米国のCMOは今、何を考えている? 北米のマーケティング特化型カンファレンス「POSSIBLE2024」を現地取材(前篇)

昨年誕生した、北米で開催されるマーケティング特化型カンファレンス「POSSIBLE」が今年もマイアミで開催された。公式情報によると、世界15の地域に800社以上の会員企業を有するマーケティング業界団体MMA GLOBALと連携したマーケティングカンファレンスであり、グローバル企業のCMOを始め、媒体社、広告代理店、テック企業が集結。マーケティング業界の旬、これからのマーケティング業界の展望について議論が繰り広げられるという。今年は、Walmart、Coca-Cola、マクドナルド、GE、ユニリーバ、キャンベル・スープなどの米国有力ブランド企業が登壇。リテールメディア、生成AI、経営戦略とブランディング活動、そしてサードパーティークッキ問題について多くの発信がなされた。本稿では、米国の有力なマーケターや業界人がPOSSIBLEでどのような発信をしていたか、ダイジェストを電通の森直樹氏が前篇と後篇にわたりレポートする。

WalmartとCoca-Cola、リテールメディアの取り組み

まずは昨今、話題のリテールメディアについての議論からレポートしよう。今年のPOSSIBLEは、Walmart、Targetなど米国巨大小売企業によるセッションや、Coca-ColaとWalmartの対談セッションが行われ非常に注目のテーマとなっていた。

Walmart のEVP兼チーフ・レベニュー・オフィサーであるセス・ダレールが基調講演を担い、リテール・メディア・ネットワーク(RMN)は、マーケティング戦略を再構築する極めて重要なプラットフォームとして台頭していると主張した。RMNの登場によって小売業界は大変革期が訪れ、小売業が単に商品を販売するだけでなく、強大なメディア事業体になっているという。

さらに、WalmartとCoca-Colaが対談し、Walmartのリテールメディア部門であるウォルマート・コネクトは、従来の広告から、オンラインと実店舗の両方で顧客を取り込むデータ主導のアプローチへの移行を推進しているという。このアプローチによって、売上を促進するだけでなく、ブランドの認知度や顧客ロイヤルティの向上に貢献しているというのだ。Walmartの主張では、現代のリテールメディア戦略は、ディスプレイ、動画広告、高度なDSP統合など、幅広いデジタルタッチポイントを包含し、オンライン・オフラインの様々なチャネルにおいて、消費者と広範で総合的なエンゲージメントが促進されていると主張した。

このセッションで焦点となったのは、Coca-Colaがリテール・メディアを通じて新製品を発売するに至った、「ウォルマート・コネクト」とCoca-Colaのコラボレーション事例である。Coca-Colaは、若年層に文化的に共感する製品を惹きつけることを狙い、「ウォルマート・コネクト」とコラボをし、「コカ・コーラ・クリエーションズ」の立ち上げている。

このキャンペーンの成功を支えたのは、オンラインと店舗での体験をシームレスに統合し、リーチとエンゲージメントの両方を最大化するフルファネル・マーケティング戦略だったという。なかでも、Walmartの店舗内でのデジタルサイネージとインタラクティブなディスプレイ体験により、没入型のブランド体験を創出したことが大きいという。さらに、オンラインとオフラインのマーケティング活動を同期させ、消費者とのあらゆる接点で一貫したメッセージと可視性を維持できたことも成功につながったと言及した。


写真 人物 Seth Dallaire氏とMark Wagman氏
写真左から、対談するSeth Dallaire氏(EVP, Chief Revenue Officer, Walmart U.S. Walmart Inc.)とMark Wagman氏(Managing Director MediaLink, A UTA company。

ユニリーバが示したZ世代との対話の方向性とは?

ジェネレーションZ世代(Z世代)についても魅力的なセッションがあったのでレポートしたい。ユニリーバのElizabeth Hamilton(Associate Content Lead | Dove North America Unilever)がパネルとして登壇し、ブランドとZ世代との進化する関係について洞察したセッションだ。ダイバーシティ&インクルージョンとオネスティへの姿勢、ブランドがそのマーケティング・ナラティブを純粋に体現することの必要性を強調していた。

Elizabet氏は、マーケティング担当者がZ世代と関わる際に犯してしまう重大な間違いがあるという。それは、特にこの多様なグループを一枚岩として扱うことだと指摘した。また、Z世代がブランドに期待するのは、単に製品だけでなく、その背後にある企業の理念や行動も含まれることを強調。表面的なエンゲージメントや一面的なマーケティング戦略は、Z世代には響かないことを指摘した。Z世代は、“深み、信憑性、伝えられた価値観に沿った行動”を求めていると主張した。

そして、Z世代へのマーケティングを成功させる鍵は、単に正しい流行語を使ったり、最新のトレンドに乗ったりすることではなく、現実的な問題への持続的な取り組み、ターゲット層の価値観への深い理解、そして、まさにリーチしようとしている人々の意見や視点を尊重し、大切にする透明で継続的な対話が必要だと語った。特にサスティナビリティ、インクルージョン、社会正義など、自分たちの生活に直接影響を与える社会問題に関して、ブランドが約束を守るかどうかをZ世代は考えるという。


写真 人物 Z世代セッションの様子。
Z世代セッションの様子。Elizabeth Hamilton氏(Associate Content Lead | Dove North America Unilever)は写真の左から2番目。

ソーシャルメディアのオーガニックな価値にブランドは気付いていない?

