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BtoBマーケを誤らないために 自社の現状を把握するフレームワーク

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BtoB企業がテレビCMなど広告施策を打つケースが増えてきた。運用型テレビCMサービスを開発・提供するテレシーの貴志和也氏は「自社のポジションを把握することから着手したい」と指摘。顧客企業を伸ばしている会計ソフトの「freee」の軌跡をたどりながら、BtoBマーケティング施策の枠組みを整理する。

BtoB企業による広告が活況だ。テレシー ストラテジックプランニング本部本部長の貴志和也氏は、「BtoBのテレビCM出稿はここ数年で15倍。タクシー広告やエレベーター広告も増加しており、ここ2年間で、2、3倍と急伸している」と話す。

テレシー ストラテジックプランニング本部本部長 貴志和也氏

「しかし、他社の事例を参照しても、成果につながらないことは珍しくない。その場合、自社のポジションを把握できていないかもしれない」(貴志氏)

たとえば、自社のサービスが全く新しいもので、カテゴリー自体が認知されていないにもかかわらず、サービスの詳細だけを押し出すのでは、顧客拡大につながりづらい。

テレシーが提唱しているのは、カテゴリー認知度とサービス認知度で分類した、「5 segments」という分類だ。

テレシーが提唱する「5 Segments」のマトリックス
テレシーが提唱する「5 Segments」。サービス認知度の分類めやすは〈低〉が15%未満、〈中〉が15〜40%、〈高〉が41%以上
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カテゴリー認知度が高い:
ターゲットが、カテゴリー全体の概要や、それを利用する価値について認知している状態。先行する大手〜中堅のサービスが複数あることが多い。
たとえば、「表計算ソフト」なら、先行例はIBMの「Lotus 1-2-3」やマイクロソフトの「Excel」、SaaSではグーグルの「Googleスプレッドシート」が挙げられる。
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カテゴリー認知度が低い:
先行するサービスがないか、またはあったとしても認知度が低いサービスのみ。サービス認知度が低〜中の商品・サービスの場合、カテゴリー全体についての認知度を高める必要があることから、カテゴリー認知度が高い商品・サービスよりも、マーケティング予算を割いているケースが多い。

横軸は「自社の商品・サービスそのものの認知度(サービス認知度)」で、「低・中・高」の3つ。縦軸は自社の商品・サービスを含む「カテゴリー全体の認知度(カテゴリー認知度)」で「低・高」の2つに分ける。サービス認知度が「高」で、カテゴリー認知度も「高」の場合は、〈市場リーダー〉として1つの区分とする。そのほかはサービス認知度・カテゴリー認知度の組み合わせで、計5つに区分けするという枠組みだ。

カテゴリー認知度が高い場合のポイントは、「純粋想起を得ようとしないこと」だと貴志氏は話す。たとえば、『歯磨き粉』というカテゴリーの中には、『歯周病予防』や『ホワイトニング』といったサブカテゴリーがある。『歯磨き粉』を15のサブカテゴリーで分けると、純粋想起されたサブカテゴリーが最も多いのは『GUM』(サンスター)だ。

しかし、『知覚過敏対策』は、『シュミテクト』(グラクソ・スミスクライン)、『歯垢除去』は『クリニカ』と、一部のサブカテゴリーでは『GUM』を上回るブランドがある。

「ある調査データによると、純粋想起に挙がるサービス名の数は平均で1.34〜2.32の範囲に収まります。先行するサービスが2つ以上ある場合、短期間で自社サービスが純粋想起に挙がるようにするというのは、見かけ以上に厳しい目標となります」

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純粋想起:
調査対象者に「歯磨き粉と言えば?」といった質問をし、ほかにヒントがなくても商品・サービス名が挙がること。
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助成想起:
名称や写真の選択肢のような手がかりを提示した上で、商品・サービス名が選ばれる場合は、助成想起という。

サービス認知度が低〜中の段階で狙いたいのは助成想起だ。その上で、サブカテゴリーの形成を狙う。先行する商品やサービスとの差異をカテゴリー化する。カテゴリー認知度が低い場合は、まずはサービスよりもカテゴリー自体の認知度を高めることが優先される。

「そのカテゴリー自体を採用する利点や、採用しないことによるロスについての意識が低い状態です。カテゴリー認知度が高い場合に比べ、純粋想起を獲得することは容易ですが、それは追いかけるべき目標を誤っています。認知度の低いカテゴリー内で純粋想起を追いかけても、事業自体はなかなか拡大しません」(貴志氏)

ポジションごとに、動画広告で追求すべき目的は異なってくる。サービス認知度が低い場合、カテゴリー認知度が低ければ、カテゴリー認知度が優先される、というのは、前節のとおりだ。変わってくるのは、サービス認知度が中程度以上の場合。

テレシーの5 Segmentsで、区分別に動画クリエイティブの力点を配置したもの
テレシーの5 Segmentsで、区分別に動画クリエイティブの力点を配置したもの

「サービス認知度が中程度あるということは、サービス立ち上げから拡大期ということ。ここでは認知よりも、より深いサービス理解が重要になってきます。サービス認知度が高い状態であれば、認知や理解よりも、好意を獲得していくことが大切です」(貴志氏)

拡大期において、強い味方となるのがタレントの起用だ。電通グループのキャンペーン効果測定プラットフォーム「DCAMVAS」によると、タレント費用3000万円以上の有力タレントを起用した場合、そうでないCMに比べて、同程度の出稿量(GRP)であれば、1000GRP以上から認知率が有意に上昇することがわかっている。

