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楽天IDが強いワケ 楽天グループ紺野氏、電通デジタル杉浦氏が語り尽くす

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ECサービスが広告事業を拡大させ、先行する検索サービスやSNSなどの広告収益を追いかけている。こうした変化は広告業界に何をもたらすか。そしていまや不可欠のものとなったデータから切り離せない個人情報への向き合い方から、どんな変化が起きても古ぼけない本質まで――。ネット広告を黎明期から知る楽天グループの紺野俊介氏と、電通デジタルの杉浦友彦氏が縦横無尽に語った。

紺野俊介氏 杉浦さんは昨今のオンラインマーケティングで、どんなことに注目されていますか。

杉浦友彦氏 コロナ禍によるECの伸長と足並みを揃えていると思いますが、ECプラットフォーマーによる広告事業の伸長やリテールメディアの台頭に注目しています。マーケティングを考える上で、革新的な変化になっていると思いますね。

どのような人がいつ、どのような物を買っているか、買い続けているのか。オフラインでの購買実績も含め、データで可視化されるようになってきているので、クライアントサイドもROI(投資利益率)の高い手段としてEC広告やリテールメディアを活用していきたいというニーズがあるように思います。

楽天グループ 執行役員 紺野俊介氏
楽天グループ 執行役員 紺野俊介氏

紺野 各種のマーケティング施策が、最終的にどう購買に寄与しているのか。そこを捉えられるようになって、マーケティングにおけるクライアントとのコミュニケーションも変わるし、担務できる領域にも変化が起きていると思います。

杉浦 マーケティングを支援する広告会社としては、クリティカルな変化だと感じています。購買データをもとにした効果検証というのは、すでにマーケティングのプランニングや広告表現を下支えするものになりつつあります。データを駆使して説明責任を果たしていかなければ、広告主との会話が噛み合わない世界に来ていると思いますよ。その説明力の上に、プランニングやクリエイティブなどの創造性を肉付けしていくイメージです。

紺野 適応はするとして、広告界は適応できていますか。

杉浦 電通デジタルで言えば、クライアントよりも先に我々が変わらなければ、という姿勢で取り組んでいます。少なくとも、購買履歴を含めた個人データの取り扱い方から、購買を主体にした提案の〈型〉、効果検証手法などの研究開発は、競合に先んじて取り組んでいる、という自負はあります。

RMP – Connect
広告運用実績をダッシュボード上で確認・分析できる運用型広告プラットフォーム

楽天さんとの取り組みで言えば、2017年に電通グループとの合弁会社「楽天データマーケティング」を設立し、早5年がたちました。2021年からはRMP – Connectの基礎となるβ版ソリューションの開発を支援し、2022年だけでも約60社の広告主、約180案件で活用いただき、購買データを活用したマーケティングの実践知を積み重ねてきています。

ただ、それは広告業界に限らず、流通・小売業やメーカーを含めた、マーケティング業界全体の要請であり、生存戦略になっているように思います。

楽天を含め、ECプラットフォームの価値のひとつは、言うまでもなくIDに基づく購買データや各種属性データです。小売業はもちろん、メーカーはどう自社の事業に生かすかを真剣に考えている。店頭でのキャッシュレス決済を含め、消費者の購買行動のデジタル化が進むにつれ、ECプラットフォームの成長が加速し、オフライン中心の小売り各社主導のリテールメディアも台頭してきている。今は、業界全体の機運が高まっている状況かと思っています。

紺野 そうした中、マーケティングをサービスとして提供できるプレーヤーは多様化してきていると思います。コンサルティングファームも、顧客体験やCRM(顧客関係マネジメント)を強化し、マーケティングの領域に手を伸ばしていますよね。

片や、エージェンシーも、従来のコンサルティング会社の領域に進出してきた。各社の専門領域の重なりが広がって、クライアントもどのパートナーを選ぶのがいいのか、というのが課題になってきているのではないですか。

杉浦 そうですね。そういった側面はあるように感じます。ただ、私としてはエージェンシーという役割は今後も必要だと思います。なぜなら、クライアントがコミュニケーションをしたい消費者の購買行動の全体像を捉え、売上をあげようとするならば、購買地点から時間をさかのぼって、購入者がどんな経路をたどってきたのか、エンド・トゥ・エンドで顧客理解を深めることが、マーケティング活動の核になると考えているからです。

