこで彼女の好きなぬいぐるみを使って、なんとかおしゃべりしてみたところ、ようやく心がうちとけることができて…。そこから「子どもが大事にしているぬいぐるみにボタンを付けるとおしゃべりができる」プロダクトを考えるようになりました。

ボタンをつけると、ぬいぐるみがしゃべりだす!?おしゃべりスピーカー Pechat

坊垣:「Pechat」は、まさにそういうシーンが浮かび、その後に何がおきるか、どんな気持ちになるかが想像できて、個人的にもすごくほしいと思ったプロダクトです。

小野:世の中を変えるような大きなイノベーションではなく、ささやかなプロダクトですが、体験した子どもたちが驚いたり、喜んだり、それを見た親も喜んだり、そういうシーンをつくれたらいいなと思いました。それを手にした人たちに深い体験を残せる、そういうプロダクトとして提案したんです。Makuakeで先行販売をさせていただいたところ、応援購入額が1500万円ほど集まりました。その後、メディアや販売チャネルからも注目していただき、発売当日は在庫がないという状況になりました。

自分自身の審査委員経験も踏まえてCI部門の話をさせていただくと、世の中を大きく変えるものも評価したいし、「こういうものができたらいいよね」というピュアな想いも評価したい。ただ「思い付きでつくってしまいました」というものより、「これをなんとしても世に出したい」という、ある種狂気じみた想いや、対象となる人は狭くても確実に「この人に届けたい」という熱量があるものを評価したいと考えて審査に臨みました。

松島:Makuakeに掲載されているものでCI部門にぜひ応募してほしいと思ったものは、窓型スマートディスプレイ「Atmoph Window」です。

コロナ禍に立ち上がった「WindowSwap」というサイトがあって、そこにはロックダウンで外を歩けない世界中の人たちが自分の部屋の窓から見える景色を撮影してアップしています。美しい風景もあれば、ごちゃごちゃした街並みや隣の塀だけが映っているものがあったり。それを見ていると、毎日、この景色を眺めている人がいるんだなと、窓枠の向こうに感情移入ができるんです。世界中の景色を見ることができる「Atmoph Window」にも、それと同じようなものを感じました。

世界の風景で彩りを。窓型スマートディスプレイ「Atmoph Window 2」

坊垣:このプロダクトをつくった創業者のお二人は、任天堂出身。プログラムを書いているときに部屋が閉塞的に感じられ、家の景色を変えるためにはどうすればいいかと考えて生まれたものだそうです。まさに松島さんがおっしゃったように、将来的には世界中の窓から見える景色を共有したりする可能性もあるようです。最近では、「スター・ウォーズ」などディズニー作品各種ともコラボレーションしています。

中村:プロダクトのベースは液晶モニターですが、これを「窓」と言い切り、そこでさまざまな景色や表現を見せてくれる。まさにクリエイティブですね。

小野:シンプルなプロダクトを「窓」と言ったことが、まさにアイデアですよね。世界中の美しい風景というソフトとハードウェアの組み合わせをどのように考えていったのか、その背景を知りたくなりますね。

松島:景色の交換というべきか、SNSがそのまま窓になっている世界ですよね。そして、ただ眺めるだけではなく、この「窓」を通して向こうにいるであろう人との豊かなコミュニケーションが生まれていく…。僕はこういうプロダクトを見ると、自分の中でどんどん勝手にイメージが膨らんでしまって(笑)。これは将来的にはこうなるだろうと、その可能性を想像して点数に加味しようとしてしまうので、そこは冷静にならなくてはと自分を押さえています。

小野:僕は松島さんの応援演説で1票いれたことあります(笑)。でも、この窓が将来的にはメタバースとつながったら、どんなことができるんだろうと想像が膨らみますよね。

坊垣:審査委員の中で、私は「実現性」担当と自認しています。Makuakeでいろいろなプロジェクトにかかわる中で、モノづくりのこだわりに始まり、どういう反応を得て広がっているのか、どのように受け入れられて、どんな発展性があるかを常に見ているので、そういう実現性の部分を審査ではしっかり見るようにしています。審査会では、審査委員それぞれの観点からのさまざまな意見が出るので、毎回熱い議論になりますよね。

中村:そして最終審査では、実際にプロダクトを見ながら議論をします。実際に手にすることで評価がグンと上がることもよくあります。
 

アワードを活用してプロジェクトの活性化や社内のモチベーションアップに

坊垣:次にご紹介するのが、マクアケ社員にも人気のあるプロダクトで「Siphon」というデザインLED電球で。こちらは名古屋で車の部品をつくっていた老舗企業の新規プロジェクトとして開発されたものです。

ダサいLEDは終わりにしよう!フィラメントをLEDで再現、美しい電球を広めたい

技術もあり、歴史もある中小規模の企業が事業のアップデートを図ったり、新しいププロダクトを開発したり、チャレンジをしているケースがMakuakeでも増えています。プロダクトが売れて、それこそアワードも受賞すると、「世の中に認められた」「多くの人に買ってもらえた」ことで社内が盛り上がり、社員一人ひとりの自信にもつながるんです。マクアケやACC賞のようなアワードには、そういう役割もあると思います。

