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AI時代のブランド構築 〜広告でブランドはつくれるのか? 

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宣伝会議では、2024年3月1日(金)に浜松町コンベンションホールにて「アドタイ・デイズ2024(春)東京」を開催しました。当日合計23セッションの講演、展示ブースでのプレゼンテーションなどを実施しました。
 
本レポートでは当日、行われたセッションの中でも、注目度の高かった企画を選んでディスカッション内容を紹介。ここでは「AI時代のブランド構築 〜広告でブランドはつくれるのか?」をテーマにしたUber Eats Japan の中川 晋太郎氏、資生堂ジャパンの北原規稚子氏の対談の様子をレポートします。
 
生活者のブランドに関する情報接点は多様化し、広告を中心にしたブランドイメージの構築は難しくなっているとも言えます。特に生活者が発信する口コミ情報は、ブランドイメージの形成に大きな影響を与えているのではないでしょうか。そんな環境においてマーケターは、広告、特にテレビCMがブランド構築に与える影響をどう評価し、その活用の設計をすればよいのでしょうか。そこで、資生堂とUber Eatsのマーケティング責任者に、現在のブランド戦略や広告活用の在り方を対談してもらいました。本稿ではその対談セッションをレポートします。
写真 セミナー Uber Eats Japan 代表 ゼネラル・マネージャー 中川 晋太郎 氏(写真中央)、資生堂ジャパン マーケティングリレーション本部本部長 北原規稚子氏(写真左)。
Uber Eats Japan 代表 ゼネラル・マネージャー 中川 晋太郎 氏(写真中央)、資生堂ジャパン マーケティングリレーション本部本部長 北原規稚子氏(写真左)。

夏木マリさんに反町さん、松嶋さん夫妻のCMを企画した狙いと効果

――自己紹介および自社ブランドの紹介をお願いします。

中川:P&Gでのブランドマネジメント担当、飲食事業の再生を経て、2009年からユニリーバ・ジャパンでマーケティングに携わりました。2021年からマーケティング責任者としてUberに入社し、2022年9月からUber Eats Japanのゼネラル・マネージャーを務めています。

Uberは元々人を動かすライシェアリングの会社として始まり、飲食店の料理を運ぶUber Eats、海外ではBtoBで物を動かす物流業Uber Freightへと、「move」を起点に事業展開しています。Uber Eatsの年間取扱高は1200億ドル、1億3000万人の月間利用者を記録しています。

Uber Eatsが現在未開拓の利用者層は、家族層です。最終的には、体が不自由で外出できないけど免許も返納しているようなシニア層にもサービスを利用してもらうことで、生活を豊かにできると考えています。

実データ グラフィック Uber Eats 「Uber Eatsで、いーんじゃない?」
Uber Eatsでは2023年4月から夏木マリさんを起用し、テレビCMを中心に「Uber Eatsで、いーんじゃない?」のキャッチフレーズで広告展開をしている。

現在のCMの狙いは、家族層への訴求と、Uber Eatsの多様な使い方の紹介です。加えて特に日本の場合、Uber Eatsは贅沢すぎて利用に罪悪感のある人が多いことから、夏木マリさん演じる義理のお母さんが「便利なもので楽していいんじゃない」と言ってくれる設定にして、罪悪感を和らげる狙いもあります。

北原:私は新卒でライオンに入社し営業・ビューティーケア分野のブランドマネージャーを経験後、資生堂でTSUBAKIやELIXIR、MAQuillAGEなど、主にドラックストアで販売されるブランドのマーケティングを担当してきました。

資生堂のミッションは「BEAUTY INNOVATION FOR A BETTER WORLD」。資生堂は150年の歴史で、ずっと、生き方や社会の美しさを目指しています。昨今のマーケティングにおいてデータが溢れ、商品を効率的に売ることを一般的に先行しがちですだと感じますが、今私たちは改めてこのミッションを基に、人と社会をより良くする文化を生みだすようなマーケティングに取り組もうとしています。

写真 CM カット複数 男性肌化粧品「SHISEIDO MEN」のテレビCM
男性肌化粧品「SHISEIDO MEN」のテレビCM。反町隆史さんと松嶋菜々子さんが夫婦で共演し話題になった。

化粧品のハッシュタグ検索などを自発的にすることが少ない男性層がターゲットの商品なので、web広告だけではなくテレビCMも効果的でした。加えて、テレビCMが話題になり、2次的なUGC(User Generated Content・ユーザー生成コンテンツ)が拡散されることで、広告の大きな波及効果もありました。

消費者行動が変化した時代に、広告でブランドはつくれるか?

