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「こうすればよかった…」反省点すべて公開:ヤングカンヌ参戦記(後編)

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電通デジタル(出向中)&Dentsu Lab Tokyoの中山桃歌と電通4CRPの鎌田明里が、2022年ヤングライオンズコンペティション(ヤングカンヌ)デジタル部門の本戦に参加しました。事前準備から本番までについては前編をご覧いただくとして、後編では結果と気づき、反省点について紹介してきます。

どれも見事だった上位受賞チーム

デジタル部門の入賞チーム

ゴールド(金賞)はオーストラリアの「UNSTEREOTYPE SKINS」

ゲームの女性キャラの80%以上が、美人で露出の多いステレオタイプな女性像を助長しているという着眼点から、オーダーメイドでアンステレオタイプなフォートナイトアバターをつくるというアイデアです。Twitchストリーマーにアンステレオタイプなスキンを使ってもらい発信していくことで、彼らのフォロワーにステレオタイプの有害性を気づかせ対話させます。

また、アンステレオタイプスキンはキャラクターが腕を組んで×をつくるポーズを備えており、Say nothing, change nothingのキーメッセージを体現。ゲームの有害なステレオタイプ にノーと言うように人々を促します。スキンを使うだけでなく、たとえばゲーム配信のコメント欄でも、キャンペーンに同意したフォロワーに×絵文字を投稿してもらうことで、プラットフォームを越境して大きなアンステレオタイプアクションを行っていきます。

→着眼点も明快で新奇性がある。デジタル部門らしくTwitchやフォートナイトなどの技術を駆使したアイデアでありながら、KOL巻き込んだPR拡散設計やキーメッセージの絵文字化で参加ハードルを下げるなど非常に細やかで具体性のあるアイデア。ボードも文字がびっしり。アイデアコンペというより仕事でも提案できそうな実現性の高いアイデアでぐうの音も出ないです。

シルバー(銀賞)はノルウェーの「YOUR ALGORITHM」

現代の強力なソーシャルアルゴリズムには、ステレオタイプが顕著に現れている。民族も性別も違う誰かのTikTokアカウントから世界を見たら、視点が変わってステレオタイプを打ち破ることができるのでは、という着眼点から、自分のTikTokアルゴリズムを寄付して、他人のTikTokアルゴリズムをのぞける拡張ツールをつくるというアイデアです。

→着眼点は私たちのアイデアと似ていたのですが、こちらの方は実現性が高く、思わずやってみたくなるアウトプットに仕上がっており、正解を出された気分で悔しいです。アルゴリズムを寄付するという一見難しそうな案だからこそ、ボードでわかりやすく簡潔にどうやって実現するかの手順が説明されていました。シルバーのボードはシンプルでいちばんかっこよかったです。

ブロンズ(銅賞)はオランダの「THE Feed/Peek」

ソーシャルアルゴリズムにステレオタイプ が現れているという着眼点から、マイノリティの個人の目を通してTwitterの世界を眺められるツールをつくって広告を打っていくというアイデアです。ツール上では自分のTwitterのフィードを共有し、他の人のフィードを覗くことができます。普段は表示されないマイノリティコンテンツを見ることで思考が変わり、ステレオタイプを破ることができます。また、プロフィールを本来と真逆の人物として利用できるようにしたり、自分のフォロワーのフィードを反ステレオタイプ コンテンツでハッキングできるようにして更なる連鎖反応を起こしていきます。

→シルバーと似ていたのですが、こちらの方がわかりにくいのと効きそう感が弱いのがブロンズになった理由かなと思いました。日本人は世界でもTwitterの匿名率が異常に高いので、ピンとこなかったのかもしれません。

失敗から学ぶアイデアのヒント

ここからは私たちが後からこうすればよかったな、と反省した3つのポイントをお伝えしたいと思います。

1)その問題が顕著に現れる場所をもっとたくさん洗い出せばよかった

最初はブレスト時の反省点です。
時間も限られていたので、まずは考え方のヒントを探すためにThe workでアンステレオタイプ関連の過去事例を探しました。

ざっと検索して、カンヌライオンズでもブロンズ以上のソリューションの共通点としては、

・おもちゃにはステレオタイプがある→性別のないクリスマスカタログを作ろう
・AEDの練習をするマネキンは男性ばかり→女性のマネキンも作ろう など、

まだあまり世間に顕在化していない、実はステレオタイプが発生してしまっている重要な場所を独自の視点で見つけるとよい。

ということがわかりました。
これに則り私たちもアイデアを出しました。

・ノーベル賞を受賞している女性は5%しかいない。理系分野のステレオタイプが顕著に現れているのはノーベル賞じゃないのか?
・白雪姫やシンデレラを男女逆転しても成り立つのか?成り立たないと感じるならば実はその物語はステレオタイプなんじゃないか?
・検索サイトで出てくる画像検索結果は偏ってないか?看護師は女性ばっかり、ロボットエンジニアなどは男性ばっかり。
・女子会こそステレオタイプじゃないか?逆にGoogle マップで女が行って楽しいスポーツバー、男が行って楽しいスイーツ屋などがサジェストされたら?
・意外にもスティーブジョブズは死ぬ前にもっと家族や趣味の時間を大切にすればよかったと後悔しているらしい。男の幸せ=仕事の成功みたいなステレオタイプはあるのでは?
・逆に、人を好きになった理由ってその人ならではの部分だから、ラブレターにこそアンステレオタイプが顕著に詰まっているのでは? などなど

この時にたくさん出せるとよかったのですが、なかなか出せず。ステレオタイプって何? 男女?職業?生き方?人種?など迷路に迷い込んだりもして、結局二人でいいねと思うアイデアを決めるのが翌日の昼くらいまでかかりました。

