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データクリーンルームの価値・活用の可能性とは

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2016年に存在が提示されたデータクリーンルーム。言葉は聞いたことがある人も多いかもしれないが、活用することによってもたらされる価値について理解している担当者は少ない。データクリーンルームとは何なのか。取り組みに注力している電通、博報堂DYメディアパートナーズ、トレジャーデータに聞いた。

電通
データ・テクノロジーセンター 
部長
前川 駿氏

データアナリストとして、テレビ×デジタルの統合プランニング・効果計測を推進の後、2015年にテレビCMとデジタル広告の統合マーケティングプラッフォームSTADIAの開発を担当し、プロジェクトを牽引。現在、プラットフォーム事業者から提供されるCookieフリー時代の新たなデータ基盤データクリーンルームの開発支援と広告や販促領域における導入を中心に活動。

トレジャーデータ
最高戦略責任者
山森康平氏

ドリームインキュベータにて主にエンターテイメント業界及びPEファンド向けのコンサルティング業務と自社の投資先向けのハンズオン支援に従事。2013年より投資先のアイペット損保へ出向、アイペットではデジタルマーケティングを活用した販売チャネルシフト、RPA導入プロジェクト、代理店向け業務システム開発、金融庁との折衝窓口、投資業務等を担当。2019年にトレジャーデータへ参画。

博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局 
局長代理兼メディアプラットフォーム戦略グループ マネージャー
二木 純氏

2017年よりデジタルメディア部門にて、主にグローバルプラットフォーマーを担当する。今年度新設したメディアプラットフォーム戦略グループのグループマネージャーも兼務しData Clean RoomやAPIなどプラットフォーマーのデータやソリューションを活用したAaaSソリューションの開発をリードしている。


注目の背景はROIへの関心の高まり?

―国内においてデータクリーンルームが注目され始めた背景や理由をお聞かせください。

二木:ひとつは、企業のマーケティングROIへの関心が高まったことが理由だと考えています。背景には従来の計測基盤だけでは、プラットフォーマーが持っているデータを用いての分析が不十分だという事情もあります。加えて企業側にもCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)の普及がある程度進んだことで、活用の基盤ができてきたことも理由に挙げられると思います。

山森:二木さんが指摘されたように、ROI重視に伴ってデータクリーンルームが注目されるようになった背景には、3rd Party Cookieの利用制限によって配信・分析の精度が下がったことが挙げられます。また、昨今はコロナ禍やウクライナ戦争などによって世界的に広告宣伝費が削減され、広告に割く予算策定が厳しくなっていることもROIを重視する理由でしょう。精緻な広告効果測定を行い、費用対効果が高い広告出稿が求められていることが、データクリーンルームへの注目と関連していると思います。

前川:デジタル広告は予約型から運用型へ。そしてCookieを用いた、広告の効果測定が行われるようになりました。一方でCookieの規律強化の背景には、一般の人のプライバシーやデータ活用に対する意識の高まりがあります。生活者が求めるプライバシー保護を担保しつつ、引き続き企業としては広告の効果を正しく把握し、運用効率を高めたい。これら2つに対応し得る解決策のひとつとして登場したのがデータクリーンルームです。

各社が考える、データクリーンルームとは?

電通
データクリーンルームは、分析する『場』であり、分析には①解析ロジックや②データセット、③専門知識があるデータアナリストが必要になる。電通では、この3つをサポートする「TOBIRAS」というソリューションを提供。
 
トレジャーデータ
電通、博報堂DYMPとは違い、データクリーンルームをつくる立場。Yahoo!JAPAN、LINEと連携してデータクリーンルームを開発している。また、Amazonのデータクリーンルームとも提携可能なCDPを提供。広告会社や事業会社が運用しやすいような基盤をつくる役目。
 
博報堂DYメディアパートナーズ
博報堂DYMPでは高度な解析を提供することに加え、AaaSというデジタル、テレビ×デジタル、テレビのプラニングをサポートするサービスを整えている。データクリーンルームはAaaSに、どうデータを取り込むかという手段のひとつだと捉えている。


 

―社会情勢や生活者の変化もデータクリーンルームの普及に関連しているのですね。

前川:データクリーンルームの利用に限らず、多くの企業で広告・マーケティング活動のDXを通じて、事業自体を変革しようとする機運が高まっていると感じます。このDXの重要な手段となるのがデータなので、自社でもCDPを整備しようという流れになるのは当然です。ですが、自社で保有するデータだけでは精度とスケールを両立するマーケティング活動をするのは難しいと考えたとき、ひとつの解決策としてプラットフォーム事業者のデータと連携する、すなわちデータクリーンルームに着眼するのだと思います。

