Netflix・LINEマンガ・ミリアゴンスタジオが語る『喧嘩独学』実写化の舞台裏 縦読みマンガの疾走感を、横型の実写映像にどう翻訳した?

LINEマンガのオリジナルウェブトゥーン『喧嘩独学』が、ウェブトゥーンを原作とする日本初のNetflixシリーズとして実写化された。物語の主人公は、貧困と学校でのいじめに苦しむ気弱な高校生・志村光太。ある喧嘩の動画が偶然配信されて注目を集めたことをきっかけに、光太は生活を変えるため、「喧嘩独学」というチャンネルを開設し、動画配信を始める。喧嘩の仕方を教える秘密のチャンネルを手がかりに強くなり、次々と強敵へ立ち向かっていく物語だ。

企画制作を担ったミリアゴンスタジオ、原作元のLINEマンガ、世界配信を担うNetflixは、長期連載のウェブトゥーンをどのように全6話の実写シリーズへと翻訳していったのか。

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(左)Netflixシリーズ『喧嘩独学』のメインビジュアル。2026年6月11日よりNetflixにて世界独占配信している。(右)LINEマンガで配信されている『喧嘩独学』のサムネイル。
©PTJ cartoon company・金正賢/LINE Digital Frontier

「映画の工程」で連続ドラマをつくる、Netflixシリーズの制作環境

━━『喧嘩独学』の実写化は、どのように動き始めたのでしょうか。

稲葉直人氏(ミリアゴンスタジオ プロデューサー):2年半ほど前に、LINEマンガさんへ「実写化させていただけないでしょうか」とご提案したことが始まりです。僕にとって『喧嘩独学』は、初めて読んだウェブトゥーンでした。

友人に「めちゃくちゃ面白い」と勧められて読み始めたのですが、読む手が本当に止まらなかったんです。子どもの頃に読んだ少年マンガに描かれていた “青春” のような、男の子心をくすぐるポイントをしっかり押さえているなというのが、最初の感想でした。

近年のマンガには、王道を少し外すことに美学を置く作品も多い中で、この『喧嘩独学』という作品は王道の面白さをど真ん中で突き詰めていると感じます。登場するキャラクターもすごくいい。実写化できるかどうかより先に、単純に「面白いから、(実写化)やりたい」と思いました。

そこから半年ほどかけて、プロットや第1話、第2話の脚本などを準備し、「こういう実写シリーズにしたい」という形でLINEマンガさんへお伝えしました。その後、Netflixさんへ企画をご提案し、今作のプロデューサーである福井さんに「一緒にやろう」と言っていただいて、チームとして動き始めました。

前田真希氏(LINE Digital Frontier):お声がけいただいた当時、『喧嘩独学』ではアニメ化の話も進んでいました。原作を起点に、アニメ、そして実写化と異なる表現で読者に楽しんでもらえることは、原作側としてもうれしい流れでした。

一方で、原作は長期連載であり、話数は218にものぼります。今回の実写シリーズは全6回で構成されているように、限られた話数で物語をつくる必要があったんです。どのように再構成していただけるのかは、楽しみであると同時に、慎重に確認したい点でもありました。作家さんには事前にプロットをお見せし、作品としてどのような方向を目指すのか、丁寧にご理解いただくことを意識していました。

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━━企画から配信まで、約2年半かかっています。この期間をどう見ていますか。

稲葉:長いかどうかでいうと、長いです(笑)。ただ、僕は映画と地上波ドラマの製作の両方を経験してきましたが、今回は映画の工程で、贅沢に連続ドラマをつくるような感覚でした。

映画は企画立案から2、3年かかることもあります。一方、地上波ドラマでは予算やスピード感も含めて、プリプロダクションにもポストプロダクションにも、ここまで時間をかけることはなかなか難しい。Netflixさんの環境では、クオリティを上げるために、撮影前にも撮影後にも十分な時間を取ることができました。考える時間があるのは、制作者としてすごく贅沢です。

福井雄太氏(Netflix プロデューサー):2年半という期間だけを見ると、長く感じるかもしれません。ただ、シリーズとしての撮影、編集、仕上げを考えれば、作品のクオリティを追求するために必要な時間であり、工程でもあります。