事前にテクノロジーをストックしていたので、そういう様々なサービスや体験の中に潜む具体的なスレテオタイプはないか?を探したりして、もっとラフにたくさんアイデアを出せればよかったなと思います。

(場所のストックはしていたのですが・・・)

2)アイデアの大きさやジャンプも大事だけれど現実的なフィジビリティも大事だった

私たちが提出したものは“Googleの職業画像検索”のアルゴリズムを1日限定で逆転するアイデア。職業を検索した時に、人々が想像するイメージと真逆のジェンダーの画像になるよう入れ替えて「女もパイロットになれるんだ」など、ステレオタイプによって将来が狭められていた害悪性を気づかせることをメインに据えて提案しました。

プレゼンではアイデアがシンプルでインサイトもよい、着眼点が素晴らしい、私はとっても好き!ボードもいい!など審査員にかなり褒めてもらえていたので、正直手応えを感じていました。しかし、蓋を開けてみると入賞もせず…かなり落胆しました。

フィードバックで理由を聞くと、アイデアもインサイトもそれを国際女性デーで行うということもよかったが、そもそもGoogleのアルゴリズムを変えることはとても難しいことだ、と言われました。全ての職業のSEMを購入するわけにもいかないし、全ての職業の検索がどこかにリダイレクトされるわけにもいかない。なので、Googleのアルゴリズムではなく、マイクロサイトを立ち上げその中でアルゴリズムを変えるとして、それをどう拡散させていくかの仕組みを説明して欲しかったと言われました。

シルバーのアイデアはTikTokのfyp(For your page)と言われるサジェストアルゴリズムをみんなでシェアして自分の偏りを見つけようというものでした。

アルゴリズムの中にアンステレオタイプがあるという着眼点は近かったのですが、TikTok社と連携をとって無理やり全体のアルゴリズムを変えるというものではなく、別でマイクロサイトを立てて自分専用のアルゴリズムをシェアするというケアがされており、アイデアコンペといえど、たくさんの人を巻き込む上でのケアが必要だったんだと終わってからすごく反省をしました。この点は国内予選とは異なる本戦の評価基準の差を感じました。

3)いろいろな新サービスやデジタルテクノロジーをもっと深く使ってみればよかった

今回のデジタル部門のゴールドはオンラインゲーム上の女性キャクターはセクシーすぎるというインサイトでしたが、さらにそこからの展開をTwitchでコラボレーションするなどかなり詰めており、実際にゲームをしているからこそ骨太な案になっている印象でした。

ボードも文字ビッシリ!で到底ひと目でアイデアがわかるようなものではなく「一枚絵でわかりやすくおもしろいアイデアがいい」という暗黙の日本のアイデアコンペの定説とは違う風を感じました(ちなみにデジタル部門は去年のゴールドも文字びっしりタイプでした)。

2021年後半はメタバースが来ており実際にアイデアを出すためには必要になると思っていたので、Oculus2でたくさん遊んではいました。ただ、オンラインゲームなどは実はやったことがなくTwitchなどはゲーム配信はしてるな〜という認識はあった、ぐらいでした(今TwitchはAmazonの傘下にいることも実はカンヌに行って知ったという感じでした)。

テクノロジーを知ってる、くらいの知識では考えられないユーザーインサイトをついたアイデアの詰め方が評価されていた気もするので、ぜひこれからデジタル部門に応募する方はどんなサービスでも一通り体験し、さらにそのファンになっておくことをお勧めします。

さいごに・・・
<実際の当日のタイムライン>
(最初に決めていた時間割通りには進みませんでした・・)

19:00- (事前にお題がSlackにて共有される)
20:00- オリエン (クライアントや審査員の発表。ここで詳しくオリエンされる)
21:00- ターゲットやゴールを設定
23:00- 具体的なアイデアを考えて見せ合う、お互い意見を言い合う
00:00- ホテルに移りアイディエーション継続
03:00- 仮眠
06:00- 会社に移る。アイデアを絞って膨らませはじめる
12:00- ここでようやくアイデアが決まり、展開や全体骨子の整理
15:00- ボード作りと並行して細かい点を詰めていく
20:00- 提出(たしか5分前ぐらいギリギリでした)

 

ボードを作っている中でより骨子に肉付けがされていくので、当日は想定より多く10時間ぐらいはとっておくほうがいいと思います。

おまけ

ちなみに今年、電通デジタルの中山はカンヌに渡航することができました(コロナ禍で会社によってルールが異なり、電通の鎌田は渡航できずお留守番でした)。

ヤングカンヌ2022はすべてオンラインだったため、逆にSlackやzoomなどで全部門の参加者の顔が見え、知り合うことができたのは面白かったです。さらに参加者同士でWhatsAppができたりして何気ないメッセージを送り合うこともできました。ポストコロナのおかげで直接コミュニケーションを取る前にワンクッションありスムーズでした。

おかげで、カンヌで実際にヤングカンヌの代表と会った時も、部門も超えて国も超えて、気軽に話すことができました。

世界ではどんなソフトウェアを使っているか?普段どんな仕事をしているか?など具体的なことを話しができて刺激になりました(デザインツールはFigmaやコピーライターとしてのツールはGoogle docsやGoogle slideを使っているメンバーが多かったです。オンラインツールの方がシェアしやすいからとも言っていました。一方でモーションデザイナーなどはMayaを使っているとも言っていて世界を超えてアプローチ方法を知ることができて興味深かったです)。

半年かかって精神的にも体力的にもヘロヘロでしたが、なんだかんだ楽しかったし学びも多かったので、やってよかったです!
本戦参加にあたり忙しい中、親身にアドバイスしてくださったみなさま、この場を借りて本当にありがとうございました!!!