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日産が一社提供番組『あ、安部礼司』を続ける理由 18年続く人気番組

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TOKYO FMは昨年12月、『首都圏ラジオ聴取率調査』(ビデオリサーチ)の全日平均・男女12〜69歳の首位を11期連続で獲得した。けん引役となっている番組のひとつが、日産自動車が一社提供する『NISSAN あ、安部礼司~BEYOND THE AVERAGE~』(毎週日曜夕方5時00分~5時55分放送)だ。メインターゲットの30歳代を中心に、男女ともに子どもから大人まで、リスナー層は幅広い。放送開始は2006年だが、新しい世代を取り込み続けているのもポイントだ。

なぜ、一社提供を続けているのか、どのような点に成果を見出しているのか。日産自動車 日本マーケティング本部ブランド&メディア戦略部主担の松村眞依子氏と、番組プロデューサーの堀内貴之氏、TOKYO FM ビジネスソリューション局 常盤 一赳氏に聞く。

写真 人物 集合 TOKYO FMの収録ブース
TOKYO FMの収録ブース

――『NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』は放送開始から18年を迎える長寿番組です。日産自動車のマーケティング施策において、この番組はどのような位置づけなのですか。

写真 人物 個人 日産自動車 日本マーケティング本部ブランド&メディア戦略部主担 松村眞依子氏
日産自動車 日本マーケティング本部ブランド&メディア戦略部主担 松村眞依子氏

松村:『NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』の大きな目的は、30歳代を中心としたお客さまに対し、番組を通じてメッセージを発信することによるブランディングです。『NISSAN あ、安部礼司』のコンテンツ力、影響力は大きく、年々、さらに高まっていて、ブランディングにも寄与していると考えています。

写真 人物 個人 TOKYO FM ビジネスソリューション局 常盤一赳氏
TOKYO FM ビジネスソリューション局 常盤一赳氏

常盤:数字の部分でいくと、安部礼司、TOKYO FM の聴取率をけん引している存在です。ラジオもさることながら、ご家族でイベントにお越しいただいたり、公開録音にも大きな反響をいただいたり。番組には東京・神保町の喫茶店「さぼうる」がよく登場するのですが、いわゆる聖地巡礼と言いますか、「小さいころから家族で聞いていて、いつか来たいと思っていた」というお客さまがいらっしゃるとマスターから聞いています。

――施策上、放送開始当初から変わるところ、変わらないところはありますか。

松村:変わるところ、というよりむしろ積極的に、トレンドやお客さまの動向を捉えて変化するべきだと思います。リスナーの皆さまがどんなことに共感するかについて、常にキャッチアップしていかなくてはなりません。生活スタイルの多様化に合わせ、さまざまな接点を設けて、メッセージを届けられるように。『NISSAN あ、安部礼司』は、ラジオの枠を超えて、イベントや、漫画や、ドラマといった多面展開にも挑戦してこられたのがよかったのだと思います。

変わらないのは、リスナーの皆さんとの接点づくりです。日産とリスナーの間の絆を、コンテンツを通じて深める、というところです。ぶれないよね、とか、一貫性がある、といったコメントをいただくこともありますが、先ほど常盤さんが紹介した、ご家族のエピソードも象徴的だと思います。

――番組の長い歴史の中で、転換点はありましたか。

写真 人物 個人 TOKYO FM『NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』番組プロデューサー 堀内貴之氏
TOKYO FM『NISSAN あ、安部礼司 ~ BEYOND THE AVERAGE ~』番組プロデューサー 堀内貴之氏

堀内:思い出を挙げれば数限りない番組ではありますが、ひとつには放送開始5年目の頃ですね。スタッフの意識、信念が転換しました。

実は番組の開始当初は、かなりマーケティングに価値を置いていたんです。当時はセグメンテーションなんて言葉が広まり始めたころで、具体的なターゲットをいかに引っ掛けるか、気を引くか、世代に受ける番組をつくるか、ということを考えていました。狙った層にどれくらいリーチできるか、といった広告・マーケティングの目標については、割と簡単に達成できました。

それが悪だというのではなくて、番組を続けるにつれて、我々の側のリスナーの理解が深まったのだと思うんですね。我々も当初は制作チーム全員男性という時期があって。語弊を恐れずに言うなら、私たちのような“オッサン”が作る番組をハタチの女の子が聞いてくれるなんて思わなかった。自分たちもターゲット層のようなところがありますから、聴取率で男性5.2%などと出たりしても驚かない。

ただ、一定期間やっていると、家族にどこかへ遊びに行った帰りに、お父さんがクルマで流していて、一緒に聞いていた子どもが育って、ということがあります。これは戦略ではなくて、日曜日の夕方5時の価値があったことが大きいです。

