Pre-IPO時代の新たな資本戦略:グロースエクイティとセカンダリー市場が拓く、スタートアップ成長の選択肢

持続可能な都市を先端技術で実現することを目指す、アジア最大のグローバルイノベーションカンファレンス「SusHi Tech(スシテック)Tokyo 2026」が、4月27日から29日にかけて東京ビッグサイトで開催された。4回目となる今年は過去最大規模となり、国内外から798社のスタートアップが出展。最前線で活躍する起業家や投資家など、6万人を超える参加者が集結した。
 
オープニングセッションには小池百合子東京都知事が登壇。国際情勢が不安定化し、自然災害が多発する今日、「SusHi Tech Tokyo」の理念がますます重要になっていると強調した。さらに、スタートアップの世界市場進出を支援する新イニシアチブ「SusHi Tech Global」や、資金面での支援策「SusHi Tech Global Funds」についても語り、東京のスタートアップ・エコシステムが次の成長段階に入りつつあることを示した。
 
3日間の会期中には、会場内で多くのセッションが開催され、さまざまな分野のリーダーが、持続可能な都市の実現や最先端技術、スタートアップ・エコシステムの未来などについて議論した。
 
その中で、資本市場の構造変化を正面から扱ったのが、27日に行われたセッション「Private Marketにおける新たなフロンティア:Pre-IPO、セカンダリー市場を見据えたグロースエクイティの重要性の台頭」だ。
 
HiJoJo Partnersの森本曜一氏がモデレーターを務め、グロースエクイティ投資の最前線で活躍するExBorder Partnersのジェームズ・チャン氏、Ode Growth Partnersの池田恵氏、Keyrock Capital Managementの内河俊輔氏が登壇。セッションの最後には、チャン氏がExBorder Partnersの東京オフィス開設を明らかにする場面もあり、日本のスタートアップ市場に向けたグローバル投資家の関心の高まりが印象付けられた。

グロースエクイティは「シリーズ名」では測れない

議論の出発点となったのは、森本氏の「グロースエクイティとは何か」という問いだった。未上場企業の成長期間が長期化し、Pre-IPOやセカンダリー取引が広がるなかで、グロースエクイティは単なるIPO前の資金供給ではなくなりつつある。企業が上場市場に耐えうる組織、成長モデル、投資家との対話力を備えるための、戦略的な成長資本へと位置づけを変えているのだ。

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ニューヨークに本拠を置くExBorder Partnersのチャン氏は、グロースエクイティをシリーズBからIPOまでの幅広い領域として捉えている。売上規模では5000万ドル前後から関心が高まるが、同時に、その企業が市場において「唯一無二」、あるいは「数少ないトップ企業の一つ」と言えるかどうかが大きな判断軸になる。

ロンドンを拠点に欧州全域で投資を展開するOde Growth Partnersの池田氏も、売上規模では1000万ドル前後から1億5000万ドル規模まで幅広い企業を検討対象としつつ、シリーズ名だけでは企業の成熟度を測れないと指摘した。

「重要なのはプロダクト・マーケット・フィットです。コア市場におけるGo-to-Market、つまり市場進出の再現性、そして将来的な収益性が必要です。一時的な市場の勢い(モメンタム)ではなく、持続可能な長期的成長を描けるかどうかが投資の分岐点になるのです」

Keyrock Capital Managementの内河氏は、日本におけるグロース投資の定義が欧米と近いことに「いい意味で驚いた」と述べた。日本でも、企業規模や売上を軸にプロダクト・マーケット・フィットを見極める考え方は共通している。目安となるのは、売上700万ドル(約11億円)から1500万ドル(約24億円)程度のレンジだ。

一方で、日本では同じような成長フェーズの企業がシリーズAと呼ばれることもあれば、シリーズEと呼ばれることもある。やはり、ラウンド名よりも事業の成熟度やKPIの質を見極めることが重要になる。

IPO-readyとは、売上規模だけではない

続いて焦点となったのは、企業が「IPO-ready」、すなわち上場準備が整った状態になるとは何を意味するのかという点だ。企業が上場した後も株式を保有できるクロスオーバー投資家にとって、IPOは単なる出口ではない。チャン氏は、シリーズBで入る場合でも、Pre-IPOで入る場合でも、基本的にはIPOを前提に投資判断を行うと説明した。

