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継続する「カルチャー」に必要なものとは? マーケターとカルチャーのこれからの関係―「CMO X FORUM」レポート

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「マーケターの集合知で日本に突き抜けた成長力を」のスローガンのもと、2014年11月に発足した「CMO X」。2020年4月からはマーケターの、マーケターによる、マーケターのための組織として、運営の在り方を刷新。毎年ボードメンバーを選出し、そのメンバーが中心となって年間の活動を設計・実行してきました。 ボードメンバーは自身が考えるマーケティングの課題について、同じ問題意識を持つメンバーと集まって分科研究会を結成。半年かけて議論を重ね、その成果は11月9日、10日の2日間かけて開催された「CMO X FORUM」の場で発表されました。各チームの半年にわたる議論の末、導き出された結論とは? 2日間にわたる「CMO X FORUM」の様子をレポートします。

カルチャーの中心にあるのは、信念のような価値観と熱量

長田新子氏がリーダーとなるチームでは「CMO X CULTURE」をテーマに議論を重ねている。長田氏は前職のレッドブル時代に「CMO X」の活動に参加。現在は、産官連携しての渋谷の街 のブランド力強化の取り組みを行っており、その文脈においても捉えどころのない「カルチャー」をテーマ にマーケター同士で議論をしたいとの目的で発案された。

 
長田:私たちのチームではカルチャーとマーケティングの関係性をひも解くことを目的としましたが、議論はまず「カルチャーをどのように捉えるのか」から始めました。カルチャーは人のライフスタイルや趣味・思考などとリンクしていて、誰かに押し付けられるものではありません。自発的な精神でカルチャーに関わる人たちと「ともに育てていくもの」かなと。それで私自身は、カルチャーを教育ではなく「共育」と捉えています。

角田:カルチャーの中心には、「周りがなんと言おうと自分はこう思う」という信念とも呼べる価値観が共有されていて、熱量もすごくあるように思います。これは企業文化にも通じるものではないでしょうか。私は商品開発から広告コミュニケーションまで携わるなかで、自分たちが持つ「他社とは違う固有の価値観」の大切さを感じています。当社の場合で言えば「ビジネスを通じて人々の生活や心を豊かにしていこう」という熱量を会社の仲間たちと共有できるからこそ、良い循環でビジネスが回り、独自の企業文化が根付いているように思います。

津田:熱量や情熱は大事ですよね。アートをコンテンツの核にして盛り上がる瀬戸内海にある直島も、もともとはベネッセホ―ルディングスの名誉顧問の福武總一郎さんが、直島の町長と「瀬戸内の島に世界中の子供たちが集える場をつくりたい」という思いをひとつにして、まさに情熱から始まったプロジェクトです。

長田:世耕さんはメンバーで唯一「文化」と名の付く学部のご出身です。この言葉をどうとらえていますか。

世耕:突き詰めていけば、人間が生きる営みの中で、自然に生まれるものすべてが「文化」であるという認識です。ただし、消滅していく文化もあれば、継続していく文化もある。例えば、平安時代に流行した「蹴鞠」は今、年に1回、京都のどこかで見られるかどうか。

津田:「カルチャー」も「文化」も、人為的に作り出せるものではありません。蹴鞠で言えば、「蹴鞠を大切にしていこう、残していこう」という社会的な空気みたいなものがカルチャーになる。私はファンベースという考え方で、企業やブランド、地域の事業支援に携わっていますが、そうした空気感は自然に生まれた後、時間をかけて育てていくものかなと捉えています。直島の成功も一朝一夕のものではなく、40年くらいかけていろいろなものを積み上げてきた結果、今の空気感がつくられ有名になりました。短期的なマーケティングや企画で、いきなりカルチャーなんてつくれない。カルチャーの創造には、中心に理念や目標、あるいは熱量みたいなものがあった上で、中長期的な視点でのマーケティングが必要です。

