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森永乳業が実践する コミュニケーション設計で意識すべき“受け手発想”とは

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宣伝会議は2024年3月11日(月)~15日(金)の期間、「AdverTimes.Days(アドタイ・デイズ)2024(春)」を開催した。「アドタイ・デイズ」は、広告・マーケティングの実務者、多様な視点、構想、実績を持った講演者と共に、業界がその時々に直面する課題を提示し、解決の方向性を導き出していくことを目的とする、「講演者と参加者の共創を目指すハイブリッド型のイベント」。

「アドタイ・デイズ2024(春)」では、テーマを「Humanity 「人」と「思考」と「感性」-AI浸透時代のマーケティングとクリエイティブを考える-」と設定。テクノロジーの力でマーケティングが進化した時代、マーケター、プランナー、クリエイターに求められるクリエイティブとは?実務の世界のトップランナーとの議論を通じて、コミュニケーションビジネスにおけるクリエイティビティを再定義した。本記事では、「アドタイ・デイズ2024(春)」の中でも、注目のセッションをレポートする。

「コミュニケーション設計で意識すべき“受け手発想”」のテーマで森永乳業マーケティングコミュニケーション部部長の林正義氏が登壇したセッションでは、広告には出し手と受け手がいて、出し手である広告主の情報をどうやったら受け手である生活者に受け取ってもらえて、かつ感情を動かして行動に変化を起こしてもらえるようになるのか、について解説した。

“受け手発想”とは何か、なぜ必要なのか?


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

“受け手発想”とは、広告主が自分たちの言いたいことを言うのではなく、お客さまにとって「価値のある情報」をお客さまに受け取ってもらえるように仕立て直して発信することです。

ここでいう価値とは、当然、お客さまにとっての価値のことです。価値とは企業が決めるものではなく、お客さまが感じるものだからです。それでは、どうしたらお客さまに価値を感じてもらえる情報を発信できるのか、まずは喜ばせたい相手が誰なのかを明確にする必要があります。

その上で、広告において意識しないといけないのは「どうしたらお客さまが喜んでくれるのか?」。それを粒度細かく考えて、それに基づいてシナリオをつくることが大事です。同時に、自分たちがお客さまや社会にとってどのような存在になりたいのかを深く掘り下げることが重要だと思っています。

ここでお客さまについて考える上で大事なことがあります。マーケティングの世界では、よくお客さまをターゲットと呼びますが、お客さまは決して「標的」ではないということ。無機質で実体のない概念とか、もの扱いをしてはいけないということです。

喜ばせたいお客さまは誰なのかを明確にして、その上でブランドとしての志や想いや意志を規定し、お客さまの感情に訴えかける要素を盛り込んで、中長期的にブランドのファンや応援団になってもらえるようにプランニングするのが、受け手発想のコミュニケーションを組み立てるステップです。ブランドのためにならなければやる意味がありませんし、お客さまの関心事じゃないと無視されます。お客さまの感情を動かすことができなければビジネスで結果を残すことはできません。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

現代のコミュニケーションの難しさ

それでは、なぜ受け手発想が重要なのかについて話していきます。ここで一つ大事な前提があります。それは「生活者は、企業の広告には興味がない」ということです。生活者は毎日朝から晩まで様々なチャンネルから様々なブランドにリーチされ続けているので、本当に関心があるもの以外は興味がありません。 何か広告を打てば認識してもらえる時代ではもうないということです。でも、私たちは広告でお客さまの感情を動かさないといけませんので、いろいろ工夫して発信していかないといけません。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

情報が届きにくくて、生活者が自分で自由に情報をコントロールできる時代に、従来の出し手からの独りよがりの一方通行の情報発信であったり、ただ闇雲にバズることを求めるような情報発信では、伝えたいことを伝えることはできません。

誰に情報を届けたいのかを明確にした上で、そのお客さまの情報接触動線を洗い出して、その動線上のどこにどんな情報を置けば喜んでもらえるのかを綿密に設計しながら、最終的にどんな感情をつくれれば、ビジネスで結果を残せるのかというお客さまの視点に立った戦略をつくらないとなかなかお客さまに情報を届けて、我々の思い通りに商品を買っていただくことができないと思っています。

30周年を迎えたMr.RAINIER。“受け手発想”の周年企画とは?


