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イベントレポート:澤田智洋×水野敬也「僕たちは、ホメ出しで世界を変えられるか?」

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書籍『わたしの言葉から世界はよくなるコピーライター式ホメ出しの技術』の発売を記念して、著者の澤田智洋氏と「夢をかなえるゾウ」シリーズなどで知られる作家の水野敬也氏によるトークイベントが開催された。ときに大いに脱線しつつも人をホメることについて考えた、笑いの絶えない2時間となった。その模様をダイジェストでお届けする。

8月2日に下北沢の本屋B&Bで開催された。

草の根活動で世界は変わるのか

澤田:水野さんってホメるのがめちゃくちゃ上手いし意識してますよね?たぶん人生のどこかで戦略的に「人をホメよう」と考えたんじゃないかと思ってるんですよ。以前お話させてもらった時も、どんなアイデアもめちゃくちゃホメてくださったのを覚えてます。

水野:本当ですか?皆さんお気づきでしょうけど、いま僕すでに澤田さんにホメられてます。

澤田:(笑)

水野敬也さん

水野:確かに僕たちは普段からホメ出しをすることが多いけど、本当に叩く人は多いですよね。

澤田:本当に多いです。でも気持ちはちょっとわかります。というのも、食欲や睡眠欲みたいに「ダメ出し欲」みたいなのが多分あって、脳のデフォルトとしてものすごく快楽物質が出るようになっているから。スポーツ関係の仕事をしていると、指導者の方から「つい怒ってしまう」という相談が来るんですね。なぜ怒ってしまうのか聞いたら、「自分が怒られてきたから」とか「シュンとしてる子どもを見るとちょっと気持ちよくなる」みたいな回答もあって。確かに脳のデフォルトかもしれないけれど、脳にそのまま従ってしまうのってどうなんだろう?と思いますね。

「ホメ出しの技術」著者の澤田智洋さん

水野:そうですよね。人間として成熟していきたいですよね。今日は、澤田さんにホメ出しについて質問してみたいんですよ。本の中で「ホメ出しで世界が変わる」って書いているじゃないですか。僕も本当にそうなってほしいとは思いつつ、どこかで草の根活動っぽく感じてしまって。「本当に世界は変わるのかな」って不安になっちゃうんです。ホメることは社会を変えていくと思いたいんだけど、そこはどう考えたらいいんでしょうね?

澤田:僕は一人一人の影響力と波及力ってすごいなと思っているんです。インスタグラムのフォロワー30人ぐらいの人であれ。それは福祉の仕事をする中で感じたことなんです。というのも、例えば寝たきりの人がいて、その人は一見生産性がないように見えるし、コミュニケーションも図れないんですね。でも、周りの家族や友人が奮起してその方が快適に暮らせるようなインフラを作ろうとしていたり、何もしてないように見える人を中心にいろんなアクションが生まれている。大なり小なり、全ての人の周辺でそういうことが起きていると思っています。

水野:なるほど。数値化できない影響力が実は多大にあると。

澤田:そうなんです。僕は生産性に対してそれを「波及性」と呼んでいて、その人がいることでいろんな影響が社会に投げかけられていると思っています。嫌な事件やよくない出来事も、長い目で見た時に社会にとってプラスになると思う。「ああいう事件を起こさないようにしよう」と考えるきっかけになったり。だから活動全ての出来事や全ての人の人生に意味があると捉えています。

水野:なるほど。僕はなかなかそういう捉え方ができないんですよ。昔、インドのガンジー博物館に行ったことがあって、そこで本当にガンジーが行ったことのすごさを実感したんです。ただ、博物館を一歩出ると資本主義まみれの世界が広がっていて、結局ガンジーがしたことって意味あったのかな?って思っちゃって。

澤田:それって、何か大きな結果やわかりやすい影響に至ってないだけじゃないですか?例えば当時、インドで塩を生産・販売したいけどイギリスの塩の専売性によって生活が苦しかった人たちがいた。その人たちは「塩の行進」によってインド国内で売買できるようになったことで暮らしが楽になって、家族全員でゆっくり夕飯を食べることができるようになったかもしれない。だから大きな結果や影響力はわからないけれど、歴史には残らない小さな変化はあったんじゃないかなって思います。

