非クリエイティブエリートたちの「ADFEST」ヤングロータス挑戦記/現地篇

タイ・パタヤで開催されたアジア太平洋地域の広告アワード「ADFEST(アドフェスト)」における若手向けのワークショップ・コンペティション「ヤングロータス」。日本からは安本一優氏(ADKマーケティング・ソリューションズ CMプランナー)と高田雄大朗氏(ADKマーケティング・ソリューションズ アートディレクター/デザイナー)のチームが代表として現地参加しました。審査員の審査によるゴールドはダッカ(バングラデシュ)のチームに、そして日本チームは、会場の観客による審査で1位となったチームに送られる「Popular Vote」を受賞という結果に。今回は、この2人によるヤングロータス体験記を「出国前篇」「現地篇」の2回にわけてお届けします。

こんにちは、人事出身で、現在CMプランナーの安本と申します。

前回の高田くんのレポートに続き、ここからはアドフェスト現地での様子をお届けします。最初からクリエイティブ配属ではなかった、いわば非クリエイティブエリートの僕たちが、現地でどう戦ったのか。泥くさい話も含めて、なるべくリアルにレポートできればと思います。

1日目 ワークショップ

テーマは「ボーダレスクリエイティビィティ」

前回のレポートでも書かかれているとおり、今回「ヤングロータス」に出場するための国内予選が行われたのは3年前。その後、コロナ禍となりようやく3年ぶりに開催されました。

ヤングロータスが3年間も延期になっていた理由。それは、「現地でしかできない交流から、学びを得てほしい」という主催者側の意向があったからだと聞きます。そんなあたたかな対応に感謝しつつも、3年間待ったぶん結果を残さなければと、緊張感も持ちながらタイのスワンナプーム空港からパタヤへと移動しました。

到着後、早速その夜にウェルカムパーティーが開かれ、他の14の国・地域の若手クリエイターたちと顔を合わせます。

いざ話してみると、同じ広告業界でも国ごとに意外な違いがあったり(ベトナムの子は、カナダからフルリモートでベトナムの会社に勤務していたり!)、同世代共通の悩み(CDにどうやってアイデアを認めてもらってる!?とオーストラリアチームと愚痴るなど)が多々あり話は尽きず、そのまま2軒目に繰り出しました。

同世代共通の悩みや愚痴で話は尽きませんでした。

翌日、今回のホストであるオグルヴィの講師陣によるワークショップが始まります。テーマは「ボーダレスクリエイティビィティ」。アイデアをボーダレスに広げていくために、避けた方がよい思い込みや、逆に守らなければいけないことなどを、講師たちが実際に携わった仕事を交えながら説明してくれました。紹介される事例は日本にいる時からすでに目にしていた有名なものだらけ。この事例をこの人がつくっていたのか!と驚くばかりでした。

2日にわたり講義が行われた会場。

そして、終日にわたってみっちりと行われた講義の後に、今回のワークショップのチェアマンであるリード・コリンズ氏が思わせぶりなことを言います。「みんな、今日の夜は、スプライトについてよく調べておいた方がいいかもね」――翌日に出される課題への匂わせ発言でした。おいおい、前日から揺さぶらないでくれよ…!と心がザワザワしたのを覚えています。

2日目 12:00 いよいよ課題発表

お題は「スプライト」の新ブランドメッセージをどうやってZ世代に広げていくか。

2日目の午前中にも講義を受けたのち、いよいよ取り組む課題の発表がありました。オリエンは、グローバルで新キャンペーンを開始している炭酸飲料のスプライト。このスプライトの新ブランドメッセ−ジ、「HEAT HAPPEN STAY COOL」(カッとなる瞬間は、スプライトで冷静になろうという意)を、いかにZ世代のポップカルチャーに入り込みながら、広めていくかというものでした。

14:00 今までの練習にないタイプの課題に混乱が……

ワークショップ会場から宿泊場所へと向かいながら課題について高田くんとディスカッションを始めます。国内予選や事前の練習では社会的な課題が中心だったため、既存のブランドメッセージを拡張するというお題にはやや不慣れで、現状のブランドのクリエイティブのトーンをどこまで守るのか? Z世代のインサイトは?など、あーでもない、こーでもないと話し続けました。

