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カルビーがセンサーカメラで棚前行動を可視化する実証実験 リテールメディアはパワフルなツールになるか?

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宣伝会議は2023年9月21日(木)~27日(水)の期間、「AdverTimes.Days(アドタイ・デイズ)2023秋」を開催した。「アドタイ・デイズ」は、広告・マーケティングの実務者、多様な視点、構想、実績を持った講演者と共に、業界がその時々に直面する課題を提示し、解決の方向性を導き出していくことを目的とする、「講演者と参加者の共創を目指すハイブリッド型のイベント」。

「アドタイ・デイズ2023秋」では、テーマを「Invisible→Visible」と設定。メディア投資の効果、テレデジ融合の最適な投資配分、さらには前例通りが通用しない時代のマーケティングの勝ち筋まで、「見えない」を可視化する新たな挑戦をする方々が、自らの取り組みを解説した。本記事では、「アドタイ・デイズ2023秋」の中でも、注目のセッションをレポートする。

主力のスナック菓子やシリアル商品を中心に売上高100億円以上のブランドをいくつも抱えるカルビー。同社のリテールメディア部門が目指す姿を実現するためにどのようにリテールメディアを活用しているのか。「リテールメディア マーケティング活用について」と題し、カルビー カルビージャパンリージョン 企画統括本部 リテールサイエンス部 部長の松永遼氏が解説しました。

 

データ分析、仮説、アクションまで一気通貫の施策を目指す

私が所属している、リテールサイエンス部では、流通企業の方からお預かりしている購買データおよび行動データをもとにデータ分析を行い、お客さま理解を進め、お客さまに関する新たな仮説を導き出してアクションにつなげていくことを目的に活動しています。この実現のためにはデータ分析、仮説、アクションまで一気通貫の施策を行うことが必要です。

この施策を実現する上でのサクセス要素は4つあります。まずは一気通貫のフローをつなげながら「ビジネス」として新たな価値創造を目指します。それがすなわちお客さまへの新しい価値の創出や企業にとっての高収益につながると思っています。

その実現のための要素は「データ」と「武器」と「人財」だと捉えています。これらの要素で「目指す姿」が実現できると考えているのです。

 

リテールAI研究会に参加、流通全体のエコシステムの実現を目指す

目指す姿を実現していく中で、「お客さまは多面的な顔を持ってお買い物をしている」ことを実感しています。当然のことながら、日常のなかでお客さまはカルビーの商品だけを購入しているわけではないので、自社だけで目指す姿を実現するのはなかなか難しいと感じています。

そこで2017年からリテールAI研究会の活動のひとつの分科会に参加して、小売業、メーカー、ベンダーの皆様と一緒に実験を行いながら、流通全体のエコシステムの実現を目指しています。本日はリテールメディア分科会で行った「リテールメディアの可能性」について紹介します。

分科会の活動目的は「店頭でのリテールメディアを、小売りやメーカーのお客さまにとって魅力的なツールにする」と設定しています。現在はサードシーズンの活動を行っているのですが、本日は、その前段階のセカンドシーズンの事例をお話したいと思います。

カメラとIoTのデバイスを使い、離れたところに設置したセンサーがお客さまと棚との距離を計算します。分科会では「お客さまが棚のどの位置にいるのか」を表現するのに①お客さまが棚から遠いことを表す「FAR」②お客さまが棚に近づいていることを表す「NEAR」、お客さまが商品を手に取ったことを表す「PICK」という表現を使っています。

今回はお客さまが「FAR」の時には「売り場を注目してもらうサイネージを流す」、「NEAR」の場合は「棚の情報」、商品を手に取った「PICK」の場合は、その商品の魅力を表示するなど、お客さまの行動によってサイネージの出し分けをしました。

「売り場を通過したお客さま」、「立ち止まったお客さま」、「接触したお客さま」また「どの棚をどの経路から入ってきたのか」も、棚前の情報を取ることで、お客さまの行動データを分析しながら、購買データと紐付けして目的の達成を目指しました。