「IPOに耐えうる会社づくりを進めておくことは、M&Aを含むあらゆる出口戦略で、企業の選択肢と交渉力を高めることにつながります」

特に日本のように、プレシードからシリーズAまでは比較的活発な資金供給がある一方、シリーズB以降で資本と支援が薄くなる市場では、その“谷”をどう越えるかが大きな課題になる。チャン氏はこれを「シリーズB後のデスバレー」と表現し、グロースエクイティの役割を、企業が次の成長段階へ進むための橋渡しに見出している。単に資金を供給するだけでなく、企業をIPOに耐えうる状態へと整えていくことが求められるのだ。
ここで企業が問われるのは、売上規模の拡大だけではない。適切なCFOがいるか、監査委員会やコーポレート・ガバナンスが整っているか、IR体制を築けているか。さらに、自社の成長戦略を上場市場の投資家に説得力をもって示し、継続的に対話できる体制も欠かせない。

こうしたIPO-readyの考え方は、内河氏が指摘する「上場後の投資家評価」を見据える視点とも重なる。同氏によれば、日本のベンチャー・キャピタルは、IPOを一つの出口として捉える傾向がある。しかし、上場後の企業を評価するグローバルな機関投資家が重視するのは、成長の持続可能性、収益性への道筋、将来の成長の予見可能性だ。内河氏は、こうした論点が日本のVCの間ではまだ十分に語られていないと考える

日本の強みはどこにあるのか

成長企業を評価する上では、その企業がどの地域で、どのような市場環境の中にいるのかも重要になる。セッションでは、現在のマクロ環境や地域ごとの産業基盤が、投資テーマにどのような影響を与えるのかにも話題が広がった。

内河氏が日本市場で注目するのは、インフレを起点とした構造変化だ。長くデフレ環境が続いてきた日本で、足元のインフレは企業や人々の行動をすでに変え始めている。こうした変化にAIの活用が重なることで、スタートアップには新たな事業機会が生まれていると言う。

チャン氏は、グローバル投資家の視点から、日本市場の可能性を地域固有の強みに結びつけて捉えている。米国が依然としてイノベーションの中心地であることは確かだが、中国をはじめ、各地域にも有力なエコシステムは存在する。だからこそ投資家には、すべての国を同一の尺度で見るのではなく、その地域が元来持つ産業基盤や技術的優位性を起点に、投資テーマを見極める姿勢が求められる。

日本が世界をリードし得る分野としてチャン氏が注目しているのは、ロボティクス、フィジカルAI、半導体、半導体製造装置などだ。背景にあるのは、製造業の長年の蓄積、エンジニアリング人材、大学や研究機関、そして既存産業の厚みである。

同氏が特に強調したのは、公共セクターと民間セクターの方向性がそろうことの重要性だ。

「資本集約的なディープテック領域では、企業単独の努力だけでグローバルな競争を勝ち抜くことは難しい。公共と民間が強く連携し、その地域が強みを持つ領域に集中できれば、素晴らしいイノベーションが生まれるでしょう」

セカンダリー市場が生む新たな流動性

もう一つの大きな論点が、近年存在感を増しているセカンダリー市場だ。内河氏によれば、グロース投資家にとって主な投資対象は、企業に新たな成長資金を入れるプライマリー投資だ。ただこの数年は、既存株主が保有株式の一部を売却する、セカンダリー取引を組み合わせた案件も増えているという。

「そうした組み合わせは、プライマリー投資で会社に成長資金が入り、セカンダリーで既存株主は保有株式の一部を現金化できる。企業の成長を支えながら、初期投資家や従業員にも一定の流動性を提供できる点で、新たに参加するグロース投資家にとっても投資しやすい案件設計となっているのです」

日本ではこれまで、未上場株はIPOまで保有し続けるものと考えられがちだった。しかし、企業が未上場のまま成長する期間が長くなれば、初期投資家や従業員の資金回収の機会は限られる。セカンダリー市場の広がりは、その硬直性を和らげ、企業が事業フェーズに合った株主構成へと移行していくための手段にもなる。

池田氏も、セカンダリー市場はエコシステム全体の資金循環を促すと評価した。たとえば、成長企業の従業員が一部の株式を現金化できれば、その資金や経験をもとに、次世代のスタートアップを支えるエンジェル投資家が生まれる可能性がある。また、プレシードやシード段階から支えてきた初期投資家に部分的な出口が生まれれば、回収した資金を再び市場に投じることもできる。