二木:デジタル化は企業も生活者もデータに関するリテラシーを上昇させましたよね。たとえばオンライン決済やポイント経済圏の隆盛も昨今著しいですが、今後はそのようなデジタルサービス事業者のデータクリーンルームとの連携も進んでいくと思っています。決済ソリューションの浸透による、オフラインの購買チャネルのデジタル化とデータ取得は、データクリーンルームの可能性を拡げると考えています。

前川:そうですね。リアルの店舗や自宅がスマート化することで、購買、その後の利用や消費の行動データを活用し、これまで以上にエンドユーザーの買い物を中心とした体験の充実とマーケティングROI向上とが両立するマーケティングも可能になると確信しています。これも、時代とともにデータクリーンルームが注目される理由なのではと思います。

山森:先行き不透明な昨今の状況により、広告・マーケティング予算は引き締められましたが、その代わり顧客接点の創出や顧客体験を良くするITには投資していくという潮流もあります。つまり、会社をこれから発展させるために、顧客データの活用は価値があると位置づけられているということです。その潮流に沿って、企業にデータが揃ってくると、分析に活用できるデータが増えるのでデータクリーンルームを使う価値が高まっていきます。このような企業の意識・戦略の変化とテクノロジーの進化がちょうど噛み合ってきたのが今なのかなと感じていますね。

データクリーンルーム 開発側と企業の意識に差が

―皆さんがクライアント企業と接する中で、データクリーンルームという概念の浸透についてはどのように感じていますか。

前川:感覚的には、クライアントに「データクリーンルーム」という言葉を使って説明するのは20 ~ 30%ほどですね。まだ広く意識はされてないのかなという印象です。データクリーンルームは分析手段のひとつと位置付けられるため、データクリーンルームが直接的にもたらす価値は企業からすると理解が難しいことも意識されていない理由だと思います。データクリーンルームが解決策というだけで、その手段自体を企業が求めているわけではないですし。

山森:我々のお客さまはデータを統合・分析する部門が多いので、そもそもデータを扱ってきたという人がほとんどです。なので、データクリーンルームという名前くらいは聞いたことはあるという人が多いですね。ですが、前川さんがおっしゃるように、データクリーンルームの使い方や価値までを理解している方はほとんどいないと感じます。

二木:昨年くらいまではデータクリーンルームに関する基本的な質問をいただくことが多かったのですが、逆に現在はそうした相談は少なくなっている印象です。ですが、社内でソリューションをつくる立場から言うと、データクリーンルームで何か新たな開発ができないか、という具体的な打ち手に関する会話は頻繁に行われるようになってきました。前川さんがおっしゃるように、データクリーンルームの活用が進んでいく中で、クライアント企業に対してはあえて、その言葉を説明することより、ソリューションとして提案が進んでいる状況なのだと思います。

前川:私も同意見です。今は、言葉は何となく知っているという企業も増えてきましたし、ソリューション開発側は「データクリーンルームで何ができる?」という部分に議論が移行していますね。データクリーンルームがもたらし得る可能性は、開発者は理解しているのですが、享受する側のクライアント企業はあくまでソリューションのひとつとして捉えているのだと思います。

―データクリーンルームはデータ活用の領域なので、相談があるのはマーケティング部署の方々だけではなさそうですよね。

二木:そうですね。ただし前述のとおり、私たちがデータクリーンルームを手段として活用した広告・マーケティングのソリューションを提案する場合の一次窓口としてはマーケティング部署の方が多い印象です。

前川:データクリーンルームは狭義の広告だけでなく、広義のマーケティングROIの向上に関係する活動だと思います。データを活用する際はマーケティング部門だけではなく、システム部門や情報セキュリティ部門なども関わってくるので、データ自体のセキュアをどう担保すればよいか、と相談いただくことはあります。先ほど二木さんからオンライン決済の話もありましたが、販促やプライシング、流通の領域だと営業など、他の部門も関係してくる。広義のマーケティングは“商売”そのものだとすると、もちろん経営戦略にも大きく関わります。データクリーンルームが企業の中の組織に横串を刺し、組織を横断したDXを実現するきっかけになるかもしれません。

山森:我々の場合は、情報セキュリティ部門からの相談も多いです。もともと組織を横断したデータ利活用のためのCDPや、情シスの懸念を解決する仕組みを提供しているので、マーケティング部門以外の方からも相談をいただくこともあります。

前川:海外ではデジタルプラットフォーム事業者だけではなく、クラウド会社、IT会社もデータクリーンルームを提供しています。関連部門はより増えていくのではと思います。

