「宣伝会議賞」は言葉の届け方を学べる場 歌人・木下龍也さんと考える「広告コピー」

2月上旬に行われた「宣伝会議賞」中高生部門の最終審査会には、特別審査員の木下龍也さんが参加し、グランプリ各賞が決定しました。審査員長の阿部広太郎さんとは、コピーライター養成講座の同期生でもある木下さん。短歌とコピーの違いや共通点を紐解きながら、言葉との向き合い方について話を聞きました。
(本記事は5月1日発売の月刊『宣伝会議』6月号に掲載されているものです)
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(写真左から)コピーライター阿部広太郎氏と、歌人の木下龍也氏。

コピーと短歌の違いは「自己」をいかに表現するか

――今年の審査を終えての感想をお聞かせください。

木下:僕は選者としてご投稿いただいた短歌を選ぶ仕事もしているのですが、審査会の序盤では短歌の基準や感覚でコピーを見ていたんです。「発見」はコピーにおいても短歌においても武器になると思うのですが、短歌の場合はそこに自分なりの詩情を加えて、読者の心を動かそうとするわけです。だから、グランプリ作品のシャープな表現、発見そのものをストレートに差し出すかたちにやや物足りなさのようなものを感じて、そのような発言もしました。ですが、他の審査員の方々のご意見を伺うなかで、コピーは自己表現ではなく、企業の抱える問題を解決するための言葉であると言うことを思い出し、ならばこれが最適解だなと思えました。

阿部:「宣伝会議賞」は、やる気がある人なら誰でも受け入れてくれるアワードです。中高生部門も、中高生の「表現したい」という気持ちに応えられる場だと改めて感じました。

広告コピーはその商品をただ説明するのではなく、受け手にとってその商品が「手の届く場所にある」と感じてもらえる絶妙な距離感を探るプロセスが求められます。親近感を抱けるかどうかは、人によって感じ方が違うので、全員に響くのは難しいですよね。審査会の議論の中でも「その感覚わかる!」という人もいれば、そうでない人もいました。色々な人の価値観を知ることで、距離の探り方を知ることができますね。

木下:人それぞれ生き方が違うから、この表現で伝わるか伝わらないか、というラインの引き方も変わってきますよね。そこをお互いにすり合わせるのは貴重な体験でした。ひとつの作品に対する自分の評価が徐々に変化したのも面白かったです。

阿部:短い時間で自分の中の常識が変わっていくような。それは顔を突き合わせて話し合いながら審査を進めたからこそ生まれる醍醐味ですね。

木下:審査員の皆さんは最終審査会以前に数千を超える作品に目を通してきたと聞いて驚きました。ご自身の仕事に影響はあるんですか。

阿部:応募コピーに自分の作風が引っ張られるということはないですが、仕事でこれは書けたなと思えた時に、「これまで5本書いて満足していたけれどもう1本書こう」とか、発破をかけられる気持ちになりますね。

木下:僕は最終審査会からの参加でしたが、こうして言葉に意識が向いていて、その言葉を良い方向に使おうとしている人が多いことに希望に感じました。

SNSなどを見ていると、背後から突然、殴りかかるような、ときに刺すような言葉があふれていますよね。こういう言葉が増えてしまった背景には、自分が投げかけた言葉の先にいる“誰か”の存在や気持ちが見えなくなってしまっている、見る余裕がないということがあると思います。でもコピーを書くことは、受け手を見据えて言葉を選ぶということですから、こんなにたくさんの中高生がコピーに挑戦している事実を知って、明るい未来という世界線がちょっと見えたような気がしました。

――印象に残っている作品はありますか。

阿部:僕がいいなと思ったのは、TOPPANエッジの「変えなかった未来の方がめんどくせーよ」です。句読点もない、こういうストレートなメッセージに出合えるのも中高生部門の魅力だと感じました。

木下:僕が推していたのは日本製鉄の「鉄なし生活1日目、失敗。」です。これは「最短のコント」を見せてもらったなと感じました。まず「鉄なし生活」という出だしが奇抜でなんだ?と思わせておいて、それが「1日目」で「失敗」しているというオチ。表現としても面白いし、実際に自分の「鉄なし生活」を想像したらやっぱり無理で。短いフレーズで2度面白い作品でした。

「特別審査員賞」としては、よつ葉乳業の「『のびしろ』の『しろ』って、

牛乳のことだと思う。」を選びました。「のびしろ」の「しろ」って絶対牛乳ではないんですけど、こう断言されるとそれに付き合ってみたくなる。今後「のびしろ」って言葉を見るたびに牛乳を思い浮かべてしまうような、秀逸な作品でした。

写真 人物
3万6942点から選ばれたファイナリストは32作品。13名の審査員で、約2時間にわたって審査を行った。

――木下さんは、中高生の時どのように言葉と向き合っていましたか。

木下:小学校低学年のとき、たまたま学級文庫にあった短編の怪談を読んで、怖すぎて数日間眠れなくなってしまったんです。言葉だけなのに、こんなに影響力があるんだと衝撃を受けました。自衛のためにも言葉を学ばなければと思い、そこからは教科書に載っている詩だけでなく、小説や谷川俊太郎さんの詩集なども読むようになっていきました。

短歌との出会いは偶然、書店で手に取った穂村弘さんの歌集でした。現代短歌は話し言葉が使われていることも多くて、詠まれている内容も、身近な風景や感情。学校で習ったものとはイメージが違いました。それでその日のうちに雑誌の短歌投稿コーナーに作品を送ったのがきっかけです。

短歌は学校でも習うので、多くの人の過去には存在します。ただ、それを今の表現、自分自身の想いを表現できるツールだとは思いづらい。もしかすると、授業で短歌を学ぶ以外にも、ひとりでいる時に図書館の隅で衝撃を受ける…みたいな出会い方も必要なのかもしれないと思っていて。だから、そういう人が増えるように、学校図書館に歌集を寄贈する活動もしています。そうやって、人生のなかのいろいろなタイミングで言葉と出会う場をつくりたいなと考えています。

――中高生の応募者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

木下:すでに短歌やコピーなど、言葉での表現に関わろうとしている皆さんに向けて伝えたいのは「書けないときは書かなくていい」ということです。書けない状態が続くと自分を責めたくなったりするかもしれません。僕は書くことを職業にしてしまいましたが、それだけが人生ではありません。他にも好きなことを見つけて、ちょうどいい距離感で、書くことに向き合ってほしいなと思います。

阿部:僕は「悩み事に出口はあるよ」と伝えたいですね。学生時代に思い悩むことも多いかと思うのですが、いつか必ず出口は見えてくるし、そこにたどり着くためのひとつの方法が「言葉」。表現手法は様々ですが、自分の想いを言葉にすることで灯りになる、そう信じています。

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