水野:確かにどんな事実や出来事もミクロに見てみると、実はめちゃくちゃいろんなことが起きているかもしれないですね。いや、澤田さんはすごい。何でも答えてくれる(笑)。

成長や進化よりも、「循環」こそが最も尊いと思う

澤田:最近若い人と話していて、大きな結果に突き進みすぎてしまっている人が多いなと感じるんです。でも「その必要はないんじゃない?」って思いますね。

水野:うんうん。

澤田:もちろん成長や進化はしないといけないんだけど、成長とか進化よりも循環だと思っていて。昨日の僕と今日の僕はやっていることは大きくは変わらないんですけれども、毎日が当たり前に続いていくみたいな循環こそが一番尊いというか。だから大きな成長とか変化よりも、小さな変化を尊んだりルーティンとしての日常を慈しんだりする方が、生きる上で楽だっていうのは思いますね。

水野:わかります。でもそういう過ごし方をしていると、違う方から「それでいいの?」みたいな声も聞こえてくるんですよ。循環は大事だし人類の進むべき道ではあるんですけど、そんなの関係なく成長し続けている人もいるし…そういう人と戦ったら勝てるのかなって。それどうします?

澤田:それはですね…

水野:さっきから何聞いても即答してくれる(笑)。僕、実は本当にしたい質問があって、でもこの場にもそぐわないからやめとこうと思ってたけど、それ聞いちゃっていいですか。

澤田:どうぞ、何でも聞いてください(笑)。

水野:僕、気候変動について最近めちゃくちゃ考えていて、去年本も出したんですよ(文響社刊『最近、地球が暑くてクマってます。 シロクマが教えてくれた温暖化時代を幸せに生き抜く方法』)。で、地球がヤバくなってきている中で、いつ人間は滅ぶのかなって考えてたんですよね。人間は滅びたくないと思ってるけど、人間は恐竜が滅んだことによって生き延びたネズミみたいな生き物から誕生しているから、「滅び=悪」には絶対できない。ということは、人間を全肯定するのであれば、恐竜が滅んだことも肯定しなきゃいけないわけで、イコール人間が滅ぶことも大切なことっていうロジックが成り立ってしまう。これを思い切って澤田さんに聞いてみようと。どう思います?

澤田:それには答え方がいくつかあって…

水野:何でも答えるな!この人!

会場:(笑)

澤田:人間と恐竜の違いを考えてみると、人間は社会や地球をデザインできる能力があるんですよ。例えば里山を作ることによって、新しい生態系を作ることができるみたいな。だから、人間だけのための社会にしないようにデザインするっていうのがたぶん一つの正解なんですよね。
ただ他方で別の答え方があるならば、「絶滅=死」は悪に感じるけど、人間がずっと生きることは果たして地球にとっていいのかみたいな問題もあるじゃないですか。となると、死というバトンを渡す必要があって。

だから絶滅がいいか悪いかっていうのは、死がいいことか悪いことかっていう話になるので、死にたくないって思うんだったら絶滅しない方がいいし、死によって新たに始まる何か世界があるよねっていう観点で考えれば、絶滅もいいじゃないのかって話ですよね。

水野:なるほど。ある種死までどう生きるかを問われているってことですね。

澤田:はい。こういった答え方で大丈夫ですか?(笑)

水野:いや、めちゃくちゃいい話だし楽しいです!

ホメ出しは、相手を揺らして新しい自分を発見させる行為

澤田:会場の皆さんから質問はありますか?

——ホメたいと思いながらも、八方美人に思われるのではないかと悩んでしまいます。楽に生きようとするとあんまり人と関わらない方がいいのではないかを思ってしまうし、深く関わろうとすると悩みが増えてしまうし、円滑な人間関係を築こうとすると簡単にホメようとしてしまって…。

澤田:その悩み、もう答えが出ていると思いますよ。「人と関わらない方がいいんじゃないか」と「ホメすぎても大丈夫なのか」って、いわゆる反復横跳びをしている状態じゃないですか?その状態こそが最も正しいんですよ。どっちかに考えが偏ってしまうと価値観が固定化されて偏見が生まれたりとかするので、もう正解は出てると僕は思うんですけど、水野さんはどう思われます?