そして、モノを買うときの気持ちの動かし方、どういうタッチポイントを経て、ポジティブな気持ちで商品を手に取っていただくか。そこには深い顧客理解と、広義のクリエイティビティが必要で、それをデータやテクノロジー活用とセットで提供するのが我々の大事な使命だと思っています。

紺野 クライアント側の変化はどう見ていますか。先ほどはサービス提供側の領域の重なりに触れましたが、クライアント側での変化も感じていると思います。

電通デジタル 副社長執行役員 杉浦友彦氏
電通デジタル 副社長執行役員 杉浦友彦氏

杉浦 二極化が進んでいるように感じます。というのは、楽天IDのように、ひとつのIDで、いわゆるマーケティングファネルの上から下まで、全体像を捉えうる武器が手に入ったとき、宣伝部や営業部、あるいはブランド広告と販売促進、と分かれていたところを連携させようとか、全体で投資の妥当性を検証しよう、といったR&D(研究開発)を含めた知見の深掘りに進む企業もあれば、CPA(顧客獲得単価)やROAS(広告の費用対効果)等、効率の見えやすいファネル下部の刈り取りや販促施策に予算が集まるケースもあります。

後者が必ずしも間違っているわけではなくて、経済状況に合わせて獲得効率を追求することは半ば自然なことだと思います。ただ、ライバル企業が多く、シェア争いをしている状況では、ブランド構築や、潜在客を増やしていく活動も、消費者に選ばれたり、売上の規模を追求する上では不可欠なわけです。自社のブランドが置かれた環境を冷静に見極めながら、「短期と長期」、「効率と効果」など、複合的な目的でのマーケティング投資判断をしていけるか、という点が分かれ目になるかもしれません。

紺野 組織全体で最適化を図りながら、売上を拡大したり、シェアを広げたりしていくための投資とするなら、経営者の意思が非常に重要になってきますよね。そのときに、各部署をつなげる役目も果たすのが、データなのだと思います。自分たちの顧客はどんな人々なのか、精確につかみ、共有する。

総論としてデータは重要だよね、ということではなくて、組織内の各レイヤーでどう実務で価値を出していくかを考えないと、使いこなせる企業と、そうでない企業とでギャップが広がっていってしまいますね。

杉浦 ファーストパーティデータ(自社で蓄積したデータ)だけで完結できる企業はかなり限られていると思います。多くの企業の場合、消費者とのタッチポイントは、オウンドメディアと実店舗。顧客の姿をつかむにはそれだけでは足りません。その点でも、「楽天エコシステム(経済圏)」というのは、あらゆるタッチポイントを備えていて、それが強い武器になっていると思います。

紺野 手前味噌にはなりますが、楽天IDのタッチポイントで、生活のほとんどをカバーできると思います。ただ一方で、私たちは、「良質な素材」はありますが、広告主が望む「料理」をすべて作れる会社ではありません。我々で足りない部分もあるかもしれない。そのときに、より便利な広告サービスを提供して、広告主がマーケティングの最適化を図れるようにする、そこにエージェンシーの方々と組むという意義があると思っています。

「購買データ起点」における楽天の強みを示した図
「購買データ起点」における楽天の強み

そうした中で顕著になってきたのが、ユーザーが何を選ぶか、だと思います。結局、そのタッチポイントに支持を得られるか。不当にデータを用いているような企業への忌避感は高まるばかりです。正しくないことが「正しくない」と言われるような世界になったのだと、あらゆる企業はすでに気づいているんじゃないでしょうか。

杉浦 全く異論ありません。企業のブランド棄損やレピュテーションリスクに対する危機感は高まっていますし、グレーなやり方を続ける企業が淘汰されるスピードは、明らかに速くなったと思います。データだけではありません。表現でも誇大広告的なものについては消費者庁も対策の強化を始めていますし、消費者はもっと早くから、そうした欺瞞に気づいている。そういった企業にお金は使いたくない、という人はどんどん増えていますよね。

紺野 そもそも個人情報は個人のもの、というのが基本的な考え方です。データはユーザーのものであることを基本にビジネスを作り続けるべきです。楽天グループは、「楽天ポイント」やユーザーが求める体験を提供することの対価として、データを活用させていただくパーミッションを得ています。

