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「なんかいいよね」禁止。〜『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』(谷山雅計著)より

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、4月11日に発売した『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』(谷山雅計著)の「はじめに」の一部を、新版で新たに追加した解説とともに紹介します。

「なんかいいよね」禁止。

もしあなたが、いいコピーを書きたい、すばらしいアイデアをつくりたいと心の底から思っているのなら、ひとつだけお願いしたいことがあります。

明日から、あなたの毎日の生活のなかで、「なんかいいよね」という言葉を禁句にしてほしいのです。

あなたは、いい映画を見てドキドキしたり、いい音楽を聴いてホロッとしたり、いい小説を読んでジーンとしたりしたときに、しばしばこういう言葉を発してはいないでしょうか。

「なんかいいよね」「なんかステキだよね」「なんかカッコいいよね」と。

明日から、それをきっぱりとやめにしてほしいのです。そして、かわりにこう考えてみてください。

「なぜいいのか。これこれこうだからじゃないか」「なぜカッコいいのか。こういう工夫をしたからじゃないのか」と。

こういう思考を働かすことができなければ、賭けてもいいですが、あなたはけっして「モノのつくり手」になることはできません。一生、「受け手」のままで終わると思います(もちろん、受け手でいることがダメだというわけではありませんが……)。

だって、考えてもみてください。

たとえば、ここに『パルプ・フィクション』という映画がある。見たあなたは「なんかカッコいいよね」「なんかすごいよね」を連発して、大満足かもしれない。

けれど、それをつくったタランティーノ監督は、「なんかカッコいいぞ」「なんかすごいぞ」と思いながら撮影したわけではありませんよね。

「ここをこう撮ったら、こうカッコよくなる」という、きっちりした計算と思考のもとに行動しているわけです(もちろん、つくり手が意識していない部分も、作品のなかの何パーセントかはあると思いますが)。

 じゃあ、もしタランティーノのようなつくり手に少しでも近づきたいと思うなら、あなたも同じような〝考え方〟を実行するしかありません。

ホント、受け手とつくり手の違いって、ただひとつ、これだけなんじゃないかとぼくは思います。

受け手は、一生、「なんかいいよね」「なんかステキよね」と言い続けます。「つくり手」は、「なぜいいのか。これこれこうだからじゃないか」と考え続けます。

広告の世界でも、いい仕事をしている人は、やはり「なぜ」を考え続けている人です。

ぼくがもっとも尊敬するアートディレクター氏は、あまり本を読みません。映画もけっしてたくさん見ているほうではないと思う。まあ、スターウォーズとかの話題作は見ていると思いますが。

けれど、彼は道を歩いているだけで、つぎつぎに「なぜ」を見つけてしまうナチュラルボーンな〝思考体質〟の人です。「あの看板、なんか目立つな。なんで目立つのかな」「あの男ちょっとカッコいいな。なんでカッコいいのかな」という具合に。

もちろん、そこまで常軌を逸してスゴイ人には、誰でもなれるというわけではありません。

ただ、明日から「なんかいいよね禁止」を守って、「なぜ」を考える。

これを、もし5年間続けることができれば、どんな人だって、なんらかのモノをつくれる人になれるはずだ。ぼくはそう信じています。

 

「なんかいいよね」禁止。〜増補新版追加パートより〜

編集部注:増補新版では、旧版の内容に2024年の視点から新たに2万5000字の解説を増補しています。以下はその一部です。

広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉

広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』谷山雅計著/定価:2,200円

 

本が出たあとで、まわりの人たちが、ここがよかった、あそこがよかったと感想を寄せてくれましたが、なかでもいちばん反響が大きかったのが、「『なんかいいよね』禁止」でした。

ただ、タイトルだけを見ると、じつはちょっと誤解を生みそうなところもあるんです。「『なんかいいよね』禁止」ですから、そのまま理解すると「なんかいいよね」と言ってはダメだということになるわけですが、本篇を読んでいただくとわかるように、実際には、禁止してはいないんですね。日常のなかで「なんかいいよね」と思ったときに、そこで終わらないで、「なぜいいのか」に踏みこんで考えることが大切なんだと言っています。

だから、「なんかいいよね」と思うこと自体は、すごく大事なチャンスなんです。それさえ思えない人も世の中にはたくさんいますから。いろんなことに対して「あれ、なんかいいよね」「これも、なんかいいよね」と思える時点で可能性がある。そのポテンシャルを、「なぜいいのか」と考えることでちゃんと生かしていきましょう、ということです。

これ、極端なことを言えば、別に「なぜいいのか」に答えが出なくてもいいんですよ。そうした思考をふだんから習慣にして、さっきお話しした原因と結果の相関関係を考え抜いて、思考を鍛えていくことが大切なので。

実際にぼく自身も、博報堂に入った若い頃はとくに「なぜいいのか」をよく考えていました。たまたまとなりの席にいたのが、のちに広告界を牽引することになるアートディレクターの大貫卓也さんだったので、自分ひとりで考えるだけでなく、大貫さんとも毎日のように、「自分たちは全然いいとは感じないが、なぜあの広告は世の中でウケるのか?」「最近、佐藤雅彦という人のCMが話題になっているけど、あの手法、どう思う?」などと、日夜、話し合ってもいました。

そういうやりとりのなかでアタマが鍛えられていったのはまちがいないですし、自分がつくるものにも生かされていたと思います。

 

もうひとつ、「『なんかいいよね』禁止」を実践するなかで身についていったのは、「メジャーに支持されるとはどういうことか」という感覚かもしれません。

ここのところに関しては、映画『私をスキーに連れてって』の監督で、ビッグコミックスピリッツ『気まぐれコンセプト』の作者としても知られるホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫さんが、あるインタビューに答えて、とても参考になるお話をされています。

馬場さんは、学生時代から映画を撮っておられたのですが、大学を出たあとは一時、日立製作所の宣伝部にいらしたんですね。当然、さまざまなジャンルに通じていたし、クリエイティブの世界についての自信もあったから、ご本人いわく、「肩で風を切るような感じで」会社に入った。そうしたら、初日にそのあと上司になる人から呼び出されて、「おまえ、自分が他人と違うと思っているだろう」と言われたそうです。

それはまったくの図星で、しかもそれでいいと思っておられたので、馬場さんは「オレは人と違いますよ」と答えた。すると、こう言われたというんですね。

「そうだろう、そういうふうに顔に書いてある。でも、もしこれから広告屋として成功したかったら、人となにが違うかじゃなくて、人となにが同じかということだけを考えろ」

すばらしいですよね。「なにが違うか」ではなく、「なにが同じか」。たしかに世の中では、生まれも、育ちも、環境もまったく違う人が、ある同じものについては共通に「いい」と感じることがあります。広告はまさにその共通点のうえに成り立っているんです。

そこにはメジャーというもの、もしくはたくさんの人たちとコミュニケーションするうえで大切な「広さ、太さ」に通じるものがあります。「なんかいいよね」で終わらせずに、その先の「なぜいいのか」を考えることは、そうした「とらえ方」を手に入れることにもつながると思います。

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コピーライティングのベストセラー教本、待望の増補新版

『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』
谷山雅計著/定価2,200円(税込)

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