7月9日に開かれた「ショート動画/ECカンファレンス」(宣伝会議主催)の「『検索』から『発見』へ TikTok Shopが変えるディスカバリーコマースの衝撃とEC新戦略」と題した講演で、Hakuhodo DY ONEの星拓磨氏と知念遊麻氏が登壇。国内での約1年間の支援実績をもとに、TikTok Shopで売上を生み出す条件や、日本の生活者に合わせた運用戦略を解説した。
国内ECトップ10に入る規模へ
Hakuhodo DY ONEは、TikTok Shopの日本でのサービス開始と同時に、専用支援サービス「BUZZ BUY BOOSTER」を提供している。戦略立案やコンテンツ制作、ライブ配信、クリエイターの活用、広告運用に加え、グループ会社と連携して物流や顧客対応までを支援する。
星氏は、企業から「本当に売れるのか」「投資対効果は合うのか」「ブランドを毀損しないか」「社内体制をどうつくるべきか」といった質問が寄せられると説明。その上で、「結論として売れる。ただし、商品とやり方によって結果は極端に変わる」と述べた。
Hakuhodo DY ONE ECマーケティング本部 本部長代理 兼 SNS&コマース戦略室 室長 星拓磨 氏
同社の推計によると、日本におけるTikTok Shopの流通総額は右肩上がりで拡大しており、2026年には年間1000億~2000億円規模に成長する見込みだ。国内ECモールと比較してもトップ10に入る規模感であり、無視できない販売チャネルになりつつあるとした。
2026年のTikTok Shopの流通総額は年間1000億~2000億円規模に成長する見込み
一方、認知度の高いナショナルブランドであっても、必ずしも売れているわけではない。分析では、アフィリエイターの活用人数や動画の投稿本数、ライブ配信回数が多いほど、ブランドの売り上げや視聴状況が好調という傾向が見られた。
星氏は、TikTok上の商品紹介コンテンツをECにおける「棚」と表現した。Amazonや楽天市場が、検索順位や売れ筋ランキング上の棚を競う「ランキング型」だとすれば、TikTok Shopはコンテンツを自ら生み出して接触面を増やす「開拓型」だという。
日本では約8割が「その場で買わない」
TikTok Shopは、商品を「検索して買う」従来のECに対し、動画などで商品に「遭遇して買う」プッシュ型の仕組みを持つ。ただし、日本では商品を発見した人のすべてが、ただちに購入するわけではない。
講演で紹介された2026年の国内調査では、TikTokで商品を知った後、その場で購入する割合は男女とも約2割だった。男性では、検索エンジンなどで商品を再検索する人が46.2%、女性では投稿を保存して後から検討する人が37.3%だったという。
知念氏は、グローバルで語られる、発見からそのまま購入する「即買い型」に対し、日本では即買い層と比較検討する層が混在する「検討併存型」になっている可能性を指摘した。
生活者はショート動画で商品と遭遇した後、ライブ配信で説明を聞いたり、商品を一覧できる「ショーケース」を確認したりする。さらに、別のECモールやSNS、Web検索へ移動してから購入することもある。
このため、TikTok Shopではショート動画だけに注力するのではなく、「遭遇」をつくるショート動画、「納得」をつくるライブ配信、「確認」をつくるショーケースを連動させる必要がある。
若者向けと決めつけず、商材ごとの検討心理を見る
TikTokの視聴者と、TikTok Shopの購買者にも違いがある。同社の推計では、18~34歳の男性は視聴比率に対して購買比率が低い一方、35歳以上の女性は視聴比率に対して購買比率が高い傾向が見られた。
知念氏は「TikTokだから若年層向けと決めつけず、実際に購入している生活者を踏まえて設計する必要がある」と説明した。
Hakuhodo DY ONE SNS&コマース戦略室 SNS&コマース推進部 部長 知念遊麻 氏
購入までの心理も商材によって異なる。美容・コスメでは、自分に合うか、成分や効果に納得できるかといった不安が生じやすい。アフィリエイトやUGC動画で使用者の声を見せ、ライブ配信で説明や実演を行うことが有効になる。
ファッションではサイズや着用感、着回しやすさ、デジタル機器や雑貨では機能や生活場面での利便性が検討材料となる。一方、食品・飲料は、調理や実食場面のシズル感が直感的な購入を促しやすく、他カテゴリーと比べてショート動画経由の販売比率が高かった。
「どの商材にも通用する一つの王道があるわけではない。生活者特性、商材、購入される面を掛け合わせてプランニングする必要がある」と知念氏は述べた。
「広める動画」と「売る動画」を分ける
コンテンツ量が重要だからといって、闇雲に動画を増やせばよいわけではない。知念氏は、ショート動画を「広める動画」と「売る動画」の2種類に分ける考え方を示した。
広める動画は、あるあるネタやトーク、ドラマ、トレンドなどを通じて再生や反応を生み出す。一方、売る動画は比較やレビュー、使用方法などを通じて商品理解を促し、購入につなげる役割を持つ。
同社の運用事例では、まず広める動画の再生数が伸び、その後、それまで十分に見られていなかった売る動画にも視聴が波及。購入が発生すると、アカウント内の他の動画も表示されやすくなり、連鎖的に売上が生まれたという。
自社の動画やライブ配信を起点に、クリエイターへ商品を提供してUGCを増やし、広告で反応の良いコンテンツを拡散する。同社は、このOwned、Shared、Paidの循環を独自攻略モデル「Buzz Buy Spiral」と呼ぶ。
ただし、大量のコンテンツを展開するほど、薬機法や誇大表現、ブランド表現の確認も重要になる。特に大手企業では、社内の承認やレギュレーションが投稿量を抑える要因になり得る。星氏は「コンスタントにコンテンツを制作する体制を取れない企業は、社内の仕組みやルールを変える必要がある」と強調した。
評価すべきはTikTok Shop内の売上だけではない
TikTok Shopの効果は、プラットフォーム内の流通総額だけで判断すべきではないという。
ByteDanceの資料をもとに紹介された海外事例では、TikTok Shop施策の実施後、事前の予測値と比較して他のECチャネルの流通総額が18%増加したケースと、25%増加したケースがあった。
国内でも、アフィリエイト動画の増加後、他のECモールにおける指名キーワードの検索順位が約3倍に上昇した事例や、他ECモールの広告予算をTikTok Shopへ振り分けた結果、EC全体の売上が約130%に伸びた事例があるという。店頭で来店客から「TikTokで見た」と声をかけられるなど、実店舗への波及も確認された。
知念氏は、TikTok Shopには商品を直接「売る」効果だけでなく、商品やブランドを「知ってもらう」効果もあると説明。「TikTok Shop単体ではなく、他のECモールや指名検索、店舗売上への波及を含めて評価する必要がある」とまとめた。

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