杉浦 データを「素材」に例えるとすれば、その仕込みから味付け、調理、単品ではなくコースとしての心地よい顧客体験までを含めて、広告主の目的や消費者の好みにあった「料理」を提供するのが、我々エージェンシーの役割だと思っています。

その中で、企業が直接に消費者とつながり、データの取得やCRMを通じてLTV(顧客生涯価値)を高めていくことはもちろん重要です。ただ、それだけで事業に大きなインパクトをもたらせるかというと、必ずしもそうではないのだと思います。なので、自社だけで閉じずに、自社の「外」にある広大な経済圏の中で、擬似的なIDを使ってマーケティングのPDCAを回す。それらを両輪で取り組むことが、ビジネス全体のトップラインを伸ばすには必要だと考えています。

その上で、消費者にどんな体験をもたらせるか。法規制への対応についてはあくまでスタートラインで、それは必ず守られるべきものです。もっと重要なのは、消費者にとって不快感を与えないか、倫理観として間違ったことをしていないか、という部分まで総合的に考慮し、コミュニケーションを続けていくことなのだと思います。

杉浦 楽天グループは、いまやオンラインのコマースプラットフォームというよりは、オフラインにおいても大きな存在感を持っていますよね。

紺野 商品流通を考えると、ECは伸びたとはいえ、現状もオフラインのほうが圧倒的に大きいですからね。実店舗を有する小売事業者の方々との協業も進んでいます。ただ、オフラインでも重要なのは、すでにお話ししたとおり、ユーザーの体験だと思います。自分たちのデータを持っていかれてしまう、ではなく、ユーザーにとっての体験がブランドにつながっている。

杉浦 そうですね。我々も、事業の本質は変わっていないと考えています。誰に、どんな便益を提供し、それをどこでどんなメッセージとして伝えたら、気持ちが動くのか、行動に移してもらえるのか。結局のところ、そこにつきると思います。

その中で使えるデータがリッチになってきていたり、タッチポイントのデジタル化が進み、手段自体が多様化しているということはあるにせよ、手段だけに囚われてしまうと、結局前に進んでいないことが多い。

紺野 昔、「RSS(Rich Site Summary)広告」ってありましたよね。名前としては懐かしいものになってしまった。それはRSS自体がそんなに広まらなかったということもあるかもしれないのだけれど、それだって数多あるツールで同じことが言えますからね。

受信をするフィードの設定が必要で、そこからの情報がほしいと思って登録して、お知らせを受け取るものと考えれば、本質的には変わらない手法が現在も複数ありますよね。RSSというツール部分に注目するか、本質の部分に注目するかで、違いが出てきますね。DMP(Data Management Platform)なんかも同じことが言えそうです。

杉浦 そういうことだと思います。ただ、その中でも非連続的な変化だな、と思うのは、くりかえしになるかもしれませんが、IDベースでお客さまを捉えられるようになったこと、オンラインとオフラインを跨いだ購買までが可視化できるようになってきたことだと思います。

紺野 そうです。これまでは、オフラインの情報は断片化していて、いつ、何が買われたかの情報がある、いくら使ったかの情報がある、あとは各社バラバラの会員情報のようなもので。それらがつながって価値を生み出すためには楽天IDが必要で、そのために「楽天ポイント」が必要だった、ということです。

楽天スーパーポイント
「楽天ポイント」を軸に「楽天エコシステム」を拡大

杉浦 キャッシュレス決済がここ数年で普及しましたが、おそらくこの流れは不可逆だと思います。IDに基づく購買データが活用される時代。デバイスは変化していくかもしれない。そのように、どの部分は変わっていくもので、どこの部分は変わらない本質なのかを見極める必要がありますね。

これからも、手法的には新しいものが出てきたり、さまざまな変化が起きたりすると思うのですが、パーミッションが適切に得られた自社の「内」と「外」のリッチなデータの活用が、マーケティングの基盤になっていくという流れは、もはや不可逆で普遍的なものではないかと思います。

そのような時代に備えて、多くの企業の事業成長パートナーになるために、我々も引き続き試行錯誤とチャレンジを重ねていきたいと思っています。

(写真左)電通デジタル杉浦友彦氏、(同右)楽天グループ紺野俊介氏
(写真左)電通デジタル杉浦友彦氏、(同右)楽天グループ紺野俊介氏


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