実際の効果を①サイネージ②商材による違い③AI分析に分けて紹介します。

①サイネージ効果

こちらが実際のサイネージ実験の検証のフローになります。今回はドラッグストアで実験しました。実際に「サイネージがあるなしで、棚の売り上げに増減があるのか」を実験するために1カ月を15日に分けて、同じ売り場の中でサイネージが「ある・なし」という形のA/ Bテストをしました。

サイネージ広告を流している後半の15日の期間では「FAR」「NEAR」「PICK」という形で、お客さまの位置によってサイネージのコンテンツを分けました。「FAR」はアイキャッチで売り場に関心を持ってもらう。「NEAR」は、商品の訴求をしていく。「PICK」で商品を手に取っているので、商品を食べるシーンが想像できるようなコンテンツを準備しました。

前半のサイネージ広告なし期間は企業のロゴを提示しました。後半はお客さまと棚との位置により、サイネージのコンテンツを出し分けしました。

実際にサイネージ広告があった時となかった時の販売実績の比較をしたところ、コンテンツを流した方が対象店舗の売上を約20%伸長できることが確認できました。

行動データも分析しました。前後比較した時の、コンバージョンレートをとっています。「立ち止まり」「接触」「購買」このような定義でとっていますが、購買のところは比較店舗と比べて増加しています。前後比較でも購買が増加しており、サイネージの効果で購買決定が高いと分析しました。

②商材による違い

次に、商材による違いについて、お話しします。食品メーカーとそれから日用品メーカーで実験しました。

こちらは実験の条件を揃えて参加企業ごとに実績を比較しました。

次に商材によりお客さまが購買決定する理由が異なるのではないかという仮説を立てました。例えば食品では思わず手に取る「衝動欲求」、日用品であれば従来のものとの違い「機能理解」を求めると考えて訴求内容を変えて実験を行うことにしました。

食品商材での実験では、サイネージを取り付けた店舗で購買個数が伸長し、クーポン販促をプラスすることにより購買個数がさらに伸長する結果が得られました。

日用品商材での実験では、サイネージ広告を見て機能を理解したお客さまは、サイネージ広告を見ていないお客さまよりも商品の再購入率が高いという結果を得ることができました。

③AIを活用した事例

次にA Iを活用した事例をお話しします。RMOT(リバースモーメントオブトゥルース)という形で商品を手に取るn秒前地点における購買行動を分析しました。

今回、「棚前の行動データもわかる」、「滞在した時間及び時間を遡ることもできる」ので、リバースさせて「買う前にどんな行動をしていたのか」、「どんな行動をすると購買決定してくれるのか」というところを見た事例になります。

フェーズは1から4(購入準備、商品比較、商品検討、サイネージ興味)に分けました。

フェーズ1のところでは、お客さまは商品を手に取っている状態なので、サイネージを見るのはなかなか難しいと思います。フェーズ2から3では、サイネージの効果が見込めます。さらにフェーズ3フェーズ4ではサイネージに興味を持っているのでさらに興味をもってもらう施策が重要になります。

結果としては、先ほど申し上げたように4つのフェーズで分かれているというところと、それぞれで行動差があるところが見えています。速度、距離、それから体の向きも重要だと捉えています。

 

売り場を素通りする90%のお客さまへの取り組みが今後の課題

今回、リテールメディアを使って、お客さま理解が深まったと考えています。さらにリテールメディアを使うことで、お客さまの購買を後押しできる可能性が様々な施策の中で見えてきました。しっかりとデータを分析して仮説をたて、最後にアクションを起こすと、「リテールメディアが非常にパワフルなツールになる」とわかりました。

また、見えてきた課題として、棚前行動の計測から90%のお客さまが売り場を通過しているだけになっていることが確認できました。多くのお客さまにとって魅力的な売り場になっていないということは大きな問題と捉え、今後リテールメディア活用でお客さまにとってより価値のある売り場を作る工夫を続けていきたいと思います。

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カルビー
リテールサイエンス部 部長
松永 遼 氏

2007年入社。営業、財務、マーケティング担当を経て16年から小売業のデータ分析に携わり、お客さまの購買データや行動データを分析し、課題解決提案を行うリテールDXに注力。22年より現職。