そんな中、ふと携帯をみると、ヤングロータス参加各国のメンバーが入るWhatsAppで盛んにやり取りが行われていました。「オリエンのあのスライドがうまく見えなかったんだけど、ズームした画像持ってる人いない!?」「オリエンで使ってたフォント、なんだろうね?」など。

普通ならライバル同士、疑心暗鬼になるはずなのに、みんなでお互いのわからないことを伝え合っていました。アイデアを競う相手であるとともに、同じ業界、同世代の仲間なんだなと心があたたまり、そこから少しリラックスして課題に向き合うことができました。

20:00 ヒントを見つけるも、これでいけるのか迷い続ける

オリエンから8時間ほど経過した時点で、いくつかアイデアのとっかかりが見つかり始めます。ただし、いずれも事前に用意した考える上での道しるべと照らし合わせると、まだまだ抜け切れた感じではありませんでした。

「この案は、Simple,Smile,Surpriseのうち、Surpriseが足りなぁ」といった会話を重ね、苦しい時間が続きます。

現地の壁にも貼っていた考える上での道しるべ

04:00 プレッシャーのピークで始まった、床叩きの儀式

その後も案を出しては、果たしてこれで勝ち切れるだろうか?という問いの繰り返し。どんなに準備をしたと思っていてもそこは本番。やはり事前に想定していたようには上手くいかず、本当にこのままいけるのかというプレッシャーがどんどんのしかかってきました。

そして、アイデア提出8時間前、そのプレッシャーがピークに達します。相方の高田くんが「あーだめだ!だめだ!だめだ!」と叫びながら座り込み、床を叩き始めました。その姿はまるでホラー映画を彷彿させました。

その後、しっかり切り替えキャッチーなデザインを作ってくれました。

選んだアイデアは
「Z世代のHEATで、商品をなぐりつける」というもの

床叩きの儀式を終えたあと、改めて道しるべと照らし合わせ覚悟を決めます。最終的に選んだアイデアは、「みんなのHEATを受け入れてくれるスプライトを、サンドバックをベースにした殴れるキャラクターにしてしまう」というもの。

若者たちがHEATする様々な場に現れ、殴れば口からスプライトがもらえ、STAY COOLになるという体験型のアイデアで、スプライトのブランドメッセージをわかりやすく体現しようというものです。キャラクターだから、漫画やアニメなどどんなポップカルチャーにも顔を出すことができ、Z世代という広告がなかなか届きづらい層にもちゃんと届けることができるぞというものでした。

シンプルさはあるだろうか?などギリギリまで悩みましたが、出揃っていた案の中で、この案が、商品を殴りつける馬鹿馬鹿しさなどもあり、最もプレゼンを聞いてくれる審査員や、観客の人が笑ってくれそうなイメージがあり、目標にしていたPopular Voteに一番近いはずだと決めることができました。

権利の関係上、高田くんのイラストでお届けしています。

やはり24時間。事前に用意した道しるべの通りに進んでいくことは難しかったのですが、それでもお互いがこの案でいこう!と覚悟できたのは、練習を重ね、目指したいことや、守りたいことなど、共通言語をつくれていたことが大きかったと思います。

アイデア提出5分前。日本チームだけ最後まで会場で資料づくりをしていました。

3日目 12:00 審査会場でのプレゼン

アイデアを提出し、オグルヴィの講師たちにプレゼン。

なんとかアイデアを形にし、提案資料を提出。その後すぐ、1カ国ごとに審査会場に呼ばれオグルヴィの審査員たちの前でのプレゼンが始まります。8人の審査員が円形に鎮座する様子は、まるでジェダイ評議会のようでした。ここでも、用意していた道しるべのひとつ、「見ている人たちが自分ごと化できるストーリーをつくる」に沿って、堅苦しいプレゼンにしないよう心がけました。

妹が思春期に実家の壁に穴を空けてしまったエピソードから入り、若者ってHEATするとモノにあたっちゃう時あるでしょ?という流れからアイデアを説明。つかみもとれ、審査員も終始笑いながらアイデアを聞いてくれていたと思います。

ジェダイ評議会のような場で緊張しながらプレゼンをする様子。

プレゼン終了後、他国のチームのプレゼンと審査を待つこと4時間、ようやくファイナリストが発表されます。「TEAM SEOUL!」「TEAM DHAKA!」と各国が呼ばれていく中、ついに……「TEAM TOKYO!」。

