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パーパスは期待する効果から逆算して策定 たきコーポレーションの新社内カンパニーがレシピ解説

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期待する効果から逆算して「パーパス」を策定するには――。たきコーポレーションの社内カンパニー「IGI(イギ)」は3月1日付の発足に先駆け、企業のパーパス策定の枠組みについて解説するセミナーを開催した。策定自体が目的にすり替わらないようにするには、「策定のプロセス自体が機能させるために設計されており、企業とコピーライター、クリエイターが共にプロジェクトを進める必要がある」とする。

セミナーは「言語化」と「ビジュアル・アイデンティティ(VI)制作」の2部構成で、「言語化」では最終的な表現に至る前の段階から、「VI制作」では事前に策定したパーパスに従って軸足をぶらさずにデザインの良し悪しを判断する方法などを解説した。

「それらしい言葉をいきなりアウトプットしてしまうと、『つくっただけ』で終わってしまう」と指摘するのは、前半を担ったIGIのコピーライター、山田季世氏だ。山田氏が「世の中で多く見られる」と話す、パーパスに期待されていることは次の4つ。

パーパスに期待されていること
  • ステークホルダーから信頼や共感を得る
  • 社員の帰属意識やエンゲージメントを高める
  • その企業の改革やイノベーションのきっかけになる
  • その企業の社会貢献の取り組みが促進される

「こうしてみると、『パーパス』に期待される効果は、いずれもハードルが高いものです。それぞれから出発すると、制作段階で重視すべきポイントは次のようなものが考えられます」(山田氏)

パーパスの制作段階で重視すべきポイント
  • わかりやすく平易な言葉で表現されているか
  • 企業の成長と社員の共感、やる気につながるか
  • 既存事業との一貫性や、その企業が実現できるものか
  • 社会貢献を含む内容であるか

「パーパス策定は、存在意義の言語化。それをさらに言い換えると、その企業のメンバーが行動する理由を明示すること、だと私たちは考えています。行動する理由として実際に使われるもの、おざなりにされないようにするためには、『覚えやすいものか』という点も見過ごせません」(山田氏)

実際の行動理由になるような条件を備えたパーパスの策定は、経営陣や社員の生の考え、言葉を集められるだけ集める「インプット」から始まる。自社が世の中に何を提供できるのか、反対に世の中が求めていることは何か、それらが交差する点は何かを社員で書き出すワークショップや、経営層へのインタビューに始まり、その企業に関連する書籍や記事など外部の情報を集めていく。

その次に行うのが、山田氏が「インストール」と呼ぶフェーズだ。メンバー個々の思いや、言葉から伺えるその企業の方針、課題を読み解いたり、ワードを整理してキーワードを抽出したりする段階だ。そして表現の段階に進んでいくが、その前にまだ何を言うか、を分けていく必要がある。

「『パーパス』に限ったことではありませんが、『わかりやすさ』や『覚えやすさ』と、すべてを言い表せているか、は相反しがちです。そこで、『インストール』で得たことを2つに分けていくことが重要になります。『パーパス』だけでなく、『ステートメント』を作るのです」(山田氏)

山田氏の分類では、「パーパス」は行動の理由や指針。一方、「ステートメント」は、「パーパス」を運用する際に、具体的なイメージをふくらませるもの、思いや共感を生み出すものという役割を持つ。

「その企業が社会に対して約束できること、価値観や考え方、熱意、ストーリーなど、『パーパス』策定時にとりこぼしやすいものを込めた文章です。『ステートメント』があることで、どのように見られたいか、という印象や、企業の人格を表現することができます」(山田氏)

「パーパス」では何を言うか。「ステートメント」ではどんなことを伝えるか。機能で言い換えるなら、実際に指針として使えるものか。見た人の共感を生み、心に火を付けるものか。ここから先がコピーライティングのテクニカルな部分になっていく。

「パーパスは“言葉づくり”と誤解されるケースも散見されますが、本来すでにある存在意義を導出し、言語化することで、改めて生み出すものではありません。いきなりどう表現するか、から入ってしまうと、結局のところ使われなかったり、正しいことを言っているけれどもなかなかそのとおりに行動しづらいものになってしまうのではないでしょうか」(山田氏)