そこがリアルにわかってきたところから、ターゲットだけのことを考えるのをやめました。メインターゲットは30歳代のままですが、月曜日からまた仕事が始まるという人が少なくない。そうした人たちに、日曜日の夕方に残したい感覚は何か。どういう気持ちで、日産との接点になるのか。もっと温かい、もっとやさしい、もっと笑える、家族で聞かれていることを想定しはじめましたね。子どもが聞いたときにもいい思い出になるような。

僭越かもしれませんが、「サラリーマンの背中を押したい」なんて気概も出てきた。そうすると、引っ掛けようとかターゲットに人気な音楽で喜ばせようといったことではなく、いかによりよい物語でリスナーを楽しませるか、という気持ちが強くなった。そんなタイミングでした。

もうひとつは、13年目のリニューアルです。番組史上最大の改革だったと思います。しかしこれが結構なハレーションを起こしました。離れてしまったリスナーがいたことも確かです。

――日産としてはどのような判断をしたのですか。

松村:三部構成に変えたときですよね。それはそれでよい変化だと思っています。昔からのリスナーさんの一部が離れてしまったことは我々も悲しく、申し訳ない気持ちでしたが、一方で、リスナーもポジティブに捉えてついてきてくれたのも確かです。

『NISSAN あ、安部礼司』は、時代に合わせて、トレンドを取り入れるというよりは、一歩先を行き、作っている立ち位置ととらえています。改革するからこそ、新たなトレンドが生まれ、リスナーの皆さまにより楽しんでいただけるのではないでしょうか。

堀内:当時も日産さんが、「それでもやるべきだ」ととても後押しをしてもらえました。一か八かの攻めをしていたので、その一言をいっていただけて、たいへん救われました。リニューアル時は針のむしろでしたから。

松村:日産は90年前の創業当時から、「他のやらぬことを、やる」という精神を、90年間変わらずDNAとして掲げています。このDNAは商品や技術はもちろん、我々のマーケティングや広告でも表現しており、社内では“やっちゃえ精神”と表現したりもします。広告コピーでも「やっちゃえ、NISSAN」と発信しているとおり、「技術の日産が、世の中やみなさまの人生を面白く」していきたい、と考えています。

『NISSAN あ、安部礼司』という番組も、このDNAを体現しているもののひとつです。

――長寿番組となると、それ自体が変化の対象になることもありそうです。

松村:そうですね。ずっと同じことをやっているとマンネリ化しますから、止めようという議論もあるかもしれません。ただ、『NISSAN あ、安部礼司』自体、日本各地でリアルイベントを実施したり、日本武道館(東京・千代田)で“家族会議”を開いたりもしました。最近だと音楽配信サービス「Spotify」に番組連動のコンテンツを用意したり、「YouTube」にも挑んだりしました。新たなメディアとして、インタラクティブなデジタルOOHも最近実施しましたね。漫画化や深夜ドラマ化といったマルチメディア展開など、枚挙にいとまがありません。

こうした新たなチャレンジをすることは当社内でも応援してもらえますし、成功させているので、その力でまた新しいことをしていく。それが継続できている理由だと思います。

堀内:漫画化はしりあがり寿さんによる『あ、安部礼司』が最初ですね。さらにいまは主婦と生活社さんから、『あ、安部礼司です。』(漫画=青木U平)を連載、単行本化しています。同作の担当の編集者さんが、実は三部構成変更をきっかけにリスナーとなってくれた方だったんです。そこから話が広がりました

ロゴ「平均的サラリーマン図鑑」と写真 表紙 漫画『あ、安部礼司です。』(著=青木U平/主婦と生活社)3巻表紙
(写真左)「Spotify」で配信中の「平均的サラリーマン図鑑」ロゴ〔同右〕漫画『あ、安部礼司です。』(著=青木U平/主婦と生活社)3巻表紙

――多岐にわたる接点を設け、施策を打っていく上で、ポイントになっていることは。

松村:日産は電気自動車(EV)のパイオニアとして、2010年に世界で初めて、電気自動車「日産リーフ」を量産化しました。

それ以降、日産は国内におけるEV販売台数13年連続No1を維持し続けています。日産はワクワクする多様なクルマを求めるお客さまのニーズの高まりや社会的課題、環境の変化に対応し、電動化をより一層推進していくビジョンを掲げています。