――本日のテーマのひとつにブランドがあります。そこでそもそもブランドは必要でしょうか?また、広告でブランドをつくれるものでしょうか?という2つの問いについてのお二人の考えをお聞かせください。

中川:激安商品がよく売れるように、ブランドがなくても物は売れるでしょう。しかしその場合、低価格にするため、決して高い利益は生み出せない。ゆえに、効率よく成長するためにブランドが必要です。

プラットフォームビジネスであるUber Eatsも基本的に薄利多売です。そのため、ブランドをつくらず経営しようとすると延々と値下げするしかなくなります。そこで「Uber Eatsを使うってかっこいいよね」といったブランドイメージが付けられると、値引き率を下げてもユーザーは減らないでいてくれます。最終的には、値引きをしなくても利用者が減らない、利用頻度も下がらなければ、強いブランドをつくることができた証明になりますね。

そして、もうひとつ。ブランドと広告のかかわりです。ブランドづくりに広告は有効な一方、広告のみではつくれない、というのが私の答えです。なぜなら、ユーザーのブランド観に影響を与えるのは、実際には広告だけでなく、アプリのUI・UX、注文時の体験なども含まれるからです。ゆえに、ユーザーとサービスの接点全てでブランドデザインが必要です。ただし、我々がコントロール可能な接点としての広告の影響はいまだに大きいです。特に日本はテレビ広告の効率が依然として高いので、当面はテレビとデジタルの両方で広告を展開予定です。

北原:ブランドが必要かに関しては中川さんと同意見で、リソースに限りがある場合には、ブランドは有効です。資生堂においてブランドは「意味」という認識です。例えば、プレステージの「クレ・ド・ポーボーテ」というブランドで伝えていきたい意味は、「ファッションやメイクで着飾らなくても、この輝く肌さえあれば、何もいらない」というものです。こうしたブランドをつくる手段として広告は有効です。

ただし近年、化粧品の購買行動が変わっていることを受け、広告のやり方を変える必要性はあります。かつては、テレビなどのマス広告を通してブランド自体に憧れ、ひとつのブランドで全ての化粧品を揃える人が多かったです。しかし現在、お客さまの化粧品との接点は圧倒的にUGC優位に変化しており、ネット上で話題になった化粧品の中で気に入った商品をブランドにこだわらず購入し、化粧ポーチの中は1000円のアイシャドウと1万円の口紅が混ざっている、というような人も増えています。

写真 セミナー

――UGCに関する資生堂の取り組みを教えてください。

北原:昨年、スキンケア効果のあるファンデーションとして「SHISEIDOエッセンススキングロウファンデーション」を発売したところ、お客さまから「これはファンデーションの“フリ”をした美容液だ」、「もはや色付き美容液」と発話があり話題になりました。それを踏まえ、コミュニケーションを「彩る美容液」や「肌をカバーする美容液」という発想を強めたものに変えています。

また、UGCと企業のブランド世界観にギャップがあることをブランディング上懸念されがちですが、実際にはそうしたギャップを埋めることも可能です。コアなファンの方からのUGCなどで、ブランドを好きな方に発信いただくことで、UGCをコントロールしながら、一緒にブランドを創り上げる、ユーザーとの共創ブランディングに力を入れています。

ブランドと事業の投資バランスの理想と現実

――ブランド維持のための投資とその他事業投資のバランスについてどう考えますか。

北原:ROI(Return On Investment、費用対効果)をデジタルで素早く追えるようになったことで、短期的な目先の事業利益に注力しがちだと思います。しかし、本来は長期的なROIを見据えて、ブランド・事業の両方へ常に投資を続けるべきですよね。そのため、理想的には長期的なブランドエクイティと短期的な販売促進への投資配分を一律に決めて運用できると良いのですが、実際にはまだそこまでは実現できておらず、資生堂はバランスを見ながら適宜判断しています。

中川:基本的な考え方は北原さんと全く同じです。先述の通り、将来的な経営効率を上げるためにブランド投資をしているので、今が苦しいからとブランド投資を極端に減らすと意味がなく、極力維持したいです。

しかし一方、特定期間の限られた資金内で、ブランド投資と短期成長に直結する活動のどちらかを止めざるを得ない場合、その期間における総売上への影響を鑑みて、ブランド投資を一時停止することもあります。理想的にはブランドを常に優先したいですが、現実的には、他媒体や自社媒体での広告でできるだけ補完しながら、こういった判断をすることもありますね。

AIでマーケティングの仕事はどう変わる?

――最後にマーケティングにおける生成AI活用に関して、取り組みや考えを教えてください。

中川:AI自体は実際そこまで新しいものではなく、昔から身近にあったと思います。ただ、生成AIの登場で誰もがAIを使いやすくなった点が大きな変化です。マーケティングスキルも民主化され、極端な言い方すると誰でもできるようになる。ゆえに将来的には、AIにどういう指示出しができるかが、スキルの違いの勝負になるのではないでしょうか。

北原:AIを活用することで、お客さまのセグメントに合わせた商品やオウンドサービスをタイミング良く提供でき、効率良くマーケティングできる良さがあります。

当社のサービスの一例に、自分のDNAから肌特性や自分に合うスキンケア、栄養素や生活習慣を調べる「Beaty DNA Program」があります。最近のお客さまは間違いないものを選びたい人が多いため、一生変わらないDNAの検査は人気です。その結果をもとに、お客さまの特性に合わせて最適な美容の提案をすることができます。

また最近、導入した「Beauty Key」という資生堂メンバーシップアプリは、AIを裏側で活用しながら、お客さまの顧客データや肌データを一元化し、アプリを介して体験を届けるツールです。商品購入で入ってきたお客さまと、アプリを通してコミュニケーションを取ることで継続的なコミュニケーションによるブランディングが可能になっています。

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