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【解説】広告関係者は今こそ知っておきたい「ステマ規制」の導入

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2023年3月、消費者庁はステルスマーケティングについて景品表示法の不当表示として10月から規制すると発表した。10月からの規制とはいえ、それ以前に世に出た内容についても対象となるため今からの対応が必要となる。WOMマーケティング協議会の理事長を務める藤崎実氏が解説する(本記事は月刊『ブレーン』6月号の特集「SNSに最適化する クリエイティブ攻略」に掲載されているものです)。

 

ステマ発生の背景と規制対象

現代の消費者は商品やサービスの選択を行う際、ネット上やSNS での口コミを重視するようになっています。消費者は企業の広告よりも、ネット上の見ず知らずの人の発言やインフルエンサーの意見を信頼しているのです。この傾向はあらゆる媒体において顕著になっています。こうした消費者心理に着目して行われるステルスマーケティング(以下、ステマ)が、度々、社会的な問題となってきました。

こうした現状に対応すべく、2022 年9 月から消費者庁による「ステルスマーケティングに対応する検討会」が開催され、さまざまな議論の末に報告書が公開されました。そしてついに2023 年3 月28 日、景品表示法の第5 条第3 号にある「指定告示※ 1」にステマに関する記載を追加することで、ステマに対する規制を行うという方針が発表されたのです。

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では、どのようなことをステマとみなして規制が行われるのでしょうか。消費者庁によれば、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5 年内閣府告示第19 号)」に対してです※ 2。さらに詳しく示すと、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示( 以下、事業者の表示※ 3) であるにもかかわらず、事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示」のことです。

これをわかりやすく表現すると、企業の商業的な意図や目的を持つ情報であるにもかかわらず、その事実を隠して行われる情報の提示、ということになります。たとえば、企業がインフルエンサーに商品を褒める記事の投稿を依頼した場合、インフルエンサーが企業からの依頼を受けたことを明記しないまま投稿する事例が挙げられます。

こうしたステマの問題点は、企業から依頼を受けたインフルエンサーによるSNSへの投稿は、実質的には宣伝や広告を目的にしているにもかかわらず、消費者から見た場合、その事実がわからない点にあります。これは消費者保護の観点に立った場合、消費者の商品選択において、自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがあります。
 

規制の運用基準と今後の施行

消費者庁は運用基準案を公開し、運用内容に対する意見を2023 年1 月25 日から2月23 日まで募集した結果、199 件の意見(パブリックコメント)が集まりました。そのパブリックコメントに対する検討と修正を経て、景表法の指定告示と運用基準が3月28 日に公表されました※ 4

ステマに対する規制は2023 年10 月1 日施行の予定です。それまでの期間は不当表示の未然防止を図るための事業者などに対する周知期間です。この期間設定の意味は、たとえば、この記事をお読みの業界関係者の方々に10 月1 日までにステマ規制の意義や内容を理解していただきたいということです。

さて、肝心の運用基準は10 ページあります。またパブリックコメントでの意見に対する考え方を示した書類は124 ページにもわたります。さらに「パブリックコメント時の運用基準案からの追記箇所」と「修正箇所」も公開されました。想定されるさまざまなケースについてできる限り言語化して公開されているのです。したがって、それらを全て読み込めば、ステマ規制に関する現状の知見を得ることができます。しかし、全てを読み込んで理解するのは大変です。

そこで、今回のステマ規制に関して知っておくべき基本的な点についていくつか解説を行います。
 

規制の対象は全メディア

今回予定されている規制は、対象メディアをインターネットやSNS に限定しておらず、マスメディアを含めた全ての「表示」が対象になる点に特徴があります。したがって、雑誌媒体や編集記事、テレビ番組なども含まれます。

今回の規制では、「事業者の表示」であるにもかかわらず、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」であれば不当表示、すなわちステマとみなされて規制の対象となります※ 5

図:ステマ(不当表示)になるもの
出所/ WOMマーケティング協議会

その「事業者の表示との判別が困難である」場合の考え方に関して、消費者庁は、「事業者の表示であることが明瞭でないもの」と示しています。具体的には、①「事業者の表示であることが記載されていないもの」と、②「事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているもの」がそれに当たると示しています。

たとえば、①は文字通り、事業者の表示であることが全く記載されていない場合です。また、②はたとえば、動画において認識できないほど短い時間で事業者の表示であることを示す場合や、文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています」と事業者の表示かどうかわかりにくい表示をする場合が当てはまります。また、事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(たとえばSNS の投稿の際に、大量のハッシュタグ「#」をつけた文章の中に、当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる)なども当てはまります。

図:景品表示法の規制に基づき、ステマ扱いとなる表記例
出所/ WOMマーケティング協議会

 

広告関係者は、これらのことをよく理解して、事業者の表示であることを一般消費者に対して明瞭に示すことが求められます。
 

ステマになるか否かの境界線

では、どうすればステマにならないのでしょうか。この点に関しては、消費者庁によるステマ規制に該当しない(不当表示にならない)場合の基準が参考になります。その基準に関して消費者庁は、「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているもの」と示しています。

図:消費者庁が運用基準で認めている表示
出所/ WOMマーケティング協議会

 