最終的には、15の国・地域の中から、バンコクを加えた4カ国がファイナリストに選出され、アドフェスト本会場でのプレゼンへと進むことになりました。

5日目 いよいよ本会場でのプレゼン

終了後、クレイジー!と握手を求められる

オグルヴィの審査員たちへのプレゼンから2日後、いよいよアドフェスト本会場でのプレゼンです。数百人の観客を前に、ステージ舞台袖で緊張していましたが、いざ舞台に上がり自己紹介をはじめると、やけに声援や口笛が飛んできます。なんと同じヤングロータスに参加した各国のみんなが中心に盛り上げてくれていたのでした。おかげで、リラックスしながら、自分たちが信じた案を楽しくプレゼンし、多くの人に笑ってもらうことができました。

さらにプレゼン終了後、会場の外に出ると様々な国の方たちがやってきて、握手を求めてくれました。「ぶっ飛んだアイデアだな!」「お前らクレイジーだ!」と興奮気味に語ってくれ、自分たちのアイデアが国を超えて伝わり、楽しんでもらえたのかなと嬉しくなりました。

同じヤングロータス参加者の応援も受けながらリラックスしてプレゼン。

ついに結果発表。受賞に安堵していたら…

そして、プレゼンから5時間後。いよいよ結果発表。アドフェスト最終日のアワードセレモニーのトップで、ヤングロータスの受賞式が始まりました。

授賞式の発表を緊張しながら待つ様子

「Popular Vote winner is……TEAM TOKYO!」。
呼ばれた瞬間は、3年間の思いが報われよかったと、体の力が一気に抜けました。

ゴールドはダッカのチームに。Z世代の間で話題になっているアーティスト同士の論争に入り込み、STAY COOLをメッセージするものでした。若者がHEATしているポップカルチャーへの目の付け所が受賞の決め手になったとのこと。

ゴールドは逃してしまいましたが、なんとか目指していたPopular Voteを獲得することができ、うれしさをかみ締めていました。が、その喜びも束の間。

その後に行われたアワードのセレモニーにて、同じヤングロータスに参加していたオーストラリアチームやシンガポールチームが次々と表彰の場に呼ばれていったのです。いやいや、一緒にヤングのフィールドで戦っていたんじゃないのかい!と心の中でつっこむと共に、すぐに焦る気持ちが芽生えました。早く“大人”アドフェスト(アドフェストの本賞の表彰の場)に2人で戻ってきたいと思いを強くしました。

“大人”アドフェストでシルバーを獲得しているオーストラリアチーム。

現地から持ち帰ることができた、たくさんのおみやげ

今でもやり取りを続けている各国同世代の仲間たち、国を超えて笑ってくれた審査員や観客の人たちの反応など、現地で参加できたからこそ、たくさんのおみやげを持ち帰ることができたと思います。その中でも、クリエイティブは「才能」だけでなく、「努力」でもカバーできるかもしれないという、ほんのちょっとの自信を持ち帰れたのは大きいかもしれません。

クリエイティブの天才ではない僕たちだからこそ、たくさんの弱点やクセに向き合いつつ、自分たちなりの道しるべを現業でもたてながら、心動くものをつくっていきたいと思います。

安本一優(やすもと・いちゆう)
ADKマーケティング・ソリューションズ CMプランナー

2013年ADK入社。人事、営業を経て、クリエイティブ職に。CMが大好きです。受賞歴:ADFEST シルバー、ACC シルバー、JAA賞メダリスト、広告電通賞 シルバー、朝日新聞広告賞、FCC賞、CM総研「BRAND OF THE YEAR 2020」特別賞、PRアワード シルバー 、HRアワード 優秀賞、アドフェスト ヤングロータス2023日本代表 / PopularVote 他

高田雄大朗(たかだ・ゆうたろう)
ADKマーケティング・ソリューションズ アートディレクター/デザイナー

1995年生まれ。2018年ADK入社。4年間の営業を経て、2022年よりクリエイティブ職に。受賞歴:アドフェスト ヤングロータス2023日本代表 / PopularVote、メトロアドクリエイティブアワード、宣伝会議賞、奈良新聞クリエイティブアド、M1グランプリ2回戦敗退 他。



 

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