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「宣伝会議賞」にAIが応募したら?―『脳科学の視点』アドタイ出張版

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月刊『宣伝会議』では、研究者の視点から広告やコミュニケーションを読み解くコラムを連載しています。宣伝会議賞の締め切りまであとわずか。言葉をみつけるヒントとして、3回にわたって『視点シリーズ』のアドタイ出張版をお届けします。第3回は脳科学の視点です。「AIと共創する広告の未来」、2022年10月号11月号掲載分を再編集して掲載します。

AIに「プール冷えてます」はつくれるか?

読者の皆さまは、「ディープラーニング」という言葉を聞いたことがあるだろうか?「深層学習」とも訳され、2012年にHinton教授のグループが画像認識コンペティション(例:写真の中にネコが写っていることを検出する)でぶっちぎりの一位で勝利を収めたことから、社会的に注目されるようになったAI技術である。深層学習の背景には、人間の脳を模擬したニューラルネットワークがある。深層学習は人間の脳と完全に同一視できないものの、脳の視覚野との類似点から、さらに近づけていこうとする研究が行われている(Kubiliusら, NeurIPS2019)。近年では、この深層学習技術は、社会のDXへの需要とも相まって、至る所で使われ始めている。

その前、深層学習の目覚ましい成果が、まだ画像の分野でとどまっていた頃、筆者は言語を扱う自然言語処理(NLP)という分野において、AIによるキャッチコピーの自動生成の研究を行っていた。筆者は、3つのキャッチコピー生成AIの考案と開発を行った。

ひとつ目は、手本を真似するAI(山根・萩原:AI & Society 2015)だ。これは統計的にキャッチコピーらしいものを教え、それをAIに模倣させるものである。例えば、キーワードに「温泉、リラックス」を入力すると「温泉で心安らぐ森の休日」が、「映画、感動」では「涙と笑いの青春映画」が出力される。

2つ目は、玉石混交を是とし、奇抜なキャッチコピーの生成を狙ったAIである(山根・萩原:JACIII 2013)。「100人乗っても大丈夫」のようなキャッチコピーが、直接「頑丈です」と言わないにも関わらず効果的であることに着目し、Webから自由で斬新な単語を取得し、奇抜な組み合わせを狙うことを主眼としたAIを実装した。このAIでは、情景となるキーワードを入力すると、例えば「景色、美しい」から「神秘が降る、海のテレビ」「ゆっくり、楽園をつくろう」や「ネタ、面白い」から「いつもそこに武士」などが生成される。

3つ目のAIでは、SNSから単語表現を取得し、機械学習アルゴリズムを使ってそれらの単語の中で好まれるものを予測し、生成に適用した。例えば、ノートパソコンに対して、「世界の文字を変える時が来た。」というキャッチコピーが生成されている(山根・萩原:感性工学会論文誌 2014)。

ところが、2017年頃、NLPにおいても、深層学習を用いた「汎用的な大規模言語モデル」が登場したことで、高品質な文章生成が行えるようになってきた。ここでいう「汎用的」とは、言語モデルを少しいじることで、様々なテキストの生成をしたり、文章の識別(例えば、ツイートを喜怒哀楽に自動分類)などを行ったりすることを指す。「言語モデル」とは、「文中のある単語列が出現する確率を、前の単語に基づいて決定する確率統計モデル」である。

具体的な例を挙げると、「お魚くわえたドラ猫 追っかけて 素足でかけてく 陽気な_____」に当てはまる単語、「サザエさん」を予測するAIのことである。インターネット上の文書をかき集め、膨大な量を学習させて、単語を予測するAIをつくる。不完全な文を入力すると、その先を予測してくれるAIにチューニングを加えたら、人間作成のものに引けを取らない品質の文章生成ができてしまった。ということである。

大規模言語モデルを用いてEコマースに適用した研究例(Xueyingら、AAAI2022)も登場しており、自動化の一途を辿っている。このような深層学習手法の発展により、コピーライティングの営み自体が焼け野原になってしまうのだろうか?

そんなことはない。例えば、遊園地・としまえんの「プール冷えてます」は、AIでの生成は困難だ。暑い夏に、絶妙な冷たさを、ビールにかけて訴求する表現。五感に訴えるものをオリジナルでつくり出すことは現状では困難である。

また心の痛み、優しさなどの社会的な側面もAIは大の苦手である。いま、個人に寄り添ったブランド化やパーソナライゼーションがトレンドだ。単純なカスタマイズにとどまらず、五感、社会性などの「生物としての人間」に焦点をあて、一方で利用できる範囲でAIを上手に活用する。そこにこそ、共創できる未来があるのではないだろうか。
 

理化学研究所
革新知能統合研究センター
山根宏彰氏

慶應義塾大学より、「キャッチコピーの自動生成に関する研究」で博士号(工学)を取得。東京大学特任研究員時代にマルチモーダルAI研究、京都大学特定研究員時代には脳情報デコーディングに従事。現在、理化学研究所 革新知能統合研究センター 医用機械知能チーム 特別研究員。ココロと健康に寄与し、Well-beingを実現するAIに興味がある。https://inside-brain.net/ja/

 

第60回「宣伝会議賞」応募のご案内

「宣伝会議賞」は、宣伝会議賞は、月刊「宣伝会議」が主催する広告表現のアイデアをキャッチフレーズまたは絵コンテ・字コンテという形で応募いただく公募広告賞です。
一般部門・中高生部門で作品を募集しています。

【応募期間】
2022年9月1日(木)10:00~2022年11月1日(火)13:00

第60回宣伝会議賞公式サイト:https://senden.co
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