そして、その明瞭の考え方として消費者庁は2 つの場合を示しています。

1 つ目は、「事業者の表示であることをわかりやすい表示で示す」場合です。2 つ目は、「社会通念上、事業者の表示であることが明瞭である」場合です。

まず前者ですが、具体的には、①「『広告』『宣伝』『プロモーション』『PR』といった文言による表示を行う場合」と、②「文章による表示を行う場合」が挙げられています。また、②の具体例として、「A 社から商品の提供を受けて投稿している」のように文章による表示を行う場合が挙げられます。それぞれ、かなり現実的な対応の仕方です。

特に②の文章による表示を行う方法は応用がきくので、事業者の表示であることを表示する方法として有効でしょう。ただし、①の文言の表示も、②の文章による記載も、ただ書いてあればよいのではなく、一般消費者に明瞭にわかる必要があります。

図:景品表示法の規制に基づき、ステマには当たらない表記例
出所/ WOMマーケティング協議会

次に後者ですが、具体的にはテレビCMやラジオCM のように広告と番組が切り離されて表示を行う場合や、社会的な立場・職業など(観光大使など)から、事業者の表示を行っていることが社会通念上、明らかな場合※ 6などが挙げられています。
 

「WOMJ ガイドライン」の考え方

ステマに関しては、今までWOM マーケティング協議会(WOMJ)が、業界の自主規制として「WOMJ ガイドライン」を策定し、啓蒙に努めてきました(2010 年策定。2012年と2017 年に改定)。

図:WOMマーケティング協議会とは
出所/ WOMマーケティング協議会

ガイドラインで特に重視されてきたのは、事業者と口コミの投稿者に関係性がある場合にはそれを明示しなければならないという「関係性の明示」です。特に2017 年の改定ではInstagram などの新しいSNS の台頭に合わせる形で「#PR」など、ハッシュタグを用いて関係性を明示する「便益タグ」が19 種類、設定されました。

図:現行のWOMJガイドライン
出所/ WOMマーケティング協議会

 

この「WOMJ ガイドライン」も、今回のステマ規制に対応すべく改定に着手しており、近く新しい内容を発表する予定です。このガイドラインは業界の自主規制ですが、このガイドラインを守れば安全という内容を目指していますので、今後の発表をお待ちください。
 

施行前の投稿も規制対象に

見落とされがちですが重要な注意点として以下があります。ステマ規制は10 月1 日から施行されますが、9 月30 日以前に投稿されたものでもネット上にそれが残っている場合には、措置命令などの対象になってしまいます。ですので実務関係者は、10 月1 日から対応するのではなく、今から対応しておく必要があります。

ステマの規制に関して、紙幅の都合上、できるだけコンパクトに原稿にしました。消費者庁は施行後、不当表示に対して厳正・迅速に対処するとしています。したがって、広告主や広告会社、広告制作会社やクリエイターには、今まで以上に正しい知識と運用が求められるようになります。

なお、実際の広告宣伝実務の運用に当たってはさまざまなケースが考えられます。そうした個別の対応に関しては、今後の消費者庁の判断や事例、判例を参考にしていく必要があります。また、現在の発表はあくまで予定です。10 月に予定されている施行までどのような動きがあるかわかりませんので、今後の消費者庁の発表には注意が必要です。
 

※ 1 現在は、「無果汁の清涼飲料水についての表示」や、「商品の原産国に関する不当な表示」など、6つの指定告示が記載されていますが、ここに7 つ目としてステマに関する指定告示が記載される予定です。
※ 2 本節の引用は、消費者庁(2023)「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/)による。
※ 3 消費者庁の文面には「事業者の表示」という表現が頻繁に出てきます。「事業者の表示」とは、いわゆる広告、あるいはインフルエンサーに依頼した投稿や記事などのことです。わかりづらい表現ですが、これはステマの規制を景品表示法の範囲によって行うため、企業の宣伝や広告としての役目を持つ情報に対して「表示」という表現が使われているのです。
※4 消費者庁(2023 年3月28 日)「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について(https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/)
※ 5 なお、そもそも「事業者の表示」ではないものはステマではありません。たとえば、事業者から第三者に対して、表示内容に関する一切の情報のやりとりが行われていないもののほか、媒体社が自主的に企画した記事などがこれにあたります。
※ 6:たとえば、誰もが認める特定地域の観光大使や、特定企業のCMタレントなども当てはまると考えられます。ただし、そうした関係が一般に周知されていない可能性もありますので、十分な注意が必要です。

 

藤崎 実(ふじさき・みのる)

東京工科大学メディア学部/大学院 准教授。博士(経営管理学)。国内及び外資系広告会社、ソーシャルメディアのマーケティング会社を経て現職。WOM(口コミ)マーケティング協議会 理事長。日本広告学会 理事/クリエーティブ委員会副委員長。日本広報学会 理事。日本マーケティング学会「マーケティング/PRテクノロジー研究会」リーダー。

 

月刊『ブレーン』2023年6月号

【特集】SNS に最適化する
クリエイティブ攻略
(月刊『ブレーン』2023年6月号)

 
・日本マクドナルド「ティロリミックス」
・KDDI/au「ココロ、オドルほうで。」
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「『バズらせ』から『ブランドづくり』の場へ プランナーに聞く今の時代のSNSの役割とは?」
花田礼(電通)×市川晴華(CHOCOLATE)×荻原海里(博報堂)
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・伊藤園「晴れのち曇り時々お茶」
・本田技研工業/パワープロダクツ「Honda Rewired」
・クリエイターも今こそ知っておきたいステマ規制の導入(文/藤崎実)




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