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イベントレポート「『大ダメ出し時代』だからこそ『ホメ出し』を実践しよう」

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SNSを通して他人を傷つける言葉が蔓延する「大ダメ出し時代」。そんな時代に、ダメ出しではなく、人をほめる「ホメ出し」によって人間関係が豊かになるとメッセージを送るのが、書籍『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』だ。7月7日に二子玉川蔦屋家電で開催された刊行記念トークイベントの様子をお伝えする。

「今日は“矢印”を自分に向けて、学びを自分にどう生かすかという姿勢で参加してください」。イベントはそんな澤田さんの言葉からスタートした。

 

「いいね」ボタンの功罪?ダメ出しが加速する理由


最初に紹介されたのは、表紙にも入っている「あなたの言葉は、社会の一部分です。」という言葉。SNSなどを通じてたくさんの言葉が流布する社会において、今日も誰かの何気ない一言が人の気持ちを揺さぶったり、言葉に触れた誰かに少なからず影響を与えている。そして、それは残念ながらよくない方向に作用しているケースが多いと澤田さんは言う。

「現代は『大ダメ出し時代』。それを加速させているのがTwitterの存在といっても過言ではありません。言葉の粒度が荒くなりがちな1対nのメディアであり、推敲する時間もないほどコミュニケーションの速度も速すぎる。そしてTwitterでは、ホメは『いいね』というボタンひとつに記号化されています。『いいね』ボタンを押せば済むので、ホメは具体的な言葉で表現されることが少ない。その分ダメ出しのツイートの勢力に負けてしまうんです。そして、そんなTwitterのようなコミュニケーションがリアルの場でも交わされるシーンが増えてきているように感じます」

広告コピーもホメ出しも「肯定」「観察」「発見」「表現」の4ステップ

そんな空気感を変えたい、世の中における「ホメ」の総量を増やしたいと、澤田さんが考案したのが、「ホメ出し」だ。これは次のようなコピーライターの思考法から生まれたものだと言う。


コピーライティングは、クライアントである企業やその商品の良さを探すことから始まる。とにかく、存在を「肯定」的な目で見ることがスタートラインとなる。それから、フィールドワーク的にさまざまな角度から対象を「観察」する。すると、そこに必ず魅力の「発見」がある。それを「表現」するのがコピーライティングの仕事である。

これをホメるときに、そのまま使えるのではないか——澤田さんはそう思い、人知れず10年以上自身の中で研究を重ね、その成果報告としてまとめたのが本書だという。

「言葉の負債」よりも「言葉の資産」を増やす

「生きることは、多くの言葉を受けとること」だと澤田さんは言う。

人生において、人は数えきれないほどの言葉を口にしたり、発信したりする。そのひとつ一つを覚えている人はいないが、意外と他人から受け取った言葉を人は覚えているものだ。


「言葉は資産にもなり、負債にもなります。資産にもパターンがあって、一生心に残りつづけるような良い言葉、いわゆる固定資産のようなもの。もうひとつが、嬉しい気持ちになるが1週間程度で忘れてはしまうような、一瞬の良い言葉です。その反面、自分が傷ついてしまう『負債の言葉』もある。これも同じく、一生付きまとう呪いのような言葉もあれば、嫌な気持ちになってもしばらくすると忘れてしまう言葉もあります。ここで私が提唱している『ホメ出し』とは、まさにこの『言葉の資産』を贈ることです」

さらには広い目で見た時に、社会における「言葉の資産」と「言葉の負債」のバランスがあり、社会の「言葉の資産」を増やしていくことを澤田さんは目指している。「ホメ出し」とは、意図的に「言葉の資産」を増やすことで、社会の空気をポジティブな方向に変えていくアクションでもあるのだ。

ホメるために、まず「惚れる」

では、「ホメ出し」は具体的にどのようなプロセスを踏むのか。コピーライターの思考法をベースに、澤田さんが解説していく。

まず、「ホメる」の一歩は「惚れる」ことから始まる。惚れるためには「惚れレンズ」が必要だというのが、澤田さんの持論だ。人間の脳は古来より自らの命を守るため、本能的に「味方」よりも「敵」を察知するようにシステム化されている。ゆえに他人の粗探しをする方が脳としても楽なのだ。加えて、人間には「確証バイアス」(この人はこういう人だ、という最初の印象を持ち続けてしまう)もある。だからこそあえて脳にあらがい、「相手は味方で、素晴らしい人に違いない」という前提に立った上で人に対峙したり、世界を見る必要がある。