シリアルアントレプレナーであり、先進的思想家で、Facebook、Twitter、Uberなどに初期投資したエンジェル投資家で、総合広告代理店のクリエーター兼CEOであるGary Vaynerchuk (Chairman VaynerX)の基調講演も興味深かったので紹介したい。Gary氏は、市場の飽和を解決するために新しい、非正統的な方法を見つけて消費者の注意を引きつけ維持する必要性がブランドにあると強調。現代のマーケティング戦略において、オーガニックなソーシャルメディアの活用が過小評価されており、さらに多くは未活用であることを指摘した。オーガニックなソーシャルメディア活用の潜在的な価値、影響が生活者の意識や消費者行動に大きな影響を与えるにもかかわらず、多くのブランドがその可能性を見落としていると見解を示した。

また、伝統的な広告方法を批判し、メディアとクリエイティブ戦略の分離について議論に至り、今日の急速な市場環境ではより統合されたアプローチが効果的であると提案しました。ゲーリー氏は、伝統的な広告指標からソーシャルメディアプラットフォーム上での直接的なエンゲージメント戦略へのシフトについて言及、広告のためだけでなく、ブランドナラティブの創出する主要な方法として、Instagram、TikTok、YouTubeなどのソーシャルプラットフォームを受け入れるよう提案した。さらに、こうした時代においては、メディア購入とクリエイティブ開発の分離は、マーケティング効果の低下を招く。メディアとクリエイティブ戦略を連動させて開発することで、マーケティングキャンペーンの効果を高めることができると主張した。


写真 人物 対談するGary Vaynerchuk氏とSwan Sit氏
写真左から、対談するGary Vaynerchuk氏 (Chairman VaynerX)とSwan Sit氏(Marketing Maven, Creator, Advisor & Investor Swan Co)。

3社に分社したGEが重視、経営と統合したブランド戦略

最後に、B2B企業の巨人、GE(ゼネラルエレクトリック)の基調講演に注目したい。Linda Boff 氏 (Chief Marketing Officer, VP, Learning & Culture, GE President, GE Foundation)は、基調講演にて、GEが置かれる大きな変革について言及した。GE主要な事業を3社に経営分割し、その新しい経営体制を世に発信する必要があった。結果、効果的なマーケティングを実行するためには、事業戦略を理解し、それと整合させることが重要であると強調している。ブランド戦略は、包括的な事業目標と絡み合うように綿密に設計されており、特に、テクノロジーとイノベーションに対するGEの歴史的貢献を強調するストーリーテリングを行っている。

経営戦略と密接なブランド戦略の設計に取り組む中、その実行は堅いB2B企業としては大胆なアプローチを取っている。GEは、ハリウッドのプロデューサーであるロン・ハワードとブライアン・グレイザーと提携し、ロボット工学と神経科学へのGEの貢献を紹介するドキュメンタリーを制作するなど、クリエーティビティが高く、創造的な取り組みを推進している。伝統的なマーケティング・チャネルと最新のマーケティング・チャネルを融合させ、魅力的なブランド・イメージ創出を推進しているのだ。


写真 人物 Linda Boff 氏
Linda Boff 氏 (Chief Marketing Officer, VP, Learning & Culture, GE President, GE Foundation)

昨年のPOSSIBLEはイーロン・マスク氏の基調講演が目玉となっていたが、それととは違い、リテールメディアの最新ケースや大規模小売事業者による発信、GoogleのPrivacy Sandboxとサードパーティークッキに関わる基調講演、生成AIとクリエイティブ、テクノロジーや経営、経営のKGIと連携するブランド戦略など、マーケターにとって実践的で示唆的なセッションにフォーカスされていたように感じる。

著名なアーティストであるAshantiの基調講演などセレブリティセッションも、内容はマーケテターにとって示唆的なものであった。昨年に引き続き、全体としては、ブランドとマーケティングに関する米国のCMOたちや広告業界のキーパーソンの関心事とチャレンジを集中的に聞くことができる魅力的な場となっていたと感じた3日間であった。

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写真 人物 森 直樹氏

森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。




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