大事になるのは「横断」 組織を変える役割を担えるか

―広告のパフォーマンスを上げたり、ROIを高めたりさまざまなメリットがあるデータクリーンルーム。マーケティング活動への可能性についてはどうお考えでしょうか。

二木:当社では、テレビとデジタルの横断分析という領域に着目し、データクリーンルームを活用した、「Tele-Digi AaaS」というソリューションを開発しています。プラットフォーマー・テレビ・調査ベンダーのデータを統合・分析できるものです。マーケティングROIに関しては、デジタルとテレビへの投資配分の最適化を検討する企業は多い。ですので、デジタルとテレビという「媒体」を横断した分析や、各プラットフォーマーを横断した分析軸ができるというのは価値になると考えています。

山森:日本だと広告プラットフォーマーがデータクリーンルームを提供していますが、海外ではAmazonのデータクリーンルームが活用可能になりました。当社もグローバル企業のお客さまで、すでに活用を始めています。あるブランドの事例なのですが、自社のECサイトの会員へAmazonプライムデーの案内をメールで送付し、どのように商品が売れるのかを検証しました。結果、過去に自社ECで購買履歴がある人たちのほうがメールの開封率やCVRが高かったのですが、購入金額の総額を比較すると、自社ECで購買履歴のない人たちのほうが、Amazon上で多く買っていたことがわかったのです。小売プラットフォーマーのデータクリーンルームを活用すれば、これまで分断されていたAmazonなどの購買データと、自社のECサイトを結び付けた分析ができるようになります。通常、自社EC部門は外部のECプラットフォーム上での販売は管掌していないことが多いのですが、データクリーンルームは分断されていた組織をつなぎ、変革するきっかけにもなるのではないかと考えています。

前川:自社のCDPだけでは、データの欠測や取得される質の影響で、リコメンドの精度が低くなったり、オファーの内容が顧客の求めているニーズと合致しないことも想定されます。このような課題を解決するためにもデータクリーンルームを活用した分析が有効です。広告コミュニケーションだけでなく、あらゆる領域の課題を解決する可能性を持っていると思います。

二木:皆さんがおっしゃるように、プラットフォーム横断の分析ニーズは非常に高いです。例えばSNSプラットフォームで言うと、同じ生活者が同じ商材に関する情報を得るのでも、それぞれのプラットフォームに期待する役割は異なる。こうした多様な使われ方を踏まえた提案が必要で、その施策の実現に際しては、各プラットフォームのデータを横断的に分析することが大前提になります。コミュニティに応じたクリエイティブの出し分けといった施策も、データクリーンルームを横断した分析で可能になるのではないでしょうか。

―最後に、皆さんそれぞれが今後どのようにデータクリーンルームの価値提案をしていきたいと思っているのか教えてください。

山森:現状データクリーンルームは、各プラットフォームを横断して分析することはできません。かつ運用コストが高く、専門知識が必要で、誰もが手軽に利用できる状況ではありません。トレジャーデータとしては、データクリーンルームを自社で使えるようにするための分析テンプレートやシステムを整えていこうと考えています。情報セキュリティの懸念をクリアし、安心してインサイトの抽出に集中できるプロダクトを提供したいと思っています。

二木:当社では最近データクリーンルームを”民主化する”というキーワードがでてきました。分析の専門部門だけではなく、多様なメンバーが自分でデータクリーンルームを活用できるような環境を構築し始めています。そうして標準化されたスキルをベースに、次世代型のメディアビジネスモデルの一環として、プラットフォーマー横断、テレビ/デジタル、オンライン/オフラインなどの垣根を越えたマーケティング施策の推進を支援していくことに注力します。

前川:データクリーンルームの活用において、当社が注力するのは3つのボーダーレス。自社のCDPとデータクリーンルームを横断してマネジメントできるボーダーレスな人材を社内にさらに育てること。そして、国や地域によって捉え方が違うデータクリーンルームを、海外と連携するときにどうすればよいか、国境を越えて考えること。そしてクライアント企業内の組織間の壁を越えて広義のマーケティング実践に繋げるための支援ソリューションの提供です。さまざまなボーダーを越えることに力を入れていきます。

Q:データクリーンルーム、マーケティング活動への可能性は?

A: 電通
統合データを通じ、企業内の部門をひとつに。顧客体験の進化で、マーケティングの効率とスケールの両立も実現。
 
A: トレジャーデータ
様々なプラットフォーマーのデータを活用できるようになり、組織横断でのマーケティングを行うきっかけに。
 
A: 博報堂DYメディアパートナーズ
ファネルを横断した連続性ある生活者データから、新たなターゲットやジャーニー、インサイトを発掘できる。