「カテゴリー認知度がある程度高まってくると、自社サービスの認知度をどんどん上げていければ、かなりの追い風になります。当初タレントなしで展開していた企業でも、著名な女優を起用し、認知度の向上にレバレッジを効かせているケースがあります」(貴志氏)

タレント起用の考え方:タレント起用と認知率の関係

認知度や理解度の向上を目指した結果、見過ごされがちなのが、情報収集の受け皿の用意だ。テレシーの調査では、発注元担当者1000人のうち、「当該サービスの公式Webサイトで情報収集した」人が46.7%に上った。次いで「公式Webサイト以外の情報をインターネットで検索した」が34.5%だった。

「公式サイトには、わかりやすさと情報量の両立が求められていることも調査で明らかになりました。加えて、公式サイト外での情報収集先が複数にわたることも見逃せません。検索エンジン最適化(SEO)やコンテンツマーケティングの重要性が伺えます」(貴志氏)

「社内外で、サービスにくわしい人に話を聞く」という人も3割弱いる。多様な情報接点を構築しておくことが重要だ。

20人中2人のマーケ担当

サービス認知度が高まってくると、新たに登場する壁もある。

「認知度が上がってくると、『数あるクラウド会計ソフトのひとつ』などと捉えられるようになってきて、『freee』自体の個性、キャラクターに愛着を持ってもらえるような企画が必要だと感じました」。こう話すのは、freeeのブランディングやマーケティングを担う岡田悠氏だ。

freee brand studio 岡田悠氏

freeeではBtoBマーケティングの一環として、「確定申告FES」(2020年、21年)や、「スモールビジネス映画祭」(2020年)、一般社団法人ビズ・ディスタンス協会の設立や、雑誌『起業時代』の発行など、従来の枠にはまらない施策を打ち出してきた。

freeeの創業は2012年で、ことし10周年を迎えた。個人事業主と従業員1000人未満の起業=スモールビジネスを対象に、クラウド会計サービスの「freee会計」と「freee人事労務」を開発、提供している。販売管理業務用の「freee販売」もリリースした。

これらを合わせたfreeeのプラットフォーム事業の有料課金ユーザー企業数は、22年7〜9月期で38万6655件。前年同期比で23.5%増、前四半期の4〜6月期比で1.9%増となっている。ユーザーあたりの収益は前年同期比10.4%増の4万2611円だ。

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最初はマーケターが自分でやるのが重要

freeeの成長を支えてきた要因のひとつが、BtoBマーケティングだ。黎明期からマーケティングを担う岡田氏は、「創業時の社員20人中、2人がマーケティング担当だった」と明かす。当初からマーケティングを重視していたことが伺える。

検索連動型広告やSNS広告、マーケティングオートメーション(MA)ツールの導入や運用……と、実施施策は枚挙にいとまがない。「世の中のデジタルマーケティングは全部やってみよう、と思っていました」と、岡田氏は話す。

「自分たちで手を動かすと学べることも多いです。知見が社内に貯まってくれば、『これは広告会社に委託しよう』『ここは自分たちでやろう』といった裁定ができるようになるので、最初はマーケターが自分でやるのが重要だと思います。広告運用の設定を間違えて、想定以上の予算を使ってしまうなどの失敗もありましたが」(岡田氏)

次第にクラウド会計ソフトというカテゴリー認知度も上がり、freee会計のサービス認知度も上昇していった。そして至ったのが、冒頭の状況だった。

社内外を巻き込むブランディング

創業当時から現在に至るまで重視している検索エンジン最適化(SEO)のほか、前述のネット広告の出稿やMAは、「これからも基本事項として実施します。ただ、それだけでは全体的には縮小していくのではないか、とも感じています」(岡田氏)

「なにか、非連続的な成長のきっかけとなるような施策が必要」――そこで開催したのが「確定申告FES」だ。2020年2月22、23日の両日に開催した第一弾は、お笑い芸人によるやラジオ「J-WAVE」などによるステージと、freee会員対象で仕訳登録や申告書を作成する「もくもく確定申告会」を実施。「六本木ヒルズ」(東京・港)の会場とオンライン視聴に約4000人が参加した。

こうした企画で重視しているのは、「freee社員のテンションが上がること」だと岡田氏は話す。

「自分たちの会社は、こんな面白いこともやるんだ、というふうに思ってもらえると協力を得やすくなります。ただ数値で成果を示すだけではなく、年に1、2回程度は、投資対効果(ROI)が予測できないけれども、社員の気持ちが高まるような施策を打ち出すことが、『freee』というブランドを築いていく上ではとても大切なことだと考えています」(岡田氏)

「freeeらしさ」とは何かを、社員から集める活動も1年間かけて実施した。「freee」らしい単語を挙げてもらいながら、「freeeらしさ」を浮き彫りにしていった。結果、たどり着いたのは、「自由」を核としながら、解放や自然体、ちょっとした楽しさという概念が関連づいているのが『freeeらしさ』だった。

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“1年かけてfreeeらしさを明らかにした”

ソフトのUIや、社内外での体験施策やランディングページ、チラシ、画像素材のひとつに至るまで、『freeeらしさ』と照らし合わせながら、マッチしたものを奨励しているという。

「もともと会計ソフトというのは、くわしく話を聞かなければ差がわかりづらいもので、イメージを持ってもらうことが大事です。また、社員にとっても、ボトムアップで『freeeらしい』『freeeらしくない』という共通理解が築かれれば、すべての体験が『freeeらしさ』で統一され、個性が輪郭を持って、愛着を持ってもらえる。その関係のあり方が、ブランドだと考えています」(岡田氏)

本稿は、2022年10月26日にオンラインで開催されたセミナー「BtoB企業に特化した事業成長のためのマーケティングを徹底解説!」の内容を再構成したものです。


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