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イベントレポート 嶋野裕介×尾上永晃×奥山晶二郎「広告とウェブメディアのプロが語る、SNS時代の発信法」

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『なぜウチより、あの店が知られているのか?』の刊行を記念して、著者である広告プランナーの嶋野裕介氏・尾上永晃氏と、「withnews」創刊編集長の奥山晶二郎氏によるトークイベントが開催された。奥山氏は、『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』を今年2月に上梓。広告のプロとウェブメディアのプロが、それぞれの視点からSNS時代の発信法について議論を深めた一夜。そのダイジェストをお届けする。


「SNSやデジタル空間での情報発信」をテーマに本を執筆

嶋野:奥山さんの『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』を読ませてもらって、この2冊は本当に似ているところが多いな!と驚きまして。

イベントは4月11日に青山ブックセンター本店で開催

奥山:まずは表紙がどちらも猫ですよね(笑)。

嶋野:はい(笑)。そしてSNSやデジタル空間での情報発信など、本のテーマとしても近いし、読んでほしい人たちも自営業の方やフリーランスの方など、かなり共通しています。その一方で、今までやってきたことに目を向けると、かなり違いがありますよね。今日は、私から奥山さんと尾上さんに共通の質問を投げかけながら、SNS発信やPRに役立つお話をしていきたいと思います。

『なぜウチより、あの店が知られているのか?』著者の嶋野裕介氏

最初の質問は、「これまで行ってきた情報発信や企画の中で印象深いエピソードを教えてください」です。

奥山:僕は「withnews」の企画「#withyou」を挙げたいと思います。昔から、夏休み明けに学校に行きたくない子どもが最悪なことをしてしまう「9月1日問題」という社会問題があります。それに対して新聞社は8月31日に相談窓口の電話番号を掲載した記事を出します。しかし、現代の子どもはまず電話をしませんし、本当に思い詰めているときって、知らない人に話をする余裕もないはず。そんな中で、本当にメッセージを届けるにはどうすればいいのか?と考え、メンバーが提案した企画です。10代に特化し、むしろ「10代以外には読まれなくていい」と割り切って考えたのが特徴です。

ターゲットをめちゃくちゃ絞った結果、マンガを活用したコンテンツや、TikTokのインフルエンサーを起用するなど、これまでにないチャレンジングな記事が次々と生まれ、ものすごい反響を呼びました。この経験からスマホの世界においては、一歩突き抜けることが大事なのだなと感じました。

「withnews」で実施した「#withyou」企画

尾上:僕からは「ピノ アーモンド味」の広告を挙げます。アーモンド味はファンからの熱い要望を受けて、ようやく単品での販売が決まった経緯がありました。でも、以前北海道でテスト販売した際に思ったより売れなかったという過去を伺いまして。そこで、愛されているメンバーの独立報道っぽくニュースメディアにすっぱ抜いてもらった上で、「また売れなかったらどうしよう」という自虐的なキャッチコピーと共に北海道新聞で広告を出した結果、たちまち広まっていきました。こうした愛されている商品やお店、ブランドなんかは、その愛を外から客観的に見える化すると、新規のファンを生み出すチャンスが作れるのかなと思います。

SNS時代に欠かせないスキル「客観視」を身につけるには?

嶋野:発信内容を決める際は、コンテンツや自分自身の強みを「客観的」に見て判断することが大事だということで、我々の本では「客観視」も一つのテーマにしております。尾上さん、この「客観視」、どうやったら身につけることができるんでしょう?

尾上:そこがまさに、この本で大事にしているテーマでして。客観視は「現在の客観」「ヒットの客観」「自分の客観」という大きく3つの視点で考える必要があると思います。

「現在の客観」は、現状世の中に存在しているものや流れを把握した上で、自分や自社商品はどういう風に見えるのかという視点を持つこと。次の「ヒットの客観」は一つのジャンルの中でもヒットしている商品や、反対にうまくいかなかった商品を参考にするということです。最後の「自分の客観」というのは、自分のそもそものモチベーションを振り返ること。

日々発信をしていると、だんだんPV数を追うことなどに重きを置くようになり、最初に持っていた熱意や魅力的なポイントをついつい忘れてしまいます。そこを自分の歴史を振り返ることで見つけようという考え方です。

『なぜウチより、あの店が知られているのか?』著者の尾上永晃氏

嶋野:奥山さんはいかがですか?

奥山:僕は家族でも誰でもいいので、いったん文章を読んでもらうことが大切だと思います。タイトルを見て読みたいと思うか、本文の内容と合っているか、本文は読みづらい構成になっていないかなど、むしろ普通の感覚からのフィードバックを受け取ることができます。昔の文豪と言われる人も、パートナーに第一読者になってもらうことがあったみたいです。割と古典的な方法ではありますが、自分で発信できる時代だからこそショートカットしがちな工程ですし、それゆえ炎上につながることもあるので、本当に大事だと思いますね。

嶋野:確かに、僕もよく自分の書いた文章を家族に見てもらいます。

奥山:もう一つ、新聞記者目線で加えると、書いているテーマの参考情報として既存のメディアの記事をつけられるか考えてみてください。つけられる場合は社会性が一定担保されていると言えますし、逆に参考情報として思い浮かぶニュースがない場合は、単なる自分の身辺雑記になっている可能性が高いと言えます。

デジタル空間で“ダラダラしている人”に興味を持たれるか?と考えてみる

嶋野:奥山さんの著書は「スマホで」がテーマになっていますが、テレビやパソコンと違う、スマホでの見られ方で注意したい点は何でしょうか?