イベントでもEVを展示することがありますが、我々が一番重視しているのは、「どうすればリスナーに喜んで、楽しんでもらえるか」です。一番忘れてはいけないのがリスナーの気持ちで、リスナーが没入する世界観を決して邪魔しないように、気づいたら日産が存在している、ということを強く意識しています。具体的には、たとえばイベントでも、単にクルマを置くのではなく、物語やキャラクターと連動させてリスナーにクルマを楽しんでもらっています。実際に23年7月に神戸で実施したリスナーイベントでEVを展示したのですが、前後の地上波の放送回でストーリーの中にEVを登場させたり、そのストーリーの続編を、神戸のイベントで展示しているEVの車両の中でしか聴けないオリジナルコンテンツにしたりして特別に楽しんでもらうなどしています。

商品とコンテンツが独立するのではなく、物語の中で重要な存在、カギとなる形で実現できているのが、企業主語の広告とはまた違う訴求になっていると思います。

一方的な広告に対してネガティブな印象を持たれる方もいらっしゃいますし、印象の好悪とは別に、昨今で言えば、“タイパ”(タイムパフォーマンス、時間効率)重視で、広告は飛ばす方も少なくありません。そういったお客さまに寄り添うにはコンテンツ力がとても大切です。共感を最大化するためにもお客さまを大事にする。『NISSAN あ、安部礼司』でもとても意識しています。

リスナーの皆さんの熱量もとても高いんですよ。2023年は、神戸、宮崎、そして渋谷を巡ってリアルイベントを実施しましたが、何万人という規模で集まっていただけますから。

松村:イベントの最後に、キャストもリスナーも全員で、『NISSAN あ、安部礼司』のテーマ曲を大熱唱という場面もありましたね。

堀内:あれは壮観でした。ただ、きちんと言っておくと、外した企画もあります。ですが常に双方向のコミュニケーションをしているつもりです。リスナーさんも、こちらの企画が面白くなければ、きちんとダメ出しをしてくださる。なので我々もご意見をください、過敏に反応して動きますから、というのを続けてきたつもりです。

ただ、こうした状況に安住するつもりもありません。担当してくれている作家の二人も、次から次へとアイデアが出てくる、と言っています。「Spotify」をやろうとなったのも、まだ余力がある、もっと深堀りできる、と始まりました。

全国の音楽フェスを回ったときも、もちろん日産のクルマも連れていきます。クルマを展示しながらラジオドラマをやって、足を止めてもらおうとあがいて。新しいリスナーが1人でも増えるならやってみよう、と、下積み時代みたいなことをずっとやっています。新しいリスナーに番組を楽しんでもらうためなら、なんでもやっている。僕たちの番組も1回聞いてみてください、どれだけ面白いか!と。

写真 『TOKYO FM リスナー感謝祭 in 渋谷音楽祭2023』(2023年10月22日開催)で展示した、軽自動車のEV「日産サクラ」
『TOKYO FM リスナー感謝祭 in 渋谷音楽祭2023』(2023年10月22日開催)で展示した、軽自動車のEV「日産サクラ」

――18年、人間で言えば新成人ですが、今後、どのような未来像を描いていますか。

松村:『NISSAN あ、安部礼司』という番組は、ただのラジオのコンテンツや、日産の情報発信の場というだけではないと思っています。それを超えて、リスナーの皆さんと、日産との絆を作る場であると思っています。今後も、「他のやらぬことを、やる。」の精神で、チーム安部礼司でやっていきたいと思っています。

当社のグローバル本社ギャラリー(横浜市)でもイベントを開催したことがあるので、社内でも『NISSAN あ、安部礼司』のリスナーの皆さまの熱量については認識されています。それでもなお、地方などで開催したベントの写真を共有するとさらに驚かれますね。各地でもこの熱量で集まっていただけるのか、と。一方的な発信ではなく、共感できるコンテンツこそ、結局は私たちが最もお伝えしたいことにつながるのではないか、と思います。そのほかの施策にも生かせるものも多いはずです。

堀内:TOKYO FMの中でも、大きな番組に育つ実感もないままに、終わらせないために、スタッフは全員、本当にプロフェッショナルに育ったと思っています。18年、ラジオドラマをやり続けてきて、いいものが作れるようになって。いいものを作っても、まだリスナーからすると弱いっていう。新しいものもどんどん取り込みながら、まだまだ走り続けると思います。

常盤:TOKYO FMとしては、『NISSAN あ、安部礼司』がひとつのロールモデルになっているんですね。ラジオ番組ってこんなこともできるんだ、と先陣を切って、現実化していく番組です。デジタルが存在感を持っていますが、とはいえ装置ですから、結局届けるものが大事。『NISSAN あ、安部礼司』は唯一無二ですから、それを模倣するのではなく、姿勢、スタイルを継承して、新たな番組をどんどん作っていかなくてはなりません。

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