水野:まず澤田さんがおっしゃったことは本当にその通りですよね。それに加えて話をすると、「ホメ出しの技術」にも書いてありましたが、思ったことや熱を感じたことを言う分にはお世辞でも機嫌取りでもない正しい「ホメ」なので、自分が本当に思っていることなのかということの方がはるかに重要だと思います。つまりホメることに対してどう思われるのかみたいな自意識よりも、目の前の対象の人をよく見て本当にいいと思ったらホメるスタンスがいいような気がしますけどね。
でも、そもそも相手のいいところを見つける目って、どうやって養っていくものなんでしょうね?

澤田:僕はあんまり常識的な尺度でホメないんですよね。それよりは、自分の身体の反応が全てっていうか。僕は「相手のここがいい!」って思ったら心拍数がちょっと上がってる。だから自分の体が反応するっていうことは、それは何か素晴らしいに違いないっていう。

水野:なるほど。さっき考えが行ったり来たりするっておっしゃってましたけど、葛藤してるってことじゃないですか。僕は葛藤する経験が多い人ほど、ホメポイントが増えてくような気がしますね。

澤田:なるほど。

水野:自分が悩んだり経験してこそ改めてそれいいよねって言えるというか、もちろん苦しいとは思うんですけど、今まで見過ごしてたことが急にキラキラして見えるようになることってあるじゃない?悩んで反復横跳びしながら生きることそのものが、ホメ出しの技術を高めていくって言えるんじゃないですかね。

澤田:ほんとそうですね。悩むって揺れてる状態です。それって自己破壊行為なんですよね。自己破壊って新たな再生に繋がるから、それによって新たな自分が増殖できるとも言えるんですよ。だから揺れて自己破壊して、ああでもないこうでもないっていう、その寄り道全てが経験として大切です。だからやっぱり人生は揺れた方がいいと思います。
あと僕、「迷惑」って言葉がすごく好きなんです。一見迷惑をかけることって駄目なことだと思うかもしれないけど、迷惑って言葉にある通り相手を迷わせたり惑わせたりするんですよ。

水野:なるほど。

澤田:相手を揺らす行為だから相手も足場がフラフラになるし、緊張状態が高まったりするけど、何かに手を加える必要性とか、学び直さないといけないことに気づいたりする。

水野:うんうん、面白い。

澤田:だから僕は迷惑かけた方がいいと思います。実はホメるっていうのも相手を揺らす行為なんですよね。相手から自分でも気づいてなかったポイントをホメられると「自分の思う自分像と違うぞ」って揺れるんですよ。でも揺れたらその残像も含めて自分になるので、自分が増える、つまり自分の面が増えていくことにつながるんですよ。

水野:なるほど!複雑性を帯びた人間になるってことか!今の話を聞くと、揺れるという一見よくない行為に対して肯定できるし、幸せな気持ちになれますね。

澤田:いい問いを投げかけてもらったおかげですね。ありがとうございます。

執筆:藤井美帆(Qurumu)、構成:田代くるみ(Qurumu)

笑いの絶えない2時間のトークショーでした!

澤田智洋著『わたしの言葉から世界はよくなる
コピーライター式ホメ出しの技術』

本体1800円+税

 

プロフィール:

 

(左)澤田智洋(さわだ・ともひろ)

コピーライター。1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告会社入社。アミューズメントメディア総合学院、映画『ダークナイト・ライジング』、高知県などのコピーを手掛ける。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に 『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房) 、『マイノリティデザイン』(ライツ社)、『コピーライター式ホメ出しの技術』(宣伝会議)がある。

 

(右)水野敬也(みずの・けいや)

作家。愛知県生まれ。著書に「夢をかなえるゾウ」シリーズほか、『雨の日も、晴れ男』『顔ニモマケズ』『運命の恋をかなえるスタンダール』『四つ話のクローバー』、共著に『人生はニャンとかなる! 』『最近、地球が暑くてクマってます。』『サラリーマン大喜利』『ウケる技術』など。また、画・鉄拳の絵本に『それでも僕は夢を見る』『あなたの物語』『もしも悩みがなかったら』、恋愛体育教師・水野愛也として『LOVE理論』『スパルタ婚活塾』、映像作品ではDVD『温厚な上司の怒らせ方』の企画・脚本、映画『イン・ザ・ヒーロー』の脚本を手掛けるなど活動は多岐にわたる。

 

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