パーパスは策定するだけでは効果を発揮しない。秘めた考えがあっても、それを外に発信しなければ、周りからはないものとして見られてしまうのと同じだ。

「パーパスを策定し、世の中に伝えていく上で、最も多く目にふれるものがビジュアルアイデンティティ(VI)です。パーパスと整合性の取れた見た目とはどのようなもので、どんな印象を与えるものであるべきかを検討し、具現化していくのがVIデザインのフェーズになります」(IGI デザイナーの米山浩太郎氏)

VIデザインでも、まずはリサーチから始まる。社員アンケートやインタビューだけでなく、店舗の視察を行ったり、すでにある広告物やWebサイト、ツール、パッケージなどを使われ方などを把握する視覚監査なども実施する。競合他社の表現物も同様だ。

「特に競合調査は、その市場の中で自社がどのように見られたいか、どんな存在を目指すかというポジショニングを決める上でも重要です」(米山氏)

このポジショニングが、制作したデザイン案を判断する軸のひとつになる。ほかに考えられる基準は、「ロゴでコンセプト、すなわちパーパスが伝わるか。そのパーパスを指針とするブランドの人格(パーソナリティ)を伝達できているか。デザインの良し悪し、といったものが考えられます」と話すのは、IGI デザイナーの白田翔氏。

「特にデザインの良し悪しというのはどう判断すればいいのか、ということがあろうかと思います。しかし、まずはこういった複数の項目で星(得点)を付けていくことが、デザイン選定のとっかかりになります」(白田氏)

実際にやってみると、確かに偏りが出てくる。IGI自体のロゴを策定する際は80案に対し、星を付けていった結果、9案にまで絞り込まれた。

「その次の選別では、付けられた星の付けられ方を見ていきます。そこにも偏りがあるはずで、バランスがよいもの、どれかが突出しているもの、というものが見えてきます。ある程度しぼられていれば単に投票を行って得票数を見たり、あるいは、『この先も長く使えそうか?』といった条件を追加するのも手です」(白田氏)

IGIのロゴのケースでは、ここで9案から3案に。この段階で商標調査を実施して、似たようなデザインがすでにないかを確認する。複数案段階で調査するのは、万が一似たものがすでにあった場合の手戻りコストのほうが大きくなるためだ。

そして残されたロゴに対して特徴づけをし、それぞれの案の強みや弱みを可視化していく。長く使えるもの、フォルムに独自性があるもの、込められた意味が魅力的なもの……等々。

「最終的に掲載することに名刺や封筒、そのほかのツールでの見え方も、この段階でチェックしていきます。そうすると、選定時には顕在化していなかった、可読性の高い低いなどの機能的なメリット、デメリットなどがより明快になるためです」(米山氏)

近年、注目されている「パーパス」だが、「2020年ごろからバズワードになった」と話すのは、IGIのクリエイティブディレクター、木村高典氏だ。Google検索の回数だけを見ても、21年には前年の10倍の40億回に急伸した。企業だけでなく、個人にも「パーパス」が必要とする考え方も出てきている。

「存在意義、と訳されますが、社会に自社の存在意義が認められ、愛着を求められている状況は、企業体にとって業績が伸びていたり、安定して長く続いていたりという点で現れます。それをさらに変わる世の中に合わせて最適化していく。製品開発や社員のモチベーション、あらゆる企業活動の起点になるものです」(木村氏)

指針(考え方)があり、デザイン(見た目)があり……当然、最も重要なのは、行動への落とし込みだ。言動不一致な状態では、いかに声高に存在意義を訴えたところで、世の中には浸透していかない。翻せば、この3点が揃うことこそ、「ブランディング、アイデンティティのデザインではないかと考えています」(木村氏)

IGIは、ブランドデザインに特化した社内カンパニーとして、3月1日付で設立。「パーパス」策定や、VI設計といった制作領域だけでなく、よりテクノロジー領域、コンサルティング領域への進出も目指すという。

「パーパスは、ミッション・ビジョン・バリューと言われていた時代もありました。呼び名が変わっただけで、ずっと大切にされてきた考え方であったはずです。しかし、より機能するものを求められてもいる。私たちも制作だけにとどまらず、クライアント企業の未来を作るための設計を担っていけたらと考えています」(木村氏)