セカンダリー市場は単なる株式売買ではなく、エコシステムのフライホイールを回す仕組みとして機能し得るのだ。

ExBorder Partners、東京オフィス開設へ

最後に、登壇者は日本のグロースエクイティ市場への期待を語った。内河氏は、日本のグロース投資はまだ小さいものの成長しており、グロースフェーズにおける資本不足は重要な課題だと指摘。東京証券取引所のグロース市場改革※も、スタートアップと投資家の意識を「小さく早い出口」から「より大きく、意味のあるIPO」へと変えつつあると見る。

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「グロース投資は、日本のスタートアップ・エコシステムにおいて欠かせないものになっています。私自身も現在、日本のスタートアップのグロースフェーズに投資する新ファンドを準備しています」

池田氏は、日本企業のイノベーションへの関心の高さに触れ、グロースステージは大企業との協業が本格化する段階でもあると述べた。さらに、欧州でグロース市場が発展していた当時に比べても、現在の日本には海外投資家から強い関心が寄せられていると言う。

チャン氏は、創業者に対して、シードやシリーズAの段階からグローバル市場を見据え、グロース投資家と接点を持つことの重要性を強調した。グロースエクイティの投資家との関係づくりは、資金調達の直前に始めるものではない。早い段階から対話を重ね、相性や支援の方向性を見極めていくべきものだと語った。

そしてセッションの締めくくりに、チャン氏は大きなニュースにも言及した。ExBorder Partnersが東京オフィスを開設する予定だというのだ。これは、世界の最前線にいるグロースエクイティ投資家が、日本市場により近い距離で関与していく意思を示す発言であり、日本の成長企業にとっても重要な意味を持つ。

日本の起業家やエコシステム関係者に向けて、チャン氏は「ぜひ東京オフィスにも足を運んでほしい」と呼びかけた。

※2025年9月、東京証券取引所はグロース市場の上場維持基準の厳格化を公表。現行で上場10年経過後、時価総額40億円以上の上場基準を、2030年3月1日以降、上場5年過後、時価総額100億円以上とする。

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ジェームズ・チャン氏

ExBorder Partners最高投資責任者(Chief Investment Officer)。ExBorder Partnersは、MENAおよびAPAC地域を中心に、国際的なグロースステージ投資を手がけるグローバル投資会社。チャン氏は、ニューヨークを拠点とする有力ファミリーオフィスにおいて、15年以上にわたり上場株・未上場株の投資戦略を主導。新興市場を中心に、クロスボーダーのポートフォリオ運用や戦略投資に携わってきた。深い金融知識、地域市場への理解、グローバル資本市場における幅広いネットワークを強みとする。

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池田恵氏

Ode Growth Partnersゼネラル・パートナー。Ode Growth Partnersは、地球環境および社会のレジリエンスに焦点を当てる欧州のグロース・ベンチャーキャピタル。DLA PiperのLaw&のシニアアドバイザーも務める。以前は、Hearst Ventures Europeでシニア・マネージング・ディレクターとして同米国複合企業の欧州における投資業務を統括したほか、GEキャピタルがスポンサーを務めるエクイティ・ファンドの欧州部門を率いた。東京でダウ・ジョーンズの記者として日本株式市場の取材を担当したのちキャリアをスタートさせ、その後インターネット黎明期に『Wired』誌に在籍した。コロンビア大学コロンビア・カレッジで学士号を、UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメントにてMBAを取得。

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内河俊輔氏

Keyrock Capital Managementシニアアドバイザー。Micoworks社外取締役、ゼロボード社外取締役、LayerX 社外取締役および弊社社外取締役も務める。1998年、ソロモンスミスバーニー証券(現シティグループ証券)入社。同社投資銀行本部マネジングディレクター、M&A本部本部長を歴任。2018年、マネーフォワードに参画。執行役員CFOに就任し、財務戦略を推進。2020年、STREAMを設立し、代表取締役に就任。

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森本曜一氏

HiJoJo Partners執行役員。筑波大学卒業後、2002年に野村證券入社。米国、シンガポール、日本で機関投資家向け株式営業に従事。2014年、ゴールドマン・サックス証券に入社し、株式営業、法人営業、コーポレートアクセスの3部門を統括。IPOや公募案件のグローバル販売戦略を担当し、上場企業の企業価値向上を支援。2024年6月にHiJoJo Partnersに参画し、Nasdaq Private Marketとの資本業務提携を担当。9月より上場・非上場企業向け資本市場政策コンサルティングを開始。LinkedInで情報発信を行っている。

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