中村:ACC賞のCI部門も、Makuakeとは違うかたちで新しいプロダクトやサービスの登竜門になるといいなと思いますね。

松島:従来のように社会に影響を与えた広告にアワードを贈ることも変わらずあるとは思うのですが、僕らが選んだプロダクトやサービスが受賞することで、そのイノベーションを社会に実装する手助けになったり、ささやかですがそれぞれの企業で社員が誇りに思ってもらえたり。CI部門は、まさにそういう役割を果たしているのではないかと思います。

中村:最初に申し上げたように、CI部門の評価基準は「ビッグ・アイデア×テクノロジー」です。大企業のみならず、中小企業の新規事業やスタートアップ、クラウドファンディング、あるいは研究機関のプロトタイプでも応募は可能です。それからACC賞に応募したいけれど、自分たちの作品はどの部門にも合わないなと思う方は、ぜひCI部門への応募を検討していただけるといいかもしれないです。

坊垣:プロトタイプといえば、2021年に受賞した「味わうテレビ」は衝撃的でした。「ピザ」の映像が映し出された画面を舐めると、ピザの味が楽しめるという…。

中村:最初は荒唐無稽と感じましたが、ここまで考えてプロトタイプをつくったという熱意と狂気を審査委員全員が認めて、最終審査の場に進みました。そのとき実際にそのプロトタイプを試して、正直複雑な気持ちになったのですが(笑)。これまでにない未知の感覚を体験させられたことに加え、応募者のプレゼンも素晴らしくて、受賞に至りました。

坊垣:すでに世に出ているプロダクトと同じように評価するのではなく、プロトタイプはプロトタイプとしてきちんと評価をしていますよね。

中村:当然のことながら実現力はないわけですから、発想としてどうなのか、仮設として世の中に出したときどう見えるのかなど、プロトタイプについてはすでに世に出ているプロダクトとは別の考え方、別の土俵で審査しています。だから、もし自分のプロトタイプがどう評価されるのか知りたい方は臆せずに、ぜひ応募していただけたらと思います。

すべてのエントリー作品を一つひとつ精査しながら審査しているので、正直言えば、どちらがゴールドで、どちらがシルバーで、と順位を決めるのは難しくて。どちらがいい悪いではなく、入賞した作品はいずれも、審査委員が自信を持って評価したものであることは間違いないです。

それから、いま広告会社に所属しながらクライアントと新規事業を立ち上げたり、社内で新しいプロダクトやサービスをつくっている方も多いと思います。今日はMakuakeを実施している方たちの事例を多くご紹介していますが、もちろん広告会社に所属する皆さんがかかわっているプロダクトやサービスもぜひご応募いただきたいです。

というのも、新しいプロダクトやサービスが世の中に広がっていく際には、やはりコミュニケーションの力が大きい。これまでにCI部門で入賞した作品には、広告の仕事で培ったコミュニケーション力を使って、むき身だったプロダクトを世に広めたものもあります。

グランプリを受賞した「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」は、まさにその一例です。この部門を活用することで広告会社の皆さんがかかわっているプロダクトやサービスが世の中に広まったり、さらには受賞することでプロジェクトが継続したり、活性化していくきっかけになるといいなと思っています。

CI部門の最終審査では、ファイナリストに残った皆さんから審査委員が直接プレゼンを受けます。今年、ぜひその場でお会いできるのを、楽しみにしています。

 
■ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS クリエイティブイノベーション部門

・参加資格
未来を創り出す、世の中を動かす可能性のあるアイデアとテクノロジーとの掛け算で産み出されたプロダクト&サービスと、プロトタイプ。
※上市または社会実装、ローンチの時期は問わない。
※昨年エントリーしたものでも応募が可能。その場合は、従前のものとの違いや差分を明らかにすること。

・エントリー期間
6月30日(木)18:00まで

・審査委員
審査委員長:中村洋基(PARTY Creative Director / Founder/ヤフー メディアカンパニーMS統括本部 ECD/電通デジタル客員ECD/combo 代表取締役)
審査委員:木嵜綾奈(NewsPicks Studios 取締役 チーフプロデューサー)、後藤萌(WOW プランナー)、笹原優子(NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長)、千葉功太郎(DRONE FUND代表パートナー/千葉道場ファンド ジェネラルパートナー/慶應義塾大学SFC特別招聘教授)、天畠カルナ(博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局/デザイナー)、西野亮廣(芸人/絵本作家/プロデューサー)、坊垣佳奈(マクアケ共同創業者 取締役)、松島倫明(『WIRED』日本版編集長)、宮田昇始 (SmartHR/ 取締役ファウンダー/Nstock/代表取締役CEO)、村田祐介(インキュベイトファンド代表パートナー)

応募の詳細は、ACCサイトにて確認のこと。

関連リンク
『ACC日本のクリエイティビティ2021』