特に原作がある作品では “何が面白いのか” という原作の価値について制作陣の中に共通理解をつくる時間が重要です。ファンや制作陣が原作を愛していて、そのうえでNetflixを通じて世界へ届ける時にどう再構成するのか。私に相談いただいた際には、『喧嘩独学』の面白さを、すでに深く考えてくださっているのは、一目瞭然でした。

その面白さの共通認識と、作品製作への信頼関係の中で、しっかり議論を重ねられたことは大きかったです。

縦読みの勢いを損なわず、横型の映像作品として翻訳する難しさ

━━ウェブトゥーンを実写化するうえで、特有の難しさはありましたか。

稲葉:思っていた以上に、原作が「縦型」であることは横型の実写に翻訳するにあたって、難しさを感じる部分も多かったです。ウェブトゥーンは縦スクロールなので、一人のキャラクターの主観や寄りの表現で、臨場感をぐいぐい押し出していける。主人公の目線でシーンを見せ切ることができるから、縦スクロール漫画は緊張感も出しやすいんです。

ただ、今回のような横型の実写ドラマで複数の登場人物を描こうとすると、それだけでは成立しません。いろいろなキャラクターが有機的に関係し、物語を動かしていく必要がある。縦読みの勢いを損なわず、横型の映像作品として翻訳するのは、難易度が高い作業でした。

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(左)原作『喧嘩独学』の1話より。(右)Netflixシリーズ『喧嘩独学』のワンシーン。主人公の志村光太を演じたのは、俳優の鈴鹿央士。©PTJ cartoon company・金正賢/LINE Digital Frontier

さらに原作は200話を超えていますよね。なので、今作はいろいろなエピソードが枝分かれしながら、最後には大きな流れへ収束する構成にしました。原作そのまま全6話でやることは難しい。どの要素を残し、どのように組み立て直すかは、大きなテーマでした。

━━そのなかで、絶対に残すべきだと考えたものは何ですか。

稲葉:純粋に、自分が「面白い」と思ったところです。「面白い」と感じるシーンは、ファンの皆さんにとっても、同じだと思いました。泥臭く立ち向かい、勝ち上がっていく楽しさやダイナミズムは、もちろん外せません。

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ミリアゴンスタジオ 稲葉直人氏。

同時に、僕はこの作品を “青春もの” としても面白いと思っていました。アクションやサクセスの物語としてだけではなく、若者たちが関係を築き、変化していく青春ドラマとしてのエッセンスは絶対に残したい。むしろ、そこは強めたいと思いました。

人物配置については、映像として物語を展開させるために変更をご相談した部分もあります。ただ、『喧嘩独学』の中心となる人物たちについては、キャラクターのスタンスや関係性を絶対に変えてはいけない。そこは変える必要がないと考えていました。

前田:原作側としても、スクロールの中にあった物語が、実写化によって立体的、多面的に広がっていくことを期待していました。実際、日本で実写化するからこそ、今作で新たに生まれた歌舞伎町やゲームセンターのシーンがあります。しかも、そのシーンには、ウェブトゥーン特有の疾走感というか、志村たちと一緒に駆け抜けるような感覚も再現されていたんですよね。

原作をなぞるだけではなく、実写シリーズとして新たな魅力を加えていただいた。さらにグローバルに読者がいる作品だからこそ、原作とは異なる表現で作品世界に触れてもらえることは、大きな価値だと感じました。

福井:そう言っていただけて、うれしいです。私自身が『喧嘩独学』原作を読んだ時に感じたのは、“見た人の明日が少しポジティブに変わる可能性のある作品” だということでした。理不尽な状況に置かれ、「仕方がない」と思ってしまう人が、もう一歩を踏み出す。その瞬間に、視聴者も勇気をもらえる。そこが原作を多くの人が好きになるコアだと思ったので、実写でも大事にしたいと思っていました。

単純に勇気だけでやり返せばいい、という話ではありません。主人公には、踏み出さなければならない動機がある。その手段として動画配信を選ぶことにも、現代性があります。理不尽に抗おうとする感情自体は普遍的で、日本以外の視聴者にも届く可能性があると考えました。
 

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〇ウェブトゥーンの疾走感とNetflixの「一気見」体験の相性
〇実写化は原作のLINEマンガにどんな価値を還元したか
〇ウェブトゥーンが持つポテンシャル
〇原作者・作画担当に聞いた、「日本での実写化への思い」

 
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