奥山:書いたものを「スマホビュー」で読み返してみることをおすすめします。というのも、スマホで見た途端、自分がスマホをいじっている感覚になると思いますし、だからこそしばらくしたら普段よく使うアプリ、SNSやゲーム、マンガなどが気になってくると思うんです。それらと勝負するのがスマホの世界なので、自分の文章がその誘惑に打ち勝てるものなのかを自分自身で体験してほしいです。またパソコンの画面で読むのと、スマホの画面で読むのでは、受け取る側の体験が全く異なるので、新しい気づきも得られると思います。

『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』著者の奥山晶二郎氏

尾上:僕も絶対スマホビューで見返した方がいいと思います。その上でターゲットを「やる気がない人」というか、「積極的に情報を取りにいっていない人」をイメージするのがいいと思います。そういう人でも気になる文章になっているかという視点で考えると、文章を変えたほうがいいかなと考えたり。

嶋野:なるほど。最近はTikTokなどを見る人が多いと思いますが、そういった歯切れ良くて色もキャッチーな文章が受け入れられやすいということはないんですか?

尾上:確かにそれもあると思いますが、ずっとそういったものを見ていると、今度は飽きてくるんですよ。なので「TikTokから切り替える瞬間に見るものって何だろう」とか、「いきなりこんな難しい文章は疲れるかも」といった視点で文章を考えるのも一つの方法ですね。

奥山:僕もやる気がない、ダラダラの視点って本当に大事だなと思っていて、かつてはデジタルの世界は能動的な人が多かったんですね。それがやがて大衆的なものに変わり、いまやダラダラしながら見る人が主流になっているのですが、作り手は能動的な人が見ている意識で凝ったものを作りがちで。どちらがいい悪いではないのですが、現実としてダラダラの方がマスになっていることは忘れないようにしないといけないと思います。

嶋野:確かに、だからこそTikTokやYouTubeショートなどが流行っているんでしょうね。

炎上を避けるポイントと、Twitterとの付き合い方

嶋野:情報発信に当たっては、炎上を恐れている方も多いと思うのですが、炎上しないために大切なことは何でしょうか?

奥山:炎上の原因のほとんどは内容ではなく「伝え方」に起因しています。特に正しいことほどリスクが高いことは認識しておくべきですね。実際にTwitterで炎上している人を見ると、自分の正しいと思っていることに対し異論を唱える人を「悪人」と認識して、戦闘モードに入って攻撃的な発言をする、といったメカニズムになっているようです。正しいことを主張するのは世の中のためだと思って当人はやっているのですが、実は言われた方も同じモードに入っているというのが、忘れてはいけないポイントだと思います。正しいと思うことほど、いっそう気をつけましょうと言いたいです。

もう一歩踏み込むなら、むしろ伝えたいテーマがあるならば、それを守るためにもTwitterでのコミュニケーションは控えた方がいいと感じます。なぜなら、基本Twitterのユーザーってサイレントマジョリティーなので、ノイジー・マイノリティ(声高な少数派)同士がバチバチやっていると、「これはやばいテーマだ(触れてはいけない)」と思われて、その他大勢から一歩引かれちゃうんです。

尾上:いまの話、すごく納得です。その上でテクニック論を一個加えると、人は「自分が発見した!」と思ったものを広げる習性があるらしいです。なので、危険かもと思うところをあえて先に言ってしまうと、「発見」がなくなるので広まらなくなります。あと相手は人間なので、いじわるな気持ちがある場合は発信は控えた方がいい気がします。

嶋野:いじわるな気持ちって具体的にはどういうこと?

尾上:奥山さんも言っていたような、正しい・正しくないという視点で発信しようとすると、「正しくないものは懲らしめてやろう」という思いになって、書く文章に少し意地悪な表現が入ってしまうと思うんです。でも一晩寝かせると冷静になるというのはよくあることので、Twitterとはそれぐらいの距離感で付き合っていくのがいいと思います。

自分の内から湧き出る「パッション」は、無尽蔵のリソース

嶋野:次に、参加者の方からの質疑応答に移りたいと思います。

Q. PR会社で働いています。奥山さんに質問です。「関係がないと思っている人に、自分に関係がある」と思わせるために意識していることはありますか?クライアントが言いたいことと世の中の接点を見つける方法が知りたいです。

奥山:アプローチは色々あると思います。例えば書き手の個性を強めに出す、読み手が使っているデバイスに合わせて漫画の形式を活用する、ネタに合わせてTikTokを使うなどです。社会性があるから読まれるわけではないし、最近は官公庁も発信手段を持っている。その中でメディアから出す意味は何か?と考えて、付加価値をつけたり、一口サイズで食べやすい情報にしたり、ユーザーがよく接する場所からテーマに引き寄せるようにしていました。