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

受け手発想でコミュニケーションを実施すると、どういうことが起こるのか、当社の事例でお話をしたいと思います。今回ご紹介するのは、1993年に発売したチルドカップ飲料だけで販売本数百億本達成しているマウントレーニアです。マウントレーニアは2023年で発売30年を迎えました。私たちはこの2023年を特別な年にしようと、コミュニケーションのプランニングを一年前から開始しました。

周年の年に“出し手発想”でよくありがちなのが「ありがとう。おかげさまで30周年感謝を込めてプレゼントキャンペーン」のような自分で自分の誕生日をお祝いするような企画です。しかしよく考えてみると、何周年と言われても自分には関係ない話です。それよりも、この節目の年にこれまで支えていただいたお客さまをいかに喜ばせるか、何を伝えたら喜んでもらえるのかを考えるべきだと思っていました。

なぜかと言うと、ここ数年、マウントレーニアの状況は競争が激化する中で、競合品と同質化して売り場で埋もれてしまっている、そんな顔の見えない存在になっていたからです。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

だから私たちは、マウントレーニアがもう一度売り場でスポットライトが当たり、お客さまが自信を持って自慢したくなるような存在にすることこそが、長年ブランドを支えてきたお客さまへの恩返しになると考えました。

まず私たちが取り組んだのは誰に喜んでほしいのか、誰を喜ばせたいのかを再設定することでした。具体化していくにあたって、SNS上で生活者からどんな言葉でブランドが語られているのか調べたり、webサイトにはどういう検索ワードで流入してきているのかを分析したり、当社に寄せられていたお客さまからの声を調べたり、時間をかけて丁寧に、お客さま像を紐解いていきました。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

中でも当社宛てに届いていたお客さまの声は大変貴重でありがたく、私たちは過去十年分のマントレーニアに関するお客さまからの声、約1万2千件全てに目を通したのですが、一人一人のお客さまのこの体験や気持ちや想いは、大切にしないといけないと改めて思いました。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

こうしてつくり上げたのが、この30周年のコミュニケーションステートメント、「ありのまま~ココロのよりどころ」です。

企画のコアアイデアは「もしも都会の真ん中に山があったら」です。目まぐるしく変わる世界、多くの人が疲れていたり、忙しい暮らしをしている中で、真ん中に雄大な山があったら暮らし方とか感じ方が変わるかもしれない。それがマウントレーニアを飲んだ時の癒される感じとか、ホッとする感じに近いんだということを企画に込めました。

その結果、非常に多くの方々から30周年のお祝いのメッセージをいただくことができました。こういう応援団を私たちは大切にしないといけないなということで、関係者全員で心を新たにした次第です。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

ビジネス上の結果は、売り上げは2桁伸長をしまして、情報総到達量は計画比の5.5倍ということで大きな成果につなげることができました。

“受け手発想”はクリエイターとのフラットな関係性が肝

最後に“受けて発想”を実践していく上で、大切なポイントについてお話します。ただ、“受け手発想”を実践するための一撃必殺の裏技というのは実は存在しません。特に戦略部分はただただ、お客さまと向き合って考え続ける以外にはないと思います。 ただ一方でクリエイティブ制作とか手法を組み立てる場面においては裏技ではないですけど、意識した方が良いポイントがございます。それはクリエイターとは、共に企画する仲間としてフラットな関係じゃないと受け手発想のコミュニケーションを実現することは難しいということです。そして、実はここがとても大切な肝だと思っています。


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

広告を発注する側と受注する側の上下の関係になってしまうと、クリエイターでもない私たちが伝えることのプロであるクリエイターが考えた最善の策に個人の主観だったり、好き嫌いで余計な口出しをして自らの手でクリエイティブを台無しにしてしまうという危険性があるからです。ただ、決してお任せっていうわけではなく、ブランドオーナーの私たちがしっかり決めなくてはいけない部分があります。それは「どんなお客さまに喜んで欲しいのか、それはどんな人で、ブランドに対して何を求めているのか。 何を言ってあげると喜んでもらえるのか」などの戦略の部分です。

喜ばせたいお客さまが誰で、そのお客さまの頭の中に何を残したいのか?企画を判断する上での判断軸は何かを明確にする必要があります。

“受け手発想”のコミュニケーションのポイント


写真 実データ 「アドタイ・デイズ2024(春)」森永乳業

本日お話しした“受け手発想”のコミュニケーションを実践するためのポイントをまとめました。3つであります。

まずは徹底的にお客さまを理解して、チーム内で認識の共有をしつつ、ブランドとしてお客さまにどんな価値を提供して、どのように喜んでもらうかという志を規定して、ゴールまでの道筋をしっかりと立てることが重要です。

その上で、従来の広告会社と広告主という関係を取りはらい、とにかくお客さまがどうしたら喜んでくれるのか? その一点だけを目指して議論を密に深めながら、価値を一緒に共創する「フラットなチーム」として取り組んでいくことが重要です。

後は任せるところは任せて、でも一方では任せすぎず、ワンチームで取り組んでいくことだと思っています。

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登壇者

森永乳業マーケティングコミュニケーション部 部長
林 正義 氏

森永乳業に新卒で入社後、工場事務・営業を経て2000年~2021年までマーケターとして、アイスクリームのマーケティングを約20年、ビバレッジのマーケティングを1年経験。その間アイスクリームの「MOW」「PARM」の開発に携わり、2015年から7年連続でロングセラーブランド「ピノ」のV字回復を実現。2021年より現職。「生活者のココロを動かすコミュニケーション」をテーマに活動中。