そして「観察」。相手をホメるための材料集めとなるのが観察という行為だ。そのための観察軸の例として、外見、機能、中身、関係性などが紹介された。

ホメ出しとは、自分の心が動いたことを伝える行為


観察の次のステップは「発見」だ。相手から新たに発見された魅力なのか、自分自身がすでに気づいている魅力なのか。澤田さんは発見を4つの現象で分類している。最も難しいのが右上の「自分にとっても相手にとっても新発見である『ホメ』」だという。しかし、それができれば、相手に一生の「言葉の資産」を贈れる可能性も高まる。

また、発見は「心がハッとするもの」であり、その瞬間がホメどきだという。「ホメ出しとは、相手に感動した、心が動いたことを伝えるための行為です。なので、相手を思って発していない言葉はシャボン玉のように消えていってしまう。心からの行為だからこそ、相手に伝わり、相手の心に残るんです」

表現に落とすことで、相手の記憶により残る


「ホメ出し」最後のステップは「表現」。ハッと気付いた相手の魅力を伝えるための方法だ。ストレートに伝えてももちろんよし。ただし「表現に落とす」ことで、より相手の印象に残るホメ出しになるという。本の中では澤田さんが広告コピーを研究する中で気づいた9つの表現法を紹介している。イベントでは、その中の「例える」を例に説明した。

「カロリーメイトの『それは、小さな栄養士。』というコピーがあります。商品を『小さな栄養士』と例えることで、商品の素晴らしさが具体的なイメージとして伝わります。何かに例えることでコミュニケーションが深くなったり、記憶に残りやすくなる。これは『ホメ出し』でも使える手法です」

ホメ出しの表現で澤田さんが最も力を入れているのが、「キーワードを抽出する」方法だという。

「さまざまな素晴らしい要素がある中で、それらをまとめ上げて一つの言葉に抽象化するとどうなるだろうと、私はよく考えています。このキーワードに正解はありません。自分なりの正解を楽しみながら探っていく面白さがあります」

ストレートなホメ言葉はその場で、キーワード系はじっくり寝かせて熟成させてからLINEなどで送ることも多いと澤田さん。それぞれの表現法に合わせて伝えるやり方も使い分けているという。

「ホメ出し」は、世界をアウェイからホームにする

講演の終盤には「自分自身をホメ出しするための言葉を8個集める」ワークショップを実施。「外見軸」「行動軸」「性格軸」「信念軸」「未来軸」という5つの観察軸を使って、自分を表す言葉を考え、参加者が発表した。その場で「ポジティブ特急列車」や「調和の天才」といった「ホメ出し」の言葉が生まれた。

最後に、澤田さんはこんなメッセージを送った。


「ホメ出しをすると、世界って一変するんです。世の中の見え方が変わるといいますか、今日お伝えしたことを断片的に実践するだけでも、世界はあなたの味方になっていってくれる。それに加えて、あなたがホメれば、世界はよりよくなるんです。皆さんの言葉が社会の一部であるからこそ、あなたの言葉が世界をよくする。それを念頭に置いていただけると嬉しいです」

本レポートをはじめ、本書を読んだあなたにも、ぜひ自分なりのホメ出しの言葉をシェアし、世界を明るくする一つの火を灯してほしい。

 

今後の刊行イベントのお知らせ

8月2日(火)20時〜 本屋B&B(来店・配信)
澤田智洋×水野敬也「そういえば、人をほめることについて僕たちは習ったことがない」
お申し込みはこちらから

澤田智洋
コピーライター

1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告会社入社。アミューズメントメディア総合学院、映画『ダークナイト・ライジング』、高知県などのコピーを手掛ける。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に 『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房) 、『マイノリティデザイン』(ライツ社)、『コピーライター式ホメ出しの技術』(宣伝会議)がある。