嶋野:僕は新聞大好きな人間ですが、なぜ政治経済から順にニュースが並んでいるのか、誰がその順番を決めたのだろう、と感じることがあります。例えば飲食店に来る人は「栄養があるから食え」と言われて食べたくなるわけじゃなく、単に「うまいものが食べたい」と思って来ていますよね。政治経済やSDGsの話題も「知るべき大事なニュースだから読め」ではなく、興味を持つ形に転換して渡す必要があるんだろうなと思います。その意味では、SNS時代のコミュニケーションは、コンテンツ(=読みたくなる情報)になるか、ニュース(=新しい事実がある)か、チラシ(=役に立つ情報やお値打ちな事実)にならないとサバイブできないんじゃないかと感じています。

尾上:広告は「興味がない人を振り向かせる技術」で、それを忘れてはいけないと最近よく思います。社会課題系を扱う広告はそこを忘れて、「これはみんな興味あるでしょ!」から入ってしまいがちです。クライアントと話す時も、そこを気をつけて提案しています。

Q. 「客観力」についての質問です。客観的になりすぎると、他と似たようなパターンになってしまうことがあると思います。いい客観と悪い客観の差とは何ですか?

嶋野:今日、尾上さんから「ピノ」の事例の説明がありましたが、その後の新聞広告の審査では「困っている」「助けてくれ」みたいな自虐手法がたくさん出てきました。多くの事例は流行っているからという理由で表面的に取り入るだけだから、上手くいっていなかった。いいやり方って真似されて、どんどん効きづらくなるんですよね。だから、客観視で色々な方法を見つけた上で、自分らしさや、これまでと違うエッセンスを加えることが大切だと思います。

奥山:客観の中にも熱量があるかどうかは大事だと思います。 withnewsの編集部では「9本記事を書くなら、3本ずつリソースを分けましょう」という話をしていました。最初の3本は、「新聞記者になったからには自分はこれをやりたい」というテーマを、数字関係なく追う。次の3本はチームのためになるものを書く。最後の3本で、貪欲に数字を狙う。でも、やっぱり土台になるのは、最初の3本の「これをやりたい」ではないでしょうか。僕は最初のパッションほど無尽蔵のリソースはないと思っていて。本人が本当にやりたいというスイッチが入っているからこそ、熱意も高いし、めちゃくちゃ作業効率も上がる。生産性やビジネスの視点から見てもパッション=主観はすごく大事だと思います。

執筆:藤井美帆(Qurumu)、構成:田代くるみ(Qurumu)

左から、嶋野さん、奥山さん、尾上さん

登壇者

嶋野裕介 (しまの・ゆうすけ)

クリエーティブディレクター/PRディレクター。東京大学を卒業後、電通入社。大阪出身なのに関西弁がとても下手。主な仕事はトヨタ自動車「TOYOTA #金曜日の新垣さん」、ソフトバンク「SoftBank 企業広告シリーズ(2019〜)」「民放114局合同番組 一緒にやろう2020」「3cm market」「フリー素材アイドルMIKA+RIKA」など。Cannes Lions、Spikes Asia、Adfest、ADC、ACC、OCCなど受賞。好きなものは、新聞とオセロと研修。

尾上永晃 (おのえ・のりあき)

プランナー/クリエイティブディレクター。企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、森永乳業「ピノゲー」、TOKYO GAME SHOW VR、コピー年鑑2022編集長、宮本浩次「宮本独歩」、越後鶴亀ブランディングなど。カンヌやメディア芸術祭などさまざまな賞を受賞。好きなものは、料理と読書。

奥山晶二郎 (おくやま・しょうじろう)

サムライト取締役CCO(Chief Content Officer)/withnews創刊編集長。1977年北海道生まれ。2000年朝日新聞社入社。佐賀、山口、福岡で記者をした後、2007年から「asahi.com」編集部。「朝日新聞デジタル」の立ち上げに携わり、2014年に「withnews」をスタート。2020年5月に月間1億5千万PV達成。2022年6月から現職。共著に『フェイクニュースに震撼する民主主義』(大学教育出版)、『Web編集の教科書』(朝日新聞出版)。

【参加受付中】5月12日(金)本屋B&Bにてトークイベント開催!

書籍にも登場する「伊良(いよし)コーラ」のコーラ小林さんをゲストに迎え、トークイベント第2弾を開催します。詳細・お申し込みは本屋B&Bのサイトをご覧ください。

『なぜウチより、あの店が知られているのか? ちいさなお店のブランド学』
嶋野裕介・尾上永晃著/4月3日発売/定価:1,980円(本体1,800円+税)

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