カルチャーにとって、マーケティングは武器になる。

葦原:カルチャーとマーケティングの関係で言えば、マーケティングの“深さ”も大事です。
私はオリックス・バファローズと横浜DeNAベイスターズで働いた後、「Bリーグ」の立ち上げに携わり、今はハンドボールリーグの仕事をしていますが、スポーツに対する世間のイメージは、今は良いものだと思います。ですが、戦後間もないころはどちらかというと「スポーツは悪だ」と捉えられていました。「野球するなら勉強しろ」と言われた。漫画もそう。「漫画ばかり読むんじゃない」と叱られる存在だったのに、1990年代以降に『セーラームーン』が海外で人気になると、急に漫画やJポップがカルチャーと言われるように。ゲームも今や、「目指すべきはeスポーツプレーヤー」なんて言われる時代。カルチャーを創造する上でマーケティングは、最初は幅広い人に受け入れられることより、 ニッチなところに深く差し込んでいく方が重要だと考えています。

世耕:あと、成長していく文化には、必ず有能なマーケターが介在していますよね。たとえば、日本人は「土用の丑の日」になるとこぞってウナギを食べます。これは、江戸時代に平賀源内がつくった短いコピーがきっかけでした。ビタミン剤もこれだけ充実している現代なら、土用の丑の日ばかりか、夏にウナギを食べる必要もないはず。それなのに「土用の丑の日はウナギを食す」という食文化が未だに深く根付いています。その意味でマーケティングは、「文化を守り、継続し、発展させるための武器」ではないでしょうか。

伝統芸能や伝統工芸もそう。消滅させたくなければ有能なマーケターを引き入れる必要があります。大学スポーツでいえば、今は唯一認知度が高い箱根駅伝も、やはりマーケティングの発想を持ってきちんと普及させてきたからこそ。マーケティングの要素がなければ、スポンサーさえ付かない。マーケティングを武器として使わなければ、大学スポーツはいずれ消滅するのではないかという危機感を抱いています。

長田:スポーツというカルチャーと企業とのかかわりもありますよね。

角田:当社は2003年から、ガンバ大阪さんとスポンサーシップを結んで活動しています。企業活動の観点から言えば、やはりスポンサーの露出量が多いスポーツやリーグに対して興味を持つのは事実です。ただ、今回の議論を踏まえて、「文化を盛りあげる、継続させる」という目的で、現在あまり日が当たっていないカルチャーに光が当たるように頑張ることも、企業として意味があると改めて感じました。

長田:私は前職で、エナジードリンクの「レッドブル」の認知度を上げるために、当時まだマイナーだったブレイクダンスのカルチャーと繋がりながら、マーケティングに10年携わりました。最終的にブレイクダンスは2024年のオリンピック種目になりましたが、マイナーな文化を盛り上げることと、企業のマーケティング活動は、必ずしもトレードオフの関係にはならないですよね。

葦原:スポーツに限らず、絵画もアートも歌舞伎も、文化の定義でいわゆる「文化的事業」に当たるものはすべて、経済的にうまく回っていません。助成金の仕組みなどもあり、マーケティングをしなくてもなんとなく回せてしまう世界ですが、今後しっかりとマーケティングメソッドが入らないと、日本の大事な文化がどんどん失われていくはず。文化を残すために、稼ぐという文脈からも、マーケティングはより重要視されるべき領域でしょう。

津田:今は副業や兼業ができる組織も増えています。せっかくさまざまな実務経験を積んだマーケターがいるわけだから、今の組織に所属しながらも、皆さんのスキルを使ってもっといろいろなことにチャレンジしてほしい。今後は、そういうカルチャーも日本につくっていけるとよいですね。
 

【MEMBER】

渋谷未来デザイン
理事 事務局長
長田 新子 氏

 

日本ハンドボールリーグ
代表理事
葦原 一正 氏

 

近畿大学
経営戦略本部 本部長
世耕 石弘 氏

 

ファンベースカンパニー
代表取締役社長
津田 匡保 氏

 

ロート製薬
マーケティング&コミュニケーション部 部長
角田 康之 氏

 

【アーカイブ動画も公開中!】

本セッションの様子はアーカイブの配信も行っています。
詳細は下記記事を参照ください。
魅力はコミュニティの熱量?~マーケターと「カルチャー」のこれからの関係(CMO X FORUM2022 アーカイブ)