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【はじめに公開】マーケティングの教科書では肝心なことが語られない〜『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか』より

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

今回は、3月5日に発売した新刊『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』(北村陽一郎著)の「はじめに」の一部を紹介します。

私は電通という会社で、広告プランナーの仕事をしています。私自身も現場のプランナーとして担当クライアントを持って仕事をしつつ、社内で少人数制のプランニング塾「北村塾」を主宰しています。マーケティング理論や考え方を実際の広告プランニングでどう活かせばいいのか、若手プランナーたちの現場の課題感を聞きながら、対話を通じて理解を深める場になっています。

通常の研修は1人のスピーカーがたくさんの参加者に対して話をする形式が多いと思いますが、私の塾では1組を3人まで、時間も1回30分としています。増枠してほしいという相談もよくいただくのですが、1組3人までという上限に関しては、一貫して守るようにしています。全20回を週2回ずつのペースで進めますので、1期が終了するのに3カ月弱かかります。4組同時に進行させても1期12人までという中で、3カ月後や半年後まで予約をいただいているような状況です。

なぜ私が少人数にこだわっているのかというと、マーケティングの理解を深めるために必要なことは数学や歴史などと違い、すでに何かを知っている人からまだそれを知らなかった人への知識伝達によるものだけではないと考えているからです。マーケティングは、いま実際に生きている人たちに関わっています。世の中には老若男女、いろんな人がいて、しかもその人たちが少しずつ変化していきますので、いかに経験を積んだマーケターであっても、よくわからない分野は必ずあります。逆に、マーケターとしての経験がそれほど長くなくても生活者としての肌感覚を持っていれば、その部分については経験の長いマーケターよりも優れた理解をしているものです。

一方通行ではなく、参加者それぞれが重要な役割をもって学び合う場としたい。週4日も研修に時間を充てているというと、よく「育成に熱心なんですね」と言われるのですが、もちろん何かしら役に立てればという気持ちもありつつ、半分は私自身の学びのために続けていますし、実際に成長に繋がっていると感じています。

広告会社にいるプランナーと同じように、広告主のマーケターの方々もそれぞれ時間やお金を割いて、本当によく勉強をされていると思います。最近は人事異動のサイクルも短く、別な分野からマーケティングの部門へと職務が変わられた方も多くいます。そんな中で私が感じているのは、多くの方が学びに使うマーケティングの本やセミナーでは、肝心なことが語られずにきているのではないか、ということです。

もともときわめて優秀で、なおかつ時間やお金を割いて勉強もされているのに実務では思ったようにうまくいかない。多くのマーケターが悩む原因の一つとして、「足し算思考」というものがあると思います。学生時代の部活や社会人の転職の悩みもそうですが、何かを始めるのはポジティブなのに対して、何かをやめるのは非常にネガティブに捉えられる傾向があります。マーケティングにおいても同様の傾向はあり、それまでのものに追加して何かを始め、中止はせず、すでに取る必要がなくなったKPIを「ずっと定点で取っているから」という理由で取り続けたりしているケースも少なくありません。

一つ一つの考え方やフレームについて学ぶための優れた教科書は、たくさん出ていると思います。しかしそれらが現場において誤解・誤用され、せっかくの学びが活かされないばかりか、実務の上でも困った状況に陥ってしまう。本当は「足し算」だけではなく、「引き算」や「場合分け」の技術を必要とするのがマーケティングの実務であると思うのですが、そうしたことは教科書でほとんど扱われていません

写真 書影 なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論

『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』
3月5日発売/北村陽一郎著/定価:2,200円(税込)

 

本書は、こうしたマーケティングの考え方やフレームを実践においてどのように使えばよいかについてまとめたものです。特定の広告主のマーケティング責任者として成功を修めた方の本とはまた違う角度から、多様なカテゴリーを扱う広告会社のプランナーの経験をもとにした汎用性を意識して、読まれる方の現場の課題解決のお役に立てたらという思いで書きました。

第1章では、マーケティングについて一通り学んで理解したものの、それを実践に活かそうとすると、うまくいかないことが多いのはなぜなのか、という部分を紐解いていきます。トンカチを持つと目の前のものがクギに見える、というような言い方がありますが、どういうときに何を使えばいいかがわからないという話は、私の塾の受講生からもよく聞かれるテーマです。3つの過剰(過剰な一般化・過剰な設計・過剰なデータ重視)を意識することで、より現実的な状況に即して考えることができるようになると思います。

第2章から第4章では、「3つの過剰」をより詳細に見ていきます。マーケティングの教科書においてそのテーマがどのように扱われており、それらが現場においてはどう誤解・誤用され、うまくいかなくなるのか。これらのポイントをおさえ、どのように使用するのがよいかをまとめる構成になっています。具体的には「ブランド認知」「ターゲット設定」「パーチェスファネル」「カスタマージャーニー」「インサイト分析」「重回帰分析」の6テーマを扱います。ご興味のあるところから、お読みいただければと思います。

第5章では「現場の広告プランニング」として、状況によるマーケティングの使い分けについて考えます。ゴルフコースに出たときに状況に応じてクラブ選択をするように、現場のさまざまな案件に対応するには、状況に応じてこの手法は使えそうだ、逆にこの手法は今回は使わない方がいいだろうといった判断の基準が必要です。多くの教科書に載っているのは「有用である」ということと「こう使ってうまくいった」ということで、「こういう時にこの手法は使うべきでない」という議論はほとんどありません。(この手法はどんな時にでも使えます、と謳うものさえあります)。実際にマーケティングを考える順序や、原理原則的なこととそうでないことの整理も含め、間違った予算や時間の使い方を少なくするために現場で気をつけた方がよいと思われることについて、まとめています。

第6章では、塾の受講生との質問のやりとりから、一部をご紹介します。私の塾は、30分の時間内で全員と対話します。受講者からは、私に質問されるのはとても緊張すると言われることが多いのですが、私も受講者から質問を受けるときは緊張し、終わったときには毎回のようにどっと疲れています。うまく答えられる時もあれば、あとでもっとこう答えておけばよかった、あれは間違いだったと思うこともよくあります。現場のマーケターがどんなことを考えているのか、参考になる部分があれば、と思います。

私は広告会社で働く一人の広告プランナーであるに過ぎません。言語化できてきた部分とそうでない部分があり、まだまだ私自身も修業中の身ではありますが、本書が現場でマーケティング実務に携わる方々、本当に価値のあるものを届くべき人に届ける仕事に奮闘する方々にとって、役に立つような内容になっていることを願います。

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写真 人物 北村陽一郎

北村陽一郎
電通 統合プランニング・ディレクター

1973年生まれ。東京大学教育学部卒、1996年電通入社。テレビ広告・スポーツ放送権業務などを経て、2012年より広告プランナー。自動車・食品・精密機器・金融・アプリなど幅広い広告主のプランニングに従事するかたわら、社内向けの少人数制プランニング塾「北村塾」を開講中。NPS=98.4、推奨度平均9.89点という圧倒的な人気を得る。

『なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか 電通戦略プランナーが教える現場のプランニング論』(北村陽一郎著)
定価:2,200円(本体2,000円+税)

ブランド認知、パーチェスファネル、カスタマージャーニー…有名なマーケティング・フレームを現場で使うとき、何に気をつければいいのか?「過剰な一般化」「過剰な設計」「過剰なデータ重視」の3つを軸に解説。推奨度9.9の電通社内プランニング塾の内容を書籍化。