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“世界の見え方”が変わる「ことばの発明」を―上坂あゆ美×木下龍也

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宣伝会議「コピーライター養成講座」に通った後、歌人となった木下龍也さんと、広告会社で戦略プランナーをしながら第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)を出版された上坂あゆ美さん。ことばの世界で活躍する歌人の二人が「コピーの魅力」を解説します。

※本記事は、2022年9月22日~25日に開催した「宣伝会議賞」60回記念したイベント「そのことばのある前と後~広告の中のことばたち~」で実施したトークイベントの一部を抜粋したものです。アーカイブ配信はこちら

「見えていなかったもの」が見えてくる

上坂:私は木下さんの短歌が好きで、出版記念イベントにうかがったこともありまして。木下さんの短歌は色んな人に広く刺さる、キャッチコピー的なところが魅力だな、と以前から思っていました。

木下:すみません、イベント時の記憶がなくて、上坂さんとお会いするのは今日が初めてだと思っていました…(笑)。僕も上坂さんの第一歌集を読ませていただきました。お互いに切り口は違うんですが、「いいなぁ。」と思う歌がたくさんありましたね。

上坂:ありがとうございます。今回はまず、お互いの「好きな短歌」を、ということで紹介していきたいと思います。まずは木下さんの選んだ一首を。

ざる蕎麦のすだれの隙間に挟まった蕎麦を抜き出すことができない 平安まだら

木下:これは、ざるそばの「かけら」の話なんですけど。蕎麦を食べた後にすだれの隙間にちょっと残っているかけら。あれって「見えてはいるけれど、見てはいないもの」だと思うんですね。だから、蕎麦屋を出た時にはすっかり忘れている。
でも、この歌を読むと、これまでに見てきたいくつもの蕎麦のかけらが、記憶のなかに灯され、見えるようになる。ふりかえった夜道で、手前から順に街灯が灯り、まっすぐな道筋が見えてくるような快感があるんですね。人の頭の中に侵入できる力を持った歌だな、と思います。

上坂:たしかにそうですね。良い短歌とは何か?という話で、「読む前と後で、ものの見方を変えてしまうのがいい歌」と言われることがあります。これって、良いコピーの定義とすごく似ていますよね。発見の規模は違えど、この歌にも同じものを感じます。

「世界のすべて」を受け止めた歌

上坂:それでは、次に私の好きな一首を。

とおくまでいこうねバニラ高収入バニラバーニラこのはるやすみ 篠原仮眠

これはもう、ホントに私がつくったことにしたいな、と思った歌(笑)解説すると、「とおくまでいこうね」「このはるやすみ」という登場人物の会話に、いわゆる「バニラカー」のアドトラックの音声が挟まれている、という構造です。

木下:あ〜!なるほど。

上坂:新宿や渋谷のような喧騒のなかで、作中主体が友だちと青春の一コマのような会話をしている。しかしバニラカーが横切ることで会話は細切れになって耳に届く。これはもはやキャッチコピーを超えて、CMっぽいというか、映像作品的ですよね。これを短歌でやられたことに、めちゃめちゃ「発明」を感じてシビレました。

木下:現実を忠実に再現しているというか、「バニラ高収入」という生活の中に入ってくるノイズをちゃんと入れ込んでいる点がすごいですよね。

上坂:そうですね。短歌って、モチーフだけを切り取ることも多いですけど、この歌は鋭敏な聴覚で「世界の全部」を受け止めているような感覚がある。最近、広告業界でも「生っぽさ」とか「リアル感」がすごく重要視されていますが、その文脈にも近いかもしれません。

どっちに転んでも、チョコ礼賛

木下:次は、「好きなコピー」を発表していきたいと思います。これは第44回の宣伝会議賞でグランプリをとったコピーです。遠藤紀子さんという方が書かれています。

「ずるいよ、
チョコ食べてる時に、
そんな話するの。」

明治ミルクチョコレート

このコピーは、まず可愛いですよね。「チョコ」とか「ずるいよ」という自然な会話体で描かれている。それによって、いつの間にか自分がこのセリフの発話者であるかのような錯覚を味わうことができるんですね。

また、「そんな話」とぼかして余白をつくることで、読んだ人がそこに該当する自身の経験や思いを、ここに当てはめることができる。そして、自身を当てはめたそこに、チョコレートがある。そんな仕掛けをつくれたことが素晴らしいですね。

上坂:「そんな話」の中身がネガティブでもポジティブでも、「チョコレートは、最高だ。」というメッセージが伝わる構造になっているところが凄いです。例えば、「付き合いませんか?」という話でも「別れましょう。」という話でも、どちらにせよ「チョコ食べてたら、“いいよ”って言っちゃうじゃん。」という意味になるなんて、すごい発明ですね。

短歌は「なくしたもの思い出しゲーム」

上坂:私の好きなコピーは、「ぼくのなつやすみ」というゲームのコピーで、

「なくしたもの思い出しゲーム」

というものです。ユーザーの中では今でも、この言葉がゲームと一緒に語られているほど有名なんですが、めちゃめちゃいい言葉だな、と。ゲームというのは本来、「やったことがないこと」をやりに行くものですよね。それが「自分の中にすでにあったこと」を思い出すゲーム、というポジションは凄く新しい。「私も思い出したい!」って思ったんですよね。
コピー自体がゲームジャンルにおける「ポジショニングワード」として機能していて、すごくシャープな言葉だな、と思いました。

木下:「なくしたもの思い出しゲーム」って、短歌じゃないですか?

上坂:え?それは、短歌自体が「なくしたもの思い出しゲーム」ということですか?(笑)

木下:僕、個人的にはそうですね…。

上坂:あはははは!なるほど、私が「ぼくなつ」好きなのは、短歌が好きなことと同じかもしれないですね(笑)

「悩める力が、一番大事。」

木下:僕は以前、宣伝会議さんの「コピーライター養成講座」を受講したことがあるんですが、今でもすごく勇気をもらっている言葉があるんですね。講師の谷山雅計さんが「今から言うことをノートに書いてください」と言った言葉、それが「悩める力が、一番大事。」でした。
短歌を書く時、ああでもない、こうでもない、と悩むたびに思い出して、肯定してもらっているような気持ちになる言葉ですね。

上坂:いい言葉ですね…。みんな、きっと悩むのが辛いから、「悩むのは、これぐらいにしておいたら?」と言ってほしいのかもしれません。でも、出る時は出るし、出ない時は出ないのが短歌。そういう時に、すごく救われる言葉ですね。

わたしにとって、言葉とは?

上坂:最後に「わたしにとって、言葉とは」。それじゃあ、私からいきます。 
わたしにとって、言葉とは「世界へのデモ活動」ですね。人間にとって、社会に対する違和感とか、世界へ意見を表明できる手段こそが言葉なんだ、と。日々、そういう気持ちで言葉をつくっています。木下さんにとって、言葉とはなんでしょうか?

木下:全然ひねりもせずに率直に言うなら、「大嫌いで、大好きなもの。」ですね。ずっと言葉について考えていると、「言葉じゃないところに行きたい」と思ったり、言葉のことを嫌いになったりしてしまう。そういう意味では、「嫌いだけど、それがないと生きていけないもの」の方が、より正確かもしれませんね。だから「仕事道具」、です(笑)

―イベントの様子は、こちらからご覧ください。

第60回「宣伝会議賞」応募のご案内

「宣伝会議賞」は、宣伝会議賞は、月刊「宣伝会議」が主催する広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。
一般部門・中高生部門で作品を募集しています。

【応募期間】
2022年9月1日(木)10:00~2022年11月1日(火)13:00

第60回宣伝会議